無題・野立サイド(非エロ)
番外編


あの日は3人で海に行った。
じゃんけんで負けドライバーになった森岡は初めこそ飲酒ができないのをブツクサ言っていたが、じゃあ私が代わりに飲んであげるから!
などと訳の分からない励まし方をする絵里子に苦笑しながらも楽しそうだった。
海に着いて、そういやスーツなんだよなあと今さらに思う。絵里子は途中で寄ったコンビニでぬかりなくタオルも買っていた。
足洗い場もあるみたいだし裸足になるか。
花火の音を聞きながらまったりしているところに事件発生。だが俺の華麗な解決策が採用され一件落着となった。
女の子達からは次々と質問が飛んでくる。仕事は?彼女は?身長は?野立会で受ける質問に比べれば可愛いもんだなあなどと
思いながら答えていると、突然のカウンターパンチ。

「あの一緒にいたお2人ってつきあってるんですか?」
「…いや同僚だよ。俺達3人同期なの。くされ縁てやつ」
「えーそうなんだ。あたしてっきり2人に気をきかせたのかと思ってた」

だよねー私もーなどと言う声はもはや耳には届かない。ちらっと海の方に目をやるが
2人の姿はここからはもう見えない。今海辺に佇む2人を見たら誰だって恋人か夫婦だと思う
だろうな。そりゃそうだ。だが思われたところでそれは事実ではない。そうは思うが腹立たしい。

「あ、着きました!本当にすみませんでした〜」

おおホントにすぐだったな。
お礼をしたいという女の子達を笑顔でかわし海に向かって歩き出した。と、立ち止まる。
来るときも思ったが、ひょっとしてこっちの角曲がった方が近いんじゃないか?
大体男の方がこういった感覚は優れているらしい。ビンゴ。もう海が見えた。花火の光も
向うに見える。えーとあいつらは…

昔何かの小説で読んだことがある表現、まさかのリアル体験かよ
心臓が…握りつぶされたかと思った。
2人の影が重なっている。表情はよく見えない。ゆっくり顔が離れて…また一瞬重なった。
手足の指先が冷たくなっていくのを感じる。このまま…
このまま置いて行かれるのだろうか。2人は見つめあったままだ。行かせるか…そう思った矢先、
絵里子が森岡の頬にすうっと手を伸ばし、そしてすぐに前を向いた。

(…?)

それきり2人の距離は近づくことも離れることもなかった。
絵里子が拒絶したという感じは受けなかった。どちらかといえば優しい雰囲気だったが
結局のところどういう顛末なのかは分からない。少し気が抜けたがとりあえず浜辺に向かう。
その後も次の日も2人に変わった様子はなかった。
森岡はキスまでしといて気持ちを伝えてないんだろうか?
ああそうだキスしやがったんだよなちくしょう

だがあの日の事を俺は結局聞けなかった。
森岡が退職すると聞いた時も、俺はやっぱり聞けなかった。
森岡が警察の意義や組織の在り方に独自の考えを持っていることは知っていたし
何よりあの頃の森岡は俺や絵里子から離れたがっているように見えた。
ところどころをぼかしながらも退職理由を真剣に話してもくれた。
俺も「そうか」とだけ伝えた。絵里子も何とか納得したようだった。半ベソだったが。


絵里子からメールを見せられる。
…これは花形からじゃない。ああ、そうか。サッチー、きみ森岡の…

ピーピー、お前は俺に劣等感を抱いているらしいがそれは違う。
俺はお前に何度も出し抜かれてる。
今回も、あの日もな。






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