しづ心なく
村井茂×村井布美枝


「ぇ・・・?・・・やっ・・・ゃあっ!!」

満開のさくらの上の月が朧にかすむ春の宵。カーテンもないガラス窓から射し込む淡い
月光が、二人だけのみそか事を照らし出している。そのささやかだけれど幸せな愛の時間に
似つかわしくない悲鳴が、小さな部屋の甘い空気を引き裂いた。

「やめて・・・やめて・・・おねがい。」

羞ずかしすぎる行為に、思わず声をあげてしまったフミエは、二階の住人を慮ってあわてて
声をひそめ、やめてくれるよう必死で茂に懇願した・・・。

抱擁と口づけから始まり、身体の其処ここへの愛撫に息をはずませながら、フミエは
この後の展開を思い描き、羞恥と期待の両方に肌を染めていた。すべてが初めてだった
フミエも、結婚からふた月あまりが過ぎたこの頃では、すこしは男女の交わりを知ったと
思えるようになっていた。

・・・ところが、茂のその後の行動は、フミエの想像とは全く違っていた。胸乳のあたりの
肌を味わっていた茂が次第に唇を下へと這わせ、臍や腰骨を経て、フミエの両脚の間に
身体を入れると、秘所に口づけたのだ。

「ぃやっっ・・・!!そげなことしたら、だめぇっ・・・。」

フミエは必死で腰をずらして逃げようとしたが、茂に左脚を押さえられていて動けない。

「こっちの脚は、自分で押さえとれ。」

脚を閉じようとして夢中で茂の頭をはさんでしまっている右脚を肩で押さえつけ、フミエの
右手を取って太腿を持たせる。
やがて信じられないことが始まった。すでにあふれ出している蜜をすくった舌が会陰を
くすぐり、花びらの陰をさぐり・・・ついには茂の指と雄根しか知らない秘口を侵し始めた。

「やぁっ・・・!だめっ!・・・お、男のひとが、そげんことしたらいけんっ・・・!」
「・・・なひて、いへんのだ・・・?」

そう聞く茂の声が、少しくぐもって聞こえるのも耐え難いほど羞ずかしい。

「だって・・・だっ・・・ぁ・・・ぁあっっ・・・。」

この行為に激しい抵抗を覚えながらも、腰が勝手に跳ね上がるほど感じてしまう。
フミエの世代の女性は、常に男性を敬い、丁重に扱うよう教育を受けてきている。厳しい
家庭に育ち、性に関してはほとんど無知のまま育ってきたフミエにとって、こんなことは
まったく青天の霹靂とも言うべき、受け入れがたいものだった。

「やめ・・・て・・・ください・・・おねがい・・・。」

フミエの弱々しい懇願など聞こえていないかのように、茂はさらに命じた。

「ちょっこし・・・ひらいとれ。そう・・・そげだ。」

フミエの左手をとって、人差し指と中指の二本でフミエの最も敏感な核を剥き出しにさせる。
熱い唇が押しつけられ、吸いあげられると、もう理性も何もかもふっとんで、フミエは
腰を躍らせながら悲鳴を上げた。

「ひぁぁっっ・・・ぁっ・・・ぁあ―――――!!」

秘口に指が挿し入れられ、中を擦りながら、舌が陰核を圧迫する。フミエはもう右脚を
押さえた手も、いやらしい役目を与えられた手も外してしまい、両手で口を押さえた。
こみあげる絶頂の叫びは、封じ込めようとしても指の間から漏れ出し、抑えられた熱は
内側からフミエを灼きつくした。

フミエの絶頂を味わいつくし、ようやく口を離した茂が上にあがってきた。
顔をおおったまま震えているフミエの汗ばんだ身体を抱きしめ、鼻先をフミエの頑なな
両手の間に突っ込んで、まるで罪ほろぼしのように甘く口づける。

「ん・・・ふ・・・。」

さっきまでの激しい責めとは対照的な、甘やかすような口づけにたやすく籠絡され、フミエは
両腕を茂の首に巻きつけ、痺れる身体をすり寄せた。だが茂はそんなフミエの腕を解き外し、
身体を起こした。急に放り出されたフミエは、さらされた裸身をかばうように胸を抱きかかえ、
両脚を閉じて子供のように身体を丸めた。
その腰の下に手を入れて、ぐいと引き起こす。うつ伏せにさせられたフミエは、あわてて
前に両手をつき、すがるような眼をして振り返った。

「ま・・・待って。こげに、すぐじゃ・・・。」
「・・・すぐだけん、ええんだ。」

無慈悲な答えとともに、膝で脚の間に割って入ると、腰をつかんでまだ震えている秘裂に、
反り返る屹立を押しあてた。

「んぁう・・・だめっ・・・!」

柔らかいけれど、きつい肉の壁を押し拡げながら埋め込んでいくと、達したばかりの内部が
うごめいて、茂を包み込んでくる。

「まだ、ひくひくいっとる・・・。」

後ろから挿入れられることに、フミエはまだ慣れていなかった。茂の顔も見えず、抱きつく
こともできないまま捻じ込まれる雄芯は、他の体勢よりも大きく支配的に感じられてしまう。
だが、そんな心とは裏腹に、フミエの身体は勝手に高まり、歓喜の叫びをあげていく。いつしか
フミエはついていた肘をあげて上体を起こし、茂の律動を全身で受け止めていた。

「あっ・・・ぁ・・・あっ・・・ぁあっっ・・・!」

がっちりと固定され、逃れられない女陰を深く浅く穿たれるたび、きれぎれの叫びがあがる。
背後からおおいかぶさり、乳房をもみしだかれる。それを阻もうとした手をとらえられ、
もろともにこねられると、フミエはもう身体を起こしていられなくなって前に突っ伏した。

「・・・めっ・・・っちゃ・・・ぅ・・・ぁん・・・ぁああ―――――!!」

無意識に激しく腰を振りたてていたフミエの動きがびくっと止まり、内部がきゅうっと茂を
締めつけた。

「く・・・。」

そのあまりに甘美な力に、茂は思わず声をもらし、フミエの中に長々と解き放った。

ぐったりとなったフミエを後ろから抱いたまま、二人は横向きになって余韻にひたっていた。

「・・・こっちの力を借りんでも、イけるようになったな。」

茂の指がフミエのしっとりと湿った前の部分に触れた。後ろから挿入れる体勢をとる時、
以前は確実に絶頂に導くためにフミエの敏感な蕾を指で刺激してやっていたのが、今では
そこに触れることなく到達できるようになった・・・ということだ。フミエはそれが嬉しいのか
悲しいのかわからぬままぼんやりとしていた。
まだつながったまま、フミエの肩口や首筋に口づけていた茂が、前に触れた手の中で一番
長い指を折り曲げた。

「・・・ゃっ!・・・ゃめ・・・てっ・・・。」

小さな雄芯のように尖った秘蕾をぬるぬるとこすられ、フミエは後ろに茂を呑みこんだまま
激しく身をよじった。

「こら・・・暴れるな。」

つかみしめた枕に顔をうずめ、せつない絶叫を殺しながら、フミエは哀れなほどあっけなく
達し、つよい収縮がまだ余韻のさめやらぬ雄芯を食いしめた。

「ぅ・・・すごいな。また、快くなりそうだ・・・。」
「・・・だ・・・め・・・死んじゃ・・・う・・・。」
「冗談だ。・・・そげに何度もできんよ。」

最後のしあげにぐるりとなぞってから、やっと指を抜いた。肩を抱いてこちらを向かせると、
フミエの頬は涙に濡れつくしている。茂がその涙をふいてくれたことで、フミエは初めて
自分がこんなに泣いていたことを知った。

あくる日の午後。フミエは洗面所の鏡の中の、まだなんとなく腫れぼったい気がする
まぶたを、絞ったてぬぐいで冷やしていた。

(女に泣かれるのはかなわん、って言うとられたのに・・・。)

初めての時、涙を見せたフミエにそう言ったのは茂なのに、抱かれるたび泣いてしまうほど、
フミエを追いつめるのはなぜなのだろう。

(前みたいに、やさしうしてくれとるだけじゃ、ものたりんのかな・・・。)

初めて結ばれてからふた月とちょっと。最初のころ、茂は驚くほどの忍耐とやさしさで
フミエの心と身体を開いていってくれた。それは思い出すたび今でもフミエの心を甘やかに
濡らす愛の記憶だった。けれど、身体の痛みが悦びに変わっていくにつれ、責めは激しくなり、
新しい試みを加えられることも多くなってきていた。新しいことを教え込まれるたび、戸惑い
ながらも必死でそれに馴染んできたフミエだけれど、昨夜のあのことだけは耐えがたかった。

(もしかして・・・私が、つまらん女だけん・・・あげな奇抜なことをせんと、飽き足らんの
だろうか?)

昨夜の、羞ずかし過ぎる記憶がよみがえり、フミエをぞくりとさせた。拡げた脚の間に
黒い頭がはさまれている、信じられない光景・・・。

(あげなこと・・・好かん!あ・・・あげなこと・・・。)

心では強い抵抗を感じながら、身体には舌と唇がじかに与える強すぎる快感がよみがえり、
とたんにフミエの中心部がぬるりと蕩けだす。有無を言わさず絶頂を刻まれ、痺れている
身体を貫かれ、追い上げられ・・・穏やかとは言えない抱き方をされて戸惑う心とは裏腹に、
身体じゅうの血脈が意識されるほど脈打ち、頭はぼうっとなった。

(こ・・・こげなことばっかり考えとらんで、買い物に行かんと・・・。)

フミエは頭を振ってこの甘い苦悩を振り払おうとした。だが、忘れようとするはしから、
茂のことばかり考えてしまう。

(やさしいのか、やさしくないのかわからん・・・あのひとは。)

愛し合う時、何もわからなくなるほど感じさせられながらも、フミエはいつも茂のさりげない
やさしさを感じていた。丁寧な愛撫で充分すぎるほど蕩かしてからはじめて自らの欲望を
埋め込み、フミエが恍惚のきわみに達するのを見届けてからようやく自分を解き放つ・・・。
情欲のおもむくままに身体をからめあう時ですら、フミエの手足が痛んだりしないように
気づかってくれる・・・。やさしさと、容赦のなさ・・・様々な夜の記憶がよみがえり、フミエを
落ち着かなくさせる。冷たい手ぬぐいでやみくもに顔をゴシゴシ拭くと、フミエは気を
取り直して買い物に出かけた。

「あ・・・さくらふぶき・・・。」

肩を寄せ合って建つ小さな家々の間を抜けて広い道に出ると、桜の季節には珍しく晴れ渡った
空を背景に、風も無いのに満開の花がとだえることなく散りしきっていた。
桜のトンネルを自転車で駆け抜けるフミエの顔に身体に、白い花びらがふぶきのように
降りかかり、前が見えなくなって思わず自転車を降りた。あたりには何の物音も無く、
絶え間なく散り急ぐ花びらをみつめているうちに、フミエはなんだか哀しくなってきた。

「子供のころ、こげな桜ふぶき、チヨちゃんと見たっけ・・・。」

散る桜を見て美しいと友と喜びあったことはあったけれど、哀しいなどと思ったことは
なかった。無垢だった少女のころがむしょうに懐かしく、あの頃にはもう戻れないという
ほろ苦い思いが胸にこみあげた。

「ぶわっ!ひどい風だ。これでは残りの桜も全部散ってしまうだろうな。」

窓を開けた茂は、思わぬ突風に驚いて、あわてて窓を閉めた。

「あ・・・髪に花びらがついとりますよ。」

フミエが花びらをとろうとして伸ばした手を、茂がつかんで引き寄せる。

「ぁ・・・ん・・・。」

ごく自然に唇がふれあい、茂の膝の上に乗せられて胸にすっぽりとおさまる。フミエは
ここ以上にやすらげる場所はないような気がして、背をもたせかけてうっとりと目を閉じた。
ぎこちなかった二人も、いく夜もの交情を経て、こうして自然に愛の時間へと入っていける
ようになっていた。
小さい子をあやすように膝の上で揺すってやると、フミエはたのしそうにしのび笑いを
もらした。揺らしたはずみに、茂の髪の花びらがはらり、と落ちる。

「咲いた桜になぜ駒つなぐ・・・という都々逸(どどいつ)を知っとるか?」
「どどい・・・つ・・・さあ?」
「ようイトツが歌っとったな・・・。駒がいさめば、花が散る・・・どげな意味かわかるか?」

話しながら、茂の指はゆかたのえりを割って乳首をもてあそぶ。フミエは息をはずませ
ながらも、問われたことに答えた。

「んんっ・・・ぁ、は、い・・・。」

答えるフミエの目の縁が、紅く染まっているのは、涼しい顔で話をしながら茂が遠慮なく
加えてくる愛撫のせいなのか、それともこの唄の意味のせいなのか・・・。都々逸と言うのは、
花街で歌われる戯れ唄のたぐいで、堅気の家の娘のフミエが知る由もないが、駒と花という
のが何を指しているのかくらいはわかった。

「・・・よかった。わからんだったらどげしようかと思った。あんたは、女版朴念仁だけんな。」
「まあ、ひど・・・ん・・・ぁぁっ・・・。」

執拗に乳首をいじられ、じんじんとした快感がフミエの中心部を攻撃し、頭を痺れさせる。
触れられてもいない花芯がずきずきと痛いほど疼き、とろとろとした蜜をこぼすのがわかる。
普通に話をさせながら身体をいじめ、答えるフミエの声が快感に乱れるのを茂は楽しんだ。

「俺は子供のころ、さっぱり意味がわからんで、初めて意味がわかった時は、がいに
大人になった気がしたな。」
「はぁ・・・ぁ・・・ん・・・。」

気づけばフミエばかりが素裸にさせられ、紅く色づいた実を吸われていた。全身をつらぬく
快感はいよいよ激しくなり、叫びだしたいほどにフミエの身の内を攻め立てた。
やさしく抱き倒され、熱い素肌が重なる。このまますぐに貫いてほしい・・・一度も
触れられることのなかった秘所が充足を求めてむせび泣いていた。だが、無慈悲にも温かい
肌は引き剥がされ、茂が下にさがる気配がする。また、あの行為が始められるのだと思うと、
フミエは泣きたい気持ちになった。

「・・・おねがい・・・それは、やめて・・・。」

拡げられた脚の間に顔を埋め、あふれる蜜を味わおうとしていた茂は、拒絶の言葉に
一瞬動きを止めたが、かまわずに舌を挿しいれた。

「ゃぁああ・・・ぃやぁ・・・!」

いちばん長い指が挿し入れられ、もう一本の指とで拡げられたすき間に舌が入り込んで
内側を舐める。隆い鼻が花芽にあたると、茂はわざとそれをぐいぐいとこすりつけた。

「ひぁ・・・やっ・・・だめっ・・・き、きたないけん・・・。」

フミエは悲鳴をあげて、必死で両腕をてこにして後ずさり、茂の責めから逃れようとした。

「こら、逃げるな!」

茂は起き上がるとフミエの足の方を向いて上からおおいかぶさった。フミエの太腿を
つかんで、ぐいと引き寄せると、さらけ出された秘所に再び顔を埋めた。

「ぃやぁっ・・・はなして・・・ぃ、や・・・。」

でんぐり返しの途中のような格好で組み敷かれ、フミエは恥ずかしさと息苦しさで脚を
じたばたさせた。だが、膝の裏あたりで茂の腕にがっちりと押さえられているので、びくとも
しない。舌をとがらせて出入りさせたり、こんもりした丘ごとかぶりついて舌で花芽を
ちろちろと舐めたり、好き放題になぶりつくされ、フミエはあらがう力も失っていった。

抵抗をあきらめかけたフミエの、涙でかすんだ目に、目の前に揺れている雄根が映った。
フミエの女そのものを味わい、責め立てる興奮にそそり立ち、つやつやと光っている。
フミエは必死で顔を上げると、思い切ってその先端をくわえた。

「・・・っ!」

茂がぴくり、と反応して動きを止めた。フミエは手を添えてより深くそれを呑みこんだ。
無理な姿勢のうえに、口いっぱいに雄根が満ち、苦しくて思い切り鼻から息を吸い込むと、
なつかしい茂のにおいがした。何かくるおしい情熱にとらわれて強く口の中のものを吸うと、
茂が思わず唇を離し、落ち着かなげに腰をうごめかせた。

「ま、待て。ちょっこし、離せ・・・。」

がっちりと押さえ込まれていた太腿を離され、フミエはやっと脚を伸ばし、口をふさいで
いた雄根を離すと、ホゥッと吐息をついた。茂は座りなおし、横たわったままのフミエを
上から見下ろした。はしたないことをしたと怒られるのだろうか?それとも、このまま
貫かれるのか・・・。

「・・・つづきを、してくれるか?」

茂の口から出たのは意外な言葉だった。フミエはしびれている身体を起こし、茂のあぐらの
中に突き出ているものに口を寄せた。大きく口を開けて呑みこむと、茂が息を飲んで
フミエの頭を撫でた。頭をそっと押して離させると、後ろに倒れ、脚を伸ばして横たわる。
この後、どうしたらいいのかわからないけれど、なんとかして茂を悦ばせたい・・・。

(男の人って、どげしたら感じるんだろう?)

さっぱりわからないまま、自分が口で愛された時のことを思い出し、いろいろな場所に
舌や唇を這わせ、口ばかりではなく鼻や頬、顔全体を使って愛撫した。茂が大きく吐息を
ついてフミエの髪に指をすべらせる。

(気持ち、ええのかな?・・・ほめてくれとる?)

フミエは少し自信がついて、思い切りよく雄根を呑みこんだ。茂が自分を責める時の動きを
再現してみようと、唾液で唇を滑らせるようにしながら少しずつ抜いていき、また
深く呑みこむことを繰り返す。

「ふっ・・・く・・・。」

茂が髪に通した指で頭をつかみそうになり、はずむ息をこらえながらその手を離した。
感じてくれていると思うとうれしくて、いっそう熱がはいった。穿たれ、引き抜かれ、
秘口に加えられる規則的な律動や思いがけない動きを思い出しながら、夢中で頭を動かして
いると、自分が上も下も同じ淫楽の器官になり果てた感覚におそわれ、ただ陶酔に身を
まかせた。

「もう、ええ・・・そのくらいにしとけ。」

茂の言葉にはっと我に返り、深くふくんでいたものを吐き出す。腰の横についていた手を
引かれ、胸に抱かれると、今まで夢中になり過ぎてあまり呼吸をしていなかったことに
気づいて、フミエは苦しそうに大きく息を吸い込んだ。

「・・・はぁーっ・・・はぁ・・・は・・・。」
「息ぐらいちゃんとせえ。」

息苦しさに涙ぐんでいるフミエの上気した顔はたまらなく淫らでいとおしく、茂は思わず
今までおのれの雄芯をくわえていた唇を奪った。深くうばいながら、指でフミエの秘部を
さぐると、そこはかつてないほど溶け出していて、茂の掌をぐっしょりと濡らした。

「・・・大洪水、だな。」

身体の上にかぶさっているフミエを、右手で少し支えながら抱きおろして向かい合う。

「すんませ・・・ん・・・最後まで・・・出来んで。」
「だら。最後までイかされてたまるか・・・十年早いわ。」

茂は笑って、臀から手を滑らせるようにして膝の裏に手を入れた。脚を曲げて抱えあげると、
濡れそぼった女性に自然と屹立が口づけした。腰を上下させて先端でなぞると、フミエが
じれったそうにしがみついてくる。

「挿入れて・・・ほしいか?」
「・・・は・・・い。」

おおいかぶさる様にして身を起こし、剛直を埋め込んでいくと、フミエは歓喜のうめきを
あげて自分から腰をあげ、結合を完全なものにした。

「ぁあ―――――!」

充たされていく幸福感に酔うフミエの耳朶を噛みながら、茂が熱く囁いた。

「あんた・・・これが、好きか?」
「そげな、こと・・・聞かんで・・・。」
「す・き・か?と聞いとる・・・。」

言葉ひとつごとに揺さぶられ、フミエはあえぎながら素直な答えを口にした。

「ぁあっ・・・好き・・・ぁん・・・す、き・・・。」

充足感はたちまち焦燥に変わり、フミエはくるおしく腰をうごめかせた。ゆらゆらと揺れる
左脚を抱えあげ、二人の脚を卍型のように組み合わせる。左脚をつかんだまま、中心部に
腰を打ちつけるようにして穿つと、フミエは激しく顔を振って身悶えた。

「・・・く・・・ぁあ・・・しげぇさっ・・・ぃ、く・・・」

抱えた脚がきゅっと緊張し、フミエの内部がけいれんした。断続的な締め付けに耐えながら、
脚を下ろしてやると、汗ばんだ乳房の先の桃色の実に唇を誘われ、ゆっくりとかがんで
口にふくんだ。

「ふ・・・ぁあ・・・ん。」

まだ少し震えながら、フミエが両手を伸ばして下から茂の髪を梳いた。茂の唇がおりて来て、
わなないて開いている唇に重なる。身も心もとけ果て、甘い口づけに酔っていると、再び
フミエを貫いている幹が律動を始めた。

「んん・・・んーっ―――――!」

フミエは巨木にしがみついている小さな虫のように、ただ茂にしがみついて嵐に耐えた。
身体のすみずみまでを茂の存在に侵蝕され、自分が違う人間になってしまったかのような
被征服感がこころよくフミエの心身をひたした。

(ああ・・・散っとる・・・。)

フミエのまな裏に、絶え間なく散りしきる花びらが映っていた。それはたまたま昼間見た
光景ではあるけれど、フミエは今自分が茂に向かってとめどなく散り続けるのを感じていた。

「くちに・・・出してもええか?」

絶頂にうち震えている女陰を貫いていた剛直がいきなり引き抜かれ、フミエはのたうった。

「は・・・はい・・・?」

なんのことやらわからぬまま返事をすると、さっきお互いに口で愛し合った体勢に戻って、
茂が半開きの口の中にフミエの蜜に濡れた雄根を押し入れた。フミエは無我夢中でそれを
ほおばった。

「歯を、立てんでくれよ・・・。」

フミエは精いっぱい口を拡げ、大切に舌の上に雄根を迎えた。

「ん・・・んんっ―――――!」

口いっぱいに充たされたものをゆっくりと出し入れされながら、達したばかりの花芯を舌で
なぶられ、フミエは声にならない声をあげて再び絶頂を迎えた。遠のいていく意識の中で、
口腔内に断続的に浴びせられる精を感じていた。

「・・・おい、大丈夫か?」

気がつくと、茂が心配そうに上からのぞきこんでいる。フミエの喉が上下して、舌の上に
溜まった凝りをごくり、と飲みくだした。

「こ、こら・・・飲まんでええ!」

フミエの中に出されたものは、いつもそのまま受け入れているのだから、上でも同じこと・・・
そう思っていたフミエは、茂の狼狽ぶりにきょとんとしている。茂はたまらなくなって
自らの白濁をこともなげに飲みくだした唇を奪った。

「う・・・美味くない・・・な。」

フミエが受け入れてくれたものの苦さに顔をしかめ、唇を離した。目が合うと茂は照れ
臭そうに目をそらし、フミエをギュッと抱きしめて耳に囁いた。

「これで、全部・・・俺のもんだな。・・・けど、あんたもだ。」

フミエはぼんやりしている頭で、茂の言っていることを考えた。全部茂のものになったと
いうのは、初めてフミエの口にもしるしを残したことを意味するのだろう。そして、自分
から茂自身を口唇で愛し、注がれたものを受け入れたことで、今まで奪われる一方だった
フミエも茂を自分のものにした、と茂は言いたいのだろう。

(わたしの・・・もの・・・。)

このひとが喜ぶことなら何でもしたい・・・このひとになら、何をされてもいい・・・
フミエは自分の中に、またとめどなく散る花を感じていた。

「口でされるの・・・いやか?」

しっとりと濡れている三角地帯を、指で円を描くようにこすりながら、茂が聞いた。
フミエはその指からのがれようと腰を引き、また息をはずませながら答えた。

「は、羞ずかしいですけん・・・それに、あなたにあげなことさせるの・・・申し訳なくて・・・。」
「あんたのためにやっとるわけじゃないぞ。俺が舐めたいけん、舐めとるだけだ。・・・まあ、
あんたがよがるところが見たいというのもあるけどな。」

割れ目に滑り込ませた指を、これ見よがしに舐めて見せられ、フミエは真っ赤になった。

「あんたは・・・俺に奉仕せんといけんと思って、いやいやあげなことしたのか?」
「ち・・・ちがいます。なんだか急に・・・ああしたくなって・・・。」
「ふうん・・・それで、どげだった?」
「え・・・。ど、どげって言われても・・・。」

我ながらはしたないと思うけれど、本当のところそれは意外にも楽しかった。初めて口で
味わった雄芯は滑らかで舌ざわりがよく、口中を擦られると挿入れられているかのように
淫らな気持ちになって、なんだか大人の女になれたような気がした。自分が茂を感じさせて
いると思うと可愛くていとおしく、少しだけ自分に自信を持つことができた。

「・・・いやだったのか?」
「いやなんかじゃ・・・あの・・・なんだか大人になった感じがして・・・うれしかったんです。
それに・・・しげぇさんのこと、ちょっこし深く知れた気がして。」
「そげだな・・・本当にゆるしあえたもん同志なら、何をしたってええんだ。」

本当に、ゆるしあえた者どうし・・・そう思ってくれていると思うと、うれしくて涙が出そうに
なり、フミエは茂にぎゅっと抱きついた。

(さくらの花は・・・散りたいから散っとるんだ・・・。)

駒に散らされるのでもなく、風に吹かれるからでもない。時が熟して咲いた花は、愛する人に
向かって自らとめどなく散るものなのだ。フミエの心の中の白い花びらは、しずかにしずかに、
隣りに眠る人を埋めつくしていった。






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