雪解雨(ゆきげあめ)
村井茂×村井布美枝


(ふぁ・・・あ・・・あれ?)

ふと目を覚ますと、目の前は肌色一色で、フミエは一瞬わけがわからなかった。顔にかかる
息に気づいて目をあげると、超至近距離に茂の顔があった。

(ぅわ・・・や・・・やだ、私・・・。)

左半身にだけゆかたを羽織り、その下はまったくの全裸で、茂のゆかたの中に抱き込まれる
ようにして眠っていたようだ。

(これ・・・茂さんが着せてごしなったのかな?)

疲れて裸のまま眠ってしまったフミエにゆかたを着せかけ、自分のゆかたの中に抱き込んで
温めてくれていたらしい。二月の厳寒期のこととて、この家に来てから昨夜初めて茂と
共寝するまでの夜々は、手足が冷えてなかなか寝つけなかったというのに・・・。

(人の体温って、あったかいんだな・・・。)

茂のぬくもり、その優しさがうれしくて、思わず目の前にある胸に顔を寄せた。

「ぅ〜・・・ふみ・・・。」

茂が夢うつつのまま、抱きしめてきた。

「きゃ・・・や・・・。」

意識のない大の男にのしかかられ、フミエはもがいた。茂は何事かつぶやくと、また
仰向けになってぐっすりと眠り始めた。

「な・・・なんだ、寝ぼけとられただけか・・・。」

時計を見ると六時半。フミエがいつも起きる時間だ。ゆかたを着なおそうとして、腕を
とおしていなかった右袖を、茂が下敷きにしていることに気づいた。

「し・・・茂さん、ちょっこしどいてごしない。」

茂の眠りは深く、どいてくれそうにない。フミエはしかたなく、ゆかたをあきらめて
床からすべり出た。茂が眠っていることはわかってはいるものの、朝の光の中で全裸でいる
自分が恥ずかしく、フミエは急いでフスマを開けて隣りの部屋へしのび足で出た。
下着を身につけながら、ふと自分の裸身に視線をはしらせる。何が変わったというわけ
でもないのに、なにか艶めいて映るのは、昨夜愛された記憶がそう見せるのだろうか。
身体の中を何かが降りてくる感触に、フミエはハッとして座り込んだ。内腿につたわる
白い滴りは、ゆうべ茂が残したしるし・・・。突然、ほんの数時間前の感覚がよみがえり、
ぞくりと肌をあわ立たせた。

(赤ちゃんが・・・出来るかもしれん。)

愛され、注がれて、その結果ふたりの間に授かる子供・・・いつか、そんな日が自分にも
来るかもしれないと思うと、フミエは幸せな気持ちでいっぱいになった。
ゆうべ、茂はフミエの身体が気持ちいいと言ってくれた。唇が甘い、とも・・・。
かざり気のないその言葉は、痛みと緊張にこわばっていたフミエの心と身体を、あたたかく
ほぐしてくれた。茂がフミエの中で果てた時、自分はただじっと耐えていただけにせよ、
自分の“女”が、茂の“男”をもてなし、悦ばせたのだと思うと、なんとなく誇らしかった。

(私も、ちゃんと・・・女だったんだな。)

子供のころから持っている、小さな姫鏡台のくもった鏡には、いつもどおりのフミエの
顔が映っている。心なしか赤く見えるほおに触れると、熱を持っているように熱かった。

「あの・・・朝ごはん、出来ましたよ・・・。」

声をかけ、そっとゆすってみるが、起きそうにない。イカルばりに叩き起こすことなど、
フミエにはとうてい出来なかった。
愛し合った翌朝だからといって、一緒に起きるわけではないらしい。フミエはしかたなく
今までどおり一人で朝食をすまし、音を立てないようにそうじをしたり、庭のそうじや
洗濯などをしているうちに、茂がようやく起きてきた。

「・・・おはようございます。」
「あ・・・おはよう・・・ございます。」

起きたばかりだからなのか、昨夜のことできまりが悪いのか・・・茂は大きな犬のように
のそのそと食卓につき、フミエの差し出す朝食兼昼食を食べ始めた。

「あの・・・おかわりは?」
「あ・・・ああ、たのみます。」

茂はフミエの目を見ないで茶碗だけを差し出した。さし向かいで食べる昼食は、なんとなく
ぎこちなく、食べている物の味がしない。

(ゆうべは、普通にしゃっべってごしなったのになあ・・・。)

茂は決して気取った男ではないのだけれど、言葉づかいは意外なほど丁寧だった。それは、
彼が戦前としてはかなり知的な家庭で愛されて育ったことをうかがわせ、決して不快では
ないのだけれど・・・。

(もうちょっこし、くだけてくれてもええのにな。夫婦なんだけん。)

昨夜ああいうことがあったのに、今朝はもうですます調に戻ってしまった茂が、なんとなく
他人行儀に思えて、寂しく感じた。

「あの・・・買い物に行ってきます。」
「あ・・・はい。いってらっしゃい。」

お互いに意識しすぎて、空気が重い家を出て、フミエは自転車で買い物にでかけた。

(茂さん・・・照れとられるのかなあ。)

昨日までは寒風に吹きさらされながらてくてく歩いたこの畑の中の道も、今日は自転車で
すいすいと進む。

(自転車を買ってごしなさったのは、仲直りのつもりだったのかしら・・・。)

茂を怒らせてしまい、おそるおそる帰ってきたフミエを待っていた、思いがけない贈り物。
初めてのデート。目玉で決めたと言う、フミエなどには理解しかねる理由ながら、茂が
ちゃんと自分を気に入って結婚してくれたのだとわかった嬉しさ・・・そして・・・。

「あぶない!」

男の胴間声にハッと我にかえると、目の前に大きな牛がせまっていた。急ブレーキをかけ、
かろうじて衝突を避けたが、自分はバランスを崩して自転車からころげ落ちた。

「おい!ねえちゃん!ちゃんと前見て運転してくれよ!」
「す、すんません・・・。」

スカートの土をはらい、腰をさすりさすり、フミエはまた自転車に乗りなおした。

(私ったらボーッとしとって・・・恥ずかしい。)

何度頭を振り払っても、昨日からの出来事があとからあとからよみがえって来て、
フミエの心を惑わせる。

(いけんいけん・・・。外でこげなことばっかり考えとったら危ないが。)

「あら〜、自転車?・・・いいわねえ。どうしたの?」
「だんな様に買ってもらったとか?きゃー。」
「あたしなんか、結婚してから帯いっぽん買ってもらったことないわよ。
『釣った魚にエサはやらない。』なんてさあ。」

商店街に入るやいなや、目ざといこみち書房の常連主婦三人組にみつかった。

「あなたんとこ、お見合い結婚?・・・じゃあ、まだおたがい新鮮な頃ねえ。ウチなんか
恋愛結婚だから、結婚する頃にゃもう新鮮さのカケラもなくてねえ。」

聞かれもしないのに、銭湯のおかみの靖代が自分たち夫婦のなれそめを語りだす。

「あらぁ、恋愛だなんて。昔は『野合(やごう)』って言ったもんよぉ。」

床屋の徳子がまぜっかえしても、靖代はいやな顔もせずきわどい話を続ける。

「そうそう。親が世間様に面目ねぇってんで、わざわざ仲人立ててお見合いし直してねぇ。
そうまでして一緒になったのに、ウチの旦ツクと来たら『てめえにはもう飽きた。』
とかぬかしてさあ。『番台から見てて、あんたが一番キレイだった。』とか何とか
言って口説いたくせに、ひどいよねえ。」
「やあねえ、靖代さん。飽きたのなんの言って、もう30年も連れ添ってるくせに。」
「ひと回りしたら、また珍しくなったかねえ。」

往来でこんな話に盛り上がってアハハと笑う靖代たちに圧倒され、フミエはなんとか
かんとかごまかして彼女らと別れ、買い物を済ませた。

『あんたにはもう飽きた。』・・・そんなことを茂に言われる日が自分にも来るのだろうか?
あんなことを言いながらも、靖代はけっこう幸せそうに見えた。何十年も連れ添った夫婦
というものは、口では悪く言いながらも、離れがたいものがあるのかもしれない。

(男の人って、初めての夜には、みんなあげに優しいのかなあ?)

フミエの一番身近な結婚している男性といえば、父の源兵衛だった。父と母の若き日のこと
など、今まで考えてみたこともなかった。ましてや、ふたりの初めての時のことなど・・・。

(や、やだ。想像もつかん・・・。)

とりわけ母に申し訳ない気がして、フミエはそこで思考を止めた。専制君主のような父と、
それに臣従しているかのような母・・・他人から見れば、母は不幸に見えるかもしれない。
けれど、子供の頃、病に倒れた母の枕元で歌を歌っていた父と、それに声を合わせていた
母は、決して不幸な夫婦ではなかった。

(私たちも、いつかあげな風になれるだろうか・・・。)

そんなことをぼんやり考えながらまた自転車に乗って帰ってきたフミエは、ふと下腹部に
にぶい痛みを感じてご不浄に行った。

「あ・・・来てしもうた。」

毎月訪れる女のしるし・・・。これでしばらくの間、茂に抱かれることはないのだと思うと、
拍子ぬけするような、それでいてなんとなくホッとするようなどっちつかずの気持ちに
なった。
昨夜フミエの身に起こったことは、二十九年間生きてきた中で、最高にドキドキする
出来事だった。自分などには身に余る幸せのような気がして、もう一度同じことをされたら
のどから心臓が飛び出しそうな気がする。小心すぎる自分を情けなく思いながら、
フミエはおなじみのなんとなく憂鬱な気分に身を浸した。

夜。夕食時までにはぎこちなさも少しは解消し、茂は冗談を言ってフミエを笑わせたり
したけれど、相変わらずですます調は変わらなかった。
布団を敷いてから、フミエは茂の入った後の風呂場の脱衣所で、風呂には入らず寝巻きに
着替えて、洗面と歯みがきをした。
部屋に戻り、姫鏡台に向かって髪を梳いていると、背後に影が差して鏡面が暗くなった。
ふり返ると、茂の広い胸に抱きこまれ、唇を奪われた。

「ん・・・んんっ・・・。」

フミエの手からヘアブラシが落ち、必死で背中にすがった。舌と舌をからめる口づけは、
昨日はじめて口づけを知ったフミエを、魔酒のように酔わせ、四肢をしびれさせた。
やさしく横たえられ、唇が自由になって、やっと言わなくてはならないことを言えた。

「あ・・・あのっ。」
「・・・ん?どげしました?」
「きょ・・・今日は、ダメなんです。あの・・・障りが、来てしもうて・・・。」
「さわ、り・・・?あ、ああ、月のもの、か。」
「はい・・・あの、すんません・・・。」
「い、いや、自然の理(ことわり)だけん、しかたないです。うん。」

茂は明らかにガッカリしたようだった。フミエは申し訳なさでいっぱいになる。

「は、はは・・・そげですか。間が、悪いなあ。ほんなら、今日はゆっくり休んでください。
腹は、痛くないですか?冷えんようにしてごしない。」

茂は照れ臭そうに、フミエに掛け布団をかけ、幼い子供にするようにポンポン、と叩いた。
ドキドキしなくて済む、とさっきはホッとしたくせに、フミエは寂しくてたまらなくなった。
茂がかけてくれた掛け布団の下から手を伸ばすと、茂の手をそっと握った。

「あの・・・手を・・・握っとってはいけませんか?」
「え・・・?あ、ああ・・・ええですよ。」

茂は右手をフミエに握られたまま、掛け布団の下にもぐりこんで、並んで横になった。
フミエはもう少し茂に寄り添い、ホッとしたように目を閉じた。

(困ったな・・・。)

茂に寄り添って眠るフミエの髪からは、昨夜より少し強い香りがただよってくる。
この髪に顔をうずめ、甘い唇と肌を味わい、温かいフミエの内部に侵入した昨夜の記憶が
よみがえり、情欲が頭をもたげてくる。
ゆうべ初めて結ばれ、身も心もゆるしあえた気がしたものの、明るくなってみると
妙に気恥ずかしく、気まずい一日だった。お互い初めてのようなものなのだから、
回を重ねればだんだん馴染んでいけるはず・・・そう思って勇気をふりしぼって抱きしめて
みたというのに、なんだかあてがはずれてしまった。

(離したら、目を覚ましてしまうかな?)

自然の理とは言え、茂の求めを拒んだことになってしまい、フミエは申し訳なさそうだった。
すまない思いがそうさせるのか、指と指をからませ、しっかりと茂の手を握って眠っている。
その姿は童女のようにいとけなく、やみくもにいとおしさがつのる。

(だが、これでは蛇の生殺しだが・・・。)

すっかりその気でフミエを抱きしめ、口づけした時から、欲望はきざしていた。こうして
間近にフミエの存在を感じていると、熱情はつのり、脈打って、痛いほどになってくる。
やけになって、眠っているフミエの唇を奪った。

「んふ・・・ぅ・・・。」

夢うつつのままむさぼられ、フミエは握っていた手を離して茂の背に両手をまわしてきた。

(やった!離してもらえた・・・。)

唇を離すと、フミエはまた無邪気な顔で眠り続けた。離してはもらえたが、なまじフミエの
柔らかい唇に触れてしまったため、ますますおさまりがつかなくなった。

(早こと終わらんかなあ・・・。)

茂はため息をついて天井を見上げ、月の障りとやらを呪った。

(そろそろ、終わったかな・・・?)

あれから一週間が経った。女きょうだいもいない茂のこと、月のものというのがどの位の
期間続くのか、さっぱり知識はないものの、そんなに長くてはこうまで人類が繁栄する
こともなかろうと思いながら、また仕事に没頭しつつ辛抱してきたのだ。
風呂からあがってきたフミエは、髪がしっとりと湿り、石けんの良い香りをただよわせて
いる。風呂に入れるのなら、間違いはないだろう。先に風呂からあがり、台所で水を
飲んでいた茂は、何か言おうとして盛大にむせた。

「あ・・・ぅっ・・・げほっ・・・げほげほっ・・・。」
「だ・・・大丈夫ですか?」

フミエがあわてて背中をさすった。むせがおさまると、茂は何を思ったか、湯飲みの水を
口にふくんで、フミエの唇を自分の唇でふさいだ。

「ん・・・ぐ・・・。」

流し込まれた水を、フミエはためらいもせずコクン、と飲んだ。目がいたずらっぽく
笑っている。茂はたまらずにもう一度激しく唇をむさぼると、フミエを抱きしめたまま
単刀直入に聞いた。

「・・・終わったか?その・・・さわり、と言うやつは。」
「・・・は、はい。」

直截的に過ぎる質問を、熱い息とともに耳に吹き込まれ、フミエは真っ赤になった。
茂が律儀に電灯を消す。これから抱く、と言っているようなものだ。フミエはまたしても、
心臓がのどまで上がってきて息苦しくなるような気がした。
固まっているフミエを布団の上に座らせて、ぎゅっと抱きしめる。

「はぁー、待ちくたびれたぞ。」
「え・・・あ、おととい、終わっとったんですけど・・・。」
「なして早こと言わん?・・・まあええ。これからはちゃんと言えよ。」
「そげな・・・。」

やっぱり、変なひとだ。そんなこと申告したら、催促しているみたいなのに・・・。
おかしくなって茂の胸に顔をうずめると、腰に手をまわして、ゆっくり、押し倒された。
上からじっと顔を見られる。冗談だか本当だかわからないことばかり言ってはフミエを
脱力させてばかりの茂だけれど、真剣な顔をするとなかなかの男前だ。その顔が近づいて
唇が重なる・・・深い口づけに、フミエはうっとりと目を閉じた。
唇を溶かしあったまま帯を解かれ、ゆかたのえりを肌蹴てふくらみを撫でまわされると、
初めての夜、茂を受け入れた場所が早くも感応して、うるみ出すのがわかる。
うるおいの中に指を沈め、蠢かされる・・・羞ずかしさと、これまで経験したことのない
痺れるような感覚に、思わず声が漏れる。布一枚とおして、太腿に押しつけられたものが、
フミエを貫くのに充分な状態になっていることが、今日のフミエにはよくわかった。
恐れてはいけない・・・あの夜、茂がそうさせてくれたように、フミエはいとしい人の
分身を、そっと手に乗せてもう片方の手でつつんだ。

「わっ!な、何をする?」

フミエのあたたかい手に昂ぶりきった自身を握りこまれ、茂は驚きの声をあげた。

「え・・・?こげするんじゃないんですか?」

先夜、初めてのフミエを安心させようと、どんなものが自分の中に入るのか、手にとって
確かめさせた。フミエはそれを、男女が交わる時に必ずすることだと勘違いしたようだ。

「今日はせんでええ!そ、そげなこと、したら・・・。」

フミエの手の中で、反り返る男性がひくっと動いた。次の瞬間、両胸の間に何か生温かい
濡れたものを感じ、フミエはそれを手にとって見た。
それは白く濁った粘液で、初めて抱かれた翌朝に、フミエの胎内を下りてきたものと
同じにおいがした。

「そ、そげなものを、まじまじと見てはいけん!早こと拭け!」

茂はあわててちり紙をとり、まるで大事なもののように胸に散る凝り(こごり)を
抱きしめているフミエの両手を引きはいで、自分がぶちまけたものをぬぐった。

「あの・・・すんません。私、いらんことして・・・。」

フミエの巧まざる行為に、ほとばしらせてしまった後、心なしか消沈している茂に、
フミエは申し訳なさそうに謝った。

「いや・・・ええよ。俺ががまんできんだったのだけん。この一週間というもの
おあずけをくらっとったから、我慢がきかんだったな。・・・もっとも、その前はもっと
ずぅっと長く、溜め込んどったんだけどな。」

茂は自嘲的に笑うと、照れ隠しにフミエの頭をぽんぽんと叩いた。

「あんたは、本ッ当に、何にも知らんのだなあ・・・。」

感心したようにそう言って、しょげているフミエを抱きしめてやさしく口づけた。

「・・・今日は、もう寝ましょう。気長にやればええです。」

フミエにはよくわからなかったけれど、こうなってはもうこの後はないらしい。
身体を寄せ合って、ふたりは眠りについた。早くも寝息をたて始めた茂の横顔を、フミエは
うす闇の中でそっとうかがった。

(男の人って、大変なんだな・・・。)

女が初めて男に身をまかせるのは、とても怖くてて羞ずかしいことだけれど、反面、受身
であるということは、自分は何もしなくてもいいということでもある。

(なんかいろいろ我慢しながら、あげに優しくしてごしなさったんだわ・・・。)

あの時、茂は自分の初体験の話をしたり、面白い話をしようかなどと言った。非常識なように
思えても、彼なりに一生懸命フミエの恐怖感を取り除こうとしてくれていることは、
痛みや羞ずかしさと闘うのに必死だったフミエにもちゃんとわかった。
茂とそういう雰囲気になるたびに、どうしていいかわからなくてドギマギしてしまう
フミエだけれど、茂だってそんなに余裕しゃくしゃくではないらしい。

(ええ人だな・・・。)

すこし、気楽になるとともに、あまり器用とは言えない茂が、フミエにはとても
好ましく思えた。

『好きだよ・・・フミエ・・・。』
『ぁ・・・ぁっ・・・私・・・も・・・。』

やさしい愛撫にうるおされ、いつの間にか開かれた身体の中心に、フミエは痛みもなく
茂を受け入れていた。身体の奥から、とめどなくあふれる泉のようにあの不思議な感覚が
湧き上がって、茂に向かってこぼれていく・・・。思わず両腕を伸ばした瞬間、ハッと目が
覚めた。突然大きく目を見開いたフミエを、茂が驚いた顔で見下ろしていた。

「ふぁ・・・え?・・・や・・・いゃっ・・・!」

フミエは、とっさに状況がつかめなくて、茂の胸に両手をついて押し戻した。

「どげした?・・・急にびっくりした顔して。」

今見ていた夢のまま、フミエは茂に愛されていた。けれど、ただなんとなく結ばれている
感じがしただけの夢とは違って、大きく開かれた両腿のあいだに茂の腰を迎え入れるという
羞ずかしい格好で、今まさに貫かれようとしているところだった。

「わ・・・私、なして・・・?」

羞ずかしくて、羞ずかしくて、フミエはなんとかして両腿を狭めようと身体をひねり、
さらけ出された胸や秘部を手で覆い隠した。

「い・・・いけんだったか?気持ちよさそうにしとったけん、てっきり起きとるのかと
思うたが。」

今の今まで、身体の下でやわらかく愛撫を受け入れていたフミエの突然の拒絶に、
茂は面食らい、途方にくれた。

明け方ふと目覚めた茂は、昨夜不首尾に終わったことをやり直せる兆候を感じた。
隣りに眠るフミエの布団をめくると、フミエの放つ芳香と温気が、ふわっと立ちのぼる。
そっと抱きしめて、唇を合わせると、目を閉じたまま柔らかく応えてきた。胸元を
くつろげると、白いまるみの突端は薄桃色に色づいて、冷たい空気の中で茂の指を
誘うようにとがり始めていた。指の腹でころがすと、フミエが鼻を鳴らすような音を
させて身じろいだ。
帯の結び目をほどいて裾を割ると、ゆうべ中途半端に終わった後のまま、下着をつけて
いない。初めての夜、茂はそこを征服したけれど、目で確かめてはいなかった。しらじら
明けの光のなかで初めて見るフミエのそこは、薄くもやがかかる丘の陰にほの見える、
朝つゆをふくんだ紅い果実のようにつつましく輝いて、茂を待っていた。
白くてすべすべした膝頭を大きな手でつかむと、そっと上に向かって折り曲げる。
右脚も同じように折り曲げると、先ほどほの見えた果実の全容があらわれた。
漲りきって下腹につきそうな屹立を手に持ち、あやまたず先端をふくませた・・・フミエが
ハッと目覚め、はげしく動揺して、両手で茂を押し戻したのはその時だった。

「ここでやめろと言うのは・・・殺生だぞ・・・。」
「ご・・・ごめんなさい。私・・・。」
「いやならいやと、ちゃんと言うてくれ。・・・最初の時、俺が下手クソであんたを
痛い目にあわせたけん、懲りてしもうたんでねか?」
「そげなこと・・・ありません!・・・私、あげに幸せなこと、生まれて初めてで・・・。」

フミエはパニックがおさまってくると、茂に対してひどい事をしてしまったという後悔に
襲われ、必死で誤解を解こうとした。

「・・・本当に、いやじゃないんだな?」
「いやなんか・・・じゃ・・・来て・・・ほしい、です。」

自分の口から出たのが、おぼこ娘に似合わぬ強烈な誘いの言葉であるという自覚もなく、
フミエは自然にそう言っていた。その言葉にかきたてられ、茂はもう我慢ならなくなって
いる雄芯を、やわらかくうるんだフミエの中に押し入れた。

「・・・っ!」

フミエは身体を硬直させ、歯を食いしばった。

「まだ、そげに痛いか?・・・ちっと深呼吸してみい。」

面白い話の次は、深呼吸?・・・フミエはなんだかおかしく思いながら、言われたとおり
大きく息を吸ってから、ゆっくりと吐き出した。

「あれ?痛く・・・ない。」

覚悟していた裂痛は感じられず、ただいっぱいに占有されている違和感があるだけだった。

「あんたが、俺のかたちを覚えたんだな。」

一度きりで、もう茂に馴らされてしまったとは・・・うれしいような、羞ずかしいような
思いで、フミエは茂の量感を全身で受けとめていた。

「どっちかがつらいばっかりな事なら、長続きするわけがないけんな。あんたが
これを嫌いになったんでなくて、良かった。」

茂はホッとしたように、ゆっくりとおおいかぶさって来た。

「ふぅ・・・それにしても、なしてあんたの中は、こげに熱うて、やわらかいかな・・・。
あ・・・。今、きゅっと締まったぞ。」

フミエはそんなことをした覚えがなかった。自分より先に、身体の方が勝手にどんどん
先に茂と仲良くなってしまう気がして、なんだか面白くない。

「なんだ・・・なしてふくれとる?」

フミエがとがらした唇を、茂は齧るように自分の口で包み込み、舌でなぶった。口づけを
深めながら円を描くようにゆっくりと腰をまわすと、フミエの女性をいっぱいに充たした
ものが、その運動のままに固い芯でフミエの中をかきまわした。

「・・・ぁ・・・ゃっ・・・はぁ・・・。」

フミエのあえかな乱れを、茂は微笑んでみつめた。もう少し責めても大丈夫そうだ・・・
臀に手を回して引き寄せ、より深く根元まで埋め込んだまま、小さく揺すぶった。
さっきの夢で感じていたのと同じ甘い痺れが、そこを中心に身体中にじわじわと広がった。

「いや・・・ぁ・・・私、どげしたら・・・。」

初めて芽生えた快感に戸惑い、フミエは茂の胸に顔をうずめて耐えた。

(やっぱり・・・可愛い、な・・・。)

もっと激しく愛し、感じさせてやりたい衝動を抑え、腕の中でやわらかく溶けていく
新妻をぎゅっと抱きしめて、その中に熱く解き放った。

(もうちょっこし、こうしとりたいな・・・。)

フミエの中で果てた後も、茂はその甘く狭い密室の中にしばらくひたっていたかった。

「朝、するというのも、オツなもんだな。」

熱が去り、息がととのっても、茂はその体重をフミエに乗せたままでいる。

(もう・・・こげに明るいのに。早くちゃんと寝巻きを着んと、羞ずかしい・・・。)

フミエには何がオツなのかわからない。早暁とは言いながら、窓からの白い光は、
愛しあっているうちにずいぶんと明るくなっていた。茂が離れてくれないので、
まだつながったまま、お互いの顔を間近に見ていることが、羞ずかしくてたまらなかった。

「お・・・暖かいと思ったら、雨が降っとる。雨の音を聞きながら、温かい寝床で、
こげなええことをしとるなんて、幸せだと思わんか?」

そう言われてみれば、雨の音が聞こえる。凍てつく氷雨や、しのつく驟雨とちがって
やさしい春の雨だった。静かな雨の音には、不思議とひとの心を落ち着かせる作用が
あるらしい。

(ずっと前から、茂さんとこげしておったみたい・・・。)

雨の音を聞きながら、温かいふしどの中でひとつに溶けあっていると、たしかに
これ以上の幸福はないと思えた。

茂がニヤリと笑って、フミエが忘れてほしいと思っていたことを聞いた。

「なあ・・・さっきは、どげな夢見とったんだ?」
「え・・・そげなこと・・・言えません。」
「なしてあげにあわてたんだ?・・・こら、教えれ!」

茂がフミエの肩を抱いて揺すぶった。つながったっままの部分が揺れて、フミエが
身悶えるのを知りながら、茂は意地悪く揺すぶりつづけた。

「こ・・・こげな夢です!」

フミエが、苦しまぎれに下から茂の首を抱き寄せて唇を奪った。一瞬面食らった茂が、
甘く応え、やがてふたりは、今度はひとつの夢の中へもどっていった。

「サー・・・、サー・・・、サー・・・、サー・・・・・・。」

静かな春の雨が、ふたりの小さな家をやさしくつつみ込むように、いつまでもいつまでも
降り続いていた。






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