純情
村井茂×村井布美枝


秋も深まってきたある日の午後。藍子をおんぶして買い物から帰ってきた
フミエは、我が家へとつづく小路で、奇妙なふたり連れの老人に出会った。

(ここで知らん人に会うなんて、珍しいなあ・・・。)

ご近所の家の客かと、愛想よく会釈してすれ違った。

「ただいま帰りましたー。」

仕事部屋にも、二階にも茂はいなかった。散歩にでも出かけたらしい。

(あれ・・・すきま風?)

ふと風を感じて、仕事部屋の窓を見ると、少し開いている。

「開けっ放し・・・もぉ、お父ちゃんは無用心なんだから!」

ぼやきながら締めに行こうとして、何かがいつもと違う気がした。後戻りして
見直すと・・・いない。

「い・・・一反もめんが、おらん!」

額の中でズレたのでは、と壁から外して調べてみたが、影もかたちもない。

「一反もめんがおらんようになった・・・?何のことだ。」

帰ってきた茂は、フミエの涙ながらの訴えに面食らった。

「帰ってきたら、窓が開いとって・・・。いなくなっとったんです。」

フミエは一反もめんの絵を入れてあった手製の額を見せた。

「ふーむ・・・こげなもん、一文にもならんのに、盗む奴がおるかなあ・・・?
俺のファンにしても、もっと他の物に目をつけそうなもんだが。」
「・・・他には、何も盗られたもんはないようです。・・・でも、泥棒に入られた
言うだけでも、気持ちが悪くて・・・。」
「うーむ・・・。だが、紙きれ一枚では、警察も動いてはくれんだろうしなあ。」
「それに・・・。」

フミエの目から、つつーっと涙がしたたった。あれはただの絵ではなかった。

結婚して間もない頃、茂がフミエのために自転車を買ってくれ、初めて一緒に
深大寺に出かけた。ぎこちなかった二人がやっと少し打ち解けて、お互いの
第一印象などを話すことができた・・・その日、フミエに似ていると言って茂が
描いてくれた絵なのだ。

お化けに似ていると言われるのはちょっと微妙な気持ちだったが、茂が自分に
興味を持ってくれていたのだと思うと嬉しくて、フミエはそれを大切に額装し、
おばばの写真のそばの壁にかけて飾った。

「・・・自分で飛んで行ったのかもしれんぞ。」
「ええっ・・・?!」

新婚時代の甘い思い出にひたっていたフミエに、茂は思いがけないことを言った。

「昔から、名人上手の描いた動物や美女が絵から抜け出す話は枚挙にいとまがない。
・・・俺の絵だって、そげな事があってもおかしくはない。」

茂はちょっと得意げにそううそぶいた。

「まあ、そう嘆くな。・・・また描いてやるけん。」

茂が自分を慰めようとしてくれているのはフミエにもわかった。けれど、あの絵は
特別なのだ。

「いいえ・・・あれでないと、だめなんです・・・。」

おばばの写真や、茂が初めて買ってくれた赤駒・・・それらと共に、いつも部屋の
一隅にあるだけでフミエがホッとできるもののひとつがこの絵なのだ。

「あ・・・でも、そう言えば・・・。」

フミエは、家の前の小路で出会った見知らぬふたり連れのことを茂に話した。

「白い着物を着た、全体に灰色っぽい婆さんと、今どき蓑のようなもんを着た、赤ん坊
じみた爺さん・・・なあ。話だけではわからんが・・・どうも人外の者のような気がするな。」
「じ、人外って・・・お化けですか?」
「うん・・・そいつらが、仲間を助けに来たのかもしれん。」
「そんな・・・。」

家に妖怪が入りこんだというのは、泥棒とはまた違った気味の悪さだ、それに、
仲間が迎えに来たからと言って、ついて行ってしまったということは、一反もめんに
とって、この家は居心地が悪かったということなのだろうか?

「まあ、妖怪とは本来自由なもんだけん、紙に閉じ込めておいたのは気の毒だった
かもしれん。・・・奴のことは忘れてやれ。」

何よりも自由を愛する茂はそう言ったが、フミエは寂しい気持ちでいっぱいだった。

「あなたが似とると言うけん、なんだか自分の分身のような気がしとったんです。」

フミエがうれしい時は、しっぽをひらひらさせて喜び、悲しい時にはしおれている
ように見えた。つらい時や苦しい時を共有して来た仲間を急に失って、心に穴が
開いたような気がした。

一反もめんがいなくなってから半月近く経ったというのに、フミエはまだ
なんとなく元気がない。壁にかかったままの空っぽの額を見るたび、寂しさが
フミエの心を覆った。

ため息をつきながら台所の流しに向って洗い物をしていたフミエがふと振り返ると、
さっきまでいい子で遊んでいたはずの藍子が見当たらない。

「・・・藍子?・・・藍子っ!・・・どこにいるの?!」

玄関の三和土に落ちていないか、二階に上ってしまったのではないか・・・家中を探して
みたが、どこにもいない。フミエは狭い庭から果ては汲み取り便所の中までのぞいて見た。

「どげしよう・・・またこの間みたいに・・・。」

フミエがちょっと目を離した隙に外へ出た藍子が野犬に襲われそうになり、みち子の
夫の政志が助けてくれた時のことを思い出す。茂は出かけているし、心配でたまらなく
なり、フミエは門の外へ出てあたりを見回した。

「ウゥ〜・・・グルル・・・ワン!・・・ゥワワワワン!!」

複数の犬の激しい鳴き声に、フミエはハッとして声のする方向へ駆け出した。
家の裏手は大きな墓地。走ってくるフミエの気配に、数匹の犬が逃げ去るのが見えたが、
藍子はどこにもいなかった。

「・・・キャッ!・・・キャキャキャッ!」

頭の上の方で藍子の笑い声が聞こえた気がして見上げても、何もいない。フミエは
ハッとして家に取って返すと、二階に駆けのぼった。
・・・座敷の真ん中に、藍子がごきげんな様子でちょこん、と座っている。

「あいこぉっ!!」

すごい勢いでフミエに抱きしめられ、藍子はいやいやをして逃れようとした。

「あ・・・あんた、どこ行っとったの?」
「・・・わんわ、いたの・・・こわかったの。」
「どこも噛まれんでよかった・・・どうやって逃げたの?」
「しろいひらひら・・・ふわふわーって、おそら、とんだの・・・ふふっ。」

何かよほど楽しいことがあったのか、藍子はにこにこして空を飛ぶ真似をした。

夕方帰ってきた茂に、フミエは先ほどの出来事を語った。

「でも・・・あれだけ探したのに、部屋の真ん中におったなんて・・・。窓も開いとって
・・・あそこから入ってきたとしか思えん。」
「ふうむ・・・。神隠し、というやつかもしれんな。」
「いえ、それが・・・出て行ったのは、自分でだと思うんですけど・・・。」

二歳の藍子のカタコトではらちがあかないが、母親として精一杯解釈したところでは、
裏の墓場あたりで野犬に会って危なかったところを、白い布のようなものにくるまれて
助け上げられ、そのまま空を飛んで二階の窓から入ってきたらしい・・・。
フミエは自分の推理をそう茂に語った。

「白い布・・・か。」
「お父ちゃん・・・私と同じこと考えてます?」
「うむ・・・一反もめんの奴、まだそのへんをうろうろしとるのかな?それにしても、
藍子を助けてくれるなんぞ、奴が恩義を感じるようなことをしてやったっけかな。」
「・・・そのへんにおるんなら、帰ってきてくれたらええのに。」
「仲間と自由を謳歌しとるんだろう。ほっといてやれ。」

その夜。

「お前はおとなしい代わりに、静かだと思うと消えとったりするけん、ほんとに
目が離せんな・・・。」

珍しく藍子を寝かしつけていた茂が、やれやれという風に言った。神隠し騒ぎに
肝を冷やした母親の気も知らず、空を飛ぶ夢でも見ているのか、藍子はやすらかな
寝息をたてながら微笑んでいる。

「・・・すんません。藍子見てもろうて。」

風呂からあがったフミエはそっと部屋に入って来ると、声をひそめて礼を言った。

「ええ顔して寝とる・・・。今日のことがよっぽど楽しかったんだろう。」
「私は寿命がちぢんだのに・・・もしも一反もめんが助けてくれんだったら・・・。」
「それにしても、奴はどげして自由の身になったんだろうなあ。仲間が紙を焼いて
魂を取り出してでもやったのか・・・ううむ、これは漫画のネタになりそうだ。」

フミエの心配をよそに、茂は今日の出来事をもう漫画のネタにしようと、右腕と
左袖を組んで考え込み始めた。

仲間、と聞いてフミエは、あの時すれ違った奇妙なふたり連れの老人のことを
思い出した。

「私・・・不思議に思っとったんですけど・・・あの、一反もめんを連れて行ったかも
しれんお爺さんとお婆さん、なして人間の空き巣みたいに窓から出入りして、
それから歩いて逃げたんでしょう?お化けなら、ドロンと消えたり、鍵のかかった
ドアをすり抜けたりできんのですか?」
「妖怪は幽霊とはちがうぞ。それぞれひとつくらいしか得意わざはない。だけん、
人間の隙をついては悪さをするんだ。」
「へええ。お父ちゃん、妖怪の知り合いでもおるみたいに詳しいですねえ。」
「だら。俺が何年妖怪でめしを食っとると思っとるんだ。」

薄暗い部屋の中でお化けの話などしたものだから、フミエはなんとなく寒気を
覚えて茂に寄り添った。大きな腕で肩を抱かれ、温かさが伝わってくる。

「けど、そげだな・・・一反もめんなら、長細うて薄っぺらだけん、すき間から出入り
できるかもしれん。・・・なんせ、あんたの分身だけんな。」

茂は意味ありげに笑って、腕の中のフミエの胸のあたりを見た。

「な・・・なしてそこを見るんですか?」

フミエはちょっと怖い顔をして茂をにらんだ。

「俺は何にも言っとりゃせんよ。」

茂はとぼけて、フミエがとがらせた唇にちょん、と口づけた。

「・・・ええかげんに、元気出せ。」

言いながらまた口づける。何度も触れ合う唇。次第に深くなり、呼吸が乱れる。

「・・・っは・・・ん・・・ふっ・・・ぁ・・・。」

繰り返される口づけのあい間からもれるせつなげなあえぎに、帯をすべらせる衣ずれの
音が混じる。さらけ出された胸の突先の少し冷えた粒を舌でねぶると、耐え切れない
うめきが洩れ、フミエの足先が畳をひっかく音がした。下着に手をかけると、自然と
腰が揺れて抜き取らせる。温かい腹に顔を乗せると、乱れる息に激しく上下していた。

「・・・ぃや・・・ぁ・・・んっ・・・。」

拡げられた両腿の中心に向って熱い唇が下りていく。もじもじとうごめいてしまう脚を、
フミエの手にいましめさせると、わざと音を立てて腿のつけ根に口づけた。

「・・・ふぁ・・・ぅ・・・ゃっ・・・し、げぇさ・・・ん・・・。」

フミエの手が耐えられないように下りてきて、押しとどめようとする。茂はかまわずに
露をふくんだ花芯に口づけた。フミエの震えがはげしくなった・・・。

濃密な愛の気配がただよい始めた閨のうす闇の中に、カーテンもない窓のすき間から
白い影が入ってきた。

影は、ふたりの視界に入らないように死角を選んでゆらゆらと漂っていた。もっとも、
そんな努力をしなくとも、急速にたかまっていくふたりの目にはもう、お互いの姿しか
見えていないのだろうけれど・・・。

うすく細長い白い影は、消えた一反もめんだった。
彼がふたりの愛しあう姿を見るのはずいぶんひさしぶりだった。フミエが藍子を
身ごもった頃、ちょうど二階の下宿人が家を出て行き、夫婦は、やっと本来の寝間で
寝ることが出来るようになった。一階の壁にかけられたまま、それ以来ふたりの
交歓を目にすることはなくなったけれど、この家に起こる悲喜こもごもの出来事を、
彼はそれからもずっと目撃しつづけてきた。

思えば、彼が茂の筆先にとらえられ、この家の住人となった日は、フミエと茂が
初めて結ばれた日でもあった。

小さな四角い空間に閉じ込められ、用が済んだらくしゃくしゃと丸められてポイ、と
捨てられる運命におびえていた彼を、手づくりの額に入れ、大切に飾ってくれたフミエ。
すらりと背が高く、色白でつつましやかな美しさをたたえたフミエに、彼はたちまち
淡い恋心をいだいた。

だが、よりによってその夜―――フミエはあの男のものになってしまった。
初恋の人が目の前で散らされる光景を見なければならないとは・・・彼は運命を呪った。

はじめの頃、慣れない行為に戸惑うフミエは痛々しく、心を傷めずにいられなかった。
だが、その先にはもっとつらい日々が待っていた。次第に身も心もゆるし合うように
なったふたりが交わす愛は夜ごと深まり、激しいものになっていったのだ。

清楚なフミエが、容赦なく暴かれ、翻弄され、啼かされて、身も世もなく乱れ、
奪いつくされる。彼はフミエにそんな仕打ちをする茂に憤りを覚えた。

「好きあっている夫婦なら当たり前のこと、ああ見えてもフミエは幸せなんだよ・・・。」

見守り仲間のおばばは彼をそう諭したが、とうてい納得することなどできなかった。

「あいつ、甲斐性なしのくせに大いばりでフミちゃんをこき使って、夜は夜であげに
虐めおって・・・ゆるせん!」

フミエはみすぼらしい家をすみずみまで磨き、とぼしい食材を工夫して食卓を飾り、
夜遅くまで茂の仕事を手伝って、働きづめだった。家計簿を前にため息をつく彼女を
見るたび、同情はますますつのり、亭主関白な茂を憎々しく思う彼だった。

「・・・んゃあっ・・・っふ・・・ぁあっ・・・ん・・・。」 

甘い責め苦を与える男の頭を、大きく拡げた両腿の間に受け入れているフミエの姿を、
彼は初めて天井から俯瞰で眺めた。このうえなく淫らな光景のはずなのに、フミエの
肌は艶めき、長い髪は白い布団の上に拡がって美しかった。羞じらい、抗いながらも、
身体は解放を求めて快感を追わずにはいられない・・・やさしく育ちの良さそうな彼女が、
最も羞ずかしい場所を剥かれ、なぶられ、どうしようもなく淫らになっていくこの姿に、
何度やるせない思いで目を伏せたことだろう。

「んんっ・・・く・・・ぅう・・・ん―――!」

茂が首を傾けて上唇と下唇で花芽をはさみ、さらに舌でなぶると、フミエは両手で口を
押さえ、のどの奥に悦びの悲鳴を閉じ込めようとした。拡げられた両腿は、無意識に
閉じようとして茂の首をしめつけた。

頭をはさんでいた脚の力がやがて力なくゆるみ、茂が顔をあげた。ぐったりと開いた
ままの両腿の間に、紅い秘裂が濡れて光っている。まだ震えているその花びらの上に、
たくましい腰がのしかかった。


「・・・ゃ・・・ぁあっ・・・し、げぇ・・・さん・・・っ!」
たかまりきった柔肉を熱い刃に押しつらぬかれ、男の重い身体の下でフミエの細い腰が
慄えた。茂を押し戻そうとする両手が肩をつかみ、かすれた声は、まるで助けを求めるかの
ようにその凶器の持ち主の名を呼んだ。けれど、フミエの顔はゆがみながらも内側からの
悦びに輝き、悲鳴にはかくしきれない甘さが混じっていた。

一反もめんはつらそうに目をそむけ、ふたりの真上から窓の方へ、ゆらゆらと移動
していった。

ふたりから目を転じると、そこには小さな藍子が両親の痴態も知らずスヤスヤと
眠っていた。思えば彼は、フミエのお腹に宿った時からずっと、藍子のことも
見守り続けてきた。

妊娠を告げた時の茂の冷たい態度にショックを受けたフミエの家出・・・。欲望の
おもむくままに好きなだけフミエを抱いて、野放図に精を注ぎ続けてきた結果なのに、
『子供は困る。』とは、なんと無責任な男だろう。

「おばば・・・あんたこれでも、この男がフミちゃんの大事な旦那だって言うのか?!」

彼は、二階へ移されてもう隣りにはいないフミエのおばばに向って、心の中で叫んだ。

今度こそ茂を絞め殺してやりたいほどの怒りを覚えたが、とらわれの身の悲しさ、
狭い額縁の中でいくら暴れても、外へ出ることはできなかった。

だが・・・。たった二日で茂に連れ戻されたフミエは、母になる喜びと静かな強さに
満ちていた。茂もそんなフミエに気圧されたのか、覚悟を決めたようだった。

それから月が満ちるまでの間にも、困難は次々襲ってきた。電気代すら満足に
払えず居留守を使い、野の草を摘んで食卓に供する日々・・・。ハラハラして見守る中、
藍子は無事生まれ、人々のやさしさに包まれて大きくなっていった。

貧しいながらも幸せそうな一家を見守リ続けるうちに、彼も認めないわけには
いかなくなっていった。フミエが茂を心から愛していることを。茂も不器用ながら
フミエを愛し、妻と娘を守るため懸命に闘っていることを。

彼は何百年もの間孤独に眠りつづけてきた。妖怪は、人間が彼らをこわがる心の中に
住んでいる。人々に忘れられ、消えかかっていた彼をよみがえらせてくれたのは
茂だった。昔のことをほとんど忘れてしまった彼の、真っ白な紙のような空疎な心に、
愛の灯をともしてくれたのはフミエだった。

何百年もの間彼を待っていてくれた仲間が、彼の境遇を伝え聞いて助けに来てくれた。
彼を紙の檻から解放し、これからは妖怪らしく生きようと誘ってくれた。どこへ行くのも
何をするのも気の向くまま・・・彼は自由を謳歌した。けれど、日が経つにつれ、心に
ぽっかり開いた穴を風が吹き抜けるような空虚さに襲われるようになった。

「ごめん・・・やっぱ俺、帰るわ。」

引き止める仲間にぺこりと頭を下げ、一反もめんは調布の空を目指した。なつかしい
ボロ家の屋根が近づいた時、野犬に囲まれた幼い藍子を見た彼は、何の迷いもなく
野犬の群れの中に飛び込んでいた・・・。

「ぃやぁ・・・ぁあ・・・っ!」

悲鳴にハッとして振り返ると、茂がなにやら体位の入れ替えを行っていた。自分の
左脚をフミエの右脚の上に乗せ、もう片方は逆にして、脚をたがい違いに組み合わせる。
くい、と腰をひねると、交わりの角度が少し斜めになって、敏感になっている秘唇を擦り、
内部の思わぬところを突いた。

「ゃっ・・・こす、れ・・・んぁん・・・だめっ・・・!」

抗議にかまわず、腰をぐっと入れ、ふたりの結合をより深くかみあわせる。たまらずに
フミエが伸ばしてきた手を引っ張り、上体を起こしてやる。フミエは片手で茂の肩に
つかまり、片手を後ろについて、甘く啼きながら腰を揺すった。

「・・・ゃっ・・・んっ・・・しげ・・・さ・・・だめぇっ・・・。」

強い波が来るたび、フミエのすらりとした背が弓なりにのけぞる。茂は突き出された
乳房を喰らいつくように吸いながら、腰を引いては打ちつけることを繰り返した。

「・・・ゃ・・・だっ・・・ぁああ――――!」

のけぞりすぎたフミエがとうとう後ろにくず折れた。茂はからみあった脚を伸ばしてやり、
ゆっくりとフミエの上に覆いかぶさった。

ぴったりと閉じさせたフミエの脚を両膝ではさみ、小刻みに腰を上下させる。

「ん・・・ふっ・・・しげ・・・さ・・・し、げぇさ・・・んんっ・・・。」

小さな蜜の壷を出入りする、硬い肉の筒に繰り返し花芽をこすられ、茂の名を呼ぶ
フミエの声が次第にうわずってくる。

「・・・んゃあっ・・・んぅ――――!」

フミエの爪が、はたから見ていて痛みを感じるほど茂の背に喰いこんだ。そろえられた
両足がぴんと反り、ぶるぶると震える。絶頂の瞬間、悲鳴すら独占するかのように茂が
唇で唇をふさいだ。茂の臀の筋肉がきゅっと緊張し、フミエの中に精を注いでいる。
静寂が支配する闇の中、ふたりの体内で無数の爆発が起こっているのが見えるようだった。

・・・ふたりをさらい、押し上げていた波が徐々に引いて、張りつめていた身体が
ぐったりと弛緩した。全身に刻まれる同じリズムの脈動をともに感じながら、ふたりは
息がととのうのを待ちきれず深く口づけをかわしあった。

「・・・ふぁ・・・ぅ・・・。」

藍子が寝ぼけた声をあげて布団をはねのけた。ふたりはピクリと動きを止め、そっと
身体を離した。フミエが起き上がって、浴衣を羽織りながら藍子の上にかがみこみ、
布団を直してやる。茂がその背を抱くようにして、ふたりの宝物をのぞきこんだ。

至福のときを共有しているふたりを後に、影はフスマのすき間にするり、と入り込み
姿を消した。

「一反もめんの奴、やっぱり帰ってしまいよったな。せっかくわしらが助け出して
やったものを・・・。」
「ああ、あいつを連れに来た時、ここの奥さんに会ってしもうて、肝を冷やしたにのう。」

村井家の裏手の墓場で、おぼろな月の光の下、ふたりの妖怪が話し合っていた。

「あいつ、あの女房に岡惚れしよって・・・。人間の女なんぞ、いくら好きになっても
なんにもいいことなんかありゃせんのになあ。」
「まったくじゃ。いくら長細うて薄い言うても人間は人間だもの、妖怪の嫁にはなれん。
・・・まあ、一時のなぐさめに、ダンナの方を絞め殺して女をさらってくりゃええと
言うても、あのひとの不幸せになることはできん、とこうだからのう。」
「・・・奴は純情だからなあ。それにしても、好きな女が他の男と睦み合うとる家で暮らす
なんぞ、あいつは変態じゃないのか?」
「そう言うのは、近頃では『まぞ』と言うんじゃ。」
「ふうん・・・おばばは物知りじゃのお。」

赤子のような老爺にそう言われて、グレーな印象の老婆は得意気に胸を張った。
・・・その視線が、一反もめんの帰っていったボロ家に止まる。

「・・・いやになったら、いつでも帰ってくりゃええ。あいつはもう自由の身じゃからな。」
「ああ・・・そうとも。俺たちはいつでも待っとるでな。」

二人の老人はそう言うと、落ち葉がくるくると渦巻くつむじ風の中、墓場の向こうへと
消えていった。

「あれ・・・?しげぇさん、新しいの描いてくれたのかな・・・?」

翌朝。茂が起きてくる前にと、仕事部屋のそうじをしようとして、フミエはあるものを
みつけた。それは漫画用の原稿用紙に描かれた一反もめんだった。

「お父ちゃん、新しいの描いてごしなさったんですね・・・だんだん。」

フミエは、自分があまり嘆くので、茂が新しい絵を描いてくれたのだと思って礼を言った。
あれでなくては、と言ったけれど、茂のやさしい気持ちはうれしかった。

「・・・ん?なんのことだ?」

ねぼけまなこで朝食の食卓に向っていた茂は、一反もめんの絵を見せられて怪訝な表情
をした。

「俺はこげなもの描いとりゃせんぞ。・・・最近は時代劇にかかりっきりだからな。」
「え・・・。ほんならこれは・・・。」
「見てみい。こいつ、しっぽが破れとる。」

たしかに、よく見ると一反もめんのしっぽは以前より短くなり、先端がいたんでいる。

「藍子を助けてくれた時、野犬に噛みとられたのかしら・・・かわいそうに。」

茂は、ホワイトで破れた部分を消し、新しくしっぽを描きなおしてくれた。

「ふーむ・・・どうやら自分の意思で戻ってきたらしいな。」

フミエは懐かしいお化けの絵をじっとみつめた。

「あんた・・・なして出て行ったりしたの?・・・でも、よう戻ってきてくれたね。」
「ここが居心地ええのかもしれんが・・・戻って来たいうことは、また出て行くことも
あるかもしれんぞ。自由の身だけんな。」

フミエは元の額縁に、新しい紙に住み着いた一反もめんを入れてやった。

「もうどこへも行かんで、ここにおってね・・・。」

今日の一反もめんは、なんとなく後ろめたそうに見える。

「あ・・・それから、藍子を助けてごしなって、本当にだんだん。」

一反もめんの白い顔が、心なしかほんのり紅くなった気がした。フミエは安心した
ように微笑むと、台所に立った。

「・・・俺がおらんようになって、心配してくれとったんだな・・・だんだん。」

一反もめんは流し台に向うフミエの後ろ姿に話しかけた。フミエは何も知らず朝食の
後片づけを続けている。

「自由になって、最初のうちは嬉しかったけど、ひとしきり飛び回った後、寂しくて
たまらんようになって・・・やっぱり、帰って来ちまった。」

フミエに彼の声は届かないが、一反もめんの独白は続いた。

「フミちゃんは、ほんとにあいつのことが好きで、幸せなんだな・・・。俺はもう少し
ここにいて、フミちゃんの幸せを祈っとるよ・・・。」

ただの紙に描かれた墨汁の線のはずの彼の目から、ぽろり、と涙がこぼれた。

「・・・おめん・・・ないてるの?」

いつの間にか額の下に立っていた藍子が額に向って話しかけた。一反もめんは
あわてて涙をふいて首を横にふった。

「どっかいたいの?・・・よしよししてあげるね。」

藍子は危なっかしい足取りで額の下にある低いタンスによじ登り、立ち上がろうと
して、よろり、とよろけた。

「・・・藍ちゃん!!」

瞬間、紙の中から飛び出した一反もめん彼に抱き止められ、藍子はふわりと空中に
浮いた。

「・・・シーッ。」

彼は口があると思しきあたりに人差し指を立て、声を出さないように合図した。
そっと畳の上に下ろされた藍子はうれしそうにきゃっきゃと笑った。台所の
フミエが振り返らないうちに、一反もめんは急いで額の中に戻った。

「藍子・・・何をそんなに楽しそうに笑っとるの?」

娘がお化けと友情を深めつつあるとも知らず、フミエは雑巾とバケツを持ってにっこりと
藍子に笑いかけ、ご機嫌で玄関のそうじを始めた。






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