マリッジブルー
セラヴィー×どろしー


昨夜から降り続く長雨のせいで空はどんよりと重く、まだ昼間だというのに辺りは薄暗く霞んでいる。
大木が並ぶもちもち山の森の裾に広がる草原の丘の上に、世界一の魔法使いの住む家があった。

「嫌な天気ね。これじゃどこにも出かけられないわ。」

窓から外の様子を覗き込みながらため息をつくのは隣のうりずり山に住む魔女どろしー。

「どろしーちゃん、お茶にしましょう。」

昼食の後片付けをしていたセラヴィーが台所から顔を出すと、私も手伝うわ、と勝手知ったる他人の家。
戸棚からティーセットを取り出しテーブルに並べるとセラヴィーが手作りの焼き菓子を運んでくる。
これがいつもの日常。ほぼ毎日一緒に食事をし、お茶を飲みたわいもない会話。
つい最近までは弟子達と一緒ににぎやかに過ごしていたのだが、うらら学園を卒業し、
セラヴィーの弟子のチャチャは魔法の国の王女だったためお城へ、どろしーの弟子のしいねちゃんは
王宮に仕えるため、リーヤも2人にくついてそれぞれ自分の人生の道を歩み始めた。
長い間の習慣で、弟子達が巣立った後も一定の距離を保ちながら付かず離れずの微妙な関係が続いていた。

温かい紅茶でほっとひと息ついたところでバーン!!といきなり玄関のドアが開けられ、誰かがズカズカと上がりこんで来た。

「セラヴィーいるのにゃ?!」

現われたのはセラヴィーに想いを寄せるシロネコだ。

「こんにちは、シロネコさん。」
「セラヴィー!会いたかったのにゃ〜!今日はセラヴィーのために特製のケーキを焼いてきたのにゃ!」
「そ、それはありがとうございます。」

どろしーはこの娘が苦手だった。自分とは正反対で、好きな相手に何の躊躇も無く堂々と気持ちをぶつけ積極的になれるシロネコを
正直うらやましいと思う。今も目の前でセラヴィーの腕に絡みつき、ベタベタ、イチャイチャと効果音まで聞こえてきそうな
様子を見せられ、面白くない。

「毎日毎日、よく飽きないわね!もっと静かにドア開けられないの?」
「うるさいにゃ!いじわる魔女なんかに用はないのにゃ。ああ…、愛し合う2人の間には必ずといっていいほど
障害が立ちはだかるもの…。でもたとえどんなに引き裂かれようとも2人の愛は決して壊れることはないのにゃ!
ああ…!どんなに険しい道のりでも性悪魔女に負けるわけにはいかないのにゃ!耐えてみせるのにゃ〜!!」

勝手に自分の世界に浸るシロネコに対してどろしーのイライラが頂点に達した。

「ちょっと!!好き勝手言ってんじゃないわよ!!誰が性悪魔女よっ!!!!」
「まあまあどろしーちゃん。」

困惑しセラヴィーがなだめようとするが、あまりの怒りでどろしーには聞こえていない。

「大体、私はセラヴィーのことなんか大っキライなんだし、関係ないじゃない!」
「じゃあなんで毎日セラヴィーの家に来てるのにゃ?」
「な、何でって、別に…」

「どうせ自分じゃ料理作れないから毎日たかりに来てるだけにゃ?」
「ううっ…」

たじろぐどろしーを庇うようにセラヴィーが2人の間に割り入る。

「いいんですよどろしーちゃん、私は別に…」

図星をつかれ、どろしーはいい返せない。なんだか自分が情けなくなった。
畳み掛けるようにシロネコは続ける。

「私はセラヴィーに会いたくて毎日おいしいお菓子や差し入れをしに来てるのにゃ。
結婚が破談になった、過去の女にどうこう文句言われる筋合い無いにゃ!」

…一瞬、セラヴィーとどろしーの表情凍りついた。
どろしーはうつむいて少し考え込むと、フッと小さく笑い、そして毅然とした態度で言った。

「そうね、私もうここには来ないわ。」
「どろしーちゃん、何を言うんですか!」

驚いてセラヴィーがどろしーに詰め寄る。

「考えてみれば、一時の気の迷いだったとはいえ結婚が破談になった相手とズルズル一緒にいるのは不自然だわ。」

セラヴィーは返す言葉が見当たらない。自分のせいではあるが、結婚のことは
苦い思い出として、2人の間ではあれ以来口に出すことはなかった。

「よかったじゃない、セラヴィー。こんなに想ってくれる人がいるんだもの。これからは
2人で仲良く幸せになんなさい。」

…よくもまあ、思ってもいないことがスラスラ言えるものだと、どろしーの心はズキズキ痛んだ。

「待ってくださいどろしーちゃん!」

玄関に向かうどろしーを引き止めようとセラヴィーが追いかけるが、シロネコに後ろから抱きつかれ、「うわっ」と声を上げて
そのまま床に倒れこんだ。

「セラヴィー!!元婚約者の許しも出たし、今日からここは2人の愛の巣にゃ!!」
「そんな!シロネコさん困りますっ!!」

上に覆いかぶさるシロネコを押しのけてどろしーを見ると、玄関のドアを半分まで開けてこちらを見ていたどろしーと
視線がぶつかった。ふっと目を逸らし、「じゃあね。」と言い残し雨の中箒で飛び出して行った。

どのくらい時間が経っただろう。冷たい雨に打たれながら全力で箒を飛ばしていたせいで手はかじかみ、突き刺すような痛みを覚える。
さすがに飛ばし過ぎだ。体力も限界に差しかかってきたところでどろしーは降りることにした。
雨をしのげる場所を探し、森の横に聳える頁岩の群れを見つけた。
濡れて黒く光る頁岩の隙間に腰を下ろし、目の前を流れる川の急流を黙って眺める。

(結婚が破談になった相手にどうこう言われる筋合いは無い)

「…思い出させないでよ。」

シロネコに言われた言葉が頭の中をぐるぐる廻っている。忘れかけていた古傷を鋭いナイフでえぐられたようだった。
膝を抱え、頭を伏せる。悲しくて寂しくてどうしようもない。

―今頃しいねちゃん達どうしてるかしら?元気に修行頑張ってるのかな。チャチャはお姫様だから
魔法ほかに作法や立ち振る舞いなんかも勉強させられてるわね、きっと。リーヤは力があるからなんとかなるわよね。

セラヴィーは…今頃あの2人は…。

もう戻れない。もうセラヴィーには会えない。断ち切ったはずの想いが再び溢れ出し、自覚してもどうにもならない。
以前プロポーズされた時に「髪の色なんか関係ない」と言ってくれた時は泣きそうな位嬉しかった。
でも結局セラヴィーが選んだのは金髪のどろしー。裏切られた、と思った。愛している、という言葉も嘘。
弟子達の手前、波風を立てたくなかったこともあり傷ついたそぶりは見せなかったが、本当はずっと我慢していたのだ。
シロネコややっこちゃんのように好きな相手に気持ちを曝け出すことは、どうしてもどろしーにはできなかった。

セラヴィーは…

立ち上がり、フラフラと森の中を歩き出す。激しかった雨は木々に遮られ少し弱まり、
しとしととどろしーに振りそそぐ。顔を上げ、目を閉じた。

―全部、流れてしまえばいいのに。ドロドロした感情も、苦しい思いも何もかも。
忘れられたら、どんなにいいだろう…。




どろしーが飛び立った方角に箒を急がせる。どろしーの家とは反対の方角なので、家には帰っていないと思う。
こんなに冷たい雨の中、一体どこでどうしているだろうか。セラヴィーは心配でたまらない。
家を出るとき、今まで見たことの無いような目をしていた。怒り、悲しみ、複雑な感情が入り混じったような氷の目をしていた。
本当に、もう2度と会えなくなるかもしれないと、セラヴィーの全身の血が凍りついたようだった。
箒を握る手にぐっと力を込め、どろしーを上空から探す。

ずいぶん歩いた気がする。薄暗い森の中をさまよい続け、濡れたドレスは重く、足が棒のようだ。
かがんで足をさすり、その時気が付いた。

「あら、帽子が無いわ。いつ落としたのかしら…。」

自分のトレードマークのような帽子を落としたことにも気付かないくらいどろしーは疲れていた。

「やだ…、ここどこ?私、どこから歩いてきたのかしら…。」

とにかく引き返そうと元来た道を戻ろうとするが、自分の歩いてきた道をほとんど覚えていない。
魔法で箒を出そうとするが、体力の疲れと精神の乱れで魔法を使う気力さえほとんど残っていなかった。

「どうしよう…」

木にもたれたその時、パキリ、と枝を誰かが踏む足音が聞こえてきた。そしてその音は徐々に近づいて来る。

「だ、誰かいるの?」

息を呑み、足音のする方を見つめる。すると、薄暗闇の中から見覚えのあるシルエットが姿を見せた。

「どろしーちゃん?」
「セラヴィー…」

驚きと戸惑いでしばらく見つめ合う。最初に口を開いたのはどろしーだった。

「なんでここにいるの?」目を逸らし、ばつが悪そうに言った。
「探しに来たんですよ。そうしたら、岩山の近くでどろしーちゃんの帽子を拾ったものですから。」

ほら、とどろしーのトレードマークを差し出した。

「森の入り口に人の通った跡があたので、もしかしたらと思いまして。…心配したんですよ。」

―心配してくれたの?
セラヴィーの言葉にどろしーの心が揺らいだ。

「心配って…、やーねー!別に私はただ用事があって、そう!薬草が足りなくて探していただけなのよっ。」
「この雨の中ですか?」

セラヴィーの緑柱石のような瞳にまっすぐ見つめられると、心の中を全て見透かされるようで再び目を逸らす。
必死に言い訳を考えたところで無駄なことを悟り、うつむくしかない。

セラヴィーがそっとどろしーを抱き寄せた。

「や、ちょっと!!何、何の真似よ!」

突然の抱擁に驚き、離れようと抵抗を試みるがセラヴィーの腕にがっしりと抱きすくめられ、
逃れられず、疲労で力が入らないどろしーは抵抗をやめた。

「…ったく、何なのよ…。」
「心配したんです、本当に…。」

どろしーはそのままセラヴィーに寄りかかり、胸にコツン、と頭を当てる。
トクン、トクンとセラヴィーの心臓の音を聞いているうちにさっきまでのドロドロした心が
静かに溶けていくのを感じた。

「あの娘はどうしたの?」
「シロネコさんなら、もう帰りましたよ。」
「そ、そう…。」

抱き合ったまま、沈黙が流れた。聞こえるのは2人を濡らす柔らかな雨の音だけ。

沈黙を破るようにセラヴィーが口を開いた。

「ずっと、話をしなければいけないと思っていたんです。あの時の、結婚式のこと。」

どろしーの表情が強張る。

「別に、もう終わったことじゃない。あんたが好きだったのは、昔の私だったのよ。今更どうしようもないじゃない?」
「そうじゃないんです、本当にどろしーちゃんが好きなんです。」

「何、言ってんの?じゃあどうして、あんなことしたのよ!!」

顔を上げ、いい加減なことを言う男をキッと睨みつける。が、セラヴィーは逃げることなく
真っ直ぐにどろしーを見つめ、その目はどろしーの全ての怒りを受け止めようとしていた。
そんな目で見られると、どろしーは怒るに怒れなくなり、ため息をついた。

「…言ってみなさいよ、ちゃんと聞いてあげるから。」

「式の前日、チャチャ達のことを考えていたんです。まだ学校も卒業していない、師としてまだやり残したことが
あるんじゃないか、このままでは中途半端ではないか、とか、…情けないことですが、迷いが生じてしまいまして。」

聞きながら、どろしーにも思い当たる節があった。どろしー自身も式の直前にしいねちゃんのことを考えて悩んだことがあった。

「もちろんどろしーちゃんのことは本気です。でもまだ今のタイミングでは無いと逃げ出してしまいました。」

セラヴィーは続ける。

「私は臆病者です。親の愛を知らない自分が本当に人を幸せにできるのか、家庭を作れるのか、色々考えてしまいまして。
プロポーズまでしておいてこんな気持ちになるなんて、私にはどろしーちゃんと結婚する資格が無いと思ったんです。」

セラヴィーの言い分を一通り聞いて、どろしーはようやく理解できた。

「あのねセラヴィー、私もそうだったのよ。」
「えっ…」
「あんたとまったく同じ気持ち。不安と迷いで本気で悩んだわ。」

ショックを受けて固まっている。

「でも普通、そうなるのよ。とくに女の方が。」
「?」

せらヴぃーにはなぜどろしーが苦笑しているのか、よく理解できない。

「あんたね、それはマリッジブルーよ。」

ぽかんとした顔でセラヴィーが言った。

「マ、マリッジブルー?この私が?」

どろしーは呆れ顔になって言う。

「そうよ。」
「まさか!だって20年間ずっと心に決めてたことなのに、そんなことってっ!」
「あ〜、もう!今までなんだったよ!バカみたい…」
「本当、情けないです…。」
「どんだけ弱っちいのよ、あんたは…」

どろしーの腕がそっとセラヴィーの背中に回され、セラヴィーももう一度しっかりとどろしーを抱きしめた。

「好きですよ、どろしーちゃん」

お互いの顔が近づき、目を閉じる。初めての口付けは濡れていてひんやりと冷たかったが、
しっとりと甘い口付けにどろしーの心は火照るように温かかった。お互いのぬくもりにしばしまどろむ。

「セラヴィー…。」
「はい?」
「お腹すいたわ。」
「こんな時でも食い意地ですか。そのうち太りますよー。」
「なんですってー!」

ポンっとセラヴィーが魔法で箒を出す。

「帰りましょうか、どろしーちゃん。」

スッと差し出された手をとり、セラヴィーの後ろに乗った。
あめは冷たく2人ともびしょぬれだったが、心の中は晴れやかだった。

家路に着く頃には日が落ちすっかり夜になっていた。
濡れた服を脱ぎとりあえずバスローブに着替え、食事を済ませた。
どろしーはソファに座り、暖炉に薪を焼べているセラヴィーの背中を見つめる。
視線に気づいたセラヴィーが振り返り、優しく微笑みを返すとどろしーは少しくすぐったいような気持ちになる。

「やっぱりドレス、なかなか乾きませんね。」
「そうね。困ったわね…。」


いつもと状況が違うことに慣れず、どうしてもぎこちなくなってしまう。

「寒くないですか?」
「平気よ。暖炉って結構あったかいのね」

暖炉の炎を黙って見つめる。静かで優しく、静寂が部屋の中に広がる。

セラヴィーが台所から酒瓶と2つのグラスを持ってきて、1つをどろしーに渡した。

「ラム酒です。ちょっと強いので少しだけ。」

どろしーは注がれた酒を一気に煽った。

「く〜、これは効くわね!」セラヴィーもどろしーの隣に腰を下ろして酒を飲み干した。
「あったまりますよ、これは。今日はずっと雨に打たれてましたから。」
「冷たいし寒いし疲れたし、何だか凄い1日だったわ。」
「色々ありましたからね。」
「えぇ、色々…」

会話が途切れ、雨音が部屋に響く。どうしても昼間の出来事を意識してしまい、ぎこちない。

「雨、止まないわね。」

沈黙が苦しくなり、どろしーはなんとか言葉を探して発した。

「泊まって行きますか?」
「え…」

どろしーが一瞬固まる。

「冗談です。」

ニッコリ笑ってセラヴィーは立ち上がり、どろしーの傍を離れて再び暖炉の薪を焼べ始める。

「あ、あんたね!びっくりするじゃないっ。」

心臓が飛び出そうになった。しらっととんでもないこと言って冗談だとからかう、セラヴィーのいつものパターンだった。

「いい加減、人をからかう癖直しなさい。」

セラヴィーはどろしーに背を向け、無言で薪を焼べ続けている。

「さ、さすがに今のはちょっとびっくりしたけど…」

まだ心臓の鼓動が早い。

「ねえ、セラヴィー?」

返事がない。

「ちょっと!さっきからなんで無視してんのよ?セラヴィー!」

詰め寄るどろしーに背を向けたまま、セラヴィーはハァ、とため息をついた。

「冗談なんかじゃないですよ…。」
「え?」

振り向いていきなりどろしーを胸に引き寄せた。

「セ、セラ…っ」

突然、何が起こったかわからない。セラヴィーはハッとして胸の中でパニックに陥っているどろしーを引き離し、背を向けて言った。
「どろしーちゃん、今日はもう帰った方がいいです。」
「セラヴィー…」
「ドレスは魔法でなんとかします。だから…」

抱き寄せられたほんの一瞬、セラヴィーの情欲が垣間見えた。セラヴィーが自分を求めている。
いつも笑顔で本心を隠してきたセラヴィー。背を向けているのは笑えてないから。今その
後ろ姿はどろしーには苦しそうで寂しげに見えた。

一緒にいたい、そう思った。

どろしーは咄嗟に離れて行こうとするセラヴィーの腕をつかんだ。

「どろしーちゃん?」
「わ、私…」
「…?」

顔を上げ、身体を強ばらせながらも絞り出すようにセラヴィーに目で訴えた。

「私を…、あんたのものにして…。」

思考が止まり、見つめ合い、お互いにもう目を逸らすことができない。
セラヴィーは震えるどろしーの手を取り、そっと抱き締め、少しひんやりと
水気が残るピンクの髪を撫でて額に口づけを落とす。

「…いいんですか。」

問いかけにこくん、と頷いた。どろしーの精一杯の返事だった。 それを合図に唇が塞がれ、
舌が侵入してくるとどろしーの舌を絡めとり、どろしーもそれに応えるように舌を必死に差し出す。
熱い口づけの間にもバスローブの紐を解かれ、肌けられ一気に床に落とされ、お互い一糸纏わぬ姿で暖炉の赤い灯りに照らされた。

裸体が露になり慌ててどろしーは手で胸と大事な部分を隠し、恐る恐るセラヴィーに向くと、
まるで彫刻のような完璧なセラヴィーの肉体に釘付けになる。普段はローブに隠れている広い肩幅、
程よい筋肉で引き締まった身体、初めて見る逞しい男性の象徴に驚き、思わず頬が赤くなる。

「どろしーちゃん、隠さないで…。あなたの全てが見たいんです。」

真剣なセラヴィーの懇願の言葉に恥じらい、戸惑いながらも、意を結してゆっくりと手を退ける。
白い陶器のような肌に豊かな質量の形の良い胸、細くくびれた腰、引き締まった金色の局部、スラリとした脚。
どろしーはセラヴィーの想像以上に美しかった。

「綺麗です、どろしーちゃん…。」

セラヴィーは優しく、どろしー抱きすくめる。

「こ、これからどうすればいいの?」

緊張のあまり鼓動が激しくなり、うまく呼吸ができないどろしーに優しくセラヴィーが微笑み返した。

「大丈夫…委せてください、優しくしますから…」

シーツの上に横たえられ、ガチガチに固くなっているどろしーの緊張をほぐすため指を絡め手を握り、
優しく、優しく何度も口づけを繰り返す。

「はぁ……」

どろしー表情がうっとりとし始めたのを確かめると、白い滑らかな肌をセラヴィーが手と唇で愛撫する。
豊かな胸を手のひらで包みやんわりと揉みしだき、薄いピンク色の頂を唇で挟むと、
一瞬、どろしーにビクンと電流が走った。
セラヴィーの舌が乳輪をなぞり、頂をつついて転がし、刺激を与える。 「んっ…、ぅん…っ」
どろしーは手の甲を唇に押し当て、恥じらいから声が漏れないように我慢していた。

「そんなに息を詰めないで」
「だって、セラヴィー…声が…ぁんっ!」

頂を吸われ、もう片方の胸を手で弄ばれる。

「やっ、あん…あっ…あっん…」

生まれて初めての甘い感覚に呼吸が乱れ、戸惑いながらも陶酔していった。
セラヴィーは身体を起こし、もう一度どろしーの唇を貪り深く舌を絡ませ合いながら、
手のひらで太股を撫でさすりながらゆっくりと上へ移動させていく。「や…!ま、待って!」
慌てて太股を閉じたがどろしーの脚は細く、隙間が空いてしまい抵抗する間もなくセラヴィーの手が秘部に到達した。

「ああっ…、いやぁ…バカ…」

そこは既にたっぷりと潤っていた。中から涌き出てくる愛液をかき出すように割れ目に沿って指で上下に往き来させる。
小さな突起にくるくると塗りつけるようにゆっくりと。

「はぁ…ぅんっ、セ、セラ…あぁん……」

(落ち着け、落ち着け)

セラヴィーはどろしーを気持ちよくさせることに没頭した。傷つけないように、
自分の中の獣が暴れだしそうになるのを必死に理性で抑えていた。

どろしーの下腹部にずぅぅん…と甘い疼きが広がる。中指で入口をほぐしながら親指がせわしなく
突起をコリコリと刺激し始めると水音も息づかいも激しくなる。

「あぁっ、んあっ、やっ、何これっ、あん、ダメっ、ダメっ、あんっ!ああああっ」

ビクンビクン、と小さく身体を痙攣させ、ぐったりとしたどろしーにセラヴィーが唇を重ねる。
ゆっくりと太股を開き覆い被さるように身体を割り込ませ、セラヴィー自身をどろしーの愛液が溢れる入口に当てがう。

「愛しています、どろしーちゃん」
「わ、私も…」

セラヴィーがゆっくりと慎重に身を沈めると、ピリッと裂けるような激痛がどろしーの全身を駆け巡り、
メリ、メリと肉が押し広げられる。

「…っ、くっ…、いっ、やぁっ、痛い!」

痛みに耐え切れず思わずセラヴィーにしがみついた。

「どろしーちゃん…、大丈夫ですか?」

歯をくいしばりながらもうっすらと目を開けると、セラヴィーの心配そうな顔が覗いている。

「セラヴィー…、ごめんね、平気よ。」

目に涙を滲ませながらも微笑んでセラヴィーの頬に手を添えた。

「もう少しですから…力を抜いて…」

どろしーが頷き、力を抜き目を閉じた。セラヴィーは再びゆっくりと侵入し、最奥に到達した。

セラヴィーの全てが入ると不思議と痛みが和らいだ。

「どろしーちゃん、痛くないですか?」
「少し…でも大丈夫よ。」

セラヴィーの背中に手を回すと、しっとりと汗ばんでいる。

「どろしーちゃんの中、あったかい…。」
「バカ」

口づけを繰り返しながらゆっくりと腰を動かす。
動かれると痛みが強かったが徐々に快感に変わって行った。

「くぅ…んっ、んっふぅっ…」

重なったままの唇の隙間から微かな喘ぎ声が漏れ、もっとその声が聞きたくて
唇を離し、どろしーの腰を掴み徐々に激しく揺さぶる。

「はぁっあん!、あっ、ん、んあっ、あぁ、あん!ああんっ」
「どろしーちゃんっ、ふっ、くっ、どろしーっ!」
「ああっ、セラヴィー、セラ、はぁっ、あんっああ!もうっ…」
「どろしーちゃん、一緒に…っ」

「ああっん、あっ、あああああ……」

セラヴィーが全てを注ぎこんだ瞬間、どろしーも共に達した。その一瞬、2人同時に幻を見た。
広い草原で幼い子供が2人、柔かな陽射しの中風を浴びて走り回っている。指切りで誓いを交わした遠い記憶。

シーツにくるまり、お互いの体温を感じてしばしまどろむ。

「身体、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。」

果てしない夢だった。永遠に叶わないと思っていた。しかし今こうして目の前にいるのは、自分の腕に抱かれ微笑んでいる愛しい女性。
愛しさが込み上げてくる。どうしようもないくらいに。堪えきれなくなりもう一度思い切り、抱きしめる。

「きゃっ、ちょっとセラヴィー!苦しいわよっ。」
「幼い頃からずっと、あなたが好きでした。ケンカばかりしてた時も本当はずっと…」
「分かったわよ、もう…」

今日何度目かのキス。

「どろしーちゃんは?」
「え?」
「どろしーちゃんは、私のこと好きですか?」

ストレートな問いかけに、どろしーの顔は耳までカーっと赤くなる。

「…じゃなかったらこんなこと、しないわよっ」
「ハッキリ聞きたいです。」

楽しそうにニコニコと笑ういつもの意地悪なセラヴィーに、くやしいが今日は敵わない。

「〜〜っ、…すっ、すっ、す、好きよ…」

どろしーは顔から火が出そうな程恥ずかしかったが、ずっと意地を張ってきた心がスッキリしたような気がした。

「…どろしーちゃん」
「な、何よ?」

ガバっと一瞬のうちに再び組敷かれた。

「ええっ!ちょ、ちょっとセラヴィーっ」
「2度目、いや3度目の正直です。結婚してくれますか?」

セラヴィーの優しい表情から自分への愛情が伝わってきて、嬉しくて涙が滲んでくる。

「しょうがないから、い、いいわよ、結婚してあげても。」

「愛してます、どろしーちゃん…」

抱き締め会い、とろけそうなほど唇を奪い合う。

いつの間にか雨は止み、部屋には甘い吐息と雨だれの静かな音が祝婚歌のように響いていった。






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