じゃじゃ馬ならし
村井修平×村井絹代


「ヨロシクタノム」

ときは大正。故郷をはなれ花の都東京に暮らす村井修平は、父からの縁談をすすめる
手紙に、(穏便に断っておいてくれ。)という意味で、電報でこう返事を打った。
それが間違いの元ともしらず・・・。

ひと月後、村井修平は、境港へ帰る汽車の車上の人となっていた。
縁談を断ったつもりの電報は、実家で好意的に解釈され、父からは

「向こうも承諾された。吉日をえらんで式をあげるから、東京をひきあげて
帰って来い。就職先も世話してやる。もしも帰って来なかったら勘当だ!」

という主旨の最後通牒がもたらされた。

(あーあ、俺も年貢のおさめ時かぁ・・・。花の都をはなれ、泥くさい田舎娘と
所帯をもって、小さくまとまって生涯を終えるのか・・・。)

一族の期待を一身にになって早稲田大学へ入学したものの、勉学はそっちのけで
芝居や映画にうつつをぬかし、また生来の女好き、学生の身で芸者に貢いでは
裏切られ、いつもすかんぴん。卒業後についた仕事もクビになり、下宿代にも
こと欠いて、資産家の父の仕送りがたのみだった。

(花の東京ぐらしも、先立つものがなくてはどげだいならん。おとっつあんに
見放されては生きて行けん。しかたない、帰るとするか・・・。)

入れあげていた芸者にも振りつけられ、修平はなかばヤケで結婚する気になった。

祝言の夜。

白いつの隠しからのぞく花嫁の顔は、つぶらな瞳に小作りな鼻と口、まるで
おひな様のように愛らしかった。

(むむ。なかなかええな。田舎娘も捨てたもんではない。)

祝言の会場となった祖母の実家の屋敷の広い庭に、白梅が香っている。
修平はぺらぺらとしゃべり出した。

「ほほう、ええ香りだ。今頃は湯島の梅も梅見のさかりですかなあ。
湯島の白梅といえば、『わかれろきれろは芸者の時に言う言葉、
いっそ今のあたしには、死ねとおっしゃってくださいな・・・。」

忌みことば満載のおしゃべりに、花嫁の絹代のこめかみにサッと青筋がたった。
修平側の親族が、あわてて新郎に酒をつぐふりをしながら話をさえぎった。

「あー、おっほん。花嫁さんはがいに疲れましたろう。気分でも悪うなったら
新床の夢も台無しじゃ。おんな衆、部屋で休ませてあげたらどげじゃろ?」

女たちも心得たもので、花嫁の手を取って、用意の離れ座敷へいざなった。

「修平!いらんおしゃべりはするなと、あれほど言うておいたに。お前と
いうやつは・・・。花嫁はちぃとキつそうだが、お前のような極楽トンボには、
あげなしっかり者がちょうどええ。所帯を持ったからには一人前の男、
今度と言う今度は真人間になってもらうけんな。ええか、嫁に逃げられる
ようなことがあれば、勘当じゃけん、そげ肝に銘じちょけ!」

絶対的権力者の父に、そう脅しあげられ、修平は花嫁の待つ座敷へ向かった。

燭台の灯がぼんやりと照らし出す部屋の中には、二ツ枕になまめかしい絹夜具が
しかれ、花嫁衣裳を脱いで髪もおろした花嫁が待っていた。
・・・だが、その顔には、銀色につめたく光るメガネがのっていた。

(なんだ、メガネ女か・・・。興ざめだな。)

修平は少しがっかりしながら、声をかけた。

「女のメガネは美観をそこねるなあ・・・。とってくれんか。」

とたんに、小柄な絹代からは想像もつかない力強い声がぴしりと返ってきた。

「私はひどい近眼(ちかめ)ですけん!とるつもりはありまっせん!」

(生意気な女だなあ・・・。)

へらへらしているようでも、そこは男。おぼっちゃん育ちもあって、修平は
花嫁のとんだ鼻っ柱に腹を立て、さっさと羽織袴を脱いで布団にもぐりこみ、

「あーあ、疲れた。あんたも早やこと寝たらええ。」

花嫁に背を向けて、ぐーぐー眠ってしまった。

ひとり取り残された絹代は、小さな身体を烈火のごとき怒りでいっぱいにして
修平をにらみつけていた。

・・・花婿は東京の大学を出た秀才、そう聞いて、絹代は大きな期待を抱いていた。
絹代の家は苗字帯刀御免の家柄、とは言え、祖父の代に家は没落してしまっていた。
絹代は生来気が強く、曲がったことが大きらい。名家の生まれへの誇りと、貧乏ゆえ
ひとにわらわれたくない、と言う矜持が気の強さに拍車をかけ、縁談は連戦連敗、
親族からは密かに「鬼娘」と呼ばれる始末だった。
だが今度の縁談は、なぜかとんとん拍子にすすみ、今夜祝言のはこびとなった。

「ええな、祝言の席では、誰に何を言われても『はい。』『いいえ。』としか
言うたらいけんぞ。この縁談をしくじったら、もう後がないんだけんな!」

両親にそう言い含められ、祝言の席では我慢をしていたが、修平の軽薄才子ぶりに
我慢も限界にきていたところに、容貌をくさすようなことを言われ、

(どうせ私は、鬼むすめですけん!)

すっかり意固地になってしまっていた。

翌朝、二人はお互いの顔も見ずに朝食をいただき、新居へと向かった。
修平の父が用意してくれた家は、修平に人生を一から築いてほしいという
親ごころから、質素なものだった。

(あんがい、小さな家だな・・・。)

「お前は、家と結婚したのではない。俺と結婚したのだ!」

気持ちを見透かされたような修平の言葉に、絹代はギョッとした。

「セイクスピヤをもじったんですよ。知らんのですか?」
「セイクスピヤくらい知っとります!『ロメオとジュリエット』とか・・・。」

(ほほう、才媛とは聞いておったが、文学もたしなむか・・・。)

「ふふん、ジュリエットと言うよりは、マクベス夫人・・・いやいや、なんでもない。」

修平はそそくさと家に入り、新婚生活がはじまった。

ところが・・・。一事が万事、かみあわない。さっそく昼食の献立に文句を言い、
口論になって修平はぷいと家を出た。夜になってやっと帰ってきたと思ったら、
風呂に入って寝てしまった。絹代は泣きたい思いを押し隠し、知らぬ顔をして
隣りの布団に入った。新婚二夜め、夫に手もふれられぬのはあまりにみじめだった。
祝言の後、メガネをかけて初めてよく見た修平はなかなかの男ぶりで、メガネの
奥の理知的な光がこのましく、絹代は胸をときめかせていたのだ。

「おい、あんた。」

絹代の後ろ姿がピクリと緊張した。はためにも震えているのがわかる。修平は
なんだかかわいそうになった。精いっぱい身体をふくらませたハリネズミのようで、
気は強くてもしょせんは十九の乙女、男が恐ろしいのかもしれない。
粋人を自負する修平にとって、こわがっている女を手込めにするほど無粋なことはない。

「・・・いや、なんでもない・・・。」

またしても、二人は複雑な思いをそれぞれに抱きながら別々に眠ることとなった。

次の日。修平は朝食も食べずに出かけていった。絹代は絶望的な気分になった。

(もう、いけん。おしまいだわ・・・。離縁されたら、どげしよう・・・。)

夕方になって、玄関が騒がしいので、何事かと出てみると、青い顔をした修平が
屈強の男たちに運び込まれているところだった。

「このダンナが、そこで倒れて、家はここだとおっしゃるもんで、アッシどもで
お助けしたようなわけで。」

絹代は、丁重に男たちに礼を言った。

「新婚さんですかい。ダンナ、お楽しみもええが、ほどほどにしてごしなさいよ。」

男たちはドッと笑い、とんでもない誤解をしたまま帰って行った。
屈辱に耐え、絹代は医者を呼ぼうとした。

「待て。なんでもない。ハラが減っとるだけだけん。」
「お腹が?!いったいどげして・・・?」

修平は意地を張って絹代の料理を食べなかったが、実は婚礼の翌朝以来、何も
食べていなかった。フラフラと遊びにでも行かれたら一大事、と父が生活費を
全て絹代にあずけたので、修平は一文無しだった。昔なじみにおごってもらおうとしたが、
父の命令がゆきとどいていて、「新婚の嫁さんをほっといたら、いけんじゃなーか。」
と、相手にされなかった。

絹代は、卵ぞうすいを作って修平に食べさせた。

「ふぅ・・・。やっと人ごこちがついたわ。あんたの料理、なかなかうまいな。」

ほめられて、絹代はポッとほほを染めた。

「ここに・・・置いてもらえませんか?私、もう帰るところがないんです。」
「それじゃあ俺たち、似合いの夫婦だな。俺は、親父から、嫁に逃げられたら

勘当すると言われとってな。」
ふたりは、顔を見合わせて笑った。

「お互いに、はらんでもええ意地をはっとったな。」

修平は、手をのばして絹代のメガネをはずした。

「あんた、かわいいな。祝言の夜から、そう思っとった。」
「わ、私なんか、どうせマクベス夫人ですけん・・・。」
「・・・読んだのか?すまんだったな。だけど、女は男しだいで鬼にもなれば
菩薩にもなる。・・・俺は、あんたが鬼にならんよう、大事にするつもりだ。」

修平は、驚いて声も出ない絹代の唇に、そっと口づけた。絹代も抱きしめられるまま、
修平のワイシャツの香りにつつまれて目を閉じた。

そのまま、二人は修平の布団の上で抱き合った。口づけがだんだん深くなる。
絹代の着物の身八ツ口から手を入れて、乳房をまさぐると、小柄な身体からは
想像できないような豊満な手ごたえがあった。

「このままじゃあ、手ごめのようで、具合が悪いな。」

昼間の着物は脱がすのが大変だが、修平はしんぼう強くひもを外し、帯をといて
絹代の白い裸身にたどりついた。自分も衣服を脱いで身体を重ねあう。
持ちおもりのするふたつの乳房の間に顔を埋め、乳首を指でつまんでこすり
あわせると、いじらしく紅く色づいて、修平の唇をさそった。
胸からへそ、腰骨のあたりに唇をはわすと、

「だ、だめっ・・・。そげなことしたら・・・いけん・・・。」

泣きそうな声をあげて身体をよじった。

「かわいいな・・・ほんとに。」

修平は顔を上げて絹代の唇を奪った。こんなにかわいい女は、いない。

「そげに突っぱらかっとったら、天国へ連れてってやれんぞ。」

修平は、絹代の口内を犯しながら、やわらかな和毛(にこげ)のしげるかわいい丘の
はざまに指をすべりこませ、やさしく刺激をくわえ始めた。

・・・じわじわと広がるはじめての快感に、絹代は悲鳴をあげて修平の指から
のがれようとした。修平がのしかかるようにして動きを封じ、絹代は
あられもない声をあげて昇りつめさせられた。

・・・それから、すっかりやわらかくほぐれた部分に、やっと修平自身を
押しつけ、征服に乗り出した。初めて味わう絶頂感に、ぼう然としていた絹代が、
破瓜のいたみに我に返り、目に涙をいっぱいためて修平の腕を強くつかんだ。

「・・・こっちの方では、まだ天国と言うわけにはいかんけん、ちょっこし
がまんしてくれ、な。」

生娘など、面倒なだけだと通を気取っていたが、今まで修平のまわりにいたのは、
しょせん金の切れ目が縁の切れ目の商売女や、学生と言う学生にコナをかける、
すれっからしの下宿の娘・・・。

(俺だけのために咲く花というのも、わるくない・・・。)

修平は、絹代のやわらかい肉身をふかく味わい、自分も天国にあそぶここちで
絹代の中に精をはなった。

色とりどりのひもや帯、着物の散らばる中に、散らされたまま横たわる絹代。
結い上げた髪がくずれ、しどけなく顔にかかっている。修平はその髪を解き、
いとおしげに梳いて絹代の身体のまわりに流した。

「ええな・・・オフェーリヤのようだ。」

絹代は幸福そうにほほえみ、修平はその腕の中にまた戻っていった。

翌朝。

「あなた・・・。修平さん、起きて下さい。・・・修平さん!」

今日から勤めに出なければならないのに、修平はさっぱり起きて来ない。
業をにやした絹代は、布団をバサッと引き剥がし、

「今日から会社だと言うちょーますが!起きてと言うたら、起きてごしなさい!」

大声で怒鳴った。

(・・・ゆうべは、あげに可愛かったのにな・・・。)

あくびをしながら、修平は会社へ行く支度をした。

(まあ、また今夜かわいくしてやるけん。・・・調教しがいがあるじゃじゃ馬だわ。)

まんざらでもなさそうに、修平は朝飯をしたためた。






SS一覧に戻る
メインページに戻る

各作品の著作権は執筆者に属します。
エロパロ&文章創作板まとめモバイル
花よりエロパロ