どろしーちゃんのミルク
セラヴィー×どろしー


「僕もどろしーちゃんのミルクが飲んでみたいです…。」

疲れきって大きなベッドでうつらうつらしている中、飛び込んできた突拍子もない発言に、どろしーは我が耳を疑った。

がばりと身を起こすと、とんでもない発言の主と思われる男は、母親の乳を飲み満腹となった子供ふたりにげっぷをさせ、順番にあやして寝かしつけたところだった。

「…………なんか言った…?」

広い部屋の端に置かれたベビーベッドに向かっているため、見えるのは男の背中だけであったが、どろしーはおそるおそる聞いた。無視しておけばよかったのに、ついつい聞き返してしまったのは疲れ切って判断力が鈍っていたせいか。

「だから、僕もどろしーちゃんのミルクが飲んでみたいなーって。」

ユーリンとリーランがとっても美味しそうに飲んでるんですもん〜。

くるっとこちらを振り返り、かわいこぶった仕草で二児の父親となった男が言うが、それは妻の欲目をもってしても(いや、この妻は夫に対し欲目などと言うものは持ち合わせていなかったが)気色悪いだけだった。

しかし悲しいかな、長年の付き合いと近年親密さを増した関係により、この男の性格も習性も性癖も知り尽くしてしまったどろしーは、夫のこの発言にドン引きするよりも、こいつなら言いかねないと無意識のところで納得してしまっていた。

それはもうあきらめの境地だったのかもしれない。

どろしーはとにかく疲れていた。双子を無事出産してから2カ月、十分な睡眠などとることができないまま子供達の世話に追われる日々。

もちろん愛しい我が子を育てる事には大きな喜びも充実も感じていたし、本来なら忙しい立場にいる夫・セラヴィーも「この時代、男にも育児休暇は必要です」などとほざき、どろしーに対し非常に協力的で助かっている。

しかしそれでもやはりどろしーは疲れていた。そこにダメ押しするような、久々のセラヴィーの色ボケた発言である。どろしーがそこで多少投げやりな気持ちになったとしても、彼女を責めることはできまい。

「美味しいもんじゃないと思うけど、飲んでみたら?いーわよ、ちょっと搾ろうと思ってたし。」

ぱあっとセラヴィーの顔が輝いた。

それはまだ幼かった頃、どろしーがセラヴィーの無邪気なプロポーズを受けた時に見せた顔と同じだ。互いが大人になり、意地を張り倒した末にどろしーが再びプロポーズを受けた時、そして自分の中に新しい命が宿った事を告げた時にもこんな顔をしてたっけ…。

ぼんやりとどろしーが考えていると、すごい勢いで駆け寄ってきたセラヴィーが、ベッドから身を起こしたままのどろしーの腕をがしりと掴んだ。大きくてふかふかしたクッションのような枕に背を押しつけられる。

ぶちぶちっと音をさせてどろしーの上着のボタンを途中まで外し、覗いた下着のフロントホックを外し、大きく開いた襟ぐりから重そうな二つの丸みをはみ出させた。

「えっ、ちょっ、これから搾るから…」
「直接吸うに決まってるじゃないですか!」

どろしーの発言を遮り、きっぱりとセラヴィーは言った。伊達に周囲の人間から「変態」と言われ続けていた訳ではない、すがすがしい程の言い切りぶりだった。

呆気にとられたどろしーをよそに、セラヴィーはまろびでた乳房に顔を近づけ、まじまじと見つめた。

「どろしーちゃん…元々おっきいおっぱいでしたけど、ますますおっきくなりましたねえ。」

目を細めて顔で鼻先を胸の谷間に寄せる。

「どろしーちゃんのおっぱい、いいにおい…」

うっとりと呟くセラヴィーに、どろしーは一気に恥ずかしくなった。セラヴィーの前で授乳をする事に特に抵抗など無いし、大体子供まで作るような間柄である。しかし、真昼の陽光に照らされながら、こんなふうに間近で堂々と裸の胸を見られた事など今まで無かった。

「いいからさっさと味見てみなさいよっ!」

気恥ずかしさから怒鳴りつけると、セラヴィーは「ハイ、遠慮なく♪」と、悪びれずに返してきた。

「乳首もおっきくなってますね〜」

わざわざ解説し、どろしーが羞恥に顔を歪めるのをニヤニヤしながら見る。
そして不意打ちのように、どろしーの左の乳首をぺろりと舐めた。

「あんっ」

ぴゅっ

張ってしまった乳房は、それだけの刺激で先端からミルクを噴き出させてセラヴィーの口元を濡らす。
それを舐め取ったセラヴィーは、今度こそどろしーの乳首にむしゃぶりついた。

ちゅぱっ、ちゅぱっ、んくっ、んくっ、

赤ん坊のように効率的に吸い出す事はできないが、その分、舌や唇を使って敏感になった乳首にいたずらを仕掛けてくる。
どろしーの腕を押さえつけていた両手は、いつの間にか両方の乳房をやわやわと揉みしだき始めた。左の乳房には顔が埋められ、放っておかれたまま手の刺激だけ与えられる右の乳房からは、先端から断続的にミルクが噴き出していた。

「あっ、セラ…っ、あんっ、よごれっ、ちゃうっ…」

しばらくどろしーの訴えには耳を貸さず、ひたすら吸っては飲み下すを繰り返していたセラヴィーだったが、ぷはっと息をついてようやく左の乳首を解放した。解放された、ぬらぬらと唾液で光る乳首からは、まだミルクが噴き出す。

「どろしーちゃん、悩ましい声出して、感じちゃった?」

どろしーのミルクと自分の唾液にまみれた口元をぬぐうこともせず、セラヴィーはニヤリとしながら聞いてくる。

「あっ、あんたがわざとそういう風に…!」
「へぇ〜、どんな風に?」

ぐっ、と、どろしーが言葉に詰まった隙に、今度は右の乳首に吸い付く。

「ちょっ、味なんて充分……んんっ!」

しかし、どろしーの抗議の声が途切れた。そのまま吸いつかれながら両の乳房にいたずらをされ、どろしーはミルクを撒き散らしながら高い声をあげ続けた。


「ぷはーっ。どろしーちゃんのミルク、とっても甘くって美味しかったです!こんなに美味しーんなら僕も毎日…」

皆まで言わせるかと、どろしーはぐったりした体ながら渾身の力を込めてセラヴィーの頭を殴りつけた。ぜいぜいとしながら言う。
「…だ、だからってあんなに吸う事なかったんじゃ…。」

散々いたずらを受けたせいで、どろしーの胸元はおろか枕もシーツも、セラヴィー本人だってミルクで濡れてぐちょぐちょだ。その惨状にどろしーは眩暈がした。

「だって片一方だけじゃ不公平じゃないですか。どろしーちゃんも、片っぽのおっぱいだけミルクでパンパンに張ってるのは嫌でしょう?僕だってどろしーちゃんのおっぱいは両方まんべんなく愛してあげたいんですよ」

左右で微妙に味も違ったしーなどと、平然とした面もちで妙に冷静な所見を述べるセラヴィーに、うっかり「ホント?」と身を乗り出したどろしーだったが、いつの間やら自分にまたがる体勢となったセラヴィーが太股に何かを押しつけてきている事に気付いた。

微妙にこすりつけてくるような、薄い掛布ごしに伝わる、この固い感触は……

「……セラヴィー?」

眉間に皺を寄せながら、おそるおそる問いかける。

「どろしーちゃんがあんまり可愛くって、こんなになっちゃいました。それで…」

上目づかいで見てくるセラヴィーに、嫌な予感が止まらない。どろしーのこめかみがガンガンと痛み始めた。

「今度はどろしーちゃんのおっきいおっぱいで、僕のこと気持ちよくしてほしいなーって。」

上目づかいでかわいこぶりながら(はっきり言って気持ち悪いだけだが)、この男が変態じみた要求をしてくるこの光景を、自分はつい先ほども見はしなかったか?

そんな事を真面目に考えてしまったどろしーの行為は、明らかに現実逃避だった。一瞬の後には、いまだ濡れてむき出しの両の乳房を大きな手で撫でまわされながら、掠めるような口づけをされる。

「ね、どろしーちゃん?」

至近で笑いかけてくる顔は、最近ではあまり見なくなった表情だ。…そう、それはとてもとても、よくない事を考えている時の────

どろしーのこめかみの痛みは、一層ひどくなった。部屋の隅からは、愛しい2人の子供の安らかな寝息が途切れることなく聞こえていた。

「魔女」だなんて、いかにも奔放な肩書きを持ったどろしーは、その実、保守的な女だった。正確に言えば「性的な事柄に対し、保守的な女」だった。

妙齢の女性らしく、美容には細やかに神経を使うし装う事も好きだったが、それはあくまで自分が楽しいから。

身につける下着だってどれも高価でひどく扇情的なデザインだったが、もし他人にその姿を見られでもしたらと考えただけで、恥ずかしさの余り部屋でひとり悶絶する有り様だった。

そんな女がついに生涯の伴侶を得ることとなった。

得た、と言うよりは、とっ捕まったと言ったほうが妥当かもしれない。

相手は長年どろしーをひたすら追い続けた、そしてどろしーがひたすら逃げ続けた、腐れ縁の幼なじみだった。その名をセラヴィーと言う。

いかにも女好きのする優男の風貌に、世界一の魔法使いという揺るぎ無い実力を併せ持ったセラヴィーは、幼い頃から偏執的なまでにどろしーを追い求め、どろしー以外の女には全く目もくれなかった。

(唯一目をくれたのは、幼い頃のどろしーの姿を模したお人形だった。人ですらない)

かたやどろしーはと言えば、セラヴィーという存在をいつか踏みつけにしてそこから飛翔して、その上で逃げ切る事だけを考えてここまで生きてきた。そんな人生に当然浮いた話などあろうはずもなかった。

どろしーの名誉のために言うならば、どろしーに対して好意を寄せる異性は、幼い頃からこれまで常に少なからずいた。しかしそれらはセラヴィーの手により、どろしーの気付かぬところで全て綺麗に排除されてきたのである。

そんな業を背負った童貞と処女がついに結ばれたのは結婚式当夜、つまり新婚初夜というやつであった。
やるきまんまんのセラヴィーの手によりドレスを脱がされる事は渋々承知したものの、どろしーは一緒の入浴を断固として拒否した。
これまで磨き上げてきた身体も見られることを嫌い、月明かりさえ入らぬようにカーテンをびっちりと隙間無く閉めた部屋は真っ暗、豆球をつけることすら許されなかった。

セラヴィーは目が暗闇に慣れるまで、新妻の裸体にまさに手探りで向かうこととなったのである。

それでも、どこに触れても、どんな囁きを送っても、いちいち恥じらった(時には罵声混じりの)反応を返してきたどろしーは、セラヴィーの指と舌が自分の体の9割方を通った頃にはすっかりとろけきっていた。

そして潤いきった場所にセラヴィーの指が触れた時、そこは既に粘ついた水音を立て、どろしーの口から漏れるのは可愛らしい喘ぎ声ばかり。

ますます気をよくしたセラヴィーが、胸を大きく上下させながら転がったどろしーの膝を立て、左右に開いていよいよ頭を沈めようとした時に、それは起こった。

みしっ

「あんた何すんのよっ!」
「痛い痛い痛いですどろしーちゃん!」

すらりと延び、全体にほどよい筋肉が付いたどろしーの両足の膝が、セラヴィーの左右のこめかみにクリティカルヒットをしていた。万力のごとき力でもってギリギリと締め上げる。

「な・に・す・ん・の・よ!って聞いてんのよっ!」
「どろしーちゃん痛い痛いっ……だから、僕たちがひとつになる前にちょっとここを舐め…」
「ギャーッあんたなんておそろしい事を!やめて!やめて!!」
「…だって、そうしたほうがどろしーちゃんだってちょっとは楽に…」
「どーせ何やったってキツいもんはキツいのよっ!なんでわざわざそんなとこをっ!!」
「でも〜」
「うるっさいっ!あんたホントにそんな事をやろーもんなら、即、離婚よっ!いや、その前に舌噛み切って死んでやるー!!!」
「……………」

どろしーの言葉が決してただの脅しではないことが、経験上セラヴィーにはよくわかっていた。

そしてその晩、2人は無事結ばれた。

もちろんセラヴィーは、ベッドの上で新妻に舌を噛み切らせるような行為には及ばなかった。惜しかった、とか、どろしーちゃんのケチ、いけず、とか思う気持ちが全く無かったと言えば嘘になる。それでも本懐を遂げたセラヴィーは幸せだった。

初めての時に激しく拒絶された行為にセラヴィーが及んだのは、2人が結ばれてから数ヶ月。こなした回数などとうに両手両足の指では足りなくなっていた頃だった(どろしーは異様に頑なな面を持ちながらも、基本的には流されやすい性質だったのだ)。

その頃にはどろしーの快楽のツボをすっかり掌握していたセラヴィーは、指づかいだけで軽く達し、ぐんにゃりとしていたどろしーの一瞬の隙をついたのである。

それに我に返ったどろしーは、セラヴィーの肩に数発の容赦ない蹴りを見舞ったものの、舌がそこに触れた瞬間ビクリと大きく肩を跳ねさせた。

がっちりと腰を掴まれ、じゅるじゅると音を立てて啜りあげられる頃には、はしたない声をあげながらセラヴィーの髪を力無く握るだけとなっていた。

それ以降どろしーは、3度に1度はその行為に激しい抵抗を見せるものの、その抵抗もすっかり形だけのものとなり、結果セラヴィーを喜ばせる事となった。

***

──────どーしてこんな事に………?

荒く息をつきながら、どろしーは心の中で何度目かの自問をした。でも、問いかけただけでその言葉はすぐに霧散してしまう。答えなど出てこなかった。

俯かせていた顔を上げると、思っていた以上に近くにセラヴィーの顔があってギョッとした。ずっとこちらを見ていたようで、ニヤニヤとしながらどろしーの瞳を覗き込み、恥ずかしい言葉を投げかけてくる。

「どろしーちゃんのおっぱい、柔らかくってあったかくて気持ちいーです…それに、すんごいやらしー眺め…」
「あ、あんたはまたいちいちそういう事をっ…」

ベッドの端に腰掛けて横たわったセラヴィーは、肘を立てて背を軽く起こしている。

一方のどろしーはと言えば、セラヴィーの両脚に挟まれ、床に膝立ちになった状態だった。

ミルクでぐちゃぐちゃになった着衣は、はだけて大きな乳房を露出させたままだ。どろしーは、それを両手で寄せていた。

寄せた膨らみの間からは、赤黒い、生々しい色をした先端が覗いている。それが濡れているのは零れる先走りのせいか、もともと乳房を濡らしていたどろしーのミルクのせいか、もう判別などつかなかった。

子供ふたりを満腹にし、目の前のこの憎たらしい男にまで散々吸われたというのに、両手でぎゅっと押さえた乳房の先端からは時折ミルクが弱々しく噴き出す。でも、そんな事はどろしーにとって既にどうでもよくなっていた。

ニュルッ、ニュルッ、

体を揺すると伝わる、熱くて固いそれが与えてくる刺激が、乳房に気持ちいい。余裕ぶった表情をしたセラヴィーだって、時折息を詰まらせて熱い息を吐く。それが更にどろしーの気分を良くした。

こういう行為がある事は、一応知識としては知っていた。だが、まさか自分がやる事になるなんて思いもしなかった。

この身体に触れる手など無かった頃も、セラヴィーによって初めて暴かれてからも、つい先ほど、たった今まで、まさかこんな事を。

──────どーして………

この問いかけは、一体何度目になるだろう。しかし、心の中で途中まで呟いて、どろしーはもうやめた。
セラヴィーが最初に阿呆なおねだりをしてきた時、不覚にもそれを許してしまった時、そしてあられもない声をあげてしまった時、きっと自分は密かに魔法をかけられてしまったのだ。

セラヴィーの唇は、理性までも吸い上げてしまったのだ。

そうでなければ、自分がこんなにみっともない姿を晒して、こんなに恥ずかしい行為をする訳がない。ユーリンとリーランがすやすやと寝息を立てる部屋で、明るい陽の光に照らされながら、2人でこんなにあさましい行為に耽る訳がない。

自分にそう言い聞かせ、辛うじて精神の均衡を保ってから、どろしーはある事に気付いた。

こんなに明るいところでセラヴィーに素肌を、乱れた姿を見られてしまうのは初めての事だけれど、自分だってこんなセラヴィーを、セラヴィーのそれを見るのは初めてじゃないの…。

そう思ったら、どろしーは動きを止めて自分の乳房に挟まれたものをじっと見てしまった。真っ白い乳房と対照的に生々しい色をしたそれは、先端から透明の液体を垂らしている。

セラヴィーは、自分のミルクを甘くて美味しいと言った。じゃあ、これはどうなのかしら…?

なんだか興味がわいてきた。どろしーはそろそろと舌を延ばして、先端をぺろりと舐めてみる。

「どっ…どろしーちゃんっ?!」

セラヴィーのあせった声が聞こえる。
ざまあ見ろだわ。あんたばっか余裕ぶってるのが気にくわないのよ。
明らかに慌てたセラヴィーをよそに、どろしーがぱくりと銜えてみると、口の中に少し苦い、塩の味がひろがった。
少し前に自分が散々乳房に受けたいたずらを思い出し、口に含んだままぐるりと舐め回してみる。舌を使ってくすぐるように刺激をするとセラヴィーが息を呑み、口の中に更に先走りが溢れ出たのがわかった。

「んくっ」

一旦口から吐き出し、口腔内に溢れるものを飲み下す。寄せた乳房を外すと、目の前にはいまだ硬度を保つものがそそり立っていた。
そっと手を添えて、今度は根元からゆっくりと舐め上げてみる。とろとろと、途切れなく雫を零す先端まで辿り着くと、再びそれを銜えた。今度は口いっぱいに頬張ってみる。
目の焦点が合わなくて、間近にいるセラヴィーがどんな顔をしているか見ることはできない。それでも、間が抜けた、信じられないといった表情をしている事がどろしーにはわかっていた。どろしー自身にだって、こんな事をしている自分が信じられなかったからだ。

「んうっ」

頬張ったまま、再び濡れた乳房で挟んでやる。
苦しい体勢だったので少し吐き出し、先端だけ口に含んだ状態でゆさゆさと体を揺すると、ぬちゃぬちゃといやらしい音を立てながら、胸の谷間に埋もれたそれが一段と固く、大きくなったのがわかった。

その時、

「あーっ!もうっ、ガマンできませんっ!!」

突然がばりと身を起こしたセラヴィーが、どろしーの脇をがしりと掴んだ。

「きゃあっ」

そのまま力ずくで引き上げられ、どろしーはベッドの上に押し倒された。見下ろしてくるセラヴィーの顔に、先ほどまで見られたような余裕の表情は微塵もない。

「どろしーちゃんてば、一体どこでこんな事を覚えてきたんですかっ!?」

まくしたてるセラヴィーに、呆れながらどろしーは言った。

「覚えるもなにも、あんたがやれって言ってきたんでしょーが…」
「だってっ……どろしーちゃんが、まさか、舐め……」

そこで絶句するセラヴィー。感極まったような表情をしているのが今いち気にくわなかったが、それでも、いつも自分を翻弄してくる男に対してやり返す事ができたような気がして、どろしーは胸がすくような思いをしていた。

しかしセラヴィーの行動は、とっくにその先を行っていた。押し倒されたままのどろしーが反応する間も与えず、はだけた服はそのままに、下肢だけをさっさとあらわにする。

「どろしーちゃん、ごめんなさい。僕、もーあんまり余裕がないです…」

申し訳なさそうに言いながら、すばやく指で触れてきた。

「ひぁっ…」

不意を付かれてあげたどろしーの高い声に、くちゃりと水音がかぶさった。

「……すごい濡れてる……」

思わず、と言った感じで呟かれたセラヴィーの一言で、一気にどろしーの顔に血が上った。

「うるさっ……ぁんっ!だめっ…あぁ……」

ぬちゅっ、くちゃっ、ぬちゃっ、

どろしーの抗議を遮るように、セラヴィーの指が挿し入れられては抜かれる。

「いやらしい音させて、どろしーちゃんも興奮してたんですね…でも、おっぱいの刺激だけでこんなになっちゃうなんて…」
「うるさいうるさいうるさいっ」

それはセラヴィーの素直な感想だったが、どろしーは耐えられずに怒鳴りつけながら、覆い被さってくる男の胸をどかどかと叩いた。容赦なく叩いているつもりなのに、すっかり力が抜けてしまっているのかセラヴィーは全く動じない。

「ふぁっ……」

それでも、指はすぐに引き抜かれた。しかし、どろしーがほっと一息をつく間もなく、今度は大きく脚を押し広げられて先端を押しつけられる。

「んん…っ」

濡れそぼった入口を数回ぬるぬると往復して刺激してきたが、先ほど言ったとおり、本当にセラヴィーにも余裕はなかったのだろう。ぐちゅりと音をさせて、まず先端を呑み込ませ、そのまま一気に突き入れてきた。

「……んぅん……」

突然の衝撃にどろしーは目を見開く。自分の中が、セラヴィーで隙間無く満たされているのがわかる。びっちりと、隙間なく…

「…っ、どろしーちゃんっ、ごめんっ!」

吐き出すように言ったセラヴィーは、どろしーの両足をがしっと抱えた。その体を大きく折り曲げ、押さえつけて、激しく腰を前後させる。

「あぁん、ああっ、あんっ…!」

ぐちゅっ、ぬちゅっ、ぐちゅっ、

激しい動きに合わせ、はだけた胸元から覗くどろしーの乳房がゆさゆさと、尖りきった固い乳首がぷるぷると揺れる。
セラヴィーは荒い息で抽迭を繰り返しながら両肩でどろしーの太股を支え、更に前のめりになると、空いた両手で揺れる乳房を掴み、乳首をきゅうっと摘んだ。ミルクがじわりとにじみ出す。

「ひぁっ…!」

どろしーが無意識のうちに締めてくる。セラヴィーの腰の動きが早くなった。

ぐちゃっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ

「やぁっ、セラっ、ぁっ、もっ…」

どろしーの声が高くなる。

「あんっ、あんっ、ああぁっ!」

セラヴィーの先端がそこを突いた時、どろしーの体は大きく強ばり、そして達した。同時に強く締め付けられ、セラヴィーもどろしーの中に吐き出した。

達してからも、吐き出される感触にびくびくと震えていたどろしーの体が、少し経ってようやくぐんにゃりと弛緩する。荒い呼吸を繰り返す、むき出しの白い乳房は汗で濡れて、つやつやとしていた。

セラヴィーもまだ荒い息を整えつつ、ぎゅっと目を閉じてぜいぜいと喘ぐどろしーに頬を擦り寄せた。しばらく互いの頬をぴったりと寄せていたが、どろしーの閉じられていた目がぼんやりと開くと、それが合図であったかのように唇を合わせてきた。いきなり舌を絡めてくる。

「ん…むぅ…」

ぴちゃっ、くちゃ、と音を立てて粘膜を擦りつけ、互いに唇をむさぼりあう。その間に、いまだどろしーの中に留まっていたセラヴィーが再び力を取り戻してきた。

「んっ…?」

それを直に感じ取ったどろしーが、ギロリとセラヴィーを睨み付けた。

それは凄みのある目つきだったが、当のセラヴィーはと言えば良いのか悪いのか、どろしーにそんな目を向けられる事などとうに慣れっこだった。今さら遠慮など知らない手はどろしーの肌を這い、中のそれは更に硬く、大きくなってゆく。

「ちょっ……、あんたもうっ…」

咎める言葉には耳も貸さず、セラヴィーはどろしーの胸元に吸い付きながら腰をゆらゆらと動かした。こぷっ、と音を立てて繋がった場所からどろりとしたのものが溢れ出し、動きに合わせてくちゅくちゅと響く。

「…だってっ…、今日の、どろしーちゃん、かわいすぎますっ…」
「ぁんっ」

セラヴィーは言いながら、すっかり充血して膨れ上がったどろしーのそれを指で押しつぶして刺激する。どろしーの中が、また、きゅっと締まった。

再び息を荒げ始めたどろしーに、心底幸せそうな顔をしたセラヴィーの顔が近づいてくる。至近で互いの目を見たまま口づけた。そこからどろしーの記憶は真っ白になった。

***

………うあーん、うあーん───────

遠くで、赤ん坊の鳴き声が聞こえる。
夢うつつの中、その鳴き声は徐々に大きくなってきた。

…誰よ、泣いてる子供をほっぽってるバカ親は………
そこまで思考を巡らせた時、どろしーの目はぱかりと開いた。真っ先に視界に飛び込んできたのは、こちらを向いて幸せそうな顔で寝息を立てる夫だった。

目の前の、このやたらと満足げな顔にどこか既視感を覚える。

───満腹になってすっかり寝入った時のユーリンとリーランにそっくりじゃないの…
そっくりのくせに、子供達を見る時の幸せな満ち足りた気持ちとは真逆で、このにやけた寝顔には憎々しい気持ちばかりが湧いてくるのが我ながら不思議なんだけど…

そこまで考えて、どろしーはがばりと身を起こした。広い部屋の片隅に置かれたベビーベッドから、自分はここだと主張するような甲高い鳴き声が聞こえていた。

「ああユーリンごめんね〜、お腹空いたわよね〜」

声だけで、すっかりどちらだかわかるようになっていた可愛い我が子に、どろしーは優しく声をかけた。
いつもなら、こんな時は立ち上がってベビーベッドまで歩み寄って抱き上げる。どろしーはそう決めていたが、今は体がだるくて重くて、立ち上がる気力など到底なかった。

手を掲げ、人差し指をくいっと曲げる。するとベビーベッドから赤ん坊の体がふわりと浮き上がり、宙を漂いながらゆっくりとどろしーの元へ近づいてきた。

その時どろしーはある事に気付いた。
自分が今横たわっているこのベッド。シーツも枕も、自分やセラヴィーの着衣も、きちんと整っている…

それでは、あれは?
そこまで考えた時、生々しい記憶が一気に蘇ったどろしーは、叫びながらこの場から逃げ出したくなった。

そうだ。セラヴィーが自分にしたこと、自分がセラヴィーにしたこと、互いの荒々しい息づかい、ぬめった感触、陽の光に晒されながらこの目に焼き付いた光景……あああ全て記憶から抹消したい……顔から火が出そう……とにかくもう思い出すのも絶対に絶対に嫌な………

────さっきのあれは、全部、夢?

そんな訳はない。どろしーは、胸に沸き起こった僅かな希望を自ら即座に打ち消した。体に残るこのけだるさは、どう考えても育児疲れから来るだけのものではない。残念ながら、経験上それはよくわかっていた。

相変わらず安らかな寝息を立てているセラヴィーを、キッと睨み付ける。そうだ、この憎ったらしい男が、きっと魔法で全部元に戻したんだわ…

ドッと増した疲労感に潰されそうになりながらも、魔法の力でふよふよと漂ってきたユーリンを気力でもって受けとめる。胸元のボタンをプチプチと外し、襟元をくつろげたどろしーはギョッとした。

「なにこれ!」

なめらかなラインを描く真っ白な胸元は、いかにも吸われましたといった感じの鬱血の跡でいっぱいだった。当然、ユーリンとリーランにこんな真似ができるはずはない。犯人はどう考えても、目の前で安らかな寝息を立てているこいつ。この男だ。
服やベッドはきちんと整えるくせに、わざわざこんな痕跡だけ残すって、私への嫌がらせ?いや、自分の子供に対して威嚇でもしているつもりかしら…

「ばかばかしい…」

先ほどまでの恥ずかしさも消し飛び、心底呆れたようにどろしーは呟いた。

本当にばかばかしい。でもセラヴィーときたら、自分の子供にだって平気で嫉妬しかねない、本当の本当に、ばかばかしい男なのだ

いっそこんな忌々しい跡は魔法で消してやろうかしら。どろしーは思ったが、もう一言の呪文を呟くのもおっくうだった。

しかし、一生懸命になって乳をふくむ我が子に目を向けると、否応無しにそれは目に入ってくるのだった。自己主張も激しいその跡と、それをつけた男と、それぞれを見比べながら、どろしーは考える。

…今なら、余裕でこいつの寝首がかけるんじゃない?そーすれば、こんなばかばかしい嫉妬心を向けられることもないし、あの……思い出すのも恥ずかしいアレも無かったことにできるし、ていうかそもそも私があんな事しちゃったのだって完全にこいつのせいだし…………
責任転嫁をしつつ、物騒な事を半ば本気で考え始めたどろしーだったが、突如耳に飛び込んできた泣き声に我に返った。聞こえてくるのは、部屋の片隅のベビーベッドから。さすが双子、お腹が空いて泣き始める時間もほぼ同じだ。

「は〜いリーラン、ちょっと待っててね〜」

傍らには、妻の殺意など知る由もなく、満ち足りた表情でぐっすりと眠る男。今ならば、この幸せそうな表情のままであの世に送ってしまう事もできそうだけど、残念ながら重要な仕事が彼には控えている。

「ほら、セラヴィー。パパがリーランについてやってちょうだい。」

顔を寄せ耳元で囁いてから、どろしーは本格的に夫を起こすべく、そのにやけた頬を思い切りつねりあげた。






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