煎餅
藍沢耕作×緋山美帆子


深夜のワークステーション、夜勤の看護師が数人作業をしている。
看護師が巡回や作業でみんな席を外し、白石と緋山の二人だけになった。
隅にある電子カルテ用のパソコンに向かって座って作業をしていると
白石がポツリ、と話しかけてくる。

「藍沢先生、今日は帰ったのかな…3日も泊まってるし…」
「帰ったよ。日没でヘリも終わっていい加減に帰れって黒田先生に言われて」

緋山がキーボードを叩きながら答えると「帰ったんだ…」と白石が安堵の声。
…やっぱり、気にしてるんだ?そう思ったけど口にはしない
ポケットから救命医学書のまとめたメモを出して読みながら白石が続ける

「藍沢先生って、家帰って何するんだろ…プライベートが想像できないね」
「そうね。まあ、どうせ熟睡なんじゃない?あんだけずっと動いてたし」

空中を見ながらぼんやりと、白石が呟く

「好きな食べ物とか…何なんだろう。そういう事、全然知らないね、同期なのに」

それは同期としての興味じゃないような…ってツッコミを飲み込んで
やっと入力作業が終わって緋山は椅子から立ち上がる。

「別にいいんじゃない?藍沢も知られたくないっていうか、そういうの嫌いみたいだし」
「そう…だよね…」

時計を見るともうすぐ日付が変わりそうだ。
少し急いで周囲を片付けると緋山は白石の肩をポンと叩いて

「じゃ、帰るね。当直がんばって。」
「うん。お疲れ様。」

ロッカールームで私服に着替えると早足で外に出る。病院から道を歩きながら携帯で電話をする。
相手が出ない。イラついたように何度も同じ番号にコールする。
4回留守番電話サービスセンターに繋がれてしまったけどかけなおして5回目でやっと相手が出る

『――はい』
「熟睡してたんでしょ」
『ああ…。』
「今病院出たんだけど。少し…会えない?」
『…わかった。じゃ、俺ん家の近くの駅前の…この前お茶した店で』
「了解。じゃ、あとで。多分…15分くらいでつけると思うから」

深夜のシアトル系コーヒー屋は人が疎ら。その中で売れ残ってたベジタブルサンドイッチと
カフェオレを買うとゆったり座れるソファ席に緋山はついた。
かなり遅めの夕食、でもダイエットしてるから食べなくてもよかったなぁ、でもお腹空いてるし…
そんな事を思いながらサンドイッチを食べていると、店のオーダーカウンターに電話の相手が見える
片手にサンドイッチを持ったままで反対の手を高く上げて

「藍沢、こっち」

私服の藍沢が、コーヒーを買って呼ばれて緋山と向かい合わせに席に着いた。
「お疲れ」「お疲れ。」無愛想な挨拶を交わす
こんな風にプライベートで二人で会うようになってから一ヶ月になる

一ヶ月前…今日みたいに夜のワークステーションで藍沢と二人だけになり
白石が藍沢に男として興味があるんじゃないかという緋山が憶測の話をしたら、
藍沢が一言いったのだ。ぽそりと。自分から。
また、仕事以外のどうでもいい話をしたと怒るのかと思ったら…

「俺は、緋山に興味ある」

口調も変わらずカルテを見ながらだったので聞き間違いかと思った。
または彼なりの冗談。かなりウケない、というか心臓に悪い。
緋山は対抗するつもりで

「興味あるなら誘いなさいよ、ご飯とかに」
「じゃ、今日行こう。俺、もうすぐで終わるし。緋山もオペ伝票書いたら終わりだろ」
「…うん」

なんだか奇妙、なんだか違和感、そんな感じで二人で帰りに食事をした。
会話はそれほど非日常ではなく「事故で大腿骨開放骨折の川崎さんが…」
「脳梗塞の西原さんのオペが…」「外科的気道確保の…」といった具合だった。
なんだかカンファレンスと変わらないね、と最後は緋山が苦笑いをした。
その帰りに緋山を家まで送ってくれた。そして、マンションの前でキスをされた…

「藍沢、正気?なんかさ…」
「緋山は、嫌なのかよ」
「嫌…じゃない、わよ…」
「言っただろ。緋山に興味あるって」
「ほんとに興味あるなら携帯の番号とかメアドとか、交換しなさいよ」

そんな感じで連絡先を交換し、仕事が終わるとこうして二人で会うようになった。
少しずつだが…藍沢も自分のプライベートの話をするようになっていた
リハビリ病棟にいる祖母の話、奨学金で行った大学の話、研修医時代の話…
それが緋山には嬉しく、違う藍沢の一面や表情を見る事ができた。
しかし一ヶ月、こうして食事やお茶をして話す程度で、特に何もない。
唯一は、最初にされた短いキスだけ。

曖昧なのは嫌いな性格から、サンドイッチを食べ終わって
サプリメントを指に2錠持ちながら目線を合わさずに聞く。

「ね。わたしたちって、これって付き合ってんの?」

コーヒーを置いて窓の外を見ながらぼんやりとした口調で藍沢が答える

「緋山はどっちがいい?」

えっ、私っ!?ぎょっとした顔で藍沢を見たが相変らず窓の外を眺めてる。
少し…髪の毛ボサボサじゃん、やっぱ寝てたんだ。そりゃ3日ずっと仮眠だけで仕事してたしね…
っていうか、疲れて寝てたのに私に呼び出されて、来ちゃうんだ…
緋山がグルグルと思いをめぐらせているとこっちを向いた藍沢が視点の合わない緋山に呼びかける

「聞いてる?」
「うん…聞いてる。私は…つきあってる、でいいよ…」
「じゃ、そうしよう」
「いつから?」
「…何が?」

身を乗り出して緋山がサプリメントをグーで握り締めながら

「いつから、付き合ってる事になるの?」

面倒臭そうに藍沢が言う

「初めてメシ食った日からでいいよ」
「何それ、超適当。」
「だってキスしたし、それが致命傷ってことで」
「致命傷って何よ」

思わず表現のおかしさに笑い出す。藍沢も、ふっと鼻で笑う
そして思い出したように

「あ、そうだ。ね、藍沢の好きな食べ物って、何?」
「好きな食べ物?………歌舞伎揚げ」
「カブキアゲ?何それ」

眉間にシワを寄せて緋山が首を傾げると、藍沢が説明を始める

「緑とオレンジと黒の縞模様がついた袋に入ってて醤油味の」
「あ、お煎餅!?っていうかお菓子じゃん。普通は好きな食べ物聞かれたら
 焼肉とかパスタとか、そういうの答えない?」
「一番に思いついたのが歌舞伎揚げだったんだからいいだろ別に」

カブキアゲかぁ〜と小さく繰り返してくすくすと笑いながら緋山はやっと
サプリメントを口に入れて水で流し込んだ。
少しずつ…プライベートでの藍沢にも、慣れはじめてきた

それから半月程、毎日が忙しくお互いに病院で仕事に追われる日々が続いた。
元々から当直じゃない日も病院に泊り込み重症患者を待って腕を磨こうとする藍沢は
看護師たちから「病院に住んでる」と揶揄されるようになる。
「いい症例に当たりたい」と思っている緋山も、以前より病院にいる時間が長くなった。
そしてある日、ふと波が引くように病床に空きが増える、ホットラインが鳴る回数も少ない日だった。
黒田に自宅に帰れと促された藍沢は、渋々と更衣室へと歩いていった。
その様子を横目で見ていた緋山は「休憩いってきます」と小さく言うと
さりげなくその場から出て早足で藍沢を追いかけた

「藍沢」

声をかけると相手が振り向く。「ちょっと」と言って視界に入った「空室」のプレートがかかる
カンファレンスルームへと藍沢を引っ張る。室内には患者の家族に説明などをするための
テーブルやホワイトボードなどがある。緋山が電気をつけると藍沢がため息をついた

「何?」
「仕事とは…関係ないんだけど、さぁ…」

それを聞くと藍沢は表情を変えずに

「だったら行くよ。仕事場では一切、こういうのはナシだって言ったよな」

確かに二人の間での約束。仕事場ではプライベートな話は一切言ってはいけない、と。
緋山は去ろうとする藍沢の手を捕まえた

「わかってるけど、あのね…どうしても、藍沢に会いたかったから…」
「毎日会ってるだろ」
「そうじゃなくて、仕事じゃない藍沢に…」

この半月、電話をしても出ない状態で、病院ではしつこいぐらいにずっと顔を合わせていたが
別人のようなプライベートの藍沢の顔を、話を、聞いていなかった。
実はそんなに好きという感情もなく、面白半分で「つきあう」ということにした緋山だったが
半月の間で、それがもどかしく思えて、愛おしさに変わり、感情に変化が出ていた…

「今夜私、当直だから…今だけ、少しだけって思ったら、追いかけてた」

黙って聞く藍沢、沈黙が重くて緋山は続ける

「藍沢がヘリに乗れば私がヘリに乗る回数が減る、藍沢がオペに入ると私がオペに入る回数減る、
 正直…鬱陶しい、って思ってたけど。っていうか…仕事では、今もそう思っちゃってるけど…
 だけどね、ちょっと笑った顔とか、すごく眠いはずなのに呼び出したら来てくれた事とか
 …そういうのが、大事で、好きだって、…最近になって思い出して…」

纏まらない言葉で頭の中の感情をぽつぽつと並べていくと、恥ずかしさで心臓が高鳴る。
藍沢が振り向いて、ゆっくり抱きしめてきた。

「俺は眼中ないけど。実力のある奴がヘリに乗ってオペにも入るのが当たり前だから」
「…むかつく」
「だけど…その後の下りは、嬉しい」

緋山も相手の背中に両手をまわしてぎゅうっと抱きつく。

二重人格、そんな言葉がぴったりだな…と、自分で思うと藍沢は頭の中の
モード切替が自動的にされていくのがわかった。
早く腕を上げたい、その一心で邪魔になる感情は全部押さえ込むという
精神コントロールは完全にできる。だけど、今は…少しだけ。

「なんか、高校生同士の恋愛みたいだね。会いたいだとか、好きだとかって」

笑いながら腕の中で緋山が言った。そう…かもしれない。

「20代後半にもなる男女の交際で、キスしかしたことないしね?」

また笑いながら彼女が言うと確かに、と頷いた。

「そうだよね、最後に会った時だって、俺ん家泊まってけとか誘われなかったし。
 大事にしたいから手は出さないーってタイプじゃなさそうだし…」

彼女の憶測が続く。好きだなそういう話、と少しため息をつくと彼女が顔を上げて

「あ。もしかして……藍沢って童――」

くだらないオチがつくのが途中から予測できて、キスで唇を塞いでやった。
いきなりのキスは、2回目だな…最初の時も緋山がびびって体がびくっとしてた。
ゆっくりと唇が離れると、近い距離のままで緋山の目を見つめる

「童貞だったら面白いよな。話としては」

冷めた口調で言ったが、久しぶりに彼女の唇に触れたせいか少し鼓動が強くなる。
いつもそうだ…いつのまにか、上手く感情が出せなくなっていた…
緋山と話す時間は、リハビリのように少しずつ、感情が出せる唯一の時間になっている。

「…好き」

甘く呟く彼女の声で、どちらからともなく再び唇を重ねる。
抱きしめる腕に力が入ると、背中にある彼女の手も、強くなる…

「俺も」

細い腕が自分の首に纏わり付くようにまわされて、もっと深く欲しいとせがむような口付けに。
そこからは前後不覚、何か「切れ」たという表現が近い。
自分は勤務が終わってるから…今はプライベートの時間だ、と藍沢は自分に理由づけをした

唇から頬…そして首筋へ、何度もキスを落とされて、そのたびにゾクゾクとする…
藍沢の「俺も」という言葉を聞いてちょっと泣きそうになった。
と、藍沢の重心が緋山にかかると足元が1歩後ろに下がる、そして長机にぶつかった。
それに感づいた藍沢は、緋山の背中に腕をまわし、ゆっくりと長机に寝かすように押し倒す

「え、ちょっと…ここ、で?」

何がここでなのかは恥じらいで言えないが意味は十分に通じる
さっきより少し柔らかい表情の藍沢が悪戯に言う

「童貞だったらどうする?」
「どうしよう…私もそんなに場数踏んだ訳じゃ…」
「そうなんだ…へぇ」

思わぬ情報が出してしまい、緋山は一気に恥ずかしくなった。
藍沢の両腕が、自分の頭の左右に突かれ、顔を覗き込むように再び唇を重ねてきた
舌の絡み合う音が聞こえるくらいに激しく…自分の口角から唾液が一滴零れたのがわかった
深い口付けは、それだけでも刺激で…体中が熱くなっていく。
そして青い術衣の裾から彼の掌が進入してきた。優しく…胸を確かめるように揉んでいく
それだけでもまたぞくっとしてしまう。全神経が鋭敏になっている…そんな感じ。
激しいキスの最中も、お互いの胸ポケットにあるボールペンや院内PHSがぶつかり合い
カチャカチャとプラスチックがぶつかる音がしている。
緋山の脚の間に藍沢の脚が割り込んで、術衣のズボンを下げていく…

「やっぱ、ここでやめておこうよ…」

緋山は藍沢の背中をトントンと指で叩いた。それを無視して藍沢は頬や耳元に口付けながら
下着の中へ掌を進めていく。そして既に溢れ出しているそこを指でなぞりながら

「大丈夫…『使用中』にしといたから」

その言葉に答える余裕がなさそうに、緋山の体がびくびくっと反応する。
ヌルッとした感触と同時に指を1本ゆっくりと中へ入れてみると、背中にある緋山の手が
藍沢の術衣を強く掴んだ。再び唇を重ねて漏れそうな声を封じてやる…

「キスだけで、こんなになるんだ」

それは童貞疑惑にかけた無知としての感想か、意地悪としての言葉か…
緋山は口調と表情でわかった。煽られてる、と――
指が2本に増やされ、ゆっくりだった出し入れが少しずつ早まる。
膣壁が擦れるたびに声が漏れそうになり、それを藍沢が唇で塞いでくれる
片足を長机の上に上げさせられ、大きく脚を開かされた格好…
くちゃくちゃと卑猥な水音と、たまに廊下を通る足音…
腰が自然に左右に動いてしまう。緋山は状況を把握すればするほど、思惑通り「煽られ」る。

指をそっと引き抜くと、ねっとりと濡れた指を緋山に見せる
見ないふりの緋山に意地悪く藍沢が言う

「机に少し、垂れるくらいなんだけど」

…わかってた、自分の内腿に伝うくらいに濡れてしまっているのは。
そして見せている指を、藍沢が見せ付けるようにして、舐めた
一気に…また、煽られる。ごまかそうとキスをしようと少し頭を起こしたら
自分が舐めていた指を緋山の口元につきつけてきた。
緋山は舌を出してその指を舐めて見せる。藍沢は満足そうに見ている。
広げさせられてる脚が震える。やっぱりこの場所じゃ…
すると藍沢に体を起こされる…そして長机のほうを向かされると
「手、ついて」と短く言われた。言われるままにするとお尻を突き出すポーズになる

「藍沢…、やっぱり…職場でするのは…」
「ヘンに興奮するからやめよう って?」

藍沢に意地悪で間違った憶測をつけられると、なんだか諦めがついてきた。
というよりも…それに従ってもいいやという気にもなってきた
彼が、欲しいという感情が強くなったから…

「もっと、腰上げて」

少し優しい口調での指令に体が勝手に従う。ズボンを緩めながら緋山のポーズを見て
「ヤラシイな」と小さく藍沢が呟いた。ファスナーの下げられる音、腰に添えられる手…
そして腿に伝う程溢れ出している所にそれを突きつけられると熱くなった体温が伝わってきた。
その次の瞬間に、ゆっくり体内に割り込んでくる感覚…

「んっ…」

緋山の体がネコが伸びをするように、背中を大きく反らして小さく震える。
深層に届くと、小さく何度か子宮をノックする動き、そしてだんだんと大きいストロークでの動き
容赦なく強く奥を突かれ始める。悲鳴に近い声が漏れて、必死で緋山は声を殺す。
長机の脚が動くたびにギシギシ音を立てる。突き上げるように腰を使い藍沢の呼吸が早まる

「ね…顔…」

緋山が泣きそうな声で呟く

「顔…見たい…」

動きを止めてゆっくりと一旦抜いてやるとびくんと緋山の体が跳ねた。
そのままごろんと横に転がりさっきと同じ、長机に腰から上が寝ている状態に戻る。
緋山が今度は自分から片足を机の上に上げて脚を開いた
藍沢の腰に両腕をまわして、再びお互いの体が繋がると体を震わせる。

「緋山…」

緋山の快感に歪む顔を見て、もっと占領したい欲求が沸いて出る。
占領したいというよりも…何か、こう、無茶苦茶にしたい、というような…
再び緋山の薄く開いた唇から甘い声が漏れ出したので、口付けて、塞ぐ。
お互い呼吸が荒く、夢中になって酸素よりも互いの舌を求めていく
その間にも確実に昇りつめていく、快楽――

唇で塞いでも、鼻先から声が出始めた。
そして緋山の体が、力み始める…首を横に何度か振ると哀願するように

「も…ヘン…だから…っ」

緋山のもう片方の脚を持って、更に脚を開かせると腰が勝手に浮いた。
体がもっと奥へと求めるよう。緋山のくしゃっとした目からぽろっと涙が零れた

「ヤ…っ、イキ、そ…」
「俺も…いく…」

ギリギリまで我慢してそのギリギリの所の快楽を貪っていた藍沢も限界だった
机の脚がさっきよりも音を大きくたてている。

「藍沢っ…、あっ…!」

ピーンと緋山の体が硬直して痙攣するようにして硬くなる。
その2秒後に、トン、トン、と2回大きくゆっくり深く貫くと緋山の一番奥で藍沢が達した――

何秒飛んだんだんだろう…と、緋山が思った瞬間にガクンと一気に力が抜けて
ただ、息切れした激しい呼吸をしている。藍沢が少し遅れて「はあっ」と大きく息を吸った。
まだ…中でヒクヒクと彼がたまに動くのがわかる…シアワセな感じ。
二人が息切れして呼吸を整えようとしているときに、廊下を会話しながら通り過ぎる人の音が聞こえた


その足音と会話が遠のくと、緋山がぼんやりとした声で口を開いた

「藍沢って…ヤラシイんだね、実は」

予想外の感想に「は?」という顔で藍沢が答える

「実はってなんだ実はって。」

全て出し切って緋山を占領したそれを抜こうとした時に「あ!」と緋山が止める
その「あ!」の声の大きさに驚いて「何」と短く藍沢が小さい声で言う

「ティッシュとか…ないじゃん…。中で出しちゃったんでしょ?どうしよう…」

このまま抜けば長机に緋山の中からどろっと出てくる事になる
藍沢はべつにどうでもいいと思ったが、困った様子の緋山を見て一瞬にやっと笑う。
そして自分が脱がせた緋山の下着を足を使って器用に拾うと二人が繋がってる部分に宛がった。
引き抜いてすぐに緋山の下着で押さえる。

「あ〜っ、ちょっとぉ…」

だけどそれしか今は方法がない、と緋山が黙る。
体を起こして、何度かゆっくりとキスを交わすと藍沢は身支度を整えて言う

「今夜、当直なんだよな?ノーパンで」
「…!!!」

言われるまで気がつかなかった、と唖然とする緋山。少しにやりとした藍沢の顔に気づいて
策略だったことが今わかる。でももうどうしようもない…下着は精液でドロドロだ。
仕方なくノーパンのままで術衣のズボンを履くときつめにベルトを締めた。
髪を結い直すと両手で汚れた下着を包むように隠して持つ

「やっぱり、藍沢むかつくっ」
「好きな癖に」

藍沢は更に緋山がむかつくように言葉の追い討ちをかける
まだ早い鼓動が収まらないうちに、緋山はカンファレンスルームを出た。



翌朝になり、早朝に運ばれてきた急患の処置を終えて緋山がぐったりした様子で
医局に入ると、白石がまばたきもせずに座ってる。

「また目開けたまま寝てんの?」
「――ごめん…」

平和だったのは3時まで、4時くらいになってから急変があったり急患がきたり。
結局は…ノーパンである事すら忘れるくらいに忙しくなった。実際は忘れてないけど。
下着がないとやっぱり違和感があり…更にはそのせいで藍沢との時間が脳裏から離れない。
コンビニで下着を買ってこよう、と席を立った所で藍沢が入ってきた

「おはよう」

白石が「もうきたの?」と驚きながら挨拶をする。

「お疲れ」「おはよう」「――。」

財布を手にした緋山を見て藍沢が緋山の挨拶を無視した。
これは…下着買いに行くなって、こと??緋山は勝手にそう思った、自己催眠かも、とすら思った。
しかし藍沢はもういつもの藍沢の表情で。昨夜の事を聞ける隙はない。

「朝ごはん買ってくるの?」

財布を持って固まってる緋山に白石が声をかけた

「そ…う。ちょっとだけ、食堂まだやってないし」

そういってコンビニ袋を持って戻ってきた緋山が買ってきたものは…

「何?…お煎餅?パンとかじゃないの…?」

白石が目を丸くした。椅子に座って袋を開けて緋山は歌舞伎揚げをかじる。
自動販売機で買ったコーヒーで、歌舞伎揚げ。新しい発見かも?と密かに思う。
そのミスマッチな朝食を白石は首をかしげて見ている
藍沢は担当患者のカルテを黙々と見ていた。

「藍沢先生、朝ごはんとか…食べたの?こんなに朝早くきて…」

白石がなぜか恐る恐る聞くと藍沢は立ち上がって

「まだ食ってない。…これ、いいか?」

緋山の買ってきた歌舞伎揚げを1つ取る。緋山がもぐもぐと口を動かしながらうん、と頷くと
いつもどおりの無愛想のままで藍沢が煎餅をかじる。
バリバリと煎餅をかじる音、白石は不思議そうにまた首を傾げた






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