質問攻め(非エロ)
番外編


「明日からお二人は謹慎生活どうされるんですか?」

冴島はるかが食事の手を止め、緋山美帆子の方を見ながら尋ねる。

「私は実家に帰るわ。アンタは?」

チャーハンのグリンピースを丁寧にどかしている藤川一男も頷く。

「謹慎なんてお二人と違って生まれて初めてなもんで、どう過ごしていいのやら」

はるかは少し意地悪そうな顔をした。

「俺もなんだよ。緋山、どう親に説明すれば良いんだ?」

ようやく摘出が終わったのか、一男が額の汗をぬぐいながら尋ねる。

「何で私に聞くのよ?さも常連かのように」

美帆子が不満そうに聞き返す。

「緋山先生を見ていたら、誰でもそう思います。」
「学級委員とかクラスのマドンナといじめてたタイプだろ?」
「もしかして白石のこと言ってんの?アンタあんな綺麗ごという女好きなの?」
「私も白石先生はあまり好きでわないので、関わらないようにしてます。」

珍しく両サイドのはるかと、美帆子の意見が一致した。

「女同士なんだから少しは仲良くしたらどうだ?」
「私は看護師なんでフェローとは立場が違いますから。」
「同じフェローでも私、白石とは携帯も交換して無いもの。」

病院の人間関係とはシフトの関係もあり、浅く深くである。
プライベートの携帯はロッカーの中なので、なかなか交換する機会が無いのが実情である。
その証拠というわけではないが、職場結婚の率はかなり高いのである。
ちなみに
美帆子の携帯に登録してあるのは、一男とはるかと指導医の三井環奈だけである。
一男は同期の白石恵、指導医の森本忠士と二人を登録しているだけであり
勤務歴の長いはるかでもそれに同期の村田香織と、看護師長の大原澄子、CS室の轟木聖子が加わるだけ
という人脈の無さである。

「藤川先生は両手に花じゃまだ不満なんですか?」

はるかが口を尖らす。

「そーよ。そーよ。」

美帆子も一緒になって口を尖らす。

(両手に花ねぇ、食虫植物の間違いじゃないか?)

一男は苦笑いを浮かべる。

「仲良くといえば、二人っていつのまに飲みに行く程仲良くなったの?」

最初はフェロー同士のガス抜きということで、美帆子と一男だけが飲みに行っていたのである。
それにいつの間にかはるかが加わり、さらに旨い物発見サークルが結成されたのである。

「昔は二人いつも喧嘩してたよね?
 緋山に至って冴島さんとヘリに乗るたびに落ち込んで帰ってきてた気がするんだけど。」

一男は眼鏡を拭きながら美帆子に尋ねる。

「そりゃぁ、だってこっちは慣れて無いのにさ。ちょっと手間取ると、鬼の首を取ったかのように責めるんだもん」
「一生懸命なのと、三井先生の前で良い所見せようとしてるは分かってましたよ。」

はるかは悪びれる素振りもない。

「まぁまぁ、喧嘩しないで。」
いつものように一男が二人をなだめる。

(二人とも黙って座ってれば、絶対モテルと思うんだけどなぁ)

二人ともとても自分の感情に正直なのか
たまにいつも一緒の一男ですら、ドキッとするほど愛らしい表情をすることもあるのだ。
ただ恐らくこの二人におしとやかにしろというのは、
パンダに笹を食べるなと言ったり、鳥に地面にもぐれというようなものだろう。
と一男は心の中で呟く。

こんな二人がどうして仲良くなったのか…
一男にはどうしてもわからなかった。

数ヶ月前

はるかは更衣室で一人椅子に座っていた。
元彼が病院に訪ねてくるというハプニングもアリ、今日はなんだか誰かと話したい気分である。
しかしあいにく今日は同期の村田香織もつかまりそうに無い。

(つまんないの。)

病院と自宅の往復という生活になって早6ヶ月、
そろそろ新しい刺激が欲しくなってきた。

(バチが当たったのかなぁ)

バタンとロッカーを閉めると、トボトボと帰路に着こうとした。

「あ・お疲れ様です。」

少し離れたロッカーの傍に緋山がガックリと肩を落として座っていた。

「また三井先生の前で失敗しちゃった。せっかくココの所連続してヘリに乗れてたのに…。スランプだわ」
「スランプっていうのは力がある人がなるわけで、緋山先生は毎回なわけでそれは実力と考えるべきでわ。」

イライラしていたこともあり、はるかの嫌味が冴える。
しかしいつものように反論がない。
はるかがあれっと拍子抜けする。

「体調でも悪いんですか?今日はアレですか?」

思わず美帆子の隣に座り心配する。

「アンタ何言ってんの?」
「いえ、いつもなら三倍返しくらいは来ると思ってたんですけど。」
「事実だからね。私は平凡な医者だから」

今日の美帆子は何かおかしい。悪い物でも食べたのではないだろうか?
大至急CTとレントゲンそれにMRIを勧めるべきではないか。

「大丈夫ですか?吐き気はしませんか?」
「アンタもらしくなわねぇ、私を心配するなんて」

二人は見つめあうと、突然アハハと笑い出した。

「今から藤川でストレス発散しにいくけど、アンタも来る?」

ニコニコと笑う一男の顔がはるかの頭に浮かぶ。

「藤川先生ですか?どんな話するんですか?」

『藤川と』ではなく、『藤川で』というのが若干気になるが、はるかも少し興味を持った。

「殆どは私が藤川をからかって遊ぶのよね。」
「からかう?」
「ほら、アイツ一人だけヘリに乗れてなくて黒田先生にも嫌われてるでしょ?」
「そういうことですか。」
「でもアイツ糠に釘というか。底抜けに明るいというか。雰囲気は悪くならないのよ。」

確かに一男にははるかも何度か嫌味を言ったが、あっさり流されてしまった。

「最後にはいつもアドバイスありがとな。って言って一軒目は奢ってくれるのよ。」
「アンタも今日は何かそういう顔してるし、良かったら来る?」
「どういう顔ですか?この顔は生まれつきです。」
「嫌なら別に良いけど。」
「行きます。」

はるかと美帆子は一男の待つ店へと向かった。

「何で仲良くなったか?」
「まぁ敵の敵は味方ってところですかね。」

二人は白石恵の顔を思い浮かべながら、目を合わせて笑う。

「ところで遂に念願のヘリに乗られたんですね。おめでとうございます。」
「そういえば、私と乗ったのが初めてだったんだっけ?」

たまには一男の話も聞いてガス抜きをさせてやらねばと二人は質問攻めを始める。

夜はまだまだ始まったばかりである。






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