初めて(野立持ち帰り事件・続編)
野立信次郎×大澤絵里子


「ガードマン人形の代わりに、今夜は一緒に寝てくれませんか?絵里子さん」

あたしは野立の恋人になった。
ソファで抱き合いながら、溺れそうなほど深いキスを受けとめる。
息ができない・・・顔が・・熱い・・・胸が苦しい。
吸い付く野立の唇の音・・・生き物のように絡まり跳ねる舌の動き。
溢れる唾液が零れそうになると・・・口角を舐められかすめ取られる。
なんて淫靡なキス・・・なのに、無駄の無い動き。
翻弄されて、ただ受け止めるしか出来ない。

・・・すごく、慣れてるよね?
当たり前だよね?相手はあの野立なんだもん。
これって・・・やっぱり熟練の技ってやつ?
だめだ・・・これじゃぁやられっぱなしだ・・・。

クラクラする頭の中がだんだん冴えてきて、なぜか抗っている。
これからあたしたち、本当にしちゃうの?
今夜の急展開にはまだビックリだけど、恋人なんだからこの流れは自然な事で・・・嬉しいし・・・
でも、野立に全てを委ねてこの状況に酔いしれることが出来ない。
さっきは浮かれて勢いでOKしちゃったけど、生々しい野立のキスに、だんだんとたじろぐあたし。
だって・・・だって、こんなのすごく久しぶりなんだもん!
この10年振り返ったって、あたしの男性経験なんてそりゃぁもう寂しいもので。
・・・だめだ・・・いい歳になってても、まったく慣れていないこの状況。
心臓は早鐘を打ち、止まってしまうんじゃないかってくらい苦しい。
このままで最後まで、あたしもつのかな?
・・・やばい、やばいって!
なにがやばいのか解らないのに焦る。

不意に唇が離れた思ったら首筋に吸い付かれ、そのまま耳元まで舌が這い上がってくる。
髭の感触にゾクリとして思わず・・・

「はぅっ・・・ぁんっ・・」

甘い声が漏れて慌てる。
とっさに体を離そうとして、野立と目が合う。
端正な顔・・・茶色く澄んだ瞳に射すくめられ、またぎゅっと目を閉じる。

なななんなのあの目は・・・なんなの!?
この男、こんなに・・・か、か、かっこよかったっけ!?
今更見慣れたはずの野立の顔に秒殺されるなんて、ほんとにあたしはどうかしちゃってる。

いつか見た・・・ていうかいつも見てる、野立のまわりを女の子たちがキャーキャーと囲んでいる光景が目に浮かぶ。
・・・そりゃあもてるよね・・・
いろんな女の子たちにこんなことやあんなこと、してきたんだよね・・・。
・・・・・・・・ちょっと待ってよ、あたし42なんだよ?
どう考えてもあの子たちとは違う。
野立はずっと好きだったって言ってくれたけど・・・この先のことは、がっかりさせちゃうんじゃないかな・・・。
今日は20年の恋が醒める日だったりして。
・・・ああ・・・しかも今日の下着、可愛くないやつだ。
やだ・・・昨日はお気に入りだったのに・・・もうっ・・・。

「・・・絵里子、どした?」

啄ばむように頬にキスをしていた野立に呼びかけられ、薄目を開ける。

「すごいしわ。戻らなくなるぞ」

野立はしかめっ面で、眉間を指でなぞってくる。
それで、自分も同じ顔をしているのだと気付く。

「・・・かもね、だって・・・アラフォーだもん」

ひどい顔よね・・・こんな時に。

「なんだよ、気が変わっちゃった?」

少し不安げに聞かれて、ううんと首を振る。
だったら・・・とまた寄せられる唇を掌でさえぎる。

「ねぇ、あ、あのさ・・・シャワー浴びてきてもいい?」

とにかく頭を冷やして、気に入らない下着だけでも脱ぎたかった。

「いいよ、このままで」
「あたしがよくないの・・・ね?」
「んー・・・ダメ、逃げられたくない」
「逃げないわよ」

野立はまたぎゅっと私を抱き寄せ、嫌だね・・・と呟いた。

「やっと捕まえたチョウチョなんだ・・・」

優しく髪を撫でて、フフッと笑う野立。
チョウチョ・・・?ああ、一時木元がよく言ってたわよね。
いつだったか・・・女の子の事を蝶に喩えて、皆で話した事を思い出した。
女の子・・・またさっきのモヤモヤが頭に浮かぶ。

「・・・もうチョウチョじゃないわよ」
「ん?」
「ていうか、蛾・・・かもよ、もともと・・・」

ため息をつく私の顔を、野立が覗き込みまじまじと見つめる。

「あ、モスラね。だよなー、絵里子は最強の大物だから・・・」
「そんなにでかくないからっ」

間髪入れずに突っ込んで、笑う野立を睨みつけると、優しい笑顔をしていた。

「・・・どうしたんだよ。何気にしてんだ?」

怖いの?って尋ねる、低くて穏やかな声・・・少し気持ちがほぐれた。

「そうじゃないけど・・・緊張しちゃって。こんなの、久しぶりだし」

いい歳してって思ってるでしょ?って膨れると、いいや・・と言って頬を撫でてくれる。
なによ・・・優しいじゃない・・・調子狂っちゃう・・・

「そう・・・もう若くないもん私。それにさ、急にこんな事になっちゃって、今日の下着・・可愛くないし・・・」

野立は少し呆気にとられた顔をして、それからまた噴出して笑った。
・・・やっちゃった、つい言わなくていいことまで言っちゃったじゃない。

「笑わないでよ!女には大事なことなの!」

恥ずかしくて、怒るしかない。

「いや・・・お前さぁ・・・」

まだククッと笑いを堪える野立がなんだか憎たらしい。

「俺は、勝負下着なんて見飽きてるの。むしろそそられるねぇ・・・そういう抜けた感じ?」

ニヤニヤして・・・ムカツク。

「今、お前が平助さんでも抱けるぜ、俺は」
「う、嬉しくないから!それ」

変態なんじゃないの?あんた。

「それにさ、今日は俺が脱がせるって決めたから。なんでもいいんだよ・・・とにかく脱がせたいの!」

強く言い切る野立。
なんでそんな必死なのよ・・・と思いながら、脳裏に酔っ払ってポイポイ脱ぎ散らかす自分の姿が浮かぶ。
あの醜態・・・何度野立の前で晒したことか。
・・・今更下着にこだわる仲でもないのね・・・と落ち込んでいると

「なぁ、じゃぁ俺も聞くけど・・・」

問いかけに顔を上げる。

「この家に、アレはあるのかな?」
「アレって何よ」
「いやさ、俺今日持ってないから。野立会でもなかったし。まぁ・・無くてもなんとかするけど一応・・・な」

今日は俺もどうなるかわかんねぇし・・・とかブツブツ言っている。
・・・・・?
あ?あ、あ、アレね!

「あ!アレなら無いけど大丈夫、ピル飲んでるから」

少し驚いたような野立が口元に手をやり、意外そうに「そう・・・」と呟いて黙り込む。

「ちがっ!違うわよ、そのためにじゃないわよ、働く女がいちいち体調に左右されるわけにはいかないでしょ?!」

またあたふたしてしまうあたしを抱き寄せる野立。

「わーかってるって。ムキになるなよ・・・」

そのまま立たされて手を引かれる。

「じゃぁさ、そろそろベッド行こうぜ・・・」

・・・あれ?で、シャワーはどうなったんだっけ?
なんだかんだで、また野立のペースに乗せられてしまう。
肩を押され、ベッドに腰掛けると、逃げるなよとでも言うように目配せをして、体が離れた。
ワイシャツのカフスボタンを外しながら、キッチンと部屋全体の照明を幾つか消して、ベッドサイドのライトを調節する。
ほんわりとした明るさが、部屋の空気を甘くする。
・・・うん・・・恥ずかしいか、恥ずかしくないか、なんとも絶妙な明るさね・・・あのさ、ここ私の家なんだけど。
とか後ろ姿に突っ込んでいると、野立がこれまたなんとも色っぽくシャツを脱ぎ捨てる。
細身ではあるけれど、無駄の無い筋肉をまとった背中に見とれる。
本当にいい男なんだね・・・あんたって・・・
またドキドキして苦しくなってくる。
振り向いた野立と目が合わせられない。
ゆっくりと近づいてきた野立が、私の前にしゃがみこむ。

「ではでは」

嬉しそうにそう言うと、セーターに手をかけ、バンザイするみたいに脱がされる。
一枚一枚剥ぎ取る度に、大丈夫・・とでも言うようにキスされて・・・嬉しいけどやっぱり悔しい。

「念願叶って、満足?」

すべて脱がされて、恥ずかしくてまた強気に出てしまう。
ごめん・・・あたしって、可愛くない女だよね・・・。

やっぱり恋には奥手な絵里子が、キスを受けながら固まってしまった。
ま・・・俺も感動のあまり、いきなりがっついて濃いキスをしすぎたかも。
シャワーだなんだって、とりあえずその場を逃れようとする絵里子を抱きしめる。
嫌だよ。
この期に及んでお前の気が変わったら、もう俺立ち直れねーし。
すぐに触れられる距離にいながら、ずっと遠かった。
やっと・・・ここまで来たんだ。
全部俺のものだって感じたい。
だけど・・・やっぱりそう思っているのは俺だけなのか?
こんな俺の想いは・・・お前を怖がらせたりしてるんだろうか。

なんだかんだと言い訳する絵里子は、相変わらず不器用で笑えてくる。
でも、その気になってくれない絵里子に不安になって、怖い?と尋ねてみた。

「そうじゃないけど・・・緊張しちゃって。こんなの、久しぶりだし」

その発言は嬉しいけど、ほんとにそれだけか?
だが、そんなことを気にする絵里子は可愛いな・・・。
自信満々ないつものお前はどうしたんだよ。調子狂うじゃねぇかよ。

「そう・・・もう若くないもん私。それにさ、急にこんな事になっちゃって、今日の下着・・可愛くないし・・・」

・・・なんだよそれ・・・たまんねぇぞ!
こいつは全然解ってない。
どんだけ俺を夢中にさせるんだよ。
ああ・・・もう絶対逃がしてやんない。
そういや俺も、今日は相当きてるから・・・自信ねーな。
絵里子が帰国してから、全然女抱いてねーし。
ここは・・・ちゃんと確認しとかなきゃな。

「あ!アレなら無いけど大丈夫、ピル飲んでるから」

お前・・・テンパってる割にはすごい事ズバッと言うのな。
てことは・・・かなりやばいぞ・・・
やばいからもうとりあえずは考えないようにしよう。
天然な絵里子の発言に心乱された俺は、とりあえず落ち着こうと絵里子から離れた。
服を脱ぎながら、部屋の照明を調節する。
絵里子を見ると、自分の家なのに緊張してベッドの上で正座している。
そんな不器用な絵里子に、片桐かよと突っ込みたくなった。
気持ちをほぐすように・・・キスをしながら脱がせていく。

「念願叶って、満足?」

バカヤロウ、真っ赤な顔して、何強気に出てんだよ。
なんでそんなに可愛くすんだよ・・・。

愛しくて・・・抱きしめたまま二人でベッドに倒れこむ。
絵里子と隙間もないほどピッタリと肌と肌を重ねる。
しっとりと吸い付くようで、壊してしまいそうなほど細い・・・。

お前の体って、こんなにも女だったんだな。
男も震え上がる最強の女。
そんな鎧を着て闘ってるお前が、決して強いだけの女でない事は、俺が一番知っている。
そんなお前にこれまで・・・俺は何をしてやれただろう。
力を持って、お前の生き方を支えてやりたい。ずっとそう思って走ってきた。
でもこうやって抱きしめてみると・・・無力だったと思えるほど、これまでの自分が悔やまれる。
もっと守ってやりたかった。もっと支えたかった・・・ずっと・・・。

押さえが利かないような欲情を感じながら、感情を抑える事に慣れた自分がそれを抑制する。
俺は怖いんだ。
これ以上こいつを愛しすぎる事が・・・そして失うことが。
自分から踏み込んでおいて、なんなんだ俺は・・・。
守りたいと強く思いながら、この期に及んで恐れる自分に気付き、俺は動けなくなる。

覆いかぶさってくる野立の重みが心地いい。
男に包まれる安心感に、眩暈がしそうになる。
背中に腕を回して、ピッタリと抱き返す。
顔を上げた野立が、触れるか触れないかのキスをして・・・受け止めるけど、なぜかその先には進んでこない。
少しの間が不安になって、薄く目を開ける。
見た事もないような、切なく惑う目をした野立がいた。

「・・・どうしたの?」
「ん?・・・いや・・・まいったな・・・」
「・・・やっぱ私となんて、無理?」
「バカ、ちげーよ」
「?」
「・・・情けねえよな・・・どうしていいか解らなくなった」  
「あんた、やりかた忘れたの?」
「んなわけないだろ!今まで何人・・・ま、いいや」
「・・・だよねぇ・・・」
「・・・でも・・・お前みたいな女は初めてなんだよ」
「え?」
「久しぶりどころか、初めてなの」
「は?」
「だから・・・俺も・・・」

なんて顔してんのよ。
つまり・・・そういうこと・・・なの?

「あんた、バカじゃないの?」

愛しくて、たまらなくて、野立の頭を抱き寄せる。

「いい歳して、笑っちゃうね、あたしたち」
「・・・だな」

野立も笑っている。

「決めたって言ったでしょ?恋人になるって」
「・・・言った」
「あたしが決めたんだから、もう進むしか無いんだって」
「・・・ったくお前、なんでそんな上から・・・上司に向かって」

この気持ちを伝えたいけど、やっぱり可愛くなんてなれない。
野立の髪を撫でながら気付く。
そうだ・・・まだ言ってなかったよね・・・

「あたしさぁ・・・あんたのこと・・・相当好きみたい」

見下ろす瞳に誘われるようにキスをした。

「だから・・・いいから・・・野立、あんたの好きにして・・・」

野立の顔がくしゃりと歪んだ。

「知らねーぞ、どうなっても」

泣きそうな顔してそんな脅し言ったって、怖くないから。
切羽つまったような獰猛なキス・・・野立・・・あんたそんなにあたしが好き?

動けなくなった俺に気付いた絵里子が、不安げに見つめてくる。

「・・・どうしたの?」

その声が優しくて・・・かっこつけたいのになんて言っていいか解らない。
違うって・・・好きなんだよ、絵里子。
もうどうしていいか解らないくらいに。
それなのに、お前はまた頓珍漢な勘違いばかりして、俺の気持ちを全然解っていない。

お前みたいな女、どこにもいねーよ。
俺は、お前じゃなきゃダメなんだ。
どんなに想ってくれる女の子がいても、応えられず、結局傷つけてしまう。
だから、本気の恋なんてしない。出来なかった。
ああ・・・これまで何やってたんだろうなぁ・・・俺って・・・ほんと情けねぇ・・・。

「あんた、バカじゃないの?」

うん・・・笑われた方がずっと楽になれる。
今はお前のその偉そうな物言いが、俺の気持ちを軽くする。
絵里子に抱き寄せられて、優しく髪を撫でられる。
・・・俺の中で・・・何かが崩れていく気がする。

「あたしさぁ・・・あんたのこと・・・相当好きみたい」

ずっと聞きたかったそんな告白を、この状況で言われてしまった。
照れながらキスをしてくる絵里子。

「だから・・・いいから・・・野立、あんたの好きにして・・・」

なんだよお前・・・好きにしてって・・・どうすりゃいいんだよ。
感じた事のないような感情が押し寄せてきて、苦しくて自分をコントロールできない。
奥歯を噛んで、零れそうな感情を堪えて、それでも必死でかっこだけはつけようとするバカな俺。
・・・これ以上は、もうなんも言えねぇよ・・・。

湧き上がる感情をぶつけるように、絵里子の唇を貪る。
壊れそうな細い体をかき抱きながら、顔中に・・耳に・・首筋に・・犯すように強く吸い付く。
こんなにも愛しくて大切にしたいと想う一方で、壊してしまいたいような凶暴な感情に支配されそうになる。
息苦しくて、唇を離し絵里子を見つめると、肩で息をしながら少し怯えたような目をしていた。

「・・・悪い」

抱く腕の力を緩めてそう言うと

「いいって」

またも強がりな発言。無理しやがって。
でもそんな絵里子が俺の気持ちを少し落ち着けてくれる。
今度は精一杯の優しいキスをして・・・絵里子の体に手を這わせていく。
スベスベとなめらかな白い肌に、俺の指を滑らせるようにそっと這わせると、皮膚が泡立ち紅潮していく。
目を閉じて、息を震わせじっと堪えている絵里子が可愛い。
小ぶりな胸を掬うように揉み上げると、ビクリと反応して身を固くする。
なんだよ・・・これくらいでそんなんじゃ、ほんとに知らねーぞ?
触れるか触れないかの愛撫から、徐々に力を加えて・・・
柔らかな乳房を揉みしだき、指の間からはみ出る肉の感触を愉しむ。
絵里子の息が上がってきたところで先端に唇を寄せた。

「くっ・・・んん・・」

食むように味わい、舌で転がして・・・吸い付いて印を刻んで。
俺も夢中になり、また何かに急かされるような気持ちになる。
胸への愛撫だけで身をよじり、必死で声を堪える絵里子。
可愛くてたまらず、口元を押さえる手を剥がして口付ける。

「お前・・・可愛すぎ」
「バッ、バカにしないでよっ」

手を下腹部から太腿へ・・・焦らすように擦りながら耳元で囁く。

「声・・・我慢すんなって」
「してないっ」

意地を張る絵里子をいじめたくなって、顔を見つめながら秘所をそっと指でなぞる。

「・・・ぁ・・・んんん・・・」

隠すように俺の肩に顔を寄せて、ギュッとしがみついてくる。
久しぶりの刺激が辛いのかもしれないが、俺だってもう余裕なんてなくなってくる。
また徐々に指を進めて・・・陰唇の間をなぞると、もう潤っていてクチュリと水音を感じる。

「・・・濡れてる」

耳に息を吹き込むようにそう言って、逃れようとする絵里子を抑えながらさらに攻める。

「やっ、野立、待って」
「絵里子、大丈夫だから」

苦しそうに悶える絵里子を見つめ、声を掛けながらも、どこか黒い欲情を抑える事ができない。
絵里子の中に指を沈めて、感じやすい部分を探る。
狭く締め付ける中をほぐすように、指を増やしていく。

「あっ・・ダメ・・・」

荒い息をしながら、言葉で抗う絵里子の腰が、指の動きに合わせ揺れ始める。

「いやらしいな、絵里子・・・そんなに欲しい?」

俺の息遣いも、言葉も、相当やばい感じになっている。

「バカッ、わかってるなら、何とかしてよっ」

涙目で、息も絶え絶えに睨んでくる。
好きだな、その負けん気。
でも俺、まだ負けねーよ。
指を抜き、もがく絵里子の腿を開いて抑えつける。
テラテラと濡れ光るそこに、喰らい付くように吸い付く。
絵里子が声をあげ、俺の頭をまさぐってくる。
もう抑え切れなくなった嬌声に煽られて、鼻先で柔らかな茂みをかき分け、舌で、唇で愛する。
ピンと張り詰めたように硬直した脚が、尖った叫び声の後ゆっくりと弛緩していく。
濡れた口元を拭いながら絵里子を見遣る。
艶かしく開いた唇・・・溶かされた瞳が、俺を見つけてさらに潤む。

「野立のバカ・・・」

きゅっと抱きついて、俺の頬に吸い付くようなキスをしてくる。

「絵里子、好きだ・・・」

好きだ・・・好きだよ・・・何度もそう言って強く抱きしめ、唇を重ねる。
そうしながら、どうしようもなく猛り勃つ自身を、絵里子に擦り付ける。
絵里子の息がそれを感じて喘ぎに変わり・・・腰が強く合わさって揺れる。

「の・・・だてっ・・もう・・」
「ああ、俺も欲しいよ」

位置を定め、グッと先端を沈めると、絵里子が息を詰めて体を固くする。
口付けを落としながら、ゆっくりとほぐすようにして挿し入る。
狭くて強い締め付けに、一気に持っていかれそうになる・・・。

降り注ぐ野立のキスが激しくて・・・応えたいと思う一方で臆病な不安がよぎる。

「・・・悪い」
「いいって」

気付いた野立に気を遣われて、また無駄な強気が出てしまう。
好きにしていいって言ったのはあたしなんだから・・・うん。
こんなときに頭の中で気合いを入れて身構える自分は、本当に滑稽な女だと思う。
そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、今度は蕩けるような優しいキスをくれる野立。
うっとりと酔いしれるのもつかの間・・・触れられて、静かにさざめくような刺激にゾクゾクする。
フワリと胸を揉み上げられて、やっぱり身構えてしまう。
だんだんと与えられる刺激が強くなり、胸が締め付けられるようなキュッとした感覚が、そのまま下腹部に響いてくる。
熱い・・・体の中心が、どんどん熱を持って潤むのがわかる。
あたし、感じてる・・・野立に・・・もう、声が・・・。

「お前・・・可愛すぎ」

野立の声がして、恥ずかしくて堪らなくなる。
腿を擦られて、また身構える。
触れて欲しいような、触れられるのが怖いような部分をギリギリで避けながら撫でられ・・・野立の低い声が耳元で響く。
その声、反則だよ・・・何も考えられなくなっちゃいそう・・・。
もう、野立の声と動きに翻弄されて、我慢したいのに出来なくて、ただ喘ぐことしか出来ない。
待って・・・忘れていた感覚に、おかしくなりそうで怖い。
それなのに、体は昇りつめたくて堪らなくなってくる・・・。

「いやらしいな、絵里子・・・そんなに欲しい?」

呼び戻されてカッとして、野立を睨む。
欲情しきった男の目が、見据えている。
野立がこんな風にあたしを見るなんて・・・こんな風に触れてくるなんて・・・まだ信じられない。
いやらしく笑みをたたえる口元が色っぽくて、悔しいくらい動揺する。
次の瞬間、荒々しく腿を掴まれて、その唇が犯してくる。
刺激が強すぎて、逃れたくてもがく。
このいやらしい行為を・・・この蠢く快感を・・・野立によって与えられているということに、どうしようもなく煽られる。
もう、許して・・・ダメ・・・!
声にならない声をあげ、心が叫んで・・・それでも野立は私を連れていく・・・。

白んだ視界に野立を見つけて、堪らなくなって抱きつく。
どうしてくれるのよ・・・苦しいくらい、こんな気持ちにさせるなんて。

「絵里子、好きだ・・・」

大好きなその声で・・・欲しい言葉を何度もくれる。
野立の頬も・・・体も・・・火が付いたように熱い。
そして・・・一番熱い固さが、あたしを求めて主張する。

「の・・・だてっ・・もう・・」
「ああ、俺も欲しいよ」

待ち焦がれた感触が嬉しくて堪らないのに、指とは比べ物にならない圧迫感に体が強張る。

「つらくないか?」

知らねーぞ、なんて言ってたくせに優しい野立が嬉しい。

「ん・・・大丈夫」
「俺は大丈夫じゃない、力抜け」

苦笑する野立が本当に余裕無さげで、なんだか可愛くて少し笑った。
大きく息を吐いて、力みを逃す。
息を荒げ、腰を打ち付けてくる野立に、熱く見つめられる。
いつのまにか異物感は消え、合わさる部分からグチュグチュと溶け合う音が聞こえる。
嬉しくて・・・感じて感じてたまらないのに・・・切なく、どこか悲しくなってくる。
いつも軽くって、はぐらかしてばかりで、心の奥を見せない男。
こんな野立がいたなんて、知らなかったよ・・・。
・・・ううん・・・本当は見ないようにしていたのかもしれない。
ごめんね、野立。気付かなくて。
いつも隣にいるあんたのことを、あたり前のように感じてた。
ずっと・・・居てくれてたのにね。
こんなに想ってくれてたのにね。

「・・・泣くなよ・・・」

知らず零れた涙に気付いた野立が、深く繋がったまま動きを止める。
そんな目で見ないで・・・。
違う・・・もっと強く抱いて欲しいの。
大きく首を振って、野立の頬を手で包み込む。
野立が望むなら、壊れたって構わないから。
こんなにも愛してくれるあんたに・・・あたしはまだ何もしてあげられてない。

「もっと抱いて、強く・・・離さないで・・・」

小さく呻いた野立の体が大きくうねって・・・その波にのみこまれる。
容赦なく貫かれる体が、好きなように揺さぶられる。
痛いほど肩を掴まれ、揺れる体を固定した野立が、深く、ひねるように突き貫く。
息をあげ、呻き、強く強く求める野立の体中から、叫びにも似た想いが伝わってくる。
応えるように・・・ただただ野立を想う。
頭の芯まで響く快感で、もう野立の事しか考えられない。
一緒に・・・今度は野立も連れていきたい・・・。
離さぬように強く・・・繋がった体を抱きしめる。

「・・・っ・・・絵里子!」

吼えるような野立の声と同時に、体の一番奥で熱が弾けて・・・その熱さに包まれ体中が満たされていく。
不規則に荒い息を吐き、自分の上で震える男の姿に、どうしょうもなく心も震える。
野立・・・野立・・・愛してる・・・。

絵里子と一つに繋がって揺れる。
体の固さはだんだんと無くなり、絵里子の熱い肉壁が俺に絡みつく。
浅く、深く貫きながら、中を探る。
いい所に当たると、喘ぎ体をくねらせて締め付けてくる。
その押し戻されるような強い快感に、理性が飛びそうになる。
俺に開かれた愛しい女の淫らな姿を、もっと見続けたくて抗う。
そうだ・・・もっともっと俺を感じろ。
他には何も考えられないくらいに、絵里子を俺でいっぱいにしたい。

熱に浮かされたように喘ぎ乱れていく絵里子の瞳から、光る滴が零れ落ちる。
こんな状況で涙を流す女は結構いて、それが男の征服欲を満たしたりもするが・・・
何度も零れる絵里子の涙に、俺の心は動揺する。
胸が締め付けられるようで、俺まで泣きたくなってくる。

「・・・泣くなよ・・・」

こんな俺が、お前を少しでも悲しませているのかと思うだけで辛くなる。
・・・絵里子が・・・俺の気持ちを否定するように首を振る。
優しく頬が包まれる。
心が・・・繋がった気がした・・・。

「もっと抱いて、強く・・・離さないで・・・」

掠れた声が俺を捕らえて・・・体中の血が沸き立ち、熱い強欲に支配される。
何かを赦された気になった俺は・・・猛り、狂い、絵里子の中をメチャクチャに暴れる。

離すわけないだろ。
お前は俺の女だ。
俺の女だ。

想いをぶつけるように、強く強く抱いて・・・全てを求めて。
そんな俺の欲望を、絵里子の体が連れて行く。
与えられる快感に、何度も何度も熱が弾けて・・・視界が眩しく白んでいく。
俺の欲の塊を、絵里子の心の一番奥に届くようにと、深く繋がり精を放つ。
強く脈打つ絵里子の中が、全てを受け止めのみこんでいく・・・。

二人の体の震えと息苦しさが、だんだんと治まってくる。
力なく覆いかぶさる野立の体が、重みを気にするかのように少し浮く。

「・・・大丈夫か?」
「うん・・・」

まだ顔は首筋に埋めたままで、表情は解らないけど優しい声だった。

「離れたくねーな・・・」
「そーね・・・」

まだ繋がったままの腰を、またぐっと合わせて来る。
嵐のように激しく交わした後の、けだるく心地よい甘さに包まれる。
でも、あまりに熱く乱れすぎた自分を自覚し、照れくさいやら恥ずかしいやら・・・
野立にどんな顔をしていいか解らない。
だがしかし、むず痒いようなこんな気持ちは、この男の前では無用のようで・・・

「あー・・・俺、すんごい出ちゃったよ・・・」
「・・・そう・・・」
「すげー気持ちよかったな・・・」
「うん・・・」

無意識にそう応えると、むくりと顔を上げてきて目が合う。

「やっぱりそんなによかった?」
「え?」
「だって今、絵里子気持ちよかったーって」
「いや、言ってないよ」
「・・・またまたぁ・・・よかったろ?」
「え・・・うん・・まぁ・・・」
「すんごい声出しちゃってさ」
「バッバカ!やめてよ」

ニヤニヤキラキラ・・・あんたなんてバカみたいに嬉しそーな顔してんのよ。

「俺もさ、途中からぶっ飛んじゃった」
「あそ・・・」
「だってよー、初めてだもん」
「は?」
「初めてなの」
「何が」
「んー?中で出すの」
「あんた何言ってんの?」
「初中出し」
「そんな申告しなくていーからっ!」
「あっ・・・絵里子っ、そんな大声出したら響くっ」
「ちょっと、何変な声出してんのよ」

繋がった部分がピクンと震える。
この体制で、なんでこんな話してるわけ?

「いやさ、俺、女遊びは激しいけど、そこだけはきっちりしてんの。偉いだろ?」

・・・まだ続けるわけ・・・

「・・・意味わかんない」
「どんなに『大丈夫だからっ』とか言われても、絶対しなかったもん、誠実な男だから」
「・・・そもそもあんたの動機が不誠実だから」
「俺みたいなイケメンの有能なオスはなー、常に肉食系のメスに狙われてんだよ」
「だったらしなきゃいいじゃない、それが一番安全でしょーが」
「だって・・・男だもん、したいじゃん?誰かさんは相手してくんねーし・・・」
「・・・・・したじゃない・・今・・・それよりいつまでこの状態で話しするわけ?」
「だからー、離れたら出ちゃうだろ?俺のが・・・」
「・・・拭けばいいじゃない」

ベッドサイドのティッシュケースを指差す。

「だよな。じゃぁそうしよう。俺が責任を持って拭いてやるから」

・・・は?

野立が手を伸ばして、何枚かティッシュを取ると、繋がった部分にあてがい自身を引き抜く。
抜き出るものが、結構な質量だったような気もするけれど、気付かなかった事にする。
と、やおらムクリと体を起こした野立に脚を開かれる。

「ちょ、ちょっと!何すんのよ!」
「何って、拭いてあげるの」
「いいよ、このままシャワー浴びに行くから・・・」
「いいって・・・俺がしてやるから」
「やっ・・・ちょっ・・・そんな見ないでよ!」
「見たいじゃない、記念に・・・」
「なんの記念よ」
「だから、初中出し?」
「あんたバカじゃないの?バカなの?・・・あっ・・やめっ・・・」

優しく拭き取る野立の動きに、まだ熱の冷めない中心が敏感に反応する。
生暖かい白濁が、湧き出るように溢れ出ているのがわかる。

「すげーな・・・どんどん出てくる・・・」

サワサワと柔らかいティッシュで刺激され、じっとしているのが辛くなる。
足の指に力を入れて、唇を手の甲で抑えて・・・それでも顔が熱くて堪らない。

「絵里子・・・またしたくなっちゃった?」

いやらしい髭面の男が、ニヤニヤと見つめてくる。
・・・あんた・・・最初からこういう魂胆だったんじゃない!

「この変態!したくなっちゃってるのはあんたの方でしょうが!」
「バレた?だって、絵里子にもその気になって欲しいから・・・」
「だからって、何ごちゃごちゃまわりくどいことしてんのよ」
「絵里子が可愛いから」
「は?」
「だって全然足りねーもん!20年の積もりに積もった思いがだな、俺の欲求を・・・」
「あー、あー、もう、解ったから!ごちゃごちゃ言わない!」

また野立が覆いかぶさってきて、包むようにむぎゅっと強く抱きしめられる。
いつものように、また訳わかんないうちに丸め込まれた。
・・・あたしたちって、恋人になってもこういう感じは続くのね・・・。
あーもーやられっぱなしでムカツク!

「絵里子」
「何よ」
「好きだ」

甘い囁きのあとは優しいキス。
もう・・・なんでこんなに好きになっちゃったんだろ。

右腕が重くて、身動きができず目をさます。
まどろむ意識のなかで、この感覚を思い出す。
何かと一緒に寝てる・・・あたし、久しぶりにやっちゃった?
この腕の重みは、また例の制服の彼なの?
ああ・・・今度こそ野立に逮捕されちゃうかも・・・ん?野立・・・。
ゆっくりと目を開けて、腕枕で眠る彼を確認する。
見慣れた髭面・・・そっか・・・あんたが泊まったんだよね。
でも、なんであたしが腕枕してんのよ。普通逆でしょーが。

時計を見ると、6時前。
もう少し寝かしておくか・・・と思いながら、あたしは一夜の記憶をたどる。
野立の恋人になって・・・あーなってこーなって・・・
そうだ、シャワーを浴びたあとまたなんだかんだで襲われて・・・そっからの記憶が無い。
ったくなによ・・・満足げな顔で寝ちゃってさ。
野立の髪は寝癖で膨らんでいて・・・襟足の癖毛はくるくるしててなんか可愛い。
あたしの胸に鼻先を寄せて、スースー穏やかな寝息をたてる無防備な野立は、なんだか大きな子どもみたいだ。
・・・ま、目覚めれば髭の生えたおっさんだけど。

ふと・・・右肩にあるケロイド状の薄い傷跡に気付く。
指でなぞって思い出す。
これ・・・6年前のあの時の銃痕・・・。

「お前はもう撃たないほうがいい・・・」

あの時言ってくれた言葉・・・今なら痛いほどわかる。
あれがあの時の、あんたの精一杯の告白だったんだね。
愛しさが込み上げてきて、頬を寄せ髪を撫でて・・・野立の額に口付ける。
大丈夫だから。
あたしを誰だと思ってんのよ。
これまでだって、これからだって変わらない。
絶対に帰ってくる。それが私。
いつだって、あんたが信じて待っててくれたじゃない・・・。
ずっと探していた心の居場所を見つけたような・・・そんな幸福感に包まれる。

「ん・・・絵里子?」

野立が眩しそうに目を開ける。

「・・・おはよ」
「んー・・・おはよう・・今何時?」
「6時過ぎかな。もう起きる?」
「やだなー・・・ここに居たい」
「今日仕事でしょ?」
「だって絵里子の腕枕気持ちいーもん・・・」
「・・・なんであんたがしてくんないのよ」
「えー?してたけど、いつのまにかこうなったんだろ?」

胸に顔を寄せて、腰に回された手に力が込められる。

「いいな・・・女に腕枕してもらったのなんて初めてだ」

嬉しそうに頬ずりしてくる。・・・またいやな予感・・・。

「もうさ、重いんだけど、離れてよ」
「んー・・・もうちょっと」

腰にある手がお尻に降りて・・・ちょっと、なに揉んでんのよ!

「その手を離しなさい。もうダメ。遅刻するわよ」
「いいじゃん・・・お前は休みなんだし・・・したい」
「したいじゃないわよ!あんた昨日の夜だって何回・・・」
「3回?あ、最後のは俺出してないぞ。お前が感じまくっちゃってそのまま先に・・・」
「そんな事聞いてないから」
「お前だってしたいだろ?あんなにもっともっと・・・やめないでって・・・」
「うるさいうるさい!さっさと着替えて仕事行きなさいよ!」

ムクリと半身を起こした野立が、腕の中にあたしを捕らえる。

「行くってー、これからするだろ?7時半にタクシー呼んでもらってぇ、俺んちまで15分・・・
着替えたりなんかして、まぁ9時前には着くな」

トロンとした目は何処へやら、すっかりキラキラしている。

「時間のことだけじゃないの!今日大事な会合でしょ?居眠りしたらまずいじゃない!」
「・・・絵里子・・・俺をなめるな」
「なめてないわよ、ちょ・・・」

キスを迫ってくる頭を、ガシッと掴み抵抗する。
野立はそんなあたしの顔まじまじと見つめ、何かに気付いたように・・・

「・・・絵里子、綺麗だよ・・・」

低い声で囁いてくる。

「・・・わかってるわよ」
「いつにも増して、綺麗だ。肌がツヤツヤしている」
「そ、そう?」
「ああ、なんかもう内側から潤ってるって感じでハリが違う」
「や、やだぁ・・・やめてよ」
「俺のお陰だな・・・」
「え?」
「恋人とのH、最高の美容効果だ・・・」
「は?」
「しかも相手は果てしなくイケメンな、最上級の男だからな」
「何言ってんの?」
「だからしよう」
「どうしてそうなんのよ」
「お前もいい歳だ」
「悪かったわね」
「効果はそう長くは持続しない」
「だから?」
「俺はお前にずっと綺麗で居てもらいたいんだよ・・・」
「・・・努力するわよ」
「よし、俺も協力を惜しまず努力する」
「なんだかんだ言って、あんたまたしたいだけじゃないの!」
「遠慮するな。俺が一生、お前のアンチエイジングに協力するって言ってるんだ」
「またごちゃごちゃ言って!なによ一生って・・・え?・・・んんっ・・・」

不意をつくその言葉に気を取られて、隙が出来てしまった。
唇が強く押し付けられ、口を塞がれる。
ずるい男・・・どうすりゃいいのよ・・・
腹が立って憎たらしいのに、あたしだってずっとこうしていたい・・・こうされたい。
慣れてないんだから、こんなに愛されるの。
だから可愛い女になんてなれないわよ・・・たぶん、あんたの前では一生・・・ね。

髪を優しく鋤くように撫でられて・・・目が覚める。
柔らかさと、甘い匂いに包まれていて気付く。
絵里子の匂いだ・・・。
夢じゃなかったんだな・・・昨日の夜何度も抱いた愛しい体は、まだこんなに近くにあって・・・
俺は確かめるように抱き寄せる。
離したくないな・・・俺だけの絵里子だと思えるこの時間を手放したくない。
これから何度だってこんな朝を迎えられると頭ではわかっていても
長い間焦れ続けた俺の心が、お前を強く求めて止まない。
きっと・・・ずっとこの気持ちは変わらないんだろうな・・・。

だけどお前はこのまま変わらずに、ずっと前を向いて走っていけばいい。
俺が誰よりもそばにいて、しっかり見ててやるからな。

でもさ・・・伝えたいけどこんなこと、今更真面目な顔して言えねぇよ。
気付けばお前を求めて、相変わらずの軽口を叩いている俺。
いや、心の中はいつも単純に、バカみたいにお前が好きで堪らないってだけで。
負けず嫌いのお前だって、素直に応えずごまかそうとしてばかり。
でもいっか・・・それが俺達だもんな。
俺への気持ちはこんな風に抱き合って、お前の体に聞いてみるよ。
これから一生・・・きっと呆れるくらい何度でも。
それだけは覚悟しとけよ、絵里子。






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