一つ、君に課題を与えてあげよう
湯川学×内海薫


寒気がして、毛布を引き寄せたつもりの手の感触が、ノリのきいた白衣であることに気が付いて、完全に目が覚めた。
並んで横たわる素裸の自分と湯川の引き締まった肢体が目に入るなり、唐突に昨夜の出来事が思い出されて頭に血が上る。

ヤバイ。

なりゆきとはいえこんなことになってしまい、今後どんな顔をして先生と顔を合わせればいいというのか。
先生が目覚める前にさっさと退散だ。
恥ずかしすぎて、この研究室にはもう二度とこれない。
そおっとソファから降りて、脱ぎ散らかした衣服をかきあつめて手早く身支度を整える。
出来るだけ湯川を視界に入れないように回り込んで、研究室の出入口に向かう。

「挨拶もなしに帰るのか、君は。」

真後ろに、湯川の気配を感じて薫の体が硬直する。

「あ、え・・・っとぉ、その・・・よくお休みになっていたので」
「・・・そういえば君は、目を閉じているか、眠っているのかの違いは判らないんだったな」

ためいき交じりの声が確実に近づいてくる。
出入口のドアと、湯川の均整の取れた裸体に挟まれ、薫はかばんを抱きしめ身を縮めた。

湯川の腕が内海の前に回り込む。

「一つ、君に課題を与えてあげよう」

鮮やかな手つきでワイドパンツのボタンとジッパーが開かれ、ストンと足元に落ちた。

「せんせ、何を」

薫はますます身を硬くして目をぎゅっとつぶる。

「今更、なんだ。」

耳元で、湯川がくつくつと笑っている。心底楽しそうだ。

「昨夜あれだけ乱れたくせに」

ささやき声とは別の生き物のように、湯川の指が下着の内側を蹂躙しはじめた。

そのしなやかは指は一切のムダを排除して、薫の快感を掘り起こす場所にのみ刺激をあたえる。
立ち上る水音と快感に、薫は唇をかみ声を押し殺すのに必死だ。

「快楽は抑制するほど増す、ということを昨夜学ばなかったか?」

あっという間に臨界点近くまで快楽を増幅され、薫が自ら腰を動かすさまを、湯川は目を細めて堪能した。

もう、だめ。

「・・・せんせ、や・・めて」

絶頂が訪れるその刹那の直前に、湯川の指が薫から離れた。

崩れ落ちそうな薫をささえて、湯川は冷静に薫の身支度を整えていく。

「・・・なん・・で」
「君のご要望にしたがったまでだが」

ワイドパンツを穿かせ、シャツを調え、乱れた髪をまとめる。
一連の動作にまったくよどみがなく、程なくして刑事内海薫が出来上がった。
ただし、その顔は上気し目は潤み、唇は噛み締めたおかげで真っ赤に充血し半開きで欲情のしるしをしっかりとたたえたまま。
「実に・・・エロティックだな」

「・・・ひどい。なんで、こんな酷いことするんですか・・・」

「その答えがでたら、また来るといい。」

そっと、研究室のドアは開かれて薫は部屋の外へ押し出された。

「ただしこの課題に対する僕の採点は厳しい。」

薫が力なく廊下にへたりこむ前で、ドアに錠が下ろされる音が廊下に響きわたる。

「非論理的単純思考の君がどんな答えを持ってくるか、実に、興味深い」

「湯川先生、酷いです!」

腹いせに、研究室のドアをけってやった。
ははははは、と乾いた笑いがドアの内側を遠ざかる。






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