本当の変態風
セラヴィー×どろしー


「は………んっ」
ノーライズのジーンズに手をいれられたどろしーは、思わずそう洩らした。







どろしーはその日、いつもの様にセラヴィーの家に立ち寄った。しいねちゃんがニャンコハウスに住むので隣に住んでいるが、それは即ち二軒隣に宿敵が住んでいることに他ならない。が、近所にいるのならば狙うのに好都合と特に気にしてはいなかった。
その日もいつもの様に、表面上近所の仲良しさん気取りで家に入ると、ソファーでくつろいだ。やや前屈みになっているため、少しだけ背中の白い素肌が覗いていたが、気にせずテーブルに新聞を広げて、めくりながら隙を伺っていた。

暫くすると隣に座っていたセラヴィーに突然、ジーンズの隙から覗く背中に手を入れられた。

「何するのよっ!変態っ!!」

振り上げられた手は当たることなく手首を掴まれ、

「これは何ですか?」

と余裕たっぷりに微笑むセラヴィーに聞かれた。彼が右手に持っているそれは、隙をみて飲ませようとジーンズの間に忍ばせていた痺れ薬だった。

「そ、それは…」
「わからないなら、どろしーちゃん本人に飲んでもらいましょうか。」

言うが早いかセラヴィーは薬の封を切り、自らの口に含むと

口移しでどろしーの喉まで薬を押しこんだ。

こくん―――

意外なセラヴィーの行為に唖然としたどろしーは、あっさり薬を飲み込んでしまった。

「何で…」

その間にセラヴィーはティッシュに残りの薬を吐き出すとゴミ箱に投げ入れた。

「な…にをへふ…の…」

薬の効きが早く、どろしーはすぐに、舌が上手くまわらなくなっていった。

「何をしましょうかねぇ。あぁそうだ。僕の事『変態』とか言ってましたっけ」

セラヴィーはくすっと笑うと、身動きできないどろしーを支えながら横たえた。そしてぱさりと手に掛かる黒髪を除けると、耳元で囁いた。

「あれを言われると結構傷つくんですよ。偶には仕返しに、本当の変態風にしてみましょうか」
「え……」

その言葉に真実味と恐怖を感じ、小刻みに震えた。それに構わずセラヴィーは首筋に赤い印を一つ、二つと刻んでいく。その度、熱い吐息が肌にかかり、自分の意思に関係なく小さく体がよじった。思考が何かで霞み、飲み込まれそうになる。

「(どうして…何で…)」

金髪に戻っていないにも関わらず為される行為に、混乱し、戸惑ったが、痺れて聞く事ができない。

キスだけの愛撫にピクンと、体が小さく跳ね上がり、意図しない蕩けた声が漏れた。
セラヴィーは暫くの間その声を愉しむと、おもむろにブラウスを剥がし、シャツを下腹まで下げた。ブラのフロントホックは、指先で弾かれると容易に外れ、支えを無くした胸は溢れるかの様に揺れた。薄い桃色のその先は、触れられるのを待っているかの様に上を向いた。

「(やめて…見ないで…)」

痺れているまま、僅かに、でも精一杯首を振る。
ふと、セラヴィーと目が合った。穏やかだが、いつもと違う何かが潜んでいる気がして、すぐに目を離した。

「大丈夫。痛くしませんから。」

そう言うとセラヴィーは人差し指で二つの膨らみの間をゆっくりなぞった。

「はぁ…っ」

こそばゆさも加わる此れ迄にない快感に背中が軽くのけ反る。
落ち着く間もなく、両胸が手に掴まれ、ゆっくりと不規則に揉まれ、その形を変えていった。

「ぁ…ぁ…ぁ…」

蕩けた声はとどまることなく、
頬が薄く紅く染まり、その瞳は朧げに憂いで視線は意味もなく泳いだ。抵抗する気力はとうの昔に失せて、与えられる刺激に体が僅かに、何度も、くねった。

「セ…ラ……」

名前を呼ぼうとするのは、せめてもの抵抗故か、感じて思い余ってか。本人にもそれは解らなかった。

その様が、妖艷さを醸す。しかし可憐な少女の様で、妙な背徳感がセラヴィーを煽った。

「『そそる』じゃないですか。どろしーちゃん」

見下ろしてそう言うと、両手で顔を包み、どろしーの口を犯し始めた。
痺れて動かない舌を舌で丹念にゆっくりと舐り、時折吸い上げる。気を狂わせる快感が、徐々にかろうじて残っている理性を蕩かしていく。快楽に堕ちていく朧気な眼が更にその行為を煽り、煽られた嗜虐心が少々乱暴に口内を掻き乱させた。

それでも尚、幼き時から積もり積もった悔しさと憤りが僅かにどろしーの理性を支えていた。
痺れ薬の効果は既に切れており、度重なる快感に痺れた体はどうにもならないが何とか呂律が回る。

「…このヘンタイ…」
「おやおや、口の減らない人ですね。素直にただ感じていればいいのに。」

ターゲットを口から腰に移し、味わう様に舐めまわしていたセラヴィーは、右手で突然、腿からそのつけ根まで強く擦りあげた。

「はあぁん」

一際高い声が部屋に響いた。

そんなどろしーにセラヴィーは余裕と冷酷さの込もった視線を送り、

意外と大きな骨張った手でどろしーの細い両手首を絡め捕らえ、頭の上で押さえた。

「そのヘンタイに感じてしまっているのはダレですか?」

耳元で囁かれ、どろしーは羞恥で耳朶まで赤く染まった。同時にふっと、軽く息が吹きかけられ、甘美な痺れに全身が酔う。反射的に顔を背けると、テレビの上の時計が見えた。

短針が半分よりやや下を指している。


しいねちゃん達がそろそろ帰ってくる時間だ。


やや冷静さを取り戻し、セラヴィーを見上げると、同じものを見ているところだった。

「時間無いですね」

そう言いながら、どろしーのジーンズのチャックを下ろし、少し骨張った細い指でレースの入った絹越しに、クリトリスを優しく何度も摘んだ。

「――っ、は…ん。何…かぁ……んがぇ…ん…て…」

現実から再び朦朧とした歓楽に、意識が引きずりこまれていく。
一度、甘く蕩けた体と心が再び蕩けるのはあまりに容易で、思考がどんどん白く霞んでいった。
いつの間にか両足が開き、無意識の内に膝が僅かに立ち上がる。視線はまた意味を成さなくなり、口唇は言葉を紡ぐことなく少しだけ開いていた。
まるで、もっと求めているかの様に。

「ほぅ…」

想像以上の幼馴染みの扇情的な様子に、セラヴィーは喉をごくりと鳴らした。
そして、指を突き立て水壷の入り口を擦る。そこはもう透明な何かで溢れており、指先を容易に受け入れた。

「ぁ…はぁ…ぁ…」

ゆっくり、始めは殆ど襞を擦らない様に出し入れする。その度にそこが軽く絞まり、遠慮がちに嬌声が洩れた。それが、セラヴィー本人も気づかないところで、少しずつ理性を崩壊させていた。

「じか…ん」

夢うつつの囈(ウワゴト)か、舐りに応え始めていたどろしーの口が、その隙から紡ぐ。
セラヴィーは一息つくと、

「わかりましたよ」

と、頬に顔を名残惜しげにこすりつけ、体を離した。





チャチャ達が帰ってくるまでに何とか間に合い、その後は何となく気だるくなりながら何事も無く過ごした。

「お師匠様〜、どうして着替えたんですか?」

洗いものをしていると、手伝ってくれているしいねちゃんがふとそう聞いてきた。

「ぁっ、うん、ちょっとね。気が向いたから。」

突然の核心を突く様な質問に、声が上擦る。 コトの後の服は着られたものではない上に紅い跡が体のところどころに目立つので、ハイネックのワンピースに着替えていた。

「しいねちゃん、チャチャ達が呼んでますよ。」
「セラヴィーさん。あ、はーい。今行きまーす」

しいねちゃんとセラヴィーが入れ違いになり、台所はどろしーとセラヴィーの二人きりになった。チャチャ達の声がいつもより遠い気がした。
セラヴィーはいつもの様にてきぱきと片づけていた。まるで何も無かったかの様に。
どろしーは本当は自分がこの滅茶苦茶な幼馴染みをどう思っているのか、考えをまとめようとしたが、何だか馬鹿馬鹿しくなり、考えるのを止めた。
最後のお皿を拭いていると、先に部屋に戻ろうとするセラヴィーに、

「今夜、行きますから」

と、囁かれた。

振り返るとその姿はなく、幻か何か程度に思いながら、ニャンコハウスを後にした。






風呂からあがり、体や髪の手入れを終えたどろしーは夜風に当たろうとライトを消し、ベランダの自分の身長以上もある窓を開けた。
「まぁ…綺麗」

雲ひとつない空に満月が輝いてそこにあり、惹かれる様に2、3歩外にでる。少しそのまま眺めた後、ようやく窓の陰に人が立っているのに気がつき、慌てて部屋に逃げ込もうとした。

「ちょっと待って」

「待てません」

言うが早いか、セラヴィーは足を窓の間に挟み込み、窓を閉めようとする手首を掴んであっという間に部屋に入った。少々乱暴にカフェテーブルにどろしーを組み敷く。
どろしーは頭の後ろで窓がひとりでに閉まり、鍵の掛かる音を聞いた。

「くっ、昼間のあれは終わりじゃなかったの?」
「言ったじゃないですか。今晩行きますからって。嫌ですか?」
「い……」

返事は訊かれず唇が重ねられる。昼間、緩やかに蕩ける事を覚えたそこは抵抗することなく甘美な刺激を受け容れた。
遠慮がちに邪魔をしてくるどろしーの手をもて遊びながらガウンを外しブラを弾くと、アンダーシャツの絹越しに、舌を立て下腹部から喉まで一気に強めに舐めあげた。

「はぁっ……ん」

それだけでどろしーの体は軽く絶調に達した。

「この姿勢だといくらどろしーちゃんでも辛いですよね」
「…何言って…ぁ…」

胸先を絹ごしに吸いあげられる度、意識がぼんやり遠退いていく。簡単に甘く蕩けきった声が洩れて、その手はだらりとテーブルに垂れた。
セラヴィーはどろしーの体を抱き上げるとベッドまで運んだ。

トスン―――

軽く落ちた衝撃にふと我を取り戻したどろしーは逃げようと体を起こしたが、

すぐにセラヴィーに後ろから抱きかかえられた。

「逃げようったって無駄ですよ。」

熱い吐息が首にかかり、今度は背中からぞわぞわと快感が駆け上がってきた。

「な……」

それに戸惑っているうちに、アンダーシャツが下に剥かれ、背中の素肌が月の光にさらけ出された。
月に照らされたそれは怪しく薄い紫を帯びていて、セラヴィーは吸い寄せられる様に丹念に唇を這わせた。

「綺麗…ですね」

そう誰にともなく呟くと、その体を抱きしめベッドに倒れこんだ。

倒れ込むと、どろしーがゆっくり振り向いて言う。

「…うそつき。」
「本当ですよ。」
「金髪に戻ってないけどいいの?」
「戻って…くれるんですか?」
「絶対、嫌」

その拒絶はセラヴィーが何とか保っていた抑制の堰を崩壊させた。
フッ、と鼻を鳴らすと素早くどろしーを組み敷き、両手首をアンダーシャツできつく縛り上げた。

「痛っ…」

叫びは無視し、着ている物を全て鬱陶し気に脱いで投げ捨てると、どろしーに覆い被さった。
細身だがやや筋肉質な肌触り、その熱い体温に、犯されたいと願い期待する被虐願望が頭をもたげ、どろしーを齲み(ムシバミ)戸惑わせる。

自分自身知らない被虐願望が歓喜に震えて、じわりじわりと気づかないまま心の奥底で広がっていく。
触れている部分がどうにも心地よくて熱を帯びてきているのがわかった。何もかも別の生き物になっていくようで、怖くて体をよじる。
「怖い?どろしーちゃん」
「別に」
「それは良かった」

セラヴィは逃れるのを止めたどろしーを見下ろして、体を指先で緩やかゆるやかになぞった。次第に、先程までの恐怖や戸惑いが薄れ、甘い痺れに酔わされていく。
その表情の変化を存分に堪能し、嗜虐心を満たすと、セラヴィーは優しく愛おしげにキスをした。

「ん……」

快感に溺れている虚ろな眼が、物足りなさげに妖しい視線を投げかけ、その腰は脳の芯まで浸蝕する快感を逃す様に不規則にうねった。
その腰を掴み、足を広げ、レースの上から秘部の膨らみを吸う。

「――――っ」

声にならない嬌声が上がり、きつく足が閉じられ頭が圧迫された。その足を肩を入れて広げ、肌を覆う最後の一枚を指先で切ると、それを取り除いた。
金色の茂みを掻き分けて、今度は直接膨らみに触れ、緩急をつけて撫で続けた。
同時に水が溢れてやまない裂目に指を出し入れし、襞を掻き回す。

どろしーは初めての快感に全身が痙攣しているかのように強く痺れていたが、次第に慣れ、緩やかに力が抜けていった。
ただ下半身の入口だけが、指の出し入れに器械的に反応し、その指に絡みつくように蠢いていた。
そこは二本の指を出し入れしても、それさえもあっさり呑み込み指の間で透明な液体が糸をひいた。その指でセラヴィーは朧気な表情で快感に浸っているどろしーの唇をなぞると、軽く口内に擦りつけた。

「なに…するの」

反射的にその指を舐めて液体を絡めとったどろしーは、朧気な瞳で批判する訳でもなく聞いた。

「犯されて感じている事を自覚して貰う為ですよ。」

「この僕にね」


底の無い独占欲がないまぜになった嗜虐心そのままに、見下して潮笑う。その何もかもが最早媚薬のようにどろしーの体も心も侵し尽して、体が快楽を求めて小さくふるっと震えた。
その仕草に堪らなく可愛らしさを感じ一瞬躊躇したが、もう止まれる筈もなく、こみあげる想いのまま一気に貫いた。

「っ――」

痛みと甘美な痺れが同時にどろしーを襲う。
反射的に襞が収縮し、セラヴィーのそれをきつく絞め上げた。
予想外の絞めに、低く唸る。

「…もう少し楽しませて下さいよ。」

自分に言い聞かすかの様にそう言うと、ゆっくりと腰を動かした。

「いた…い…や…ぁ…あぁ…」

挿入の痛みが次第に和らぎ、悦楽の痺れが全身に広がりどろしーを頂点に導いていった。
声にならない呻きがセラヴィーを追い立て、動きが次第に激しくなる。激しい責めに戸惑い、一瞬、自分を取り戻したどろしーの腰を引き寄せ、勢いのままに何度も打ち衝けた。

「あっ…あ…ぁ」

快感の波が怒涛のごとく押し寄せて。二人は繋がっている部分から溶けてぐちゃぐちゃになる感覚に襲われた。
お互いの享声が混ざり合い、そのままほぼ同時に果てた。









「どろしーちゃん」
「何よ」
「本当に綺麗ですね」
「…『月が』でしょ」
「そうですよ」
「あんたねぇ〜っ」

どろしーの殴ろうとした拳はあっさり避けられ、手首が捕まれてセラヴィーの傍に引き寄せられた。

「やっとこっちを向いてくれましたね」

その声にとてつもなく嫌な予感がして、
「?!離してよ変態っ」と、叫んで振り払おうとした。

「……変態?」

それを聞いて、セラヴィーは不適な笑みを浮かべたのだった。






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