平八さんの城(非エロ)
しいね×お鈴


「ふう・・・」

疲れた。
ベッドの上に身を投げ出す。
今日はこの城、平八さんの城での第一日目だった。
この城には魔界とこっちをつなぐ門があるため、ここを管理する人間が必要だということで
僕がその仕事を買って出たのだった。

お師匠様がいない、チャチャさんがいない、生まれて初めての一人暮らしだ。

あの日、リーヤの馬鹿がチャチャさんにプロポーズし、その後間もなくセラヴィーさんとお師匠様が
くっついて・・・それでもしばらくはそれまでどおり、チャチャさんがいて、お師匠様がいて
セラヴィーさん、ぽぴぃくん、…と犬、との奇妙な共同生活は続いていた。
でも、5年後、チャチャさんが本当に結婚してしまい、お師匠様が魔界に行き・・・その日、僕の日常を
作っていたものが音を立てて崩れ去ってしまった。
長すぎたお祭りの終わり・・・そんな感じ。
もちろんチャチャさんにもお師匠様にも2度と会えないワケじゃない。
いつでも遊びに来いと言ってくれてる。

でも、違う。
チャチャさんにはチャチャさんの、お師匠様にはお師匠様の生活がある。
それは一緒に暮らしてたあの頃とは明らかに違うものだ。
だから僕も僕の新しい生活を始めなきゃいけないと思った。
その意味でこの城に引っ越してきたのは気分転換できてよかった。

城での初めての日、誰もいない城の一室、簡素なベッドの上、大騒ぎだったそれまでの暮らしから
一転した静かな夜、そこで僕は横になりながら、色々なことを考える余裕ができた。

チャチャさんが結婚してしまったこと、もうどうあっても諦めなければならないこと、お師匠様のこと、
これからどうしていこうかということ・・・・・・。
僕はお師匠様の城で初めてチャチャさんを見た時のことを思い出していた。
あの日初めて会った瞬間から、僕はチャチャさんに惹き込まれてしまった。
容姿、性格、そのはちゃめちゃな行動、全てひっくるめて惚れてしまった。
理屈じゃ割り切れない、そうなったんだから仕方がない。
とにかくチャチャさんのハートを射止めるために必死だった。
でも・・・僕のアタックは見事に当たって砕けた。
そう、終わったんだ。

静かだ。
夜がこんなにも静かな世界だったのかと思った。
大の字になって天窓の星を見つめた。
失恋、新生活、一人・・・。

「あ・・・・・・」

コメカミが一寸濡れた。
慌てて流れた涙を拭った。
誰もいない部屋のはずだけど、誰かが見てると一瞬思ったのかも知れない。
そして、それは果たして正しかった。

「コンコン」

・・・ノック?

この部屋は城の門からはかなり離れた場所(しかも6階)にある。
それに窓から扉からさっき全部戸締りしたんだけど・・・

「コンコン」

また、今度はどこから鳴ったか分かる。
上―天窓だ。

「誰ですか?」

ちょっと意地悪だったなと思った。
誰かはすぐ分かった。
こんな夜にこんな高い部屋の外で待ってる人なんてそうそういない。
僕の真っ先に思いつくその人は・・・

「こっ・・・こんばんは、しいねちゃん・・・!あの、ごめんなさいっ・・・こんな時間に・・・」
「構いませんよ。寒いでしょう、今開けます」

やっぱり思ったとおりの彼女だった。
ピンクの忍び装束に亜麻色の髪、その独特の結い方。
顔を赤らめ寝室に下りてきた女の子は、嘗ての同級生だった。

「こんばんは、お鈴ちゃん」
「こんばんは・・・あのっ、ごめんなさい・・・こんなっ・・・」

さっきと同じリアクションを繰り返すお鈴ちゃん。

「いいんですよ。それよりどうしたんですか?」
「あ・・・はい、その・・・お引越し、おめでとうございますっ!!」

そういってお鈴ちゃんの差し出したのは、木でできた食器?の上に少し茶色がかった不思議な麺。

「これは・・・」
「はいっ!おじいちゃんが、お引越しのお祝いにはこれだって言って・・・引越しそばって言うんです!」

お鈴ちゃん達忍者のルーツはどこか遠い島国らしい。
忍術もさることながら、そこでの古い風習を受け継いでいるのでたまに僕たちには珍しい物も
持ってきてくれる。
実は、さっきまで引越しのお祝いということで久しぶりにニャンコハウスの全員が集まっていた。
それはもう大騒ぎだったけど・・・それぞれ明日があるということで帰ってしまった。
みなお祝いついでに泊まるどころか数日は居着くんじゃないか・・・なんて思ってたから割と肩透かしされた気分になって、前とは違うことを改めて知らされることになった。

「へえ・・・ありがとうございます。じゃこっちで・・・一緒に食べませんか?」
「え!?」
「お祝いに来てくれたんでしょう?」

お鈴ちゃんは少し戸惑ったように見えて、でも

「はっはいそうです!いただきますぅ!」

と嬉しそうに言った。
いただきますも何もお鈴ちゃんが持ってきたんだけど。
まあ、あのままだと、とことん沈んでしまいそうだったのでなんだか助かった気になった。
僕達はテーブルについた。






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