私のアンラッキデー
野立信次郎×大澤絵里子


う〜ん、野立気持ちいい。




1年も残すところあと1か月ほど。
目は覚めたけど、まだ夜が明けてないらしく、
部屋は暗いままだ。起きるにはまだ早い。
それでも、寝付けなくて野立とシーツが
ひんやりとしていて気持ちいいなと思いながらそのままでいた。

はっ、とそんな言葉がぴったりな感じで
野立が起きた。珍しい。いつもは起きたのか
どうかわからないほど静かなのに。
そして、気づくとおでこにキスをされている。
たいてい目は覚めているけど、
毎朝の儀式のような厳かな雰囲気を壊したくなくて、
いつも寝たふりをしている。
そろそろ来るかな、と思っていたらがばっと布団をとって
さっさとリビングに行ってしまった。
それだけでも少し不安になる自分に軽くあきれる。
どれだけ野立のこと好きなのよ、私。
時間がないのかな、と時計に目をやる。
大丈夫、いつもより早いくらいの時間。
おでこにキスがなかったのは単なる気まぐれで、
これからいつものように朝ごはんでも作るのだろう、
と思って耳をそばだてていると足音がベッドに戻ってきた。

「おい、絵里子、取り調べに応じろ。
お前が起きていることは分かっている。」

私何かやらかしたっけ、と記憶をたどりながら答える。

「罪状は?」
「熱風邪だ。」

そういう野立の手にはしっかりと体温計が握られていた。

「ないわよ、そんなもの。というか誰かさんのせいで今忙しいから
休んでる暇なんてないのよ。」
「業務命令だ。おれがお粥作ってやるから熱ちゃんと測っとけよ。」

野立は一歩も引かなかった。

仕方ない、測るか。
今更ながら何も身に着けていない自分に苦笑しつつ脇に体温計を挟む。
体温計の数字の上がるペースが早い。
もしかしたら本当に熱があるのかもしれない。
そういえば、朝も野立とシーツが「ひんやりとしていて」
気持ちいい、と思ったし。

ピピピ ピピピ

ばたばたばた

体温計がなったのを聞きつけて野立も急いで来た。

「何度だ?」

脇から抜いた体温計の画面に映し出されていた数字は

36.9℃

「6度9分。セーフ!さ、今日も頑張って働くわよ〜」

少し大げさに手振りをしながら元気アピール。

「何言ってんだ、熱あるだろ。仕事なんかあいつらが
よろしくやってくれるさ。お前がいないほうが
かえってはかどるかもしれないぞ〜。とにかくお前は寝とけ。」
「ちょっと、失礼なこと言わないでよ。だいたい熱があるっていうのは
37℃以上の時に言うのよ。」
「たかが0.1℃、されど0.1℃っていうだろ?」
「はあ?聞いたことないわよ。とにかく行くから。」

シーツを巻きつけ、ベッドから出ようとすると肩を掴まれ、
ベッドに引き戻されておでこにキスをされた。

「なあ、わかってくれよ。俺はお前が心配なんだよ。
本当は警察だっていざという時のことを考えたら
辞めてもらいたいくらいなんだよ。でも、俺は絵里子が
刑事という仕事にプライド持ってることもわかってるし、
なにより、そうやって男勝りに仕事をしているお前を見ているのも
好きだ。だからこそ、風邪の時ぐらいちゃんと休んでほしいんだよ。」

野立の唐突な、そして珍しく真面目な告白に少し紅潮してしまう。

「分かったわよ、そこまで言うんだったらもう一回測る!
それで37℃以上あったら今日は休む。」

照れ隠しのようになってしまったのが悔しいが、まあいい。
言うことは言った。

「全然、わかってねーだろ。はあ。まあ、いい。ずるはなしだぞ。」
「望むところよ。」

かくして始まった2回戦。初戦同様数字が上がっていくペースが早い。
なんだか見るのが怖くなってぼーっと、ついていたテレビを見る。
テレビでは占いの時間となり、若くて高い女子アナの声が聞こえてくる。

「残念、最下位はおとめ座のあなた。体調が悪いみたい。
無理をしないで休む時はしっかりと休んで。」
「やだ、エスパー?」

と言ったのと同時に体温計がなる
野立は私がしゃべったせいで体温計がなったのに気付いてないらしく、
キッチンのカウンターから

「だから言ってるだろ。」

と得意げになっている。
ないことを祈りながら体温計を抜く。
恐る恐る画面を見るとそこには

36.9℃

の文字が。

「勝った!6度9分よ。やっぱり仕事が私を・・・ んっ・・・」

気づくとベッドサイドに来ていた野立が朝らしくないフレンチキスを
かましてくる。ようやく離して野立が私の目をしっかりと見て言う。

「体調悪くなったらすぐに俺を呼ぶんだぞ。
今日は絶対定時がえりだ。いいな。守れなかったら続きを庁内でする。」

最初は真面目な顔で何を言うんだろうと思っていたのに
だんだんと顔がニヤついてきて、今じゃいやらしい笑みを浮かべた
中年おやじと化している。

「もう、分かったから、そこどいてよ、エロじじい。」
「何言ってんだ、お前だってバカボンのパパより1つ年上のくせに。」


こうして私の12星座中最下位のアンラッキーデーが幕を開けた。






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