新しい旅へ
ニケ×ククリ


夜は更け、鈴虫が鳴く声がする。
外がぼんやりと明るい…―今夜は満月か。

―もう秋になるのか…―


そんなことを考えながらふんどし魔人を見つめている。
何だか眠れないぞ…

横で寝息を立てる少女。
…よく、そんなにすやすやと眠れるよなぁ。

(横に男がいるっていうのになぁ)


そんなことばかり考えて、眠れないのだ。
ふと横に目をやると、向こう向いて寝てるククリの姿。


…最近気になっていることがある。
ククリの周りへの態度。

俺に対してのククリの態度は、いつもとそう変わらない。
いつも後ろにいて、離れればついてくるんだもんな。
それは別にいいけどさ…。

(ククリって誰にでも優しいよな)


俺だけにじゃない。
他のどんな男にも、優しい接し方…
誰に対してもあの笑顔。

笑顔なのはいいけど。

………。

……可愛いし。

けど、この間のレイドへのあの笑顔はないんじゃねーの?

(ククリにとって俺と他の男とは、何が違うんだろう)


…ん?

何考えてるんだ?

なんだ、この気持ちは。
確かにククリは俺の横で今、寝息を立てている。
俺の傍にいる。
…いるけど…。


(まさかヤキモチ…)


いや、そんなはず…。
何で俺がヤキモチやくんだよ。
だって、俺とククリは別に…

…別に何でもないもんな。

「う…ん」

ごろん。


!!!!
ドキ…


「……ぅん…」



寝言か…。
ククリは寝返りを打ち、こっちを向いた。
幸せそうな顔してるな…何の夢見てんだろ。

「ククリ…」

何だか胸が苦しいな。
俺、なんかおかしくなっちまったのかな―…



「――レ…イドぉ…」



「勇者様、どうしたの?」

「!!……いっ、いや…」


勇者様どうしたのかなぁ。
何だか最近ヘン。
ククリが声をかけても、何かギクシャクしてる。
ククリ、怒らせるようなことしたのかなぁ…。


「勇者様…どうしたの?」
「なっ何が?」

ぎくり…と足を止める勇者様。
やっぱり何か…ヘン。

「勇者様ぁ…ククリ、何かした?
最近あんまり…しゃべってくれないね…」

自分で言ってなんだか寂しくなってきた。

「い、いやっ別に!何でもないよ…」

…ウソだ。何でもないわけない。
勇者様は何かあったらすぐ態度に出るんだから!
頭をかきながら、居づらそうにしてるもん…

「…………」

「ほ、ほんとに何でもないったら…
あっ、ほらククリ、都が見えてきたぞ!なっ!」

すごい話を逸らそうとしてるのがわかる。
都なんてずっと前から見えてたのに。

「…………」

ククリ、さっきからずっと黙ったままだな。
さっき、めちゃくちゃ適当なこと言ってたから…それがいけなかったのか。

ククリはずっと俺の後ろについて歩いてる。
もう、10分はだんまり…
ああ、気まずいな。

…だけど……―

(1週間前のあの夢が引っかかって…)

とにかく、気にくわない。
夢の中で俺以外の奴の名前呼ぶなんて。
だけど気にくわない、なんて言えるもんか。

ましてや…夢だぞ。


でもククリがどんな夢を見ていたのか気になる。
苦しそうに、ククリがレイドの名前呼んでた。
その表情は少し安心してるようにも見えて…―

レイドは敵なのにな。
この間の戦闘でも、「仲良くしよう」だなんて。
仲良くなんか出来るもんか。
ククリらしいけど…
そんなに他の奴に優しくされたら…


…………。

いや、別に…関係ないことだよな。
最近一日中こんなこと考えてる。
こんなこと考えてる場合じゃないってのに、全く…

何だかよくわからないうちに都に着いちゃった。
それにしても、すごい人、人、人…
色んな人が歌を歌ったり、商売していたり。
騒がしい街だなぁ…でも楽しそう。

勇者様と一緒だから、もっと楽しい!

…はずだったのに。

「…………」

「…………」

さっきからずっと無言。

ククリも悪いの。
ううん、黙り込んだのはククリの方。
でも、勇者様が話を逸らすから何だか怖くって…
何を考えてるのか、全くわからないから。

うーん、ククリだって何考えてるかわからないかも。
そこはお互い様。

でも、ずっとこのままじゃあヤダから。
勇気を振り絞って、もういちど…。


「…勇者、様?」

「えっ?!」

ふいをつかれた俺はまたも足がもつれそうになる。
ククリからは、もうしゃべってくれないかなぁなんて思ってたから…。

周りはこんなに騒がしいのに、俺らは全くのだんまりで。
そろそろ、声をかけようかな、やめようかな、でもなぁ〜
…なんて思ってたら、ククリの方から話しかけてきた。

「ど、どうしたんだ?」

「…う、うーぅん何でも、無い」

ククリはそういって少し下を向いた。
何だか寂しそうな顔してる。

「な…何だよ?」

気の利いたことは言えない、俺…。

「あの、ほんとに、何でもないのっ…」
「何でもないことないだろ、その、声かけといてさ」

俺も一体どうしたいんだ。
うまく喋れない自分が…情けない。

「〜〜っだって…勇者様、さっきから黙ってるから…」
「ククリの方こそ……黙ってるじゃないか…」
「そうだけど…だって、勇者様が…」
「お、俺が悪いのかよ…」

…とか何とか言いながら、ククリとは逆の方向を向いてしまった。
何をムキになってるのやら…何なんだこの展開は。
そして、何やら嫌な予感。

…というより、背中に感じる冷たい空気…―

「…っ勇者様の…ばか」

「あっ、待てよ!」

勇者様なんて知らない!
勇気を出して喋りかけたのに。
これじゃ、ククリが全部悪いみたいじゃない。

…それでいいもん、ククリが全部悪いんだ。
勇者様にククリの気持ちなんてわからない。
いっつも、わかってくれないもん…。

…ククリの気持ちなんて。

「おい、待てって…」


勇者様の声を無視してどんどん歩いていく。
周りは騒がしい人たちばかり。
最初は楽しそうだなって思ったけど…
自分の気持ちが落ち込んでいるせいか、何だかうるさいな…

周りには可愛い雑貨屋さんや、お洋服屋さんがたくさん。
ククリも、こんなの着たいな。
お金があったら、毎日でも服を買えたい。
ククリだって…おしゃれをしたい。

それで、勇者様に「可愛い」って言われたい。
でも、勇者様はククリのことなんて…


……ううん、勇者様なんて。
だいっ嫌い…

「…もういいよ、とにかく俺はこの宿で泊まるから。
ククリはどっか、他…探せよ」

「えっ…」

むしゃくしゃしてるのがわかる。
ククリがあんまりにも俺を無視するもんだから、頭にきたんだ。
そっちがそう出るなら、俺だって。
…いつまでも優しくなんか…出来ないんだからな。

いつも一緒に行動して、一緒の所に泊まって。
俺達はずっとずーっとそうしてきた。

だけど…今日は別々に行動してみよう。
変な意地がそう思わせる。

「…勇者様、一緒の宿じゃ駄目…なの?」

ククリは今にも泣きそうな顔してる。

…………。

俺も一緒の宿に泊まりたい。
けど…

「一緒の宿じゃなきゃいけない理由なんて…ねーじゃん」

ばかなことを言ってしまう。

「…………」
「…………」

長い沈黙が続く。
そして、段々と後悔の念が俺を襲う。
…しまった、絶対言い過ぎたぞ。

どうにか、元には戻せないかな?!
しかし、結構酷いこと言ったからなー…
でも、このままじゃどうにもならんし…

色んな考えが頭の中をぐるぐると回っている。
しかし言葉にしようにも、考えもまとまらず…―
悪循環とはこのことだ。

…とにかく、同じことは繰り返しちゃいけないよな。

「…あ…あのさ、ククリ…」

「…ククリ、あっちにする」

耐え切れなかった。

「…へっ?」

「…あっちの宿にする。勇者様はここでしょ。
ククリ、あそこに泊まるから。じゃぁ…」

そういって、別の宿へと走る。
とにかくここから逃げ出したい…

「あっ、ク、ククリ!」

勇者様の声が少しずつ小さくなる。
人ごみにまぎれて、すぐにわからなくなった。
とにかく、今日は別々に…
…………


今日だけなのかな。

「ねぇ勇者様…」

お目当ての宿をめいっぱい通り過ぎた、森の前で足を止めた。

「勇者様、ククリのこと…嫌いになったん、だよね…」

自分で言ってて、涙が出てくる。
いっぱい出てくる。
止まらない。

「ククリのこと、嫌いになった、から…喋ってくれなかった。
宿も、別々に…するん…だ」

自分に言い聞かせてみる。
信じたくない現実を。
もしかしたらもう勇者様と旅できないかもしれない。
勇者様がククリのこと嫌いになったら、もう会えないかも。
このままだったら絶対そうなっちゃう…―

(そうなったらグルグルも…もういらない…)


「っく…ククリは…勇者様のこと、ひっく…
……好きなのにぃ…ひっく」

わかっていることを自分で何度も何度も繰り返しながら、
一時間は、そこで泣いていた。

探せど探せど見つからない。
さっきククリが泊まるっていってた宿にはいなかったし…
近辺の宿にもククリはおろか、少女すら泊まってないらしい。

段々辺りが暗くなってきたな…
夕方の街。
さっきまでの騒がしさはどこへやら、
家に帰っていく人がちらほら見える位だ。

「はぁ〜…」

さっきから何度ため息をついたことか。

…ああ、本当に後悔してる。
あんなこと言うんじゃなかった。
あんな態度…取るんじゃなかったぜ。

今までククリと喧嘩という喧嘩をしたことがないから、
初めての大喧嘩?で、全くどうしていいかわからない。

元々こういうの苦手なんだよなぁ。
まぁ、俺が悪いんだけどさ…。

…………

しかし本当にどこにもいない。
さっきから同じ所をぐるぐると回っている。
でもそれでも見つからない。

(一体どこいっちまったんだ…)


怒って帰ってしまったのか。
…といっても、どこへ?
帰るところもないのに。

空は更に暗くなっていくばかりだ。

勇者様が泊まってる宿からずいぶん離れた所にきた。
小さな小さな宿屋さんだけど、優しそうなおばあちゃんがいて…。
気に入ったので、泊まってみることに。

「おじょうちゃん、一人でこんな所まで来たのかい?」
「えっ、あ、あの…はい」

おばあちゃんはコポコポと暖かい紅茶を入れてくれてる。
…ジミナ村のおばあちゃんと大違い。

「こんな所に一人で来るなんて、何か探し物かね?」

「あ、あのっ、可愛い雑貨屋さんがいっぱいあるって友達に聞いて、
そ…それで一度来てみたくて、…あのぅ…」

「はぁ、そうかいそうかい。でも一人旅は危ないよ。
この辺でも、絶対に安全とは言えなくなってしまったからねぇ…。
おじょうちゃんも、買い物が終わったらお母さんに迎えにきてもらいね」

おばあちゃんはニコニコしてそう言った。
…ククリが魔法使いなんて言えないもんね…。

「おばあちゃんの紅茶…美味しいな。ありがとう」
「いぃえ」

今、勇者様がいたら…。

勇者様がいたら、おばあちゃんの言葉一言一言にも
突っ込みを入れたりして。
…ククリがそれをなだめたりして。
勇者様…。

ククリの中に勇者様だけの場所がある。
何にしても、いっつも勇者様のことが頭に浮かぶ。


―いつだってククリの中には勇者様がいたの…―


「…おばあちゃん、ご馳走様。お風呂…入るね」
「はいはい、どうぞ」

ボロボロのパジャマを抱えて、さっき案内してくれたお風呂場に入る。
おばあちゃんに、泣き顔見られたくないもん。

…だめ。
…やっぱり…好き。

好きだよ…勇者様ぁ。


「よっこいせっ…」

ようやく固いベッドに腰掛ける。
もう2時間は歩き回って…足が棒のようだ。

ようやく空いている宿を見つけたので、とりあえず落ち着くことにした。
…さっき行こうと思ってた宿はククリを探してる間に満員になってたからな…。

「はぁ…」

結局ククリは見つからなかった。
に、してもこの街は広すぎて探すには困難すぎる。
途中で諦めたくはないが、仕方が無い。


…本当にどこにいっちまったんだ。

ベッドに寝転がって、茶色い天井を眺める。
茶色い…―ククリの髪の色みたいだ。

あいつ、三つ編みも可愛いけど、風呂上りの髪型も可愛いよな。
その状態でアクセサリーなんて付けたら…まるでお姫様かも。

そういえば、この前泊まった宿から出てきたククリ…
ふわふわの髪の毛で、ひらひらレースのパジャマ着てた。
安い宿にしては、置いてる服が可愛かったな。
…ククリ、喜んでたっけ。

あの時…ククリには言ってなかったけど、ちょっと目のやり場がなかった。
胸元がやけに開いてるパジャマで、胸の谷間が少し…

…やっぱり、胸大きくなったんじゃねーかな、最初に比べたら。
別に、特別触った事もないけど。
あのメケメケローブじゃわからないが…
ちょっと露出してる服着るとすぐわかる。

…うん、ちょっと、でかくなったよな。







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