名前で呼んでもらえるんだろう?(非エロ)
湯川学×内海薫


机の上いっぱい広げられた事件資料を前に、湯川と薫は向かい合っていた。
薫は一枚の写真を指さしながら、懸命にそこに写る死体の不自然さを語っている。

「……だから先生、私はこの事件には絶対裏があると思うんです!」

ふむ、と頷きながら湯川が長い指で顎を撫でる。
この偏屈な男の興味を引けたことを確信しながら、薫は男の言葉を待った。

「なるほど、実に興味深い」
「じゃあ先生、今度の事件解決に協力してもらえますか!?」
「事件の解決は警察の仕事だ。しかしこの謎には興味がある」
「またそんな言い方して。こっちが関係者の資料です、読んでください」

資料を収めたファイルを湯川に向けながら、薫はニコニコと笑っている。
湯川は少し眉を上げて、薫を正面から見やった。

「ところで僕からも一つ君に相談したいんだが良いだろうか?」
「? なんですか? 私で力になれることなら頑張りますよ」
「僕の知りうる限り君にしか協力が頼めない事だろうね」

薫は勿体ぶるような湯川の言葉に首を傾げ、その表情を不安そうにする。

「先生……難しいことは無理ですよ?」
「いや、そう難しい事じゃない」

湯川が机の上に置かれた、薫の左手をすくい上げる。

「僕はいつになったら自分の妻に名前で呼んでもらえるんだろう?」

長い指で細い薬指、その付け根で輝くシルバーのリングを弄ぶ。
小さく笑う湯川とは正反対に、真っ赤な顔になった薫は酸素不足の金魚のように口をぱくつかせていた。






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