ジェネレーションギャップ
橘啓輔×緋山美帆子


急患も少なく、ドクターヘリ出動要請も無く比較的穏やかな、とある昼下がり。
珍しく落ち着いて昼食を取れそうだと森本と連れ立って食堂に足を踏み入れた橘は
窓際の席で何やら談笑している一団に目を留めた。

にぎやかな笑い声に惹かれ同じ方向へ目を向けた森本が思わず口元をゆるめる。

「緋山一人が卒業できなくて気まずくならないかと心配したけれど
杞憂に終わったみたいで良かったですね」
「…そうですね」

脳外に行った藍沢も交えて会話が弾んでいる様子は4人揃って
フェローだった頃となんら変わりない。
藤川相手に軽口を叩いている緋山の表情は橘が着任当初に
見慣れた強気な彼女そのもので。
つい今朝方、自分の腕の中で喘いでいた女の顔とは別人だなと
内心ニヤけつつ緋山達から少し離れた後方の席に着く。

どうせこのメンバーのことだから仕事の話で盛り上がっているのだろうと
高を括り食事を始めた橘は耳に入ってきた会話に思わず箸の動きを止めた。

「…結局異性に惹かれる気持ちって生殖本能に基づいているんだから。
恋愛なんてどんなに綺麗ごと言っても結局はよりよい子孫を残そうとする
本能の赴くまま相手を探してるんだし見かけはもちろん、
頭が良くて仕事もできる人がモテるのは大原則なの!」
「…お前って、頭で考えて恋愛してるわけ?
感情で思わず動いちゃいましたとか経験無いの?」

正面に座る緋山が力説するのに対し呆れ顔の藤川が反論する。

「愛さえあれば外見でも何でも障害なんて乗り越えられる!」
「甘いわよ、そんなの今時、中学生にも通用しない幻想」

少女マンガモードにでも突入しそうな藤川の主張を緋山が鼻先で笑い飛ばす。

「より優秀な遺伝子を求めるって意味では、恋愛も結局はホルモンのなせるわざなの」
「…まぁ、ある意味一理あるんじゃ無いか」

緋山の隣に座っていた藍沢が急に口を挟み、藤川が藍沢を凝視する。
一方、我が意を得たりとばかりに緋山が藍沢に向かってにんまりと笑ってみせた。

「でしょ?気持ちが先にありきじゃ無くてホルモンが指令を出してるのよ」
「脳内ホルモンPEAが脳に刺激を与えると恋愛感情が生まれるって話は
最近ではネットとかでもよく見るぐらい一般的な話になってるしな」

普段は積極的に会話に入ってくることの無い藍沢の援護に気を良くしたのか
緋山がさらりと会話を続ける。

「ノルアドレナリンやアドレナリンを多く分泌させていれば痩せ体質になるって言うし。
綺麗になって異性を惹き付けるのは人に限らず生物学的に共通の観念よ」
「ホルモンを多く分泌させて綺麗に…」
「つまり、脳内のPEAを活性化させて良いセックスをしろってこと」

絶句した藤川に向かって緋山が指を振ってみせた。

「だからあんたはもっと外見も内面も磨かないと振り向いてもらえないわよ。
だ・れ・か・さ・ん・に」
「どういう意味だ!」

わざとらしく一語ずつ切って強調したセリフに憤る藤川に対し緋山は更に追い討ちをかける。

「見た目を磨くのは中身を磨くのと同じくらい大切なの!あんたは修行が足りない。
あの子の心を勝ち取りたかったらフェロモン出せるように努力しなさい」

そんなもん努力して出せるようになるもんじゃ無いとブツブツ言う
藤川を無視し、緋山は藍沢に視線を向けた。

「そういう意味では藍沢はイイ線行ってる」
「…そりゃ、どうも」

黙々と食事を続ける藍沢、顔色も変えずにきわどい話を続ける緋山に圧倒され
藤川は口をパクパクさせていたが理解不能とばかりに頭を振って食事を再開した。

「…今のご高説を聞いてる限り、お前ってプラトニックな関係なんて邪道で
セフレならOKとか思ってるんじゃないか?」

冗談交じりにこぼした藤川に対し緋山があっさり頷いた。

「あ、やっぱり分かる?現に今もそうかも」

口に入れたばかりの米を気管に詰まらせたのか、藤川は盛大に咳き込んだ。
テンポの速い会話に参加できないまま、ハラハラしながら
耳まで真っ赤にして見守っていた白石が我に返って藤川の背をさする。

そんな二人の様子を尻目に緋山は「ごちそうさま」と言うと
サラダが入っていたらしい空の皿を置いたトレーを持ち立ち上がる。
緋山に背を向け座っていた橘には気付きもせず軽快な足取りで歩き出す。
じゃぁまた、と藤川らに短く挨拶して藍沢も緋山のあとに続いた。


…今、あいつが付き合ってる相手って自分以外にいるのか?
いや、緋山はそんなに器用なタイプではない。
だとしたら、今の会話のセフレ認定の相手は自ずと判明するわけで…。


結果導き出された答えに思った以上に脱力し、食事を続ける気も失せた
橘は半分以上残したまま箸を置いた。

落ち込み気分に追い討ちをかけるかのように4人の会話が聞こえる範囲に
居合わせた看護師達が緋山と藍沢の後姿を見送りつつあの二人できてるの?と
囁く声が耳に入り、橘は思わず憮然とする。

「…あれだけドライな考え方ができるんなら、意外とお似合いかも
知れませんね。あの二人」
「…はぁ、どうですかねぇ」

我ながら間の抜けた相槌だと思いつつ、かと言って肯定もできずに
橘は明確な回答を避け言葉を濁す。
そんな橘をよそに、森本は残って食事を続けていた白石と藤川に話しかけた。

「一体なんであんな話になったの?」

小声でたずねた森本に対し、白石が小さくなって答えた。

「…最初は緋山先生の食事の量が少ないって藤川先生が指摘したところから
始まったんです。それが『ダイエットも外見を磨く大切な工程だ。
結局見かけが大事だ』って話になって…」
「…本当に、真昼間からあんな会話を堂々とするなんて信じられないですよね」

話の種を蒔いた罪悪感からか藤川がボソボソと愚痴をこぼす。

「…なるほどねぇ」

トレー片手に歩き出した橘の後を森本が追う。
「いや、ジェネレーションギャップかと思ったけれどあの二人が
ちょっと普通じゃないだけみたいで安心しました」

橘の機嫌の悪さに気付かず森本がニコニコと話しかける。

「実際、白石達は妹じゃきかないぐらい年が離れてますからね。
僕から見れば実の子みたいに可愛いですよ」

本当に子供だったら中学生ぐらいで親になったことになっちゃいますけどとの
言葉を最後に、整形に寄って行きますと森本が無邪気に手を振り歩き去る。

大して自分と年の離れていない森本の邪気の無い言葉に止めを刺され、
心底ゲンナリした橘は嘆息した。

一人になった橘は医局に向かいつつ、思いがけず耳にした緋山達の会話から
分かったことを整理した。

1.緋山は今の自分との関係を恋人同士とは認識していないようだ
 (どうも身体だけの関係だと思っているらしい)

2.散々飲みに行こうと口説いていたのを院内のあちこちで聞かれていたのに関わらず
  自分と緋山が怪しいと噂にも上らないのは年が離れすぎているのが原因のようだ
 (森本先生に言わせると彼らは実の子に見えるほどの年の差らしい)

3.セックス絡みの会話を交わしただけで藍沢と緋山はできているかと
  疑われるほど仲が良いと周囲には思われているようだ
 (自分が着任する前に実際できていたのか?)

順風満帆だと思っていたのは自分だけなのか?
先程森本が言っていたジェネレーションギャップが原因ですれ違うなど御免こうむる。

今夜は緋山をとっ捕まえてじっくり本音を聞きだしてやろうと決意し、
そのためにもさっさと仕事を片付けようと橘は歩く速度を速めた。

インターホンに応えて扉を開いた緋山の顔に浮かんだ笑みに
橘は思わず出迎えた彼女の華奢な身体を抱きしめた。
背中に腕を回しギュッと抱きついてくる緋山の顔を上に向かせ唇を重ねる。
促されるままに口を開いた緋山の口内に舌を忍び込ませると
いつものようにむさぼり始めた自分に気付き、思わず身体を引き離した。

驚いて目を見開いた緋山の首筋に指を這わせながら橘は緋山の瞳を覗き込む。

「…今日の昼間、面白い噂を耳にしたんだが」
「…?」

くすぐった気に身体を捩らせた緋山に顔を近づける。

「『緋山先生が付き合っている相手は藍沢先生だ』」
「…!」

ピクリと身体を震わせた緋山の耳元に口を寄せ、あえて甘い口調で話しかける。

「『しかも、二人は恋人同士という訳では無いらしい』」
「…どこで何を聞いたんですか!」

飛び上がった緋山を壁に押し付ける。

「『二人の関係は…』」

耳に息を吹きかけると緋山の身体から力が抜ける。そんな彼女を抱え込み耳元で囁いた。

「『…セックスフレンド』」
「…!!」

息を呑んだ緋山と視線を合わせ、それまでとは一変した冷たい声で問い質す。

「こんな噂が立つってどういうことなんだ?」

藤川を前にしていた時とは人が変わったかのように言葉に詰まった緋山に苛立ち、
橘は答えを待たずに口付けた。

腰まで覆い隠す長さのニットを頭から脱がせ、下に履いていたスパッツ
(今ではレギンスとかいうらしい)を引きずり下ろす。首筋から胸元まで
唇を這わせながら時折強く吸い付き、所有の証を残していく。

下着姿の緋山を抱きかかえ部屋の奥へ運ぶとベッドに倒れこむ。
鎖骨に舌を這わせ下着をずり上げ露出した胸にキスすると喘ぎつつ緋山が懇願した。

「…ちょっと待ってください!話を聞いて…」
「軽く出した後じゃないと冷静に話なんて出来そうにない」

強引に押さえつけると乳首を口に含み舌で転がす。

「やぁ……んっ……あっ……」

もう片方の先端を指で弾き、きゅっと摘みあげては指の腹で撫でる。
気持ち良いのかくすぐったいのか、ひっきりなしに身体を捩り
敏感に反応を返す緋山にのしかかり、空いた手を腰から太ももに這わせた。

足の間に手を滑り込ませると下着の中に指を差し入れ割れ目をなぞる。
しっとりとした感触に思わず胸元から唇を放して呟いた。

「随分感じてるみたいだな」

返事を待たず緋山からショーツを剥ぎ取り足を持ち上げ肩に担ぎ上げる。
濡れた花弁を指で押し開き顔を近づけた。

軽く口付け下から見上げると期待と不安が入り混ざったような
表情の緋山と視線が合った。初めてじゃあるまいし何を不安に感じる必要がある。
時折見せる生娘のような彼女の表情に苦笑しつつ、秘所に舌を這わせ丹念に愛撫する。

「あぁん!ダメぇ!」

口ではダメと言いつつ橘の髪を掴み股間に押し付ける緋山の動きに思わず頬が緩む。
花芯に舌を絡めると同時に中へ指を挿し入れた。探るようにゆっくりと掻き混ぜ
中から刺激する。指を抜き差しする度にクチュリと音を立て、
淫らな水音が耳に入ったのか緋山は頭の先から爪先まで真っ赤になった。

溢れる蜜を舐め取るように何度も割れ目に舌を這わせ、舌の動きに合わせて指の動きを速めた。

「はっ………あぁ……あっ……!」

堪えられない喘ぎ声が高くなる。花芯を剥き出しにして舌先で弾きながら吸い上げると
緋山の身体が跳ね上がった。びくびくと背中が痙攣し、声にならない絶叫が緋山の
口からこぼれる。

「………!!」

背を仰け反らせ昇りつめたのを確認し、橘は緋山に覆いかぶさった。

絶頂の余韻に震える緋山の腰を抱え、ゆっくりと中に入る。
浅く挿し入れ軽く腰を動かすと張り出した箇所で敏感な内壁をこすられ緋山があえぐ。
中へと誘い込もうとする襞の動きに堪えきれず一息に奥まで押し込んだ。

「あぁ……んっ………あっ、あっ……!」

再び軽く達したらしく身体を震わせる緋山を抱きしめた。
抱きしめられる感触に緋山がきつく閉じていた目を開いた。
潤んだ瞳で見つめられ、愛おしさが込み上げる。

普段どんなに強がっていてもこの子はセックスだけの関係を持てるような女じゃない。
心から守ってやりたいと願う庇護欲と、いっそ壊してやりたいと思うほどの独占欲。
相反する感情を振り切って橘は緋山の腰を抱え直すと動き出した。

挿入する角度を変え奥まで突き入れた時に恥骨が花芯を擦るように位置を調整する。
こいつはコレに弱かったな考えながら突き上げると案の定、脚を絡め強く抱きついてきた。
繋がった場所から蜜が溢れ出し動きに合わせて聞こえる水音が快感を加速する。
背中に爪を立てしがみついてくる緋山の中が再び震えだす。

「……あっ…あつい………やあぁっ…ダメ………!」

激しく突き入れる動きに合わせ緋山も腰をくねらせる。
熱い襞が絡みつき、腰の動きに合わせて奥へと引き込もうとひくつく。

「あぁんっ………!」

再び絶頂に達した緋山が背を仰け反らせ硬直する。
繋がっている箇所をきつく絞られる感触に堪えきれず橘も昇りつめた。

荒い呼吸を繰り返す緋山の汗に濡れた額に張り付く髪を払い除け、
呼吸が落ち着くのを待って上半身を起こすと緋山を膝の上に抱き上げた。

「どうしてなんだ?」

行為後の余韻が冷めないのか問いの意味が分からないのか
焦点の定まらない視線を返してきた緋山の頬に口付ける。

「なんで、俺とは身体だけの関係だと思ってるんだ?」

弛緩していた身体が緊張で強張るのを感じて橘はため息をついた。

「…先週、当直が重ならなかった日に会えないって言われたけれど、
あの時先生はオペ看の子と飲みに行ってたんですよね?」
「…相談があるって言われたら断れないだろう」
「分かってます。別に私以外の女の人と飲みに行くなって言うつもりはありません。
でも、私だってきっかけは飲みに行ったことで、気付いた時にはこういう関係になってた」

確かにあの時はやっと本命の子を誘い出せたことに気をよくして
このチャンスを逃すものかと手練手管を尽くして緋山を口説き落とした。
が、端から見ればその他大勢を誘った時との違いが分かるわけは無い。
自分の迂闊さに我ながら腹が立つが、それを言うなら自分だって
緋山からきちんと気持ちを聞かされたことは無いぞと内心ツッコミを入れる。

「どう思われているかは知らないが、俺は飲みに行った相手を悉くベッドに
連れ込むような真似はしていないぞ」

身体を震わせた緋山の顔を上向け軽くキスすると瞳を覗き込んだ。

「離婚後、こういう関係になったのがお前の前に一人も居なかったって言うつもりは無い。
それでも節操無く誰にでも手を出しているわけがない」

目を伏せた緋山のまぶたに口付け、再び抱きしめた。

「…長らく禁欲生活が続いた後で、一回り以上年の離れた彼女ができたら
男が浮かれるのは仕方ないだろう?」

橘の言葉に緋山が目を見開き顔を上げる。

「私、先生の彼女だと思っていて良いんですか?」
「当たり前だろ。なのにお前ときたら…」

ぎゅっと抱きついてきた緋山の頭をなでる。髪を梳く手の優しい感触に緋山がすすり泣いた。
そのまま甘い雰囲気に浸っていた緋山が橘の動きに思わず顔を上げる。

「…って、どこ触ってるんですか?」

髪から背中に滑り下りた手が何度か背を往復し、尻に到達し撫で回すのに気付き
緋山が顔を赤らめる。

「こんなにちゃんと話ができたの初めてなのに…」
「仕方ないだろ。こっちはいつかちゃんと話そうと思ってたのに終わると
大抵お前は即効で寝るからそんな時間もなかったし。変な勘違いをしたのは全部お前のせいだ」
「だったら、もうちょっと手加減してください!」
「冗談じゃ無い。今でも十分手加減してるぞ。それなのにお前は
昼日中の食堂で付き合ってるのはセフレだと宣言するし、藍沢なんかと噂になるし…」
「皆のいる前であんな話をしたのは謝ります。本当にゴメンなさい」
「それなら、ちゃんと安心させてくれ」

そのまま押し倒され、緋山はどこが手加減してるんですかと苦笑しつつ橘の背に腕を回す。

「…ちょっと待って」

身体に手を這わせ二回戦に突入しようとした橘の動きを遮り、
緋山がはにかんだように微笑んだ。

「…好きです。先生のこと、大好き」

絶句して動きを止めた橘は、一瞬の間を置いてニヤリと笑うとキスを落とした。

「分かってる」

むさぼるように唇を重ね舌を絡ませるうちに理性がだんだん遠のいて行くのが分かる。
腕の中で喘ぐ緋山の表情に見惚れながら橘は思った。

思った以上にのめりこんでいるのは自分の方かも知れない、と。






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