こしみのファーストキス事件(非エロ)
ニケ×ククリ


魔王ギリを倒すため、旅に出た勇者ニケと魔法使いククリ。
新大陸を目指して旅を続ける二人であったが―…



「勇者様、ごめんなさい…」

ククリは今にも泣き出しそうな顔で、仰向けになっている自分の横に座っているニケに言う。

「気にするなって。せっかくだ、今日は一日ゆっくり休もうぜ」

長旅の疲れか、体調を崩してしまったククリにニケは労りの言葉をかける。
外はあいにくの曇り空で、ギップルのテントの中は薄暗く肌寒かった。

ニケがククリの額に触れる。

「ゆっ、勇者様…!?」

突然のことに、ククリの心音は跳ね上がった。

「顔が赤いな。熱も少しあるんじゃないか?」

間近にあるニケの顔。真っ赤に火照ったククリの顔から、シュウシュウと蒸気が吹き出る。

「オレ、何か食料探してくるよ。おとなしく寝てろよ」
「は、はい…!」

ニケがテントから出ていくと、ククリはそれまで詰めていた息を吐き出した。
無意識に毛布を握り締めていた指先が冷たい。

(勇者様のドアップ…!早く元気にならなきゃいけないのに、風邪もたまにはいいかも…なんてあたしったらキャー!勇者様スキスキー!!)

【ククリは我を忘れている】

「食料食料っと…」

ククリのために栄養のあるものを食べさせてやりたいと思うニケだったが、森中を散々歩きまわってもそれなりのものは見つからない。
日が暮れ始め、寒波もいよいよ厳しくなってきたその時だった。

「これはこれは勇者どの!奇遇ですなー!」

「げっ!何故オヤジがここに…」

逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、背に腹は変えられず。
藁をも掴む思いで、ニケはオヤジに全ての事情を話した。

「なんとククリちゃんが!しかし心配ご無用ですぞ!このワシがお見舞いのキタキタ踊りを踊って差し上げ…」

「ええいうっとおしい!」


【最低な客人だった】

「とにかく一刻も早く戻らないとククリが心配だな…」

しかし手ぶらのままで戻るわけにもいかず、とうとうニケは腕を組んで考え込んでしまった。

「勇者どの、そういえば先ほどこんなものを見つけたのですがいかがですかな?」


【オヤジは"こしみの"から"薬草"を取り出した!】


「オヤジ…それを何処で…!?」

「しかしこの薬草が欲しければワシの踊りを見ていただきますぞ」

「断る!」


【勇者は即答した】


「ほほう、ククリちゃんの病気を治したくはないのですかな?」

「う……」


【オヤジはチャンスを逃さない】


「…許せ、オヤジ!」


【勇者はオヤジを谷へ突き落とした!】


「ああああああ勇者どの〜〜!!キタkt…」

さすが盗賊と言うべきか、ニケは一瞬の隙をついて薬草を奪い取ったのだった。

「オレ、忘れないよ。オヤジと過ごした日々―…」


【もはや忘れようがなかった!】

「勇者さん大変です!ククリさんが…!」

「ククリ!しっかりしろククリ!」

出掛ける前とは一変して、ククリの病状は深刻になっていた。
額も熱く、見るからにぐったりとして呼吸も苦しそうだ。

「ククリ、薬だ。飲めば楽になるぞ」

薬草を磨り潰したものを口元にやるものの、ぼんやりとした意識の中でもはや飲み込む力もない。

(参ったな…このままじゃククリが…)

しばらく迷っていたがニケは意を決し、薬と水を口に含む。

(ごめんな、ククリ)

遠慮がちにゆっくりと唇を合わせると、なかば強引にそれを嚥下させる。

「に、苦い……!」

【勇者は主人公にあるまじきひどい顔になった】

「ん…勇者さま…?」

ククリが目を覚ますと、外はすでに明るくなっていた。
看病疲れか、すっかり眠りこけていたニケも意識を取り戻す。

「ククリ!もう平気なのか?!」
「うん。なんだかとっても楽になっちゃった」

顔色も良く、久しぶりにククリの笑顔を見ることができてニケは心から安堵した。
しかしそれと同時に昨夜の恥ずかしい出来事が鮮明に思い出されて、ククリの唇から目が離せないでいるのだった。

「なーに勇者様?ククリの顔に何か付いてる?」
「い、いや!何でもない!そんなことより元気になって良かったよ!あっはっは!」

(言えない…絶対に言えない…)

「勇者様」
「ん?」
「どうもありがとう」
「あ…ああ」


【ギップルはこらえている!】

「勇者どのー!ククリちゃーん!探しましたぞー!」

「オ、オヤジさん!どうしてここにいるの〜?!」

「オヤジ…!確かにあの時突き落としたはず…!」


【勇者は身も蓋もない】


不自然なほど無傷なその姿に、ニケの脳裏に『オヤジ最強伝説』の文字が浮かんだ。

「景気づけにワシの踊りをご覧にいれますぞ〜!」

「やめて〜〜!!」


【ククリの攻撃!】


「いや〜ククリちゃんすっかり元気になって!それもこれも、ワシのこしみのにしまっておいた薬草のおかげですな〜!」

「こ、"こしみの"…?」


【ククリとニケは石になった!】


こうして『こしみのファーストキス事件』は、今後勇者の心の中だけで語られる事実となったのであった―…






SS一覧に戻る
メインページに戻る

各作品の著作権は執筆者に属します。
エロパロ&文章創作板まとめモバイル
花よりエロパロ