自覚(非エロ)
黒田脩二×白石恵


ある日。
いつも通り大忙しの医局内で黒田は患者の資料に目を通していた。
ここ数日は毎日オペだったが、今日は珍しく休みだったのだ。

暫くそうしていると、自動ドアが開き、藍沢が入ってきた。

「お疲れ様です」

と言う藍沢に黒田は顔も上げずに「ああ」とだけ言った。
藍沢は忘れ物でもしてたのか、自分のデスクで何かをするとすぐに出ていこうとする。
自動ドアの前に立つと、藍沢はおもむろに口を開いた。

「さっき、白石に告白してきました」

何があっても顔を上げなかった黒田だか、反射的にバッと顔を上げた。

「それがどうした。
俺には関係ない!」

と、自分でもよく分からず、語気を荒げた。
何故か心臓がドキッとしている。
藍沢は黒田に背を向けたまま応える。

「そうですか。
じゃあ俺本当に貰っちゃいますから。
いいですよね?」

とだけ言うと、黒田とは一回も目を合わせずに出ていった。
黒田が一人で原因不明のパニックを感じていると、今度は入れ違いで西条が入ってきた。

西条は黒田の顔を見て、いつも通り「よぉ」と言う。
黒田もいつも通り応えようとしたが、何故か舌が回らず、「お、おぅ」とガッチガチの返答になってしまった。
そんな黒田の様子を見て、西条はくすっと笑うと、

「さっきの会話、ばっちり聞こえてたぜ」

といたずらっぽく言った。
黒田は「そうか」といかにも興味なさそうな返答をする。
そんな仲間の様子に西条はいきなり核心を突く発言をした。

「お前、白石のこと好きだろ」

......黒田が飲み物を飲んでいなかったことが幸いした。
何か飲んでいたら、間違いなく吹き出していただろう。

「西条、冗談は休み休み言え!
何考えてんだ!」

と、黒田は全否定する。
が、西条は冷静に言う。

「お前らしくねぇじゃねぇか。
いつもだったら、たかが俺の冗談に、そんな焦って全否定することもねぇし」

「......」

返す言葉のない黒田に西条は重ねて言う。

「お前だってガキじゃないんだ。
自分の気持ちくらい分かってんだろ」

そうして西条はとっとと出て行ってしまった。
呆然としている黒田を残して。

西条が出ていった後、暫く黒田は呆然としていた。

―――俺が白石のことを好き?

ありえん、と黒田は自分を納得させようとした。
白石は自分にとってたかがフェローに過ぎない。
それ以上でもそれ以下でもない、と無理矢理自分を納得させた。

やがて、いつものようにドクターヘリ要請が入り、森本先生と白石が現場に向かい、黒田達は受け入れ準備に大忙しとなった。

しかし、患者情報のアナウンスはとんでもないものだった。

『こちら翔北ドクターヘリ、患者情報です。
現場で白石が巻き込まれました。
天井から剥がれ落ちたコンクリから患者を庇おうとして腹部を強打。
微弱ながら意識はあります。
血圧は......』

黒田はアナウンスを最後まで聞かずに血相変えてヘリポートに飛び出していった。


―――あの後。

結局白石は不幸中の幸いでたいした怪我ではなく、オペも無事成功し、現在麻酔で眠っていた。
白石が庇おうとした患者も軽傷で、救急車にて別の病院に搬送された。

白石はICUに入る必要はないと判断され、普通の個室に入っていた。
そのベッド隣にある椅子には黒田がずっと座っている。
すると、今日の当直の藍沢が入ってきた。

「変わります」

「いや、大丈夫だ」

「変わらせて下さい」

藍沢は少し強い口調で言ったが、黒田は梃子でも動かなかった。

「こいつは俺の患者だ」

仕方なく、藍沢は諦めたように出ていった。

すると、藍沢が出ていくとすぐに、

「う、うーん?」

白石が目を覚ました。

「白石っ!?大丈夫か?」

黒田の呼びかけに白石は暫くぼーっとしていたが、意識がはっきりしだすと、慌てたように言った。

「黒田先生!?
あの患者さんはどうなりました!?」

「大丈夫だ。
別の病院に搬送された」

という黒田の応えに白石はほっと胸を撫で下ろした。

やがて、白石は突然起き上がろうとした。
黒田は慌てて止める。

「今は寝てなさい」

「大丈夫です。
それより405号室の小川さんが...」

「今はそんなのどうでもいいだろう!!」

と、語気を荒げる黒田に白石はびっくりしたように言った。

「あの、黒田先生?
なんでそんなに......」

「お前の体が心配だからだ」

そして、勢い半分で、さっき本当に自覚してしまったことを言ってしまった。

「俺はお前のことが好きだからな」

「......!!?」

白石は唖然とした顔をし、黒田は半ば諦めていた。
そもそも白石と黒田では歳が違い過ぎる。
これでは間違いなく変態親父扱いだ。
しかし、白石はにこり、と笑い、言った。

「本当、だったらうれしいです...だって私も黒田先生のこと、すき、でしたから」

今度は黒田が唖然とする番だった。
白石は相変わらず笑っていた。

「でも、冗談ですよね。
だって黒田先生が...」

そこまで聞くと、黒田は白石の唇に自分の唇を重ねた。

白石は初めこそ体を強張らせていたが、黙って黒田のされるがままになっていた。
白石の口内に舌を侵入させると、白石も応えるように舌を絡ませてきた。
やがて、唇を離し、首筋に舌を這わせようとしたとき、

「うっ、つぅ」

という白石の辛そうな声で黒田は我にかえった。
白石は今日、怪我をしてオペをしたばかりだということを忘れかけていた。
黒田はその先にいきたい欲望を必死で振り切り、白石から離れた。
白石は少し寂しそうな目をしていたが、黒田は諭すように言った。

「今は怪我を治せ。
よくなったら、そのとき抱いてやる」

そう言い残し、病室から出た。

すると、ドアのところで藍沢が待っていた。
藍沢は黒田に気付くと、顔も上げずに言った。

「俺、諦める気ないですから。
しっかり捕まえておかないと本当に俺、貰っちゃいますからね」

黒田は「そうか」とだけ応えると、二人はそれぞれ反対方向に進んで行った。






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