双眼鏡
ニケ×ククリ


「ふあーぁ…」

あー。

あくびがとまらん…


こじんまりとした丘でしばしの休息中。
に、しても暇だな。

「トマ、まだ終わらないのか?」
「すみません勇者さん、もう少し時間がかかりそうです」

トマの愛用の武器や装備(と、いってもガラクタなのだが)
がいくつも故障していたらしく、修理するためにここ2日は何もしていない俺達。

修理といいながら、いつの間にか研究に入ってるじゃねーか!
どうしてもやってしまいたいことがあるからというから待ってんだけど、
このままじゃ全然先に進めないぞ。
そろそろどっかの村のうまい食事でも食いたいところなんだが…

んー、まぁいいか。たまにはゆっくり…


「…ん?」

と、トマの近くに一つの双眼鏡が転がっているのを見つけた。

なんだ、トマこんなもんも作れるのか。
まぁ、それほど冒険の役に立つとは思わんがね。

「どれどれ…」

景色のよく見えそうな所まで行き、双眼鏡を覗き込む。

―ん?
何だこりゃ。

「本当に双眼鏡か?大きさ変わらないぞこれ…」

覗き込んだレンズ越しに見えるのは、レンズを通す前と
全く同じ風景。
…つまり、拡大もされなければ、縮小もされていない。
ふちの入っていないめがねと一緒じゃねーか。

「これもつぶれてんのか?全く、トマはガラクタばっかり…―」

「勇者様ー!」

と、現れたのはククリ。
走って俺の所までやってきた。

「どうしたの?」
「ん、いやーちょっと…風景でも眺めようかなーなんて思ってね」
「そっかぁ、眺め良いもんね、ココ。わぁ〜すっごく綺麗〜!」

ククリはキラキラした眼差しで遠くに目をやっている。

「ああ、でも…」
「えっ?でも?」
「この双眼鏡さ、レンズが――」

と、言って、レンズ越しにククリを見た。

…と。

「―――!!!」

そこに見えたのは、素っ裸な姿のククリ。

「!!?…ぶっ…」

思いっきり鼻血を噴いてしまった。

「!!ゆっ…勇者様??!どうしたの!?」
「うっ、うぐ…」

な、なな…何だ今のはっ!?

「大丈夫!?勇者様ぁ!」
「あ、あ…ああ…」

双眼鏡を外して見てみると、そこにはちゃんと服を着たククリが。
何なんだ、どういうことだ?

………

…………

…まさか。


「ク、ククリ…少し、目をつぶってくれないか」
「…えっ…?あの、…う…うん…」

ククリは少し戸惑っているようだったが、すぐに目をつぶった。
ククリがちゃんと目をつぶったことを確かめてから、そろそろと双眼鏡で見直す。

「――っ!!!」

双眼鏡越しに見たククリは、またもや…素っ裸だった。
こ、こ…これは…!

「ゆ、勇者、様…?」
「ク、ククリ…いいぞ、もうちょっとそのままでいてくれ」

すっ…すげぇ。
ククリの体は思った以上に綺麗で、胸も結構膨らんでいる。
このローブの下にこんな良い物が隠されていたなんて…!
鼻血が流れるのを感じながらもやめられない。

「…ん、あの…勇者様、いつ―」
「ぜ、絶対目を開けるなよ!絶対だぞ!!」
「!は、はい…」

「勇者さーん、ククリさーん!」

ぎくぅ。

遠くからトマが走ってくる。
俺はソッコーで双眼鏡を隠した。

「あのーククリさん、ご飯がふいてますよ」
「あっ…やだぁ、いっけなーい!
ご飯作ってるの忘れてたぁ!」

ククリはそういってぱたぱたとテントの方へ走っていってしまった。
俺はというと、ぼけーっとしてるトマを睨み付け…

「ゆ、勇者さん、どうしました?」
「…トマ、お前一人でこんな良い物を…」
「えっ??」

こんなガラクタ集めてたのもそのせいなんじゃないか?
そう思えると全てが疑わしい。
…まぁ、トマも男だということだな。

―しかし、こんなもの持ってるなら俺にだって貸してくれても
バチはあたらんだろうに。

「なぁトマ、これ少し…貸してくれよっ…」

隠していた双眼鏡を出して、小声で頼み込む。

「えっ、まぁ、いいですけど…」

お、意外と普通に引き受けたな。

「いいんだな!?」
「え?ええ…でもそれは…」
「よっしゃあ!!―ほんじゃあ、しばらく借りるぞっ!
…あとでな、むっつりトマくん♪」

「勇者さん、むっつりって一体…―あ」

トマの言葉を最後まで聞かずに、テントの方へと足を急がせた。
これさえあればこれからの旅は万々歳だ!

トン、カン、トン…

トマくんが色んなモノを修理してる音。
朝から晩まで、ずーっと頑張ってるみたい。

あたし達がここに来て2日が経った。
勇者様は少し退屈そうだったなぁ。

…ククリは全然構わないんだけどナ。
だって。
勇者様と一緒にのんびりしてる時間が…好きなんだもん。
だから正直、トマくんが修理するためにここに留まった時嬉しかった。

旅することって、別にいつも何かを目指してなくてもいいよね。

「トマくん、まだ寝ないの?」
「いやー、あと少しで完成しそうなんですけどね」

…トマくんのそのセリフ、何度聞いただろ?

「そっかぁ、じゃあククリ先に寝るね。
無理しないでね!おやすみなさーい」

修理に必死になってるトマくんに声をかけて、テントに入った。

「…あ、勇者様…もう寝ちゃったんだ」

勇者様は先に寝息を立てていた。
気持ちよさそうにすやすや眠ってる。

―ちょっと、ガッカリ。
少しお話したかったのにな。

「…………」

それにしても…

―お昼のは、何だったんだろ。

『ク、ククリ…少し、目をつぶってくれないか』

思い出したらドキッとする。
勇者様が真剣な眼差しで、ククリに…

もしかしたら…

もしかしたら、キス?

…って、ちょっと期待しちゃった。
ぎゅっと目をつぶって…でも勇者様が近づいてくる気配はなくて…

別に良いムードとか、そんなんじゃなかったけど。
トマくんが来なかったら、どうなってたのかなぁ…


「…うーん…」

「!」

ドキッ…
その時、勇者様が寝返りをうった。
こっちを向いて…

「―ククリぃ」

「えっ!…あ、あのっ…ゆ 勇者様っ?」

勇者様、ククリの考えてたこと、わかった?
どっ…どうしよう…

「―………」

と、すぐにまた勇者様の寝息が聞こえてくる。
ね、寝言?

…ククリの考えてたことわかる、なんて…
そんなはずないのに。
ああ〜びっくりしたぁ。

…勇者様。
夢の中に、ククリが出てきたのかな。
だったら、嬉しいな…

どんな夢見てるんだろう?
夢の中のククリは、勇者様とどんな風に過ごしてるのかな。
いつもククリが見るような、甘い夢だったらいいのに…
なんて。


「…あっ、これ、さっきの」

その時、勇者様の頭の上辺りにお昼の双眼鏡を見つけた。
そういえば勇者様、この双眼鏡のこと何か言いかけてなかったっけ。

でもトマくんの作ったものなんだから、きっとよく見えるんだろうな〜。

勇者様が起きないように、そっと双眼鏡を手に取った。
―普通の双眼鏡。

確か、遠い先の物が大きく見えるんだよね。
テントのすき間から、外が綺麗に見えるのかな?
双眼鏡を覗き込んでみる。

「…あれ?」

どうしてかな。何も変わらない。
遠くもなければ近くもなくって。


『この双眼鏡さ、レンズが――』

ふと、勇者様の言葉を思い出す。
もしかして、レンズが壊れちゃってるのかな?

「なぁんだ、遠くの景色が見えたら素敵だったのになあ」

でも何だか、レンズ越しに見える世界は普通の世界と違うみたいにも見える。

いつものギップルちゃんのテント。
いつもの魔法陣の杖。
いつもの勇者様。

レンズ越しに見える姿は何だか違うように…―

いつもの勇者様?

「きゃっ!!…ゆっ、勇者さまぁ!?」

顔が真っ赤になる。
ビックリして思わず双眼鏡を目から外した。

「…あれっ…勇者様?あれっ」

ちゃんと服、着てる??
今何だか勇者様が何も着てなかったような…
な、何考えてんだろ、あたし。

変なの…そんなはずないのに。
お昼のことで頭が混乱してるのかな。

…ん。
待って、もしかして…

もう一度双眼鏡を覗き込んだ。
今度は、自分自身の体を覗き込む。

「……これ!!」

そこには…服を着てるはずのククリの体が透けて見えた。
まるで、何も着てないかのように。

これって…素っ裸、じゃない!

「―これって…、双眼鏡じゃなくて…服が透けて見える道具なの…!?」

………

…もう一度勇者様の言葉を思い出す。


『ク、ククリ…少し、目をつぶってくれないか』

さっきとは打って変わって、
勇者様の顔が鼻血を出したスケベにしか見えなく―

「〜〜〜っそーゆーことぉ…だったのねっ…!」

勇者様は相変わらず、よだれを垂らしながら
気持ちよさそうに寝てる。

「…ぅーん…ククリぃ、ぃいぞ…も、ちょっと…むにゃ」


すぅ〜〜〜…っ

「ゆ・う・しゃ…さまぁぁあ〜〜〜〜〜っっ!!!!!」

「いっ…いってえ〜〜〜!」

耳がキンキンする。
良い夢見てたのに…頭がガンガンするぞ。

「…ん?」

隣には、すごい形相で俺を見つめるククリの姿が。
と、同時に半泣きだ。

「勇者様っ…」
「?ククリ…?どうしたん―」

と、ククリの手の中に見えたのは…
あの、双眼鏡。

「――げげっ!!!」

一気に血の気が引いた。

「勇者様っ!!お昼これで、ククリの体見てたんでしょっ!!
目つぶってなんて言って、これで見てたんでしょ!!!」
「あーっ!いっ、いやぁっ、それは、そのぉ〜〜…」

マジで怒っている。やっ…やべー…!

「そうなんでしょっ!!っククリ…わかってるんだから……」
ククリは急に泣き顔になってきた。

「あ!だからそのっ!〜だ、だってさぁ…」
「…………」

しばしの沈黙。
ククリはずっと下を向いている。
こ、これはまずい。
ひじょーにまずいぞ。

確かにこれは俺が悪い。
どう考えたって、俺が悪い!
とにかく謝るべきだ。

…うん、そうだ。

「ク、ククリ、俺が悪かっ……」
「勇者様のドスケベ!!エッチ!!!」

ククリが俺の言葉を遮って、急に大きな声をあげた。

「そっ、そうだ!確かに俺はドスケベで、エッチで…」
認めて、どうする…。

「勇者様なんて大っ嫌い!!
もう、…もう一緒に旅するの…やめるっ…!!」

「…えぇっ…!?」

ガガガ―――ン……

そっ、そんなバカな!
…しかも、こんなアホなことで!?

「まっ、待てよ、落ち着けククリ!」
「落ち着いてるもん!もうヤダッ!!」
「ぜ、全然落ち着いてないじゃないか!
お、俺が悪かったよ、ごめんって!」

思わずククリの肩をつかむ。

「やだっ、離して、離してよぉ!!」

バタバタと俺から離れようと、必死だ。

くそっ、このままじゃらちがあかん!
こうなったら…

「ククリ!!」
「いやっ…」

「〜〜んっ!!」

えっ。

「〜〜……ん、…」

びくん。
思わず、体が跳ねた。
目をつぶらずにはいられなかった。

そしてゆっくり、勇者様の顔が遠のく。

「ぅ…………」
顔が真っ赤になる。
恥ずかしくって、下を向いて…
勇者、様ぁ。

「…はぁ、ようやく黙ってくれたな」
「―――えっ」

「ククリ、少しくらい俺の話聞いてくれよ…」
「だ、だ、だって、…っ……ぁ!」

急に、強く抱きしめられた。
もう何も考えられない。
体が強張って、手が動かない…

「…嫌だった?俺とキスしたの」
「そっ!…そんな、こ…とぉ…」

キスした。
その言葉を聞いただけでも恥ずかしい。
どっくんどっくんって、心臓の音が。
―止まらないよぉ。

「だってさ、ククリの体…すげー綺麗だったから…」
「そっ…!」

そういえば、勇者様に体、じろじろ見られたんだった!
…恥ずかしい。

「普通に見せてっていっても、見せてくれないだろ?」
「あっ、当たり前!…じゃないっ」

も、もう!
やっぱり勇者様、エッチなんだから…

「…ばかぁっ…」

でも、ククリの体、綺麗だって…
正直いって、自分の体には全然自信がない。
胸も小さいし、足も太いし。

…そんなククリの体を綺麗って。
何かすごく複雑な気持ちなんだけど。

でも…何かもう怒る気がなくなってしまった。
それよりも恥ずかしくって…
それに、勇者様の胸の中にいられるのが嬉しいような恥ずかしいような…
ふわふわした気持ちになってしまう。

…と、思った途端、勇者様はククリから体を離しちゃった。
もう少し…抱きしめて、くれたらいいのに…

それに、キスしたなんて思ったら…
勇者様の顔、まともに見られないよぉ。

「な…なぁ、ククリ?」
「…えっ?な…なぁに…?」

「あ、あのさぁ…」

勇者様は何かすごく言いづらそうにしてる。
顔を見てないからわかんないけど、何となく、わかる。

「レンズ越し…じゃ、なくて…さ」
「えっ…」

勇者様が何を言おうとしてるのか、すぐにわかった。

「ちゃんと、見てみたいな。ククリの体…」
「ゆ、ゆう…勇者様っ…!」
「トマも外にいるし…大丈夫だよ」

勇者様の体が、また少し近づいてきた。
しっかり肩をつかまれてる。

「ええっ!あ、あのぅ…そっそういう問題じゃなくってぇ…」







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