教えてもらうこと
藍沢耕作×白石恵


大切なことを、大切な人へ、伝えたい時に伝えなければ、きっと後悔する。
生死と向き合う命の現場でそれを思い知った。
それは、自分の身にも、誰の身にも当てはまる。
そばにいるのが当たり前な大切な人は、
必ずしも当たり前なまま自分のそばにずっと在るのかは、肯定できないのだ。


+++


「今日、会えるか」
「ええ、今日こそは一緒にランチ食べようって、父と話した。」
「‥、そうか」

ほがらかな笑みでうなずく白石を藍沢は納得したように
だけど、少し切なそうに見つめた。
『会えるか』の真意は、実はそこではない。
藍沢は白石と、二人で会いたかった。

大切な人だと気づいたから、気持ちを伝えたい。
それがこんなに難しいとは――
初めて送ったシグナルは失敗に終わった。
そうだ、そういえば彼女が父親と会うことを
なんでも喋り練り歩く藤川から聞いていた。


日勤上がり時の救命..
病室ベッドから転落した入院患者が骨折をした。
白石が担当したのはその症例と救急車で運ばれた急患
2件だけで珍しく今日はヘリが飛ばなかった。
新しく入ったフライトドクター候補生が
それを嘆いているのをなだめたあと、帰宅の準備を始めた白石。
父、博文とのランチタイムを思い出し、
楽しかったなと馳せつつジャケットを羽織った。
ランチタイムで知った、冷や奴ひとつでこだわりがあるらしい
父の舌をうならせる料理を今度チャレンジしてみよう。
意気込んで、ロッカーを閉めた。

病院関係者通用口手前から、警備員による荷物調査を済まし
出口に出て外気に当たった時、藍沢の姿があったので、驚いた。

「藍沢先生‥」
「お疲れ」
「お疲れ、どうしたの、誰か待ってるの?藤川君とか。」

そんなやつ置いて行ってやる。
きょとんとしたというかすましたような白石の反応に少しイラついた藍沢だったが、
自分の感情をコントロールするのはお手のもの。眉周辺の力を解いた。
外にいたせいで冷えた手をポケットに突っ込んで彼女の元に歩み寄った。

「ちょっと付き合ってくれないか、俺に。」
「え?」
「酒でも、飲みに行こう」
「...、」

酒と聞いて白石は目を伏せた。緋山や藤川たちと飲んだときみたいに、
もう潰れて藍沢に迷惑はかけたくない、困惑や心配もさせたくない。
もっとも、藍沢に近づいて寄り添いたいがための、
あの時は酔っぱらいが半分 工作 だったから、気づかれてこの好きな人から怒られたくもない。
もうそんなことはしないと思うけれど。

「ゴメン、お酒飲む気分じゃないっていうか‥」
「そうか、分かった、じゃあな。」
「えっ..」

きっと藍沢は自分を待っていてくれて。
せっかくの誘いを断って、気分を損ねてしまった、
だからこうあっけなく。と、白石は思った。
藍沢としては別にブスッとしたつもりはなくて、
ただ単に断られたから今日は無理なんだなと捉えて諦めて帰ろうとしただけ。
聞こえてきた白石の疑問符に、踵を返して彼女を見遣った。

「どうした?」聞くと白石の目が泳ぐ。言葉を探しているみたいだ。
彼女の視線が藍沢の顔へ定まる。

「もう少し、ねばっても..いいのよ?」
「‥あぁ、そう。」

もっとしぶとく誘ったら付き合ってくれるということか。
嫌々なら誘うのはもう御免としたいところだ。

「ゴメン、私言うこと勝手だよね‥」
「いや。」
「藍沢君とは、またゆっくりお話したいな、って思ってる。」
「..酒は、お前は飲まなくていいから」

"ねばった"藍沢に静かにうなずいて、歩き出す彼に付いていった。

「親とは色々話せたのか」
「うん、久しぶりに楽しかった、怪我がほぼ治ったからって
 また講演講演で無茶ばっかなんだから‥‥藍沢君は?どう?脳外は。」
「いつも通りだ」
「そう。」

いつしか決まり文句のようによく聞く言葉。
これさえ聞ければ他科に移っても、
恙なく脳外科の任務をこなしている様子はうかがえた。

訪れたダイニングの居酒屋の個室で、サラダやつまみを適当に口に入れ、
藍沢はウイスキー、白石はグレープフルーツジュースを片手に静かに語らう。

「こっちもいつも通り。」

変わったのはみんなのプライベートの付き合い。
あの飛行機事故からここ1ヶ月で交際や結婚に発展した
救命スタッフがいることを白石は報告する。

「男女の出逢いってやっぱそういう身近なとこから発展していくのが多いのかな」
「俺に聞かれてもな」
「あ、藍沢君はそういうの興味ないか、恋愛、とか。」

カラン。ロックアイスが鳴ったグラスは、藍沢の手が揺れたことをものがたる。
藍沢の中で白石のその言葉が酒を回らせ、その音が彼のネジを一本外したようだった。

暖房が利いている。
ジャケットを脱いだ白石の細い手首を藍沢は掴んだ。
白石は驚いて彼を見る。
見つめ合うたび、沈黙が続くたび、
ギュッとする藍沢の力が強くなって、「痛い。」と発した。
「悪い」手を離すと白石の肌にはくっきりと言っていいほどの、痕。
手首をさする白石の頬に藍沢は手を添えて顔を自分に向かせると
外れたネジの代わりにスイッチが入った。

最初は触れるだけのキス。白石の表情をうかがって
舌で口をこじ開けると彼女の口腔内を堪能するように深いキスをする。
服の上から胸へと手を伸ばすと、「待って..」と制止する白石の声。
その艶やかな声は、居酒屋の雑音と共に藍沢の気持ちをかきたて、
理性をまた1つ崩すには十分だった。
立ち上がり後ずさりする白石だったがもう背中は壁際だった。

藍沢はインナーの中に手をしのばせて背中を上へとたどる..
「白石には興味ある」ブラのホックを外した。
その手を前の膨らみに滑り込ませて包むように揉む。
インナーをブラごとたくしあげれば露になる乳房。
谷の部分から舌を這わして山へ持っていく。
頂にたどりつけばちゅ、と音を鳴らして吸った。
今までずっと我慢していたのか、白石の口から短い甘い声がやや大きく響いた。
お腹にちり、とした痛み。藍沢はそこに唇を落としていた。
更に白石の体を反転させ、背中にも舌を這わして
時おり吸い付いて朱い痕を散らしていく。

「ひ..ッ‥あ、ヤメッ‥だめ、」

片方の手のひらでは胸を揉んで、
もう片方はパンツスーツの中に手を入れて尻や太股を愛撫する
唇は依然彼女の背中。

「あっ、‥や‥ッあ、」

必死に声が出るのを堪えるも、白石の体は気持ちがいいと判断して
声が漏れる間隔が徐々に短くなる、頭が白くなっていく
ぐるりともの凄い力でまた体を反転させられて、
腹への唇の愛撫が再開された
パンツの中にも藍沢は手をかけ、割れ目をなぞる。
すでに潤いきっているそこは藍沢を悦びへいざなう。
一番敏感なところに触れれば子犬が鳴いたような声が聞こえた。
藍沢は白石の中に指を入れて、しばらく穴を広げるように無造作にかき回した。
荒々しいようで、でもその器用さはもろに白石を翻弄する。
快感で足が震え、力が抜けて床に落ちていく白石。
声の大きさが扉の向こうに聞こえてしまうか気になるくらいになり、
藍沢は白石の口を手で塞ぐ。指をもう1本入れて
抜き差しを繰り返そうとしていた。白石は無条件に涙が零れてくる。

彼はどういうつもり、こんなところで‥
グッと握っていた拳をそのまま振り下ろしたら
藍沢の頭をかすって肩に直撃した。「イテ‥、」

白石は振り絞った力で藍沢を押しやって隙間を作った。
涙をぬぐって捲りあがったインナーを下ろし、締めつけのない自分の胸元を抱える
肩を上下に揺らして乱れた呼吸を整えながら。

「どうして‥こんなこと‥」
「自分のものにしたかったんだろうな」
「え..?」
「俺はお前のこと。」
「‥っ、」

拭いたはずの涙がまた溢れてきた。
藍沢の姿が滲んだまま。
泣いてるのは嬉しくてじゃない。悲しくなって。

「どうして、なんで‥そうだろうって、『だろう』って、
 嫌いじゃないからみたいな気持ちでこんなことするの」
「・・・・」
「ひどい、」
「白石」
「好きなの‥!、私は藍沢君のことがずっと好きだった‥」
「・・・・」
「ごめんなさい、勝手に好きになって、勝手に怒って、勝手に傷ついて。」

もうこれ以上、本当に迷惑かけないし、仕事以外で関わらないから。
そう告げようとした途中から、もういいから。というキスで遮られた。
深く深く潜りこむような藍沢の舌が白石の舌と絡み合う。
先ほど藍沢が酒を飲んでいたから、呼気からアルコールの気も伝わってきて、それも心地よい。
肩と腰を二つの腕でしっかりと抱き寄せる藍沢に応えるように、
白石は彼の首元に腕をまわして抱きついて、口を委ねる。
藍沢と白石が生み出す唾液は全部藍沢が白石の口内に送りこんで、彼女の中に呑み込まれる。
息がほとんどできないなかで飲み込むのは相当苦しくて
しだいに飲み込めなくなれば口から溢れた。
「ん、は ..ぁ」
息ができるのは少し唇を離して見つめあう時と
藍沢が口の角度を変える一瞬だけ。
無我夢中。キスしている時間など分からないまま、
二人はどちらかが満足するまでそれを交わし続けた。


「あやまるのは俺の方だ、ごめん。白石のことが、好きだ。」

やっぱり、大切な人へ、大切なことを
伝えたい時に伝えておかないと後悔する言葉はある。
悲しませたり、失ってしまうことが、あるのだから。
そばにいるのが当たり前、言葉で伝えなくても通じると思うのは、
なんて馬鹿なことなんだ。藍沢はそう思う。

「泊まっていかないか?俺の部屋。」
「...、」
「お前に教えてもらうことたくさんありそう、だしな」
「たとえば‥?」
「..愛、とか?」
「‥‥」

「白石?」藍沢が泊まっていくかを問いかける。
耳を真っ赤に染めながら、白石はコクリとうなずいた。

必要最低限。余計な物は置かない。あえて言うならそれがこだわり。
シンプルすぎるほどの藍沢の部屋。
机とベッドとテレビくらいしかないんじゃないか。そんな部屋だ。
ベッドでは一糸まとわない裸の藍沢と白石が転がる。
すぐ下の床には二人の服や下着が散らばっている。

「なんで居酒屋のトイレ行った」
「(濡れてるの)気持ち悪かったから」

ベッド上での苦い会話はその程度。
再びたっぷりの愛撫を受けた白石の体は、藍沢のそれを受け入れる。
奥へ奥へと進むにつれ感じていく白石の膣内の生温かさ。
身震いがした、気持ちがいい。到達した場所で藍沢は深く息を吐く。
動き始めた腰が挿すとき、今一番に白石の声が響く。
さっきの居酒屋での行為からの名残か、つい白石の口を押さえていた。
もう、いいんだった。手を離し、行き場に迷っているらしい白石の腕を押さえ
彼女の下半身に入っている力を解すために、
顎から耳朶の下までのフェイスラインをたどるように舌を這わせ口付けた。
貫かれて、噴き出すような彼女の涙を舐めたりして。
「キス‥して‥」潤んだ瞳で懇願する白石。
啄むように、優しくする藍沢だった。
それが白石にとってどんなに幸せの瞬間で、
繋がるという途方もなく表現しがたい恐怖を取り除き癒しになったか。
白石の声色の艶やかさが光りはじめた。

白石のあがる声はベッドが軋む音と一緒に藍沢の耳が拾い上げ
自分の動きに合わせて上下に揺れる彼女の故意の腰が、
優しく労るという藍沢の僅かに残された理性を着々と崩す。
藍沢は白石の足を持ち上げ押し込んで上体をぐっと前に倒した。
白石の喚声が響く。
打ち付ける速さと強さ、そして吐息が増していき、
激しくなるこの行為でもっと快楽を求めるように二人は絡んだ。
快感で歪んだ藍沢の顔を見た白石は、気づかないうちに彼をきつく締め付けていた。
掠れたような、音がのらない藍沢の食いしばるような声が聞こえて
彼も気持ちいいと思ってくれていると思うと、白石は嬉しくて..
彼の引き締まった体を、腹から胸板そして首まで撫でて肩を持った。

白石の中のとある一点。藍沢がそこを突くと
彼女の「あっ」という喘ぎ声が律動から一定に続く。
藍沢の肩に爪を立ててしまい眉を寄せた彼に謝る余裕もなかった。
気を失ってしまいそいな快感がやってくる。
ぐちゃぐちゃになってしまいそうな頭をそのままに、
一気に昇りつめて予兆の収縮が繰り返された。
藍沢が上体を少し起こして白石のイクのが恥ずかしそうに
逃げる腰と太股をガシリと強く掴んだ。
早まる呼吸。押し寄せてくる最高潮の悦びの波。
常だった白石の喚声が止む。もう限界だった。
"藍沢君"。ちゃんとは言い切れなかったが白石は最後彼を呼んだ。

「だめ、イ‥ク‥、」

背中や顎が反る。命を宿したような達した白石の膣は収縮して
藍沢も果てるのを強く後押しした。

「..ッ!」

奥で。気持ちはその勢いだがそうはいかない。
間に合わないうちは白石の内腿に白濁した液体を放って
あとはかっさらったティッシュで自身を覆った。
荒い息が続く中、スタミナをかなり消耗してぱたりと白石の頭の横で肘をつく藍沢。
そんな彼のうしろ髪を白石は愛しく撫でる。
ひとつになれたのに泣きたくなるような至福の時は
果てたあとの優しいやわらかなキスだった。


朝、藍沢はもう出かけていた。
慌てて服と下着をかき集める白石がふと見つけた
藍沢からの置きメモには「起きたか、これ着とけ」の文字と彼の携帯番号が。
メモの横には、綺麗にたたまれた彼の物と思わしき黒のアンダーシャツ。
気遣いに思わずゆるんだ口元。
勘がいいやつは服装で当事者がどこぞかで泊まっていたことを悟るから。

サイズが合わないブカブカの本来七分が普通の長袖状態のインナーの
上からスクラブを着て、この日いつも通り仕事をする白石だった。






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