一ヶ月ぶりの休暇(非エロ)
藍沢耕作×白石恵


大袈裟ではなく1ヶ月。1ヶ月ぶりの休暇。
昼まで寝て、公園を散歩して、おいしいパン屋さんでサンドイッチ買って
ぼんやりと青空を見上げながら何も考えず歩いて、気づけば目の前には
ドクターヘリが佇んでいる。

「…休みなんだってば」

私は自分に呆れながらツッコミを入れた。結局は勤務先に足が勝手に
歩いてきちゃったなんて。その時後ろから

「あれ〜白石?今日休みだろ、何かあった?」

藤川先生に見つかって声をかけられた。何も悪い事してないけど
気まずくてびくっとして振り向いて

「なんとなく…。みんな、どうしてるかなぁって…」
「仕事してるに決まってるだろ〜。あれ?もしかして遠まわしに
 私はお休みなのーって自慢しにきた?白石も腹黒くなってきたな〜」
「えっ…違…」

両手にヘリに補充する医療用具を抱えて笑いながら藤川先生がヘリに向かう。
…そうだよね、私だけが今日はお休みなんだもん。自慢しに来てるようなもの。
おとなしく家に帰ろ…サンドイッチの入った紙袋を両手で抱えて
歩いていると、また、声をかけられてしまった

「一ヶ月ぶりの休暇はどう?」

…藍沢先生だ。

「どう、って…。逆に何もすることなくって、気がついたら此処に…」
「勉強と仕事一筋で、気がついたらこの辺に友達も居ないし彼氏もいない、か」
「…。」

どうして代弁しちゃうんだろう。その通りすぎて私は何も言えなかった。

「藍沢先生は…休憩?」
「食堂は食い飽きたから、ICUみんな落ち着いてるしそこのコンビニまで」

私は考えるより先に、身体が勝手に持っていた紙袋を勢いよく藍沢先生に差し出してしまった。
――何、してんだろ…

「…何。」
「…サンドイッチ…。野菜サンドと、カラアゲサンド。…雑誌に載ってた有名なパン屋さんなの」

表情を変えずに私と紙袋を交互に見ると、藍沢先生は鼻先で軽く笑う

「一ヶ月ぶりの休暇で、有名なパン屋にいって楽しいって、自慢してんのか」
「違うってば。…よかったら、これ。美味しいと思うから……」
「思うって、白石もまだ食ってないんだろ?いいよ」
「いいから。私はお休みだからいつでもなんでも食べられるし」
「だったら一緒に食っていい?有名なパン屋のソレ」

へ、と思わず藍沢先生の顔を見ると、柔らかい表情。…初めて見た、かも。
言葉もなく私は頷いて藍沢先生の後ろを歩いていった。

屋上は予想より人が多くて、結局は病院裏手の芝生の上に座る。
こんなところがあったんだ…そっか、藍沢先生は毎朝ランニングしてるから、院内の敷地の事
詳しいんだね。私は全然、知らなくって…

「美味い」

あ…色々と一人で考え込んでたら、ついぼーっとしてたみたい。藍沢先生が
サンドイッチを頬張ってぽろっと一言感想を言った。私も持っていたサンドイッチを食べる。

「…おいひ」

パンが美味しい。やっぱり有名だからかな。結構家から近いし、これからご贔屓に
しちゃおうかな…緋山先生もこういうの好きかな、でも彼女ダイエット中だし…

「ありがと。っていうか、何か喋れよ」

私はずっと、黙り込んでいた、みたい。あれこれ考えてたから…

「ごめん…。美味しくて。…あ、これも食べていいから」

結局はあまり会話もなく、二人で黙々としたランチタイムになってしまった。
私がもっとなにか、気の効いた話でもできたらよかったんだけど…

「白石」
「――なに?」
「ここ。」

藍沢先生が私の顔を指差してる

「えっ…何?」

問いかけたら1秒もしないうちに、藍沢先生に肩を掴まれ唇をキスで塞がれた

何が何だか…
食べるみたいな勢いでのキス。藍沢先生の舌先が私の唇を擽るように、舐めて
少し強めに吸われると最後に一瞬舌が入ってきて…ゆっくり、離れた

感触と、体温と呼吸…藍沢先生、呼吸数多かった…?あ、何か、言わなきゃ…

「あのっ…」
「マヨネーズついてた。唇の端に」

今更、私は心臓が止まったかもしれない。痛いくらいに胸の内側からドン、と鼓動が跳ねた。

「――…ありが、とう…」

含み笑いをした藍沢先生が立ち上がると、PHSが鳴って通話してる。急患らしい。

「昼飯、ありがとう。マヨネーズ美味しかった」

そのまま小走りで病棟の入り口に向かう背中を、私はぼんやり見るしかできない。
気がついたら…腰、抜けてるかも。…びっくりしすぎ?っていうか普通驚くよ…

一ヶ月ぶりの休暇、私は、数秒間だけ夢の中にいたみたいだった。






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