ひと言(非エロ)
藍沢耕作×白石恵


「抱きしめてって言ったら‥どうする、?」

カチャン。藍沢の指先から、遊ばれるのを嫌うかのようにペンが落ちた。
表情を変えずに白石を凝視する様に、巧みに捌くはずのペンを落とすという
分かりやすい動揺の表れは、妙に可笑しかった。


「‥正気か?」
「失礼な。」
「熱は?」
「ないです」
「吐き気は?」
「、ないよ」

寒気はあるか、頭痛はあるか、どこか悪いか。
問診を白石にあしらう。まるで患者扱いだ。
小馬鹿にされてるならなかったことにしてもらうつもりで
しびれを切らして白石はほんの少し語尾を荒げた。

「どこも悪くないわよ」

白石の言葉をちゃんと聞いていたのか否か、
白石にとってはどうにもうなずけないタイミングで
藍沢が落ちたペンをゆっくりと拾い上げ、胸ポケットに差し込み白石に目を遣った。
彼女の雪のように白い肌、頬がほんのり朱に染まっている。
確信に変えてもいいと思った。告白をされたのだと。

藍沢はすっと短く手を横に広げた。その表情から、感情は読みとれない。
数メートルあった藍沢との距離を白石は躊躇いつつソロソロと詰めた。
素直すぎる、自分が。
恥ずかしくて、藍沢の顔を一瞥だけする。
藍沢の微笑む顔を見た気がした。
「え?」と俯きかげんの顔を上げた時、藍沢の腕が白石の体を引き寄せた。
目の瞬きが遅くなる。トクン、トクンと鼓動が溶け合うのを感じながら、白石はこう思う。
――抱きしめてくれた。――


「何か言うことあるんじゃないのか」
「え..絶対言わなきゃ、ダメなの?」

瞬間、白石の視界が暗くなる。
唇には柔らかな感触。
5秒後、離れたかと思って酸素を求めたら、もっと深いキスが待っていた。
歯列をなにか熱い塊でなぞられて、ゾクゾクとした感覚が全身にかけめぐる。

「んっ..ふ ぁ」

息ができない‥自分の舌にまとわりつく熱い塊は彼の舌なわけで。
絡み合うその音はいやらしくて、飲みきれない唾液が口の端から伝え漏れて
いよいよ白石は泣きそうになった。こんなには、望んでない。
激しいキスにびっくりして、力なくドンと藍沢の肩を押した。
少しよろけただけの藍沢は、今の所為で白石の濡れた唇と潤んだ瞳を見て、
自分がどれだけキスに夢中になっていたのかを悟った。
またその白石の顔が彼をそそったのだが。

「好きなんじゃないのか、お前は。俺のこと。」
「だって..びっくりするじゃない」

手の甲を唇に当てて、起こった衝撃に混沌した。
こんなに身体に電気が走ったようなキスははじめてだった。
そんな、痺れるようなキス。とろけていたのかも。

「俺はお前‥白石のことが好きだ、たぶん」
「たったぶん!?そんな気持ちで..」
「そんな気持ちだからキスした、だけど今分かったよ」

藍沢は白石の腕を掴んで引き寄せる。
首筋に唇を落として彼女にちりつく痛みを覚えさせた。

「あっ」と簡単に声が漏れて、さっきのキスの余韻が残ってるらしい。
「男よけになったな」謀ったような僅かな笑みに、白石は目を丸くした。
こんな人だったっけ‥なんだか小学生みたい‥


「好きだ。」


たった、たったそのひと言でだけど。
いつの間にかスクラブのすき間から滑り込んできた熱のこもった手のひらや、
食べられてしまいそうなキスに、藍沢に、自分のすべてを白石は委ねた。






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