メッセージ(非エロ)
藤川一男×冴島はるか


その先生はフェローシップに布切れ渡しこう言った。

「それに臓器を縫うやり方で縫ってきて。」

布切れを渡されキョトンとしている四人だが仕方なく言われた通り
縫い颯獅に渡す。縫い目を見て颯獅は笑う。

「藤川か、この布は?」

藤川は自分の縫った布がヒラヒラされているのに気付く。

「はい、俺のですが・・・」

「お前、これから毎日この本の縫い方を一日三ページずつやって俺に提出!!」

「えっ、何で俺だけ・・・・」

「何でもだ。後、これもやれ」

颯獅はクーパーとDVDを手渡した。

藤川に教材を残したまま颯獅は立ち去ってしまった。

「うそだろ〜、何で俺だけ・・・」

それから藤川与えられた課題を一日ずつこなしていった。
続けてから二ヶ月たったぐらいのときのことだ
冴島と緋山、白石の三人は当直で見回りをしていた。

「冴島さんはさ藤川君のこと好きなの?」

「何言ってるんですか、別に私は・・・」

「否定しないじゃん、好きなんだ。藤川・・・」

緋山と白石に突っ込まれ何もいえなくなり下向いたまま歩いていると
白石があっと声だした。

「何、どうしたの?」

「あれ、藤川君と颯先生じゃない?」

緋山と冴島は白石が指差す先を見るともうとっくに帰っているはずの
藤川と藤川に指導していると思われる颯獅がいた。

「藤川そうだ、丁寧にそう慎重に・・・できたじゃないか!!」

「はい、颯先生。ありがとうございます。」

二人にばれないように三人は藤川の手元を覗く。
そこには練習用の心臓がいくつも転がっていた。

かなり藤川がすごい奴になります・・・
ウチの藤川はヘタレじゃないです。

「何あれ、心臓?」

「血管の山はグラフトかな?」

「心臓の手術の練習でしょうか・・・」

三人は颯獅が何かしゃべっているのに耳をたてる。

「やっぱり、思った通りだな。お前、心臓外科医として才能あるよ。」

「本当ですか?でも、俺無能だし、役立たずだし・・・たまたまですよ・・・」

藤川はそう言って片づけをはじめる。

「お前は無能でも役立たずでもない。お前の外科医として腕は確実に上がっているよ。」

颯獅はそう言って藤川の右腕を取った。

「右手をこんなにまでして上手くならない奴はいないよ。」

覗いていた緋山たちは藤川の手を見て驚いた。
そこには中指がマメだらけになったボロボロな手があった。

「藤川正直に深刻。今月でマメいくつ潰した?」

藤川はポツリと口を割る。

「普通のマメは三個・・・血豆は二個です。」

すでにその血豆も潰れ気がつくと指が血に染まっている。

「お前はフェローの誰よりも努力してるよ。マメ潰してまでやる奴なんて
久しぶりに見たぜ。」

颯獅は藤川の右手を消毒しながら仕事に支障がでないテーピングをした。

「藤川、お前はできないことを努力でカバーした。
この二ヶ月やったことは無駄じゃないぜ?そもそも、お前に無能って言ったの
誰だ?」

「当てて見て下さいよ。」

藤川の回答に颯獅は一瞬考え思いついた人物を言った。

「冴島!!」

「正解です。よく分かりましたね?」

「簡単だ。あの四人を考えてズバって言うのは冴島か緋山か藍沢。」

「藍沢はもっとキツイことを言う。緋山はもう少し茶化す。残りは冴島しかいないだろう。」

藤川は颯獅の回答に思わず笑った。

「白石ははじめから候補者に入ってないんですね。」

「あの白石が人のそんなこと言えるわけないだろう。」

「すげえや、先生よく俺たちのこと見てんですね。」

「まあ、俺は指導医だからな。一応はな・・・」

「でも、俺冴島に無能とか役立たずとか言われたから今こうやっているんですよ。」

「どういう意味だ?俺には冴島は少し言い過ぎに見えるんだが・・・」

「あいつ、家が複雑で医者になりたかったのになれなくて・・・
それでも医療の道に進んで、すんげー努力して看護師になったんですよ。
だからこそ医者だからって威張ったり、鼻高くしている医者が許せないですよ。」

「そうか、冴島は冴島教授の娘か・・・あれ、教授医者の子供いたぞ二人・・・」

「それ、冴島の兄ちゃんと姉ちゃんです。優秀なんでしょ?」

「まあな。だが、論文がメインなんじゃないのかな。あんま見ないし・・・」

「そうなんですか?その辺は詳しくないから・・・」

「でも、俺は冴島の方がすごいと思うけどね。」

「えっ・・・」

「研究室こもって論文だけしか書かない医者なんてたくさんいる。
いざ、そいつがメスを握れば腕は研修医以下なんてざらだからな。」

「そうなんっすか。でも、冴島はすごいですよ。
絶対、そこら辺の医者より優秀だから。」

「ああ、現場であれだけ動ければたいした奴さ・・・」

颯獅はふとあること気になった。

「なあ、お前さ冴島のことよく知ってんだな?仲良かったかお前ら・・・」

藤川は颯獅の質問の一瞬間が空いた。

「ああ、俺あいつの愚痴とか聞いてるから・・・
あいつ、何か本音言う場所がなかった気がしたから作ってやったんですよ。
ゴミ捨て場。」

「それがお前か・・・いいのかお前は人の愚痴聞いて楽しいか?」

「別に俺愚痴られるの慣れてるし、それに結構楽しいですよ。
あいつ、怒るとマシンガントークなんですよ。バーって気持ちを吐き出す感じかな〜
その後に必ずこっち見てすいませんって謝るですよ。」

「白石が言ってた冴島の本性というやつか・・・怖そうだ。」

「でも、人間吐き出す場所はほしいでしょ?そうじゃなきゃ、つぶれちゃいますよ。」

「お前はどこで吐き出してるんだ?」

「俺は男だからそういうのは吐かないっすよ。そういうもんは出しちゃいけないものでしょ?」

藤川はテーピングをした右手を見つめながら言った。

「それに、藍沢も颯獅先生も吐かないでしょ?そういうの・・・」

「そうだな。まあ、そういうの吐けたりできるのは好きな女の前ぐらいかな。」

颯獅は天井を見つめる。
白熱灯の光が目に痛い。

「にしても、お前って思った以上に男だな。見直したよ・・・」

「俺、長男だし。昔、体弱かったからよくいじめられたんですよ。
何もいえないのが悔しくて、でも逃げるの嫌で・・・
毎日学校行ってました。そのときから弱音は出さないって決めたんです。
ってだからと言って見栄っ張りもどうかと思うんですけどね・・・」

藤川の話を聞いていた緋山、冴島、白石の三人は今まで藤川が強がっていた訳が
ようやく分かった。彼なりに必死に戦っていたのだ。

冴島は今まで自分がどんな愚痴を吐いても黙って聞いてくれたのは
全部藤川の優しさだったのだ。
そう思うと冴島は目頭が熱くなった。

「俺、フライトドクター向いてないのかな・・・
先生、俺どうしたらいいのかな?俺にここには居場所ないよ。やっぱ、やめるべきかな。」

颯獅の前では藤川は弱音を吐いた。

「藤川、自分の値打ちは自分で決めるなよ・・・
まあ、お前は少し優しすぎるからさ・・・現場で冷静になれないのかもな。」

「やっぱ、役立たず?」

「そうじゃなくて、患者の目線に立てるってことだろう?いいことだよ。
なあ、ずっと思ってたんだ。お前が望むなら俺はお前を俺がいた病院に連れて帰りたい。」

「はあっ、どういう意味ですか?」

「なあ、俺と一緒に来ないか?俺はお前を一流の心臓外科医にしたいんだ。」

冴島は颯獅に言葉に息を呑んだ。
それは他の二人も同じだった。

当の藤川は信じられないという顔をしている。

「まじっすか、俺があの病院にですか?無理ですよ。」

「無理じゃないさ、お前が望むら俺はいつだって連れて行くよ。神の高みへ・・・」

藤川は足元を見つめ唇をかみ締めた。そして自分のフライトドクターになれる可能性と
颯獅のもとへ行った後について行った自分を想像した。

「颯先生、少し待ってくれますか・・・俺、いきなりだから動揺しちゃって・・・」

「ああ、いきなり言ってすまなかった。
ただ、俺はこの前の俺と一緒にオペした心破裂の手術で連れて行きたいと思ったんだ。
俺のスピードについていけてるのはお前だけだったから・・・」

颯獅の言葉で白石と緋山はあの時の手術を思い出した。
心臓の破裂箇所が七箇所で出血が酷くあきらめようとしたときの
藤川の行動。心停止してからの傷の縫合のスピードは非凡なものを感じた。
自分たちではできないことを藤川は必死にやっていた。
そして、颯獅が来てからの二人のオペは誰にも入る余地を与えていなかった。

「じゃあ、俺休憩室で寝てきます。お疲れ様でした。」

藤川は頭を下げると休憩室の方に走っていった。

颯獅は藤川がいなくなったの確認してある場所に目を向けた。

「男同士の話を盗み聴きとは感心しないな・・・」

バレた・・・三人はひょっこりと顔を出し颯獅の前に並んだ。

「先生、いつから・・・」

「俺が藤川の手当てをしているときだ。多分白石の白いインナーの一部が見えた。
お前ら聞くならもっと上手く隠れろよ・・・」

「あっあたし・・・すいません。」

白石は冴島と緋山に頭を下げる。

「やっぱり、あんたなのね・・・」

「別にいいですよ・・・」

颯獅は三人のやり取りに苦笑した。

「なあ、俺あいつを連れって行っていいかな。あいつの才能を潰したくない。」

三人は颯獅の言葉に口を詰まらせる。
最初に開いたのは白石だった。

「藤川君が望むらいいと思います。やっぱり、藤川君の心臓外科としての才能は本物だから。」

「あたしもいいですよ。あいつ、先生来てから変わりました。活き活きしてますもん。」

白石も緋山も藤川の意見を尊重したいという意見だった。

「冴島はどう思う?」

「あたしは・・・藤川先生の好きにすればいいと思います。
藤川先生の人生ですから・・・」

「そうか、ありがとう。」

そういい残すと颯獅は立ち去っていった。

ポツンと残された三人は複雑だった。
藤川はちゃらちゃらしてて少し頼りないけど苦しいときつらいとき
いつも励ましてくれた。大切な仲間だ・・・
その仲間が輝ける場所を見つけたなら応援してやるべきだが・・・

「藤川君、颯先生に着いてちゃうのかな・・・」

「何か藤川の目、そうぽかったわね・・・」

「いいじゃないですか、環境にいいところで一流の医者に学ぶ。
これ以上にいい条件はないですよ・・・」

緋山は冴島の顔を見てため息をついた。

「あんたさ、自分の顔見ていいなよ。
今にも泣きそうな顔して言っても説得力ないよ。」

冴島は近くにあった鏡で自分の顔を見た。
そこには目に涙をためた自分の顔があった。

「本当はさ、行ってほしくないんでしょ?素直に言えば良かったじゃん。
颯先生、藤川はOKしたら本当に連れてちゃうよ・・・
いいの、あんたはそれで・・・」

白石は冴島の背中をさすった。

「泣いていいよ、あたし冴島さんが泣いたこと誰にも言わないから。
藤川君も言ってたじゃない・・・吐き出す場所が必要だって。
たまには私たちも頼って・・・」

白石の言葉に冴島は耐え切れず涙をこぼした。
白石と緋山の二人は冴島が泣き終わるまでそばにいた。
三人の小さな友情のはじまりだった。

藤川は颯獅に返事を考えていた。
いつにもなく眉間にしわを寄せているとあたまをたたかれた。

「いつっー、何すんだよ!!藍沢!!」

「生きてたか、まるで石造みたいだったからさ」

「なんだよ、俺は生物以下か!!」

藍沢も藤川のことを認め始め、颯獅と行うオペの中でオペはチームだということに
気付かされた。
一人かけてもだめなのがチーム。
これがわかってから少し考え方が変わった気がした。

「それより、お前冴島とけんかでもしたか?」

「なんで?してねえけど・・・どうしたの?」

「元気がない。仕事はこなすがそれ以外は上の空。
俺はお前とケンカでもしたかと思ったんだがな・・・違ったか。」

「何かわからないけど、俺聞いて見るよ。」

藤川は今ちょうど休憩中の冴島の背中を見つけて駆け寄る。

「冴島、元気ねえじゃん!!どした?」

いつもの口調で話しかけても別に・・・と返されてしまう。

「何だよ、つれねえな。何かあったのかよ。変だぞ、お前?」

「生まれつきですから・・・」

「おい、どうしたんだよ本当に・・・」

藤川が肩に触れた瞬間振り払ってしまった。

「すいません・・・」

そういい残し冴島は走り去ってしまった。
その場に残され藤川はただ立ち尽くす。

「俺、何か気に障ることしたかな・・・やべぇな、どうしよ・・・」

冴島に嫌われた。俺の中で決断した決心が一瞬揺らぐ・・・

冴島は人があまりこない物影で立ち止まった。
だめだ、まともに顔を見れそうにない・・・
そのときもう、自分に嘘はつけなかった。

「あたし、好きなんだ・・・藤川先生のこと・・・
どうしよう、こんなときに気付くなんて・・・」

冴島はその場にしゃがみ膝にあたまをつける。
今までの気持ちは藤川が好きだからだ・・・
遅すぎるこの気持ちはただ心を彷徨っていた。

藤川は院長室に来ていた。
そこにはシニアドクター一同と田所部長もそろっている。

「俺、決めました。俺・・・颯先生に着いていきます。
俺を一人前の心臓外科医にしてください!!」

「いいのか、フライトドクターになれなくても・・・」

「黒田先生、俺決めました。心臓外科医になります。たくさんの人を救えるような。」

「わかりました。あなたの決意は本物ようだ。
佐ノ上先生いつごろからそちらの病院に移れますか?」

「一ヶ月ぐらいですかね・・・そのぐらいは必要かと。」

「では藤川先生、あと一ヶ月はここでお願いします。」

「はい、ありがとうございます。」

藤川はあたまを下げ部屋を出て行った。

「颯獅・・・連れて行くんだな・・・」

「はい、俺が見つけた才能ですから・・・」

颯獅は黒田に微笑みかける。

「佐ノ上先生、藤川先生をよろしくお願いします。」

「はい、任せてください。」

一方藤川はナースステーションでカルテの整理をしていた。
みんなが戻ってきて少し世間話タイムだ。
すると田所部長が現れみんなが立ち上がった。
後ろには黒田先生、森本先生、三井先生、西条先生、颯獅もそろっている。
藍沢がこの事態に疑問を抱く。

「どうしたんですか?先生方全員そろって何かあったんですか?」

「重大な知らせがあるのでちょうどフライトドクター、ナースが集合している
この時間を使わせてもらうことにしました。藤川先生ことらに・・・」

「はい。」

藤川は立ち上がると田所部長の隣に立った。
藍沢は何がなんだかわからない表情をしている。
残りの三人はいよいよかと腹をくくる。

「来月から藤川先生は佐ノ上先生と共に
佐ノ上先生のもといらした病院に移ることになりました。」

田所の言葉に珍しく藍沢が目を丸くした。

「どういうことですか?フェローはどうすんだよ、藤川。」

「俺、決めたんだ。このままここにいても俺はフライトドクターにはなれない。
なら、先生に着いていって心臓外科の技術を学んだほうがいいんじゃないのかって。」

「やめて、心臓外科医になるってことか・・・」

「ああ、やっと俺ががんばれる場所見つけたからさ・・・」

藤川は藍沢の目をそらすことなく言った。

「そうか、いいんじゃないか・・・似合ってるよそっちのほうが・・・」

「ありがとう、藍沢。」

藍沢は決意を決めた藤川に何を言っても揺らがないと判断した。
藤川の門出を祝ってやりたいという気持ちが前に出ていた。

「ですが、移るのは一ヶ月後です。それまでは同じフェローですからみなさん
今までと同じようにお願いします。」

その言葉に頷きみんなもとの仕事に戻って行った。
藤川は一人の背中が気になった。
冴島は一度も顔を合わせようとしてくれなかった。

藤川の移動の準備も進みあと一週間となった。
いつもと同じように仕事をこなし何のことなく過ごしていた。

冴島はヘリの補充をしていた。
そこにいつかのように藍沢が立っていた。

「藍沢先生、忘れ物ですか?」

「いや、話は緋山に聞いた。知ってたんだな、冴島は・・・」

「何がですか?」

藍沢はヘリに寄りかかり右手を見つめながらつぶやく。

「藤川のことだよ。移動するって話・・・だから元気なかったんだな。」

冴島は藍沢が自分のことに気を配っていたことに驚いた。
昔の藍沢ならこんなことはしなかった。

「そうですか・・・すいません気を使わせて・・・」

「いや、冴島と藤川が話してるとすごく楽しそうだったからさ・・・
俺じゃあいつとはああは話せない。羨ましかったんだ。」

藍沢は藤川と冴島の関係が少し変わってからの二人のやり取りを遠くから見ていた。
自分にはああはできない。
藤川にあって自分に足りないものは多すぎた。

「藍沢先生がんばってましたもんね。白石先生と話すのに・・・」

「あいつ鈍感すぎるから、いくらアプローチしても気付かないんだ。
マジで困ったよ。」

今までの自分の行動に苦笑いがこみ上げる。

「冴島はいいのか・・・行っちゃうぞ、あいつ。あいつ、気にしてたよ。
お前のこと・・・怒らせただ嫌われただってな・・・冴島、後悔するなよ。」

藍沢は立ち去ろう体を起こそうとしたら腕をつかまれた。

「あたしはどうすればいいでしょうか・・・
藤川先生はもう居なくなるのに・・・」

藍沢振り返り手をあたまに乗せた。

「それは自分で決めろ。」

藍沢は病院に戻っていった。

入り口で藤川が寄りかかっていた。

「何話してたんだ?」

「気になるか?」

藍沢は皮肉をこめた表情で笑う。

「っ別に・・・」

「告白した。」

藍沢の発言に藤川は目を見開く。

「好きだったのか?冴島のこと・・・」

藍沢は耐え切れず腹を抱えて笑い出す。

「何マジになってるんだ?お前さんざん白石に告白しろって言っといて
何で冴島に告白しなきゃいけないんだよ。」

「はあっ・・・お前、騙したな!!」

藤川は藍沢に突っかかる。

「素直になれよ。早くしないと冴島獲られるぞ?
今まではお前がいたから何もなかったけど・・・
お前がいなくなればアタックしてくる連中はたくさん居るぜ。」

「藍沢・・・お前・・・」

「ちゃんと捕まえておけよ、俺も白石も緋山はどうか知らないけど
冴島がお前と居るときに見せる表情が好きだったんだからさ。」

藍沢はそれだけ言い残すと中に消えていった。

冴島は本来の目的である補充を終えてヘリを降りた。
あたりは夕暮れで赤く染まっている。
入り口の方へ帰ると藤川が寄りかかっている。
急いで中に入ろうとしたら腕をつかまれた。

「ちょっと、待て!!何で避けるんだよ!!」

冴島は必死に腕を振り払おうとするが所詮男と女の差。
力が強すぎて振り払えない。

「離して下さい!!」

「俺の話聞けよ!!冴島!!」

冴島は抵抗しても無駄と悟り、力を抜き近くの壁に寄りかかる。

「冴島さ・・・そんなに俺が嫌いか?俺の顔見るのも嫌で話しもしたくなくなった?」

冴島は下を向き唇をかみ締める。

「俺、もうすぐ居なくなるのに何かお前とケンカしたままなんて嫌だよ。
俺・・・こんなんじゃ堂々と前向いてここ出て行けねえじゃん。」

藤川はいつものようにあたまに手を置こうとしたらあることに気付く。

「何泣いてんだよ・・・どうした?何かあったか?おい、冴島・・・」

こらえ切れず大粒の涙を流し冴島はその場に座りこんでしまった。

藤川は冴島がなぜ泣き出したかわからずどうすればいいか何もできない。

「冴島・・・どうしたんだよ。おい、泣くなよ。」

背中を撫でて理由を聞こうとするが何も話さない。

「・・・も・・う・・・」

「えっ・・・何、聞こえねえ?」

「もう、優しくしないで!!」

冴島が声を張り上げた。藤川はその大きさに驚く。

「私にかまわないでください!!藤川先生は次の病院のことだけ考えていればいいでしょ!!
私は大丈夫ですから。」

早口に告げて冴島は立ち上がった。藤川は手を握り締め小さく震えている。

「ほっとける訳ねえだろ!!大丈夫だってつったて、お前泣いてるし・・・
こんな状態で次の病院のことなんか考えらんねえよ!!」

「それはあなたの問題なのですよ。私は関係・・・」

藤川は冴島の言葉を遮るように叫ぶ。

「関係大有りだ!!ほっとけねえんだよ!!お前が・・・心配なんだよ!!」

「あなたに心配されなくても私は・・・」

「好きなんだよ!!お前のことが・・・だから、心配のするし・・・ほっとけない
とにかく、俺はお前が好きだ!!」

冴島は思っても見なかった答えに驚き言葉がでない。

「こんなときにこんなこと言うのは間違ってるとは思うけど・・・
好きなんだからしょうがねえじゃん!!文句あっか!!」

藤川はしばらくして我に返り、怒鳴りながらの告白はないだろうと自己嫌悪をした。
冴島も返事がない。振られた・・・そう思った藤川は顔をあげると泣きながら
笑っている冴島がいた。

「怒りながら告白なんてはじめてです、私。ムードもロマンのかけらもありませんね。」

「お前だって笑うか泣くかのどっちかにしろよ。顔、酷いぞお前・・・」

気持ちをすべて吐き出しら楽になり落ち着いて話せるようになった。
冴島は藤川の右手を握った。

「私も好きです。藤川先生が・・・多分、ずっと前から・・・」

冴島の告白に藤川は顔を真っ赤にしてうなだれる。

「お前、人を散々避けて、嫌っておいてよく言えるな・・・・」

「好きだから避けてたんです。顔まともに見ると泣いちゃうから・・・
先生が居なくなると思うとさびしくて・・・悲しくて・・・」

右手を握る手の力が少し弱くなる。藤川は痛くない程度に握り返した。

「あのさ、一緒にいなきゃ好きじゃないのかよ?別に離れても付き合ってる奴なんてたくさんいるぜ?
それに、俺は一緒にいなくてもお前を好きでいる自信あるけどお前はないの?」

「そんなこと!!私だって藤川先生を好きでいる自信くらい・・・」

「だったら、いいじゃん・・・俺がいなくなっても大丈夫だろ?別に外国に行く
わけじゃないんだしさ・・・二人の都合が会えば会えるし、嫌じゃなきゃメールだって
俺、毎日送るよ?お前の暇な時間見つけて・・・しつこいぞ俺は。」

藤川の携帯を取り出してメールを打つ動作を見て冴島は笑ってしまった。
本当に毎日送ってきそうだ。

「電話もしてもいいですか?昼休みとか・・・・」

「おう、じゃんじゃんかけろ!!待ってるからさ・・・」

藤川は冴島の正面に立ち冴島の顔まっすぐに目をそらさず見つめる。

「俺、もっと頼れる医者になるから、お前が俺が彼氏だってバレても恥ずかしく
ないような良い医者になる。だから、俺のこと笑顔で見送ってよ・・・
しばらくさ会えないと思うから・・・最後のお前の顔が泣き顔とかは
嫌だからさ・・・」

「はい・・・」

冴島は涙をぬぐい今できる限りの笑顔をつくった。

藤川はふとあたまに思い浮かんだことがある。

「ごめんな、俺今気付いたんだけど・・・俺、お前よりチビだわ・・・
わりぃ、全然格好つかない。」

藤川は自分の背と冴島の背を測り手を上下に振っている。
その姿がなんだかおかしくて笑みがこぼれる。
この人はいつも私を気遣ってくれていたのだ。

「平気ですよ、5pぐらいですよね。気にしません。」

「本当?良かった。やっぱ別れるとか言われたらどうしようかと思った。」

藤川はある考えが思いついた。別れの思い出だこのくらいは許してもらいたい。
冴島がくすくす笑ってる隙をつく。

「冴島・・・」

藤川は冴島の手を引きわずかに下に引き寄せた。
そして・・・唇が重なる。
一瞬離れて、目を丸くしている冴島に藤川では無いくらいの低い声で呟く。

「移動の思い出作りだ。それに、このくらいやって何が悪い」

普段では見れない藤川本心が一瞬見えた気がして冴島は何も言えない。
逃げ腰になる前にまた塞がれる。
しばらく時間がたって唇が離れた瞬間、膝から崩れ落ちそうになって藤川にすがりつく。
自分より微妙に低い肩に額をのせる。

「いきなり・・・何するんですか・・・」

「だから思い出だって、あと俺・・結構独占力強いんだ。俺がいなくなった後に冴島が
ほかの男になびかないようにしておこうってさ・・・」

冴島は耳元で囁かれる声に身体が震えた。

「そんなわけ・・・」

「そうか、わかった。じゃあ、俺もう中は入るな。」

藤川はスタスタと病院の中へ消えていった。
冴島もしばらくして中に入った。

それからめまぐるしく時間がたち藤川は颯獅の病院に移った。
冴島は藤川が言った通り、自分の休憩時間を見計らってのようにメールが届く。
内容はくだらいとこが多い。だが、こんなやりとりが自分をこんなにも幸せに
してくれるなんて今まで知らなかった。
冴島は返信の最後に一言メッセージを追加した。

”私、今とっても幸せです。”

それを見た藤川は屋上で一人顔を赤くする。
照れながらも返信を返す。

”俺もだよ。”

藤川は今日は一段と澄んだ空を見上げる。
冴島もこの空見てるのを願った。






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