気付かない2人(非エロ)
片桐琢磨×木元真実


地取りを済ませ対策室へ戻る途中。
【閉】ボタンを押そうとしたところで、木元が飛び込んできた。

「っと、すみません、片桐さん」
「いや・・3Fでいいのか?」
「あ、野立さんのところに行くので・・・5Fお願いします」

エレベーター内に沈黙が広がる。
重苦しい空気を払うように片桐が口を開いた。

「木元・・・今日この後予定あるか?」
「いえ、定時で上がるつもりでしたけど?」
「ちょっと飯でもいかないか」

珍しいこともあるものだ、と木元は不思議に思いながらも
恋人と理不尽な別れ方をしたばかりの彼が気に掛かっていたこともあり
2つ返事で承諾した。

「ここ来てみたかったんだけど、男一人だとなかなか入りづらくてな」

二人が訪れたのは、警視庁近くに新しくできたイタ飯屋。
デザートの評判がいいのは木元も黒原経由で聞いていた。

「なんでも好きなの頼めよ。このぐらい奢る。」
「いいんですか?遠慮なくいっちゃいますよ?」

ウェイターに注文を告げたあと、木元がぽつりと尋ねた。

「片桐さん、もう・・大丈夫なんですか」

問われると思っていなかったのか、意表を突かれた様子の片桐が答えた。

「気遣わないといけないのは俺の方なのにな・・・お前こそ体はもう大丈夫なのか?」

木元の脳裏に、数ヶ月、沼田に撃たれ、監禁され・・・
対策室の仲間に救出された記憶が甦る。
そう、真っ先に駆け付け、頬に手を添えてくれたのは、今目の前にいる同僚の彼。

大盛りのパスタとともにドルチェが運ばれてきた。

「見ての通り、もう全然問題ないですよ」

だが、片桐は気付いていた。木元の―いつもとカバンの掛け方が違っていたことを。

(まだ傷口が痛むんだろうに)

「木元さ・・段々ボスに似てきたよな」
「それって褒め言葉ですか?」

他愛も無い会話で笑い合いながら、片桐は少しずつ心の氷塊が溶けていくのを感じた。

「あー、お腹いっぱい。。今日はどうも御馳走様でした。」
「いや、俺の方こそ付き合わせて悪かったな。」
「悪いことなんてないですよ。片桐さんって・・割りとすぐ自分を責めるタイプですよね。」
「そうかな」
「そうですよ」

木元の指摘に、なぜか自然と笑みが零れる。

(2年の間に、俺、こいつに追い越されちまったかもしれないな)

「片桐さん」
「ん?」
「あのー・・・私に何かできることがあれば言ってくださいね」

"ご飯食べることぐらいしかないけど"

そう言って恥ずかしそうに流しのタクシーをとめようとした彼女を―
気付いたら片桐は抱き締めていた。

「・・・え・・・」
「・・少し、このままでいさせてもらえないか、木元」

肩越しに震える声を受けとめる。

(なんだろうこの感じ・・・・・・ああ、同じだ、あのときと。)

自分が助け出されたときのことを思い出す。

不器用な感情が、二人の心に新しい流れをつくりはじめた。






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