恥らうわりには警戒心というものが薄い
湯川学×内海薫


とある暑い夏の日。

事件の現場を見に行った帰り、二人は突然の夕立に見舞われた。
最近よくニュースで取り沙汰されているゲリラ豪雨というものだろうか、顔に雫がかかったと思ったらあっという間に全身ずぶぬれになってしまった。

「もーひどい雨ですねー」

とりあえず近くのビルに雨宿りに入ったが、雨はまだ止みそうになかった。
薫はポケットからハンカチを取り出して、軽く顔を拭きながら空を見上げてぼやく。
だが、あまり効果はないらしく長い髪は端正な顔や細い首に張り付いていた。スーツの下のブラウスも雨で濡れ、肌に張り付いている。
彼女の身体を見下ろしていた湯川は、薫と視線が合いそうになって思わず視線を空に移した。

「…僕のマンションがここから近いから、そこに避難しよう。いくら夏場とはいえ、濡れたままでいたら風邪を引いてしまうからな」
「え、湯川先生のマンションですか?なんだか大学で暮らしているようなイメージでしたけど、ちゃんとお住まいお持ちなんですね」
「…ずっと研究室で研究が出来れば幸せだが、大学に居住することは許されていないのでね」
「……冗談だったのに…」

小さな声で薫が呟くと、湯川は彼女の言葉を無視するかのように歩き始める。慌てて薫はそのあとを追った。

湯川が言った通り彼が案内したマンションは雨宿りしたビルから近かったが、傘も差さずに来たため二人は先ほどよりも更にずぶぬれになっていた。

「スーツが絞れそう……」

玄関先で雨を滴らせながら薫が呟いていると、先に室内に入っていた湯川がバスタオルを持ってやってきた。

「いつまでそこでそうしているつもりだ。風邪を引くぞ?風呂が沸いているから、先に入りたまえ」
「だって、濡れたまま上がったらその辺水浸しにしちゃいそうだったから…」

自分なりに気を遣ったのだと口を尖らせて言うと、湯川は小さく笑みを浮かべて薫に尋ね返した。

「では、君はそこで服を脱ぐつもりか?君に風邪を引かれるほうが面倒だ」

乱暴な言葉に一瞬むっとするが、彼のいつもの言動に慣れつつある薫は怒りを納めて『お邪魔します』と一言添えて湯川のマンションに上がった。

しばらくした後、薫は風呂から上がり脱いだ服を入れておいた脱衣かごを見て呆然とした。
湯川が用意したらしい彼のパジャマの上とバスタオルしか残されていないのだ。スーツはおろか、下着さえもない。
とりあえず身体を拭い少し躊躇したあとにサイズの合わないパジャマに袖を通してから、脱衣所から顔だけ出してリビングにいるらしい湯川に声をかけた。

「先生、湯川先生!私の服がないんですけど…」
「ああ、君の服は今乾燥機で乾かしているところだ。折角風呂に入って冷えた身体を温めたのに、そこにまた濡れた服を着ては意味がないだろう?」

彼女の言葉に湯川は平然と答えるが、薫は顔を赤くして抗議した。

「で、でも、全部乾燥機に入れることないじゃないですか!私にずっと脱衣所にいろと仰るんですか?!」

湯川のパジャマは用意されてはいたが、下着を身につけない状態で───仮につけていたとしても上だけで───彼の前に出て行くのは恥ずかしくて出来ない。
スーツを乾かしてくれるのはありがたかったが、どうしてあの男はこうデリカシーというものがないのだ。

溜息をつきながら脱衣所で座り込んでいると、前触れもなく湯川が脱衣所にやってきた。

「きゃあああ?!」

大き目のパジャマのおかげで隠すべきところは隠れているが、予期していない出来事に思わず悲鳴を上げる。

「湯川先生の変態!覗き魔!」
「君は風呂を貸してくれ更に濡れた服を乾かしてくれている恩人に向かって、犯罪者呼ばわりする気か。それに、君がそこにいつまでもいたのでは僕が風呂に入れない」

湯川は既に着替えてはいたが、確かに雨に濡れたのならさっぱりしたいだろう。薫は相手の言葉に納得して、足元が肌蹴ないようパジャマを抑えながら立ち上がった。

「でも…せめて、下も貸してくださいよ。こ、こんなかっこう…」

恥ずかしい、という言葉を続ける前に彼は冷静に返した。

「僕と君の足の長さには随分差がある。それに、いくら僕がトレーニングを欠かしていないとは言っても、女性のウエストほど細いわけではない。ゴムであっても君の腰では引っかかりはしないだろう。
容易に想像できるじゃないか、ズボンが落ちないように押さえて歩いていたらズボンの裾を踏みつけて転んでしまう様が」

そう冷静に言われてしまっては、確かにその通りかもしれない。湯川は風呂に入るのだし彼の前でずっとこの格好というわけではないのだからと、薫はしぶしぶ頷いた。

「…わかりました。じゃあ、服が乾いたらすぐ教えてくださいね。着替えますから」
「…わかった。そうしよう」

湯川がかすかに笑ったような気がしたが、彼が薫に構わず服を脱ごうとしたので慌てて脱衣所から逃げ出した。
初めて訪れた湯川の家のリビングで薫は所在なさげにソファに腰を下ろす。
辺りを見回すと綺麗に整頓されていて、彼の性格を現しているようだった。

「…早く服、乾かないかなあ……」

小さく呟きながら柔らかいソファに横になり、心地よい室温に瞼を閉じた。おそらく湯川が冷えすぎないようにとクーラーの温度を控えめにしているのだろう。
自分の服を勝手に全部乾燥機に入れてしまったりするが、彼なりに薫のことを気遣ってのことなのだろう。ずれてはいるが、嬉しくて心が温かくなった。

湯川が風呂から上がりリビングに出てくると、薫はソファで幸せそうな笑みを浮かべながら転寝をしていた。

「…まったく、恥らうわりには警戒心というものが薄い。僕の前でだけにしてもらいものだ」

彼女が寝ているからか、普段はけして口にしないようなことを漏らしながらゆっくりと近づく。そっと身体を屈めて相手に顔を近づけ、囁いた。

「内海君。君は僕を誘っているのか?そんな無防備なかっこうで転寝をしていては、何をされても文句は言えないぞ」

警告するように言うが、彼女が目を覚ます気配はない。
それを確認してから湯川は、薫の白い足に手を這わせた。温度の違う他人の手が触れたことによって、薫の身体がびくりと震える。意識がゆっくりと浮上し始め、他人の気配を間近に感じて一気に覚醒した。

「…っ、え、や、きゃああ?!」

暴れながら起き上がろうとするが、湯川に容易に押さえつけられてしまう。

「…ゆ、湯川先生…。あ、あの、服が乾いたんですか?」

状況を認識するのを拒否したのか誤魔化すように笑いながら薫が尋ねたが、頭を振ってそれをあっさりと否定しゆっくりと彼女を追い詰める。

「…僕は警告をした。その時点で君が拒否しなかったから、僕は受け入れてくれたのだと思ったが?」
「し、知りませんっ警告なんて!や、ちょっとどこ触ってるんですか?!」
「ならば、君が注意力散漫だったということだ。刑事として致命的だな。ついでに言うと、警戒心も薄い。だから、こういう目に遭う」

すべての原因が薫にありそれがこの結果を招いているのだときっぱりと言い切ると、足の付け根へと更に手を這わせた。

「わ、わかりました、先生のおっしゃりたいことはわかりました!これから気をつけますから…っ、それ以上はダメ…っ」
「残念だが、今更やめることは出来ない。おとなしくすれば、優しくしよう」
「ちょっと、悪役っぽいセリフですよ!それ!」

必死に身を捩りながら相手の手の侵入を阻もうとするが、所詮はパジャマの上だけ。しかも下着も身につけていないとなれば、暴れれば暴れるほど足元が肌蹴て下腹部が露になりそうになる。
手で裾を押さえられればまだマシだろうが、いつの間にか両手首は纏められて湯川が片手で押さえていた。
思考の隅で『湯川先生って、手が大きいんだなあ』と暢気に考えていたが、彼の手が足の付け根を掠めると背中をしならせて少し高い声が出てしまった。

「や、あ…っ、ん、も、やだあ…」
「内海君、男にはその声は『止めないで』としか聞こえないのだが。更に『もっと続けて』とも聞こえる」

どれだけ都合のいい解釈だと思いつつも、漏れる甘い声を抑えることが出来ない。口元を手で押さえたくとも、両手は押さえられたままだ。それでも何とか不埒な手から逃れようとするが、どうしても逃れることが出来ない。

「だ、だって、いきなりそんなところ……」

熱くなり始めていることを気取られないように震える声を抑えながら言うと、ふと相手の手が止まり『なるほど』と納得したように頷いた。
両手首を押さえていた手も離れ、湯川は女王に仕える騎士のごとく薫の足元に跪く。そして、恭しくその白い足を手にして指先に口付けた。

「え、や…っ」

ねっとりと熱い舌が、指先に絡むと身体の芯が痺れるようなおかしな感覚に陥る。
跪く相手から秘所が見えないようにパジャマを押さえながら相手の様子を見ると、丁寧に一本一本の指に舌を這わせて舐めあげていく。

「…っ、せんせ…、そんなところ汚い…」
「先ほど風呂に入ったばかりだろう。汚れてなんかいないが?」

わざと舌を這わせているところを見せ付ける男は意地悪く笑い、その笑みにさえ薫は不本意ながらも身体を震わせてしまった。
「ぅ、ん…っ、でも、そんなとこ…」
「君が『いきなりヴァギナには触れるな』と言ったからな。こうして足の先から愛撫してやろうと思ったのだが不満か?」
「ヴァ…、な、何言ってるんですか!!」

あからさまな言葉に思わず声を大きくすると、湯川が身体を起こして薫の耳元に顔を近づけて尋ねる。

「では、どのような表現がいい?僕の仮説では、君は羞恥心を煽られると興奮すると思ったからなのだが」
「い、いつもは仮説の時点では何も説明しないくせに…っ」
「この仮説を実証するのには君の協力が必要だからね」

湯川はくつくつと喉を震わせながら笑うと、再び足の指先に口付けて今度はゆっくりと舌を這わせて足の甲、足首、すねと移動していく。
薫は既に抵抗する力が残っておらず、己の足に舌を這わせる湯川の端正な顔を見つめていた。

湯川がゆっくりと舌を這わせていくと、白く細い足が赤く火照ってきた。身体も小刻みに震え、目を潤ませている。おそらく彼女が必死に隠している秘所も潤んでいることだろう。それを想像すると、湯川自身も身体が更に熱くなり、腰が疼くのを感じた。
しかし、頭上から聞こえてきたのは彼の名を呼ぶ甘い声ではなくしゃくりあげる声だった。
顔を真っ赤にしてしゃくりあげる薫の顔にもゾクゾクと興奮するといえば、彼女はなんと言うだろうか。

「ゆっ、ゆかわせんせは…ひどいです…、こんな、こと、して…何も…言ってくれない…」

うつむく薫の耳も真っ赤だ。躊躇いながら口にする言葉は湯川をケダモノにするに充分だったかもしれない。

「ちゃ、ちゃんと…湯川先生の気持ちを聞かないと…これ以上はイヤです。それぐらいのプライド、あります」

口付けしていた足から顔を離し、ゆっくりと薫の顔を覗き込んで湯川は尋ねた。

「それは…、僕の都合のいいように捉えていいのだろうか」

そういいながら湯川の手は再び薫の足を這う。滑らかな手触りを楽しみながら足の付け根へと移動しながら、湯川は更に続けた。

「内海君、僕は君が………欲しい。愛している、好きだ…。……聞いているのか?」

愛の告白をしながら潤んだ秘所をなぞり、指を忍ばせほんの入り口に指を出し入れさせながら湯川が言う。
薫は熱い吐息を漏らしながら「なら指でかき混ぜないで…」と訴えたが、敢え無く却下された。

「こんなに濡らしながら何を言っている。それとも、いきなり挿入されるのが君の趣味か?僕はもう少し苛めたいのだが…」
「い、苛めたいって…、やぁ、あああんっ」

湯川の指が秘核が軽く引っかくと、薫は達したのか背中をしならせて戦慄いた。

「…君の反応はとても素敵だ。もっと反応を見たくなる」

薫が乱れた呼吸を整えながら湯川を睨みつけると、彼は余裕たっぷりの笑みを返してくる。
この男はいつもそうなのだ。見透かしたような顔をして、肝心なことは最後まで言わないで、それでいてこっちのことは何もわかっていない。
だけど、悔しいけどその男にこんな風に求められて悦んでいる自分がいる。身体は熱くなり、秘所も相手を求めている。
ふらふらと手を伸ばして湯川の腕を掴むと、困ったような恥らうような表情で訴えた。

「…っ、は、あ…っ、はぁ……、ゆかわ、せんせ…私…」

初めてではないが、経験は多くはない。
自分からこんな風に相手を求めたことなどなかった。こんな求め方でいいのだろうか、はしたないと思われなかっただろうか。
不安で揺れる目を見つめて、湯川は薫の額に口付けた。

「…僕も、そろそろ我慢の限界だ」

そう囁きながら、ズボンの前を寛げて怒張した赤黒いペニスを出す。身体を密着させて、それを薫の潤んだ宛がうと、彼女の身体がびくりと震えた。

「ん…っ」

これから訪れるであろう衝撃に耐えるようにきゅっと瞼をきつく閉じて震える薫を見下ろして小さく笑うと、

『そんな、怖がらないでくれ』

と囁いてゆっくりと挿入した。
じわじわとせり上がってくる圧迫感に、声を漏らしそうになって口元を押さえながら耐える薫。

「なぜ、我慢をする?僕には聞かれたくないのか?なら、聞かせてくれるように仕向けるだけだが」

湯川はそう言いながら浅いところを擦り上げ、卑猥な水音を立てる結合部分を見つめる。

「や…っ、あ、見ないで…っ、あ…っん、く…んんんっ」

じれったそうに揺れる細い腰を見て目を細めると、その腰に手を添えて一気に奥まで貫く。

「ひゃ、ああ…っ、やだあ…っ」
「どうして?さっきから刺激を求めるように腰を揺らしているのに?君の『嫌』は理解できないな」
「だ、だって…、熱くて…内蔵が掻き混ぜられているみたい…っ」
「そうか…。僕も、熱くて熔けてしまいそうだ…」

少し掠れた声で囁くと、湯川は更に律動を早めた。

「ん…っ、あ、や…っ、んんっ、あぁ…っ」

漏れる甘い声に薫自身が戸惑いながら、切なげに湯川を見上げると柔らかな口付けが降ってきた。
湯川の唇が薫の肌に触れるたびに、ぴくぴくと身体が震える。
それをペニスで感じながら、湯川は更に深く交わろうと薫の片足を抱えて密着した。
ぐっと強く腰を押し付けると先端が硬いものに当たり、口端を引き上げる。その途端に薫の秘肉が締め付けてきて、小さく呻いた。

「く…っ、……君は…奥が感じるようだな」
「…そ、んなの、わかりません…っ」
「わからない?先ほどとどう違うのかわからないのか?君にもわかりやすいように深く、突き上げてやろう」
「…え?や、あ…っ、あ、ぅ、んんっ、ああんっ」

片足を抱え、腰に手を添えて薫の身体を突き上げる。すると、彼女の秘肉は絡みつくようにペニスを包み込み締め上げてくる。思っていた以上の締め付けに湯川は夢中で腰をたたきつけた。
身体を突き抜けるような快楽に翻弄されながら、薫は夢中で腰を揺らす湯川を見上げた。浮かぶ汗に、いつも何かしら身体を動かして汗を流している彼の姿がだぶる。
これからまともにスポーツしている先生の姿を見れないかも、と心の片隅で思いながら薫はひときわ高い声で啼いて果て、その姿を確認してから湯川も彼女の最奥に熱を注ぎ込んだ。

しばらく甘い時間を過ごすかのように、薫の長い髪の毛を指先でもてあそびながら湯川が唐突に口を開いた。

「テンソクというものを知っているか?」
「え…?……えーと、"余計なこと"って意味の?」
「それは"蛇足"だ。纏足とは唐の末期に始まった今の中国の風習で、女性の足は小さいほうが美人だと考えられたため、足を小さくするために幼い頃から布などで足を固定したことだ。
なぜその姿が美人とされたかということについては諸説あるが…、小さく変形した足で歩くということはかなりの労力を要する」
「……昔の中国の女性は苦労したんですね。そのテンソクがどうしたんですか?」
「小さい足で歩くと、太ももに筋肉がつきアソコの締め付けがよくなると考えられていたそうだ。内海君、君は身長のわりには足が小さい。おそらく、そのことが君の………」

そこまで言いかけて湯川の言葉は薫の悲鳴に打ち消された。

「湯川先生のばかぁ───!!」

「…褒めたのに、怒られてしまった。さっぱりわからん」






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