あたしに必要なのはニケくんだけ2
ニケ×ククリ


「違うんだよ!なんつーか!ホラ、二度寝とかしようかなって思って!いつもならククリが先に起きてるじゃん?起きてこないから一応起こしてからーと思ったらククリが気持ちよさそーに寝てるからもうなんかめんどくさくなってー」

アワアワしながら弁明する彼の身振り手振りが大げさで、ククリはさっきまでの泣き顔もどこへやら。思わず吹き出してしまう。

「ヘンな勇者様。
一緒に寝るのなんか……初めてじゃないのに」

ぽっと染まった頬を両手で覆いながら、少女が伏せ目がちにそんな事を言い出すので、少年は更に赤面が激化してしまった。もう二人でベッドの上で食べごろのトマトのように真っ赤に熟している。

「だって、ほら…朝っぱらだし」

ニケが言葉を慎重に切って呟くように囁くようにククリの耳に残した。ククリはその消えないセリフがくすぐったくて恥ずかしくて……嬉しい。

「……勇者様……朝だけど……えっち、する?」

少し首をかしげた上目遣いで囁き返したククリがネグリジェの裾を4センチだけ持ち上げふくらはぎを露出させ、彼女精一杯の“ゆーわく”をする。

「――――――――――――する」

ニケが4センチだけ持ち上げられたネグリジェの裾から手を滑り込ませてふわふわ温かい太ももに、冷たい手で触れた。

「あっ…………やん、もう脱がす気なのぉ?」

綿の胸元を結んでいる紐の片方をゆっくり引っ張る。しゅるしゅるしゅると布の擦れ合う音が酷く耳につく。
その音に急かされるように心臓の鼓動が大きく波打つので、ククリは心臓に鎮まれ静まれと何度も命令をする。どうかこの音が勇者様に聞こえませんように!

「……なんかいつもより、緊張してない?」
「――――――あ、明るいんだもん」

ニケの言葉に素直に答えたククリは更に身を縮めるようにぎゅっと目を閉じて息を止めた。
それも無理はないことで、二人がこのような行為をするときはカーテンは愚か雨戸や部屋のドアに鍵まで掛けて、まさしく秘め事という風に行うのが常であった。

「一番最初…風呂でしたとき明るかったじゃん。
……実はおれ明るい方がすきなんだよね……ククリのエッチな顔が見れるし、明るい方が……興奮しない?」
「しないよッ」
「……そうそう、そういう顔が見たいの、おれ」

くっくっくっく……忍び笑いが紐を辿ってククリに伝わる。彼女はその振動にさえ戦慄した。

「あッ……や、くすぐったい」

掠れるささやき声に気をよくしたニケが首筋に手を伸ばして、手入れされた栗色の長い髪の毛を梳く。彼女がそれをくすぐったがることをよく知っていたから。

「あっあっあっ…やだ、もう、それしないって約束なのに…ぃ」

髪を少し引っ張ったり、地肌を指でなぞったり、耳の後ろに自分の髪を当てたりすると、彼女の体がビクビクと正直に、律儀に、敏感に反応する。ニケはそれを見ているのが好きだった。もしかすると、彼女と一つになるよりも。

「あっ……ああっ……はぁ、ぁ…ぁはァァ…!」

もしも始めからベッドに横たわっていなければ、もうとっくに腰砕けになって崩れ去っていたに違いない。ぎゅっと少女に握られているシーツのシワが深いことを確かめる彼は満足げだった。

「まだネグリジェも脱がしてないのに…ククリはエッチな子だなぁ」

嬉しそうで意地悪そうな声を、彼女が一番くすぐったがる耳元に置いてニケはまた笑う。

「……んもう、こんなときだけいじわるなんだから」

くっくっくっく。彼がまた忍び笑いをするので、ククリは溜息を吐き出さずに飲み込んだ。――――――仕方のない人。

「ククリはおれのこと好き?」

彼の梳かす指が止まることなくゆっくり肌をくすぐっている。ククリは一瞬耳を疑った。なぜなら彼がそんな事を言ったのを生まれて始めて聞いたから。

「も―――もちろん!」

慌ててそう答えた唇に濃厚なキスが降る。耳の後ろ側をくすぐる指は止まないで、彼の舌が何度も何度も唇とククリの舌に絡んで来た。その執拗さにククリは目を何度も瞬きさせて息を止める。
ニケの唇の隙間から強引に送り込まれる唾液と空気が生ぬるくて、熱くて、クラクラする。体が熱を持ち、その熱がまるで更に身体を燃やすかのようだ。
勇者様の匂いがする。
強引な男の重さが彼女を蹂躙しているのに、少女と来たらまるでそれを楽しむかのようにやすやすと受け入れていた。それは彼女なりの無意識的な決意の現れであったのかもしれない。

「ニケくん……強い魔法も使えなくて、ドジでダメなあたしだけど……お嫁さんにしてください。
結婚式なんかしなくたっていいの、綺麗なドレスなんか欲しくないの。
あたしに必要なのはニケくんだけ」

それはまるっきり夢見る少女の言葉であったが、夢だけ見ている人間の目ではなかった。彼女の目に浮かんでいるのは決意と勇気と、すこしの不安。そんなものがニケには見えた。
指をククリの栗色の髪の毛から離して彼は彼女から少し距離を置き、重々しく苦々しくため息一つ付いてあとは深く深く黙り込んだ。
そんなニケの様子にククリは、跳ね回り大きくなってゆく鼓動の音が嫌な嫌な言葉を連れてくるように思え、恐ろしくて堪らなかった。
どうしてそんな顔をするの?どうしてそんな溜息をつくの?どうして何も言わないの?
彼女の緊張と恐怖が最高潮に達して微かな震えが訪れ始める頃、ようやく少年がゆっくりゆっくり低い声で唸るように言葉を発した。

「……なんでプロポーズくらいおれから言わせてくんないんだよ」

見つめる先にある彼の握られた手がギリギリとシーツを締め付けている。彼女はそれを見て何故か歓喜よりも恐怖を感じた。こわい、と。

「おれはそんなにダメ?待ってられないくらいグズ?それともおれから言われるのはイヤ?」

おれだってほかの何も要らないよ。ククリさえ、ククリさえ側に居てくれたらおれはどこへでもいけるんだ。天界だって、魔界だって、地の果てだって。
彼の声のテンポが少しずつ速く熱くなってゆく。彼はそれに気付かず、彼女はそれに更なる恐怖を感じ。
怒ったの?そんな風に尋ねることさえ不自由な雰囲気が二人の間に立ち込めていた。

「でもダメ、もうククリはおれのもんだ。ダメでグズでイヤなおれから逃げられないんだから」

引きつって声が出ない。驚いて引きつる顔が彼の目には恐怖に歪んでいるように見える。彼女はなんとかニケに落ち着いてもらおうとベッドから逃げ出そうと足掻いたが徒労に終わった。
背中から抱きすくめられ、ネグリジェの裾から彼の指が、手の平が、腕が、無理矢理に侵入してくる。何度もしつこいほど許可を得て、彼女が恥ずかしがる顔を楽しむようにこそこそ体の線を辿るはずの指が。

「やだやだやだぁ!」

いつもは天使の羽のようにくすぐるニケの性器が、悪魔の槍のように急激に突き立てられる。それは普段の強さとさほど変わったものではなかったが、無言の彼の行為であるということがククリの感情を一層強張らせた。

「―――っ!?や、うそっ!やあぁー!」
「いや?いやぁ?なんで?おれのこと好きなんだろ?」
「やだ!ちがうもん、ちがうの!こんなのイヤなの、だって、いつもとちがうよぉー」
「同じだよ、いつもと一緒。ただククリがおれの本性知らなかっただけさ」

バカでグズでダメでイヤな本性。背伸びして虚勢張ったところで所詮勇者様なんてガラじゃなかった。だから奪う、夢見てる勇者様からククリをさらってやる。おれしか見られないように、おれからもう逃げられないように。
激しく揺すられるのと秘部に伝わる振動にククリが声を上げる事も出来なくなり始めたとき、ニケの動きが一瞬鈍った。ククリはそれがどういうことだか正確には理解できない。だが無神経にも彼の言葉が耳に届く。

「……どう、分かる?今、出てるの……」
「わ……わかんないけど……ゆーしゃさまのおちんちんがビクビクしてるのはわかる……」

上出来じゃん、とニケが声を上げて笑った。

「もう、ククリはおれのもんだ」

自身を引き抜き腹を抱える彼の横顔をぼんやりと見ていたククリは、未だにジンジンと痺れる頭の隅の命令のまま、秘部に指を這わす。いつもとは違う粘液の感触に視線を這わせると、指に絡まっているのは見なれない白濁。

「あっ……」
「赤ちゃんのもとだよ。それがいっぱいククリのお腹の中に……」

ニケが禍々しい笑みでそう言い掛けたとき、彼女の表情はバラ色に輝いていた。

「あ、あたしママになるの!?」
「……そうだよ、ヤなおれと一生」

それにたじろいだ彼が気を取り直してまた低い声で何かを言いかけると、それにまた反応して彼女が声を上げる。

「ホントのお母さんになるのね!」
「……あの、ククリさん?」

両手を組み合わせて神様を仰ぐように感極まるククリは、ニケの言葉にもとどまる事を知らない。

「どうしよう!ほんと?お腹一杯に入ってるって間違いない?たくさん入れてくれた?」
「…………えーと……イヤじゃないわけ?」

その指についてるやつがお腹の中に入ったんだぞ。いっつもはゴムで止めてるやつがそのまま。

「どうして?嬉しいことよ!ニケくんとククリの赤ちゃんが出来るんだから!
名前!名前を決めなくちゃ!それからお洋服も、お皿も、お部屋も」
「待って。その前におれと一生居なくちゃなんないんだぜ。それでもいいのか?」

ニケのこわばったセリフに、ククリが乱れたネグリジェを調えてかしこまった風に座りなおした。

「勇者様はククリにとって一人だけなの。夢でも想像でも、ましてやグルグルで出したんでもない、今目の前に居るあなただけ。」

怖くないよ、二人で居れば。
彼女が真面目腐った顔で彼の手を握り、頬に当てる。

「ククリのほっぺたあったかいでしょ?」

ニケが小さくうん、と返してほっとした顔をするので、ククリは微笑んで言った。

「ニケくんの手があったかいから。だからククリはいつも楽しいよ」

好きな人がいつも一緒に居るっていいね。勇気が湧いてくるもの、寂しくないだけじゃないの、新しいこといくらでも見つけられるよ。怖いことも悲しいことも友達になれるわ。
ククリが彼の頬にキスをする。彼がいつも彼女にするのと同じように、優しくキスをする。
とけてゆく。いたみが、こどくが、いかりが、いらだちが、ゆっくり崩壊してゆく。静かに、確実に、音を立てず実感も知れぬまま、形を無くし蕩けてしまう。
幼い頃怖い夢を見て母のベッドにもぐりこんで抱きしめてもらったかのように、道に迷って暗い星空を見上げたとき誰かの家の明かりを見つけたみたいに。安堵しているのに泣きそうになる官能。安心して緊張の糸が切れ漏れる感嘆。

「お嫁さんになってくれる?
おれ、がんばるよ。今までよりもずっとがんばる。ククリが、君が側に居てくれるなら」

怖かったのはおれの方だ。レイドがどうとか、ククリがどうとか、そういう表層的なことじゃなく、もっと根本の……自分が愛されるという事が解らなくて怖かったのだ。それは今も、多分これからもそうなんだろうけれども。

『怖いことも悲しいことも友達になれるわ』

もしかしたらククリはおれの知らないおれの何か大切な事を誰より知ってるのかもしれない。そんで、おれもククリの知らないククリの何か大切な事を誰より知っているとしたら。

ニケは頭の中にわだかまって紡げない言葉を丁寧に咀嚼し反芻した。何度も何度も、ゆっくり注意深く、慎重に。それは泣く事に似ていたけれど同じ事ではなかった。少しだけ、反省の色が強い。

「はい。」

長い長い時間を掛けて彼女が返事をする。ニケがその返事に眉を下げて笑ったので、ククリも同じようにため息代わりに笑った。

「……しよう………あの…もっかい、こんどは、ちゃんと。」

ククリが三つ編みを解いたあとのゆるくウエーブのかかった髪をかすかに揺らしながらくすくす微笑んで。

「うん、ちゃんと“して”」

胸元のリボンが魔法みたいに解けて彼女の白い肌が目の前に露になるのを黙って見ていると思う。
もしお互いの大切な何かをお互いが知っているとしたら、それをお互いが探すためにこんな事をするのではないだろうか。見えない何かの感触を確かめようとして触れ合うんじゃないか、と。
もしそうなら、こんなに“切なくて嬉しい”なんて事は――――――たぶん他にない。

指は触れず、手の平だけが肌を滑って降りてゆく。鎖骨から胸へ、胸からわき腹へ。
背中に絶えず触れている彼の体温が自分の体温と混ざり合って違和感がない。時折感じる鼓動の近さに安心する半面、首筋に掛かる溜息とも吐息ともつかぬ熱っぽい呼吸に興奮する。

「綺麗な肌」
「……やだっ……なにを言うの」

言葉が終わるか終わらぬかの刹那、ぬるく刺激的な動きで首筋を舌が這った。緩慢なナメクジの足跡を真似ているのかのようなリズムで。

「あァぁ…っ!」

喉から搾り出されるような押し殺された悲鳴が部屋に響く。彼の指がついにぬかるみに侵入したのだ。

「…………ぬるぬる…する…」

静かで低い彼の声とは違い、侵入している左手の中指と薬指はせわしなく入り口を嬲り、擦り上げている。そのギャップといえば彼女の言葉を奪うことくらい容易なほどであった。
ククリもベッドに座らせても貰えずに立ち上がったまま身体を触られたことなどなかったために、力の配分に難儀をしているのか、足はがくがくと頼りなく震えているのにも関わらず、ニケの右手を握り締める両手は精一杯の力で掴んでいる。

「お…ねが、座らせて……足、立ってられな……」

蚊の鳴く様な声でそうククリが訴えても彼は指を休めることはない。次第にボリュームを増してゆく粘着質な水の音でかき消す意図でもあるのか、指の腹で熱心に秘唇を刺激し続けていた。
彼女の太ももにはもう幾筋も雫が滴った跡があって、よく見ると床にはかすかに水溜りさえ出来ている。膝が大きく振動してとても力が入っているようには見えない。

「いやぁ…あっいぁあっ……あっひぃん……
おねがい…ぃ……ゆーしゃさまぁ……ゆるして、ベッドにちゃん…っああ!…ね…寝かせ………もう…ダメ……!」

それでも彼はククリを無理に立たせるように肩を引っ張り上げたまま力を抜かない。
重心のコントロールが散漫になっているというのに、彼女は制御するどころかそのゆらぎに身を任せるようについに踏ん張る事をやめてしまった。力尽きたという表現が適切なタイミングで。






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