熟男熟女それぞれの事情
野立信次郎×大澤絵里子


猛り狂ったような野立の熱い塊が絵里子の深奥を激しく突き上げる。
鈍い痛みと快感が絡み合い電流のように体中を走り抜け絵里子の
芯を震わせる。

いつもと違う…

優しさと荒々しさが混じり合い、互いの高ぶりを感じ合いながら
重ね合う。ゆっくりと、時に激しく、その一瞬一瞬を愛おしむように
丁寧に愛し合う至極の時間のはずだった。

まるでレイプ…
そんな言葉が絵里子の頭に浮かぶ。

衰えることなくむしろ勢いを増す野立は、もはや絵里子のことなど
感知していないかのような暴走ぶりを呈していた。

大きく開かれた細い足は痛みも痺れも通り越して、感覚を失っている
ようだった。ただ一点、野立の多分親指が深く食い込んでいるらしい
鋭い痛みだけがジンジンと響く。
数度の痙攣を覚えたが、すでに自身が絶頂を迎えているのかどうかさえ
わからなくなった絵里子がかろうじてか細い声を発する。

「もう…やめ…のだ…て…おねがい…」

真っ暗な空間に放り出され浮いているような感覚の中で、肌と肌が
ぶつかり合う音と絡み合う愛液の卑猥な雑音、そして野立の激しい
息づかいが、妙な透明感を持って耳に響いてくる。

私、なんかしたっけ…ずいぶんと久しぶりだから?

消えそうな意識の片隅で、その状況を分析しようとしている
理性の残片を滑稽だと感じている自分に驚き、苦痛に歪む顔が
ほんの少しほころんだ。

どのくらいの時間が経っただろう。
ふと、重い瞼を開けると、野立が頼りなげに見つめていた。

「俺たちってさあ…付き合ってるんだよな?」

そう言って見つめる野立の瞳は捨てられた子犬のように無垢な不安に
満ちていた。
粘るようなしつこさで絵里子の上で雄々しく体を動かしていたのが
嘘のようだ。

「…なんで、そんなこと聞くの?」
「絵里子は俺が見合いなんかしても平気なのか?」
「見合い…」

未だまどろみのはざまにあった絵里子の脳裏につい数日前の出来事が
よみがえる。

「ところで野立君には付き合っているような相手はいるのかね?」

仕事の話の最中に唐突に丹波警視監が聞いてきた。
ふいを突かれ、言葉が出ない絵里子に丹波が上機嫌の笑顔を見せる。

「いやあ、ある代議士の姪御さんがお相手を探してるそうなんだがね。
野立君なんかどうかなあと思って…まあ彼もキャリアのくせにのんびり
してるから。君ら同期だしいろいろ知ってるんじゃないかと思ってね」

丹波のわざとらしい笑いに合わせて引きつり気味の笑みを見せながら、
絵里子は瞬時に考える。

悪い話じゃない…
警察キャリアは警視になると同時に机に良家の子女の見合い写真が積み
上げられる。キャリアにとってはその結婚さえも出世に大きく影響する
のは当たり前の話だ。

「フリーですよ。やっぱりいつまでも一人者じゃ出世に響きますからね。
彼もそろそろ年貢納めてもらわないと…」
「そうなんだよ。私も心配してるんだよ。官僚の世界はいろいろと複雑
だからね」

そう言って豪快に笑う丹波を冷めた目で眺めながら片頬で笑う。

…ふん、アンタこそどうせ間に入ってる幹部に恩を売って出世の道具にでも
するつもりなんでしょうが。

しかし丹波の部屋を後にして、ふと我に返った。

なんであんなこと言ったんだろう。
まるで私が野立にでもなったかのように計算高くなって…

絵里子はその勘違いぶりがおかしくて笑いがこみ上げる。が、すぐにそれは
自嘲の笑いへと変わった。

…てか、私って何…

絵里子は野立の視線を避けるように顔を背けた。

「…怒ってる?」
「怒ってないとでも?」
「ごめん…でも、ちょっとしたミスだから…深い意味はないっていうか…」
「…わけわかんねえ」

野立は絵里子の頬に片手を当てると自身の方に向かせた。
観念したように絵里子が野立の瞳をまっすぐ見つめる。

「…一瞬、自分のこと忘れて、あなたには悪くない話だって思っちゃったの」
「はあ?」
「その…なんて言うか、あなたになったみたいな…一心同体みたいな感じって
言うか…」

私、何言ってんだろ…
絵里子はたまらず目をふせた。

「わけわからん…」

野立は絵里子の額に触れると優しく髪をなで、瞼、頬、耳から顎先、
そして唇へと、その長い指をなぞるように滑らせる。

「…けど、その一心同体って言葉は気に入った」

野立は唇をもてあそぶ指先と入れ替えるように自身の唇を重ねた。

「おい、起きろ、絵里子」

翌朝、その声に起こされた絵里子の前に、背広姿でコーヒーを手にした野立がいた。
その捉えて離さないような野立の凝視に耐えられず、絵里子ははにかんだように
視線を泳がせ、むっくりと起き上がるとシーツを体にからめながらベッドから
立ち上がろうとした。と同時に、崩れ落ちるように尻餅をつく。

「おいおい、大丈夫かぁ?」

その言葉とは裏腹に野立は満足げな笑みを浮かべ、コーヒーをすする。

「少し早いけど俺は行かないと…」と言うと、ニヤけた顔で目をそらす。
「丹波さんと見合いの日取りを打ち合わせないといけないから…」

涼しい顔でそう言うと、虚を突かれ言葉を無くす絵里子に満面の笑みを見せた。

「彼氏が激し過ぎて足腰立たないから遅刻…な〜んて勘弁して下さいよ、BOSS」

絵里子は、焦ったように「バカ…」と応じ精一杯の笑顔を見せる。

「じゃ、後で」

野立は片手を上げて出て行った。
ドアの閉まる金属音が絵里子の顔から表情を消し去る。

「…自業自得…か」

絵里子は膝を抱えうなだれた。

…そうだ。アイツには、まだまだ登るべき先がある。有利な結婚話があれば、
そっちに向かれても仕方ない…アイツ…まだ若いし…

絵里子は顔を上げ大きく息を吐いた。
どこということはなく体中が軽い痛みに包まれていた。
野立の爪あとが残っているであろう太ももあたりに手をやり、ズキリとうずいた
箇所を指先でなぞる。

別れられるかな…

そんな言葉が浮かぶと同時に絵里子の瞳が潤んだ。

付き合い始めてそれほど時間は経っていない。キズはまだ浅いはず。
なのに、なぜ…

冷静に思考を巡らせるよりも先に体が反応して涙がこぼれ落ちる。
絵里子はシーツに顔をうずめ拭った。

「…らしくないよ」

そうつぶやいた直後に頭に軽い衝撃を感じて顔を上げた。
傍らに、さっき出て行ったはずの野立がいた。

おもむろに絵里子の隣に腰を下ろすと、「何、泣いてんだよ」と口をとがらせる。
「な…泣いてなんかないよ…」と言って、絵里子は顔を背けシーツで乱暴に顔を拭う。

「何よ、出て行ったふりしてこそこそと…刑事みたいなことすんじゃないわよ!」
「お前が、わけわかんねーからだろ。勝手に俺の見合い話進めといて…一体、俺は
お前の何なんだぁ? 散々俺を焦らせてパニクらせて…で、一人泣くってなんだよ」

そのすねた少年のような横顔に絵里子は苦笑し、「ホントだね…ゴメン」
とうなだれた。

「…あのさ、もっと若くて野立の有利になるような女性がいたら、遠慮しなくて
いいからさ」
「…お前はそれで平気なのか?」
「…わからない…自信ないかも…私たちさあ、そんなに長く付き合ってるわけじゃ
ないのにね…」

へへっとおどけた笑顔を見せる絵里子はことさら明るく続ける。

「ほら、野立が時々、会いたくなったら私、愛人になってあげてもいいし…」
「…それ不法行為だぞ。40過ぎて自分の主義主張から外れることするな」

野立はふてくされたような顔で深いため息をついた。

「長いよ…俺たち。今さら付き合うにも、今さら別れるにも長く付き合い過ぎて…
もうそういう仲なんじゃないの? 他にいくらでも女の子がいたのに…他にいくらでも
いるのにお前がいいなんて説明、もうつかない…」

野立は絵里子の肩を抱き寄せ、ピンク色にほてった頬に自身の頬から鼻先を
こすりつけ軽くキスした。

「大丈夫なの? その…丹波さんの話…」
「ああ…断った。見合いして向こうが乗り気になられたら断れないからな。
ホントに出世の道が断たれる」

絵里子は、ふんと鼻で笑って体を離した。

「相変わらず自信過剰ねえ。とりあえず会って、向こうが断るような話に
持っていけばいいんでしょ。そしたら、丹波さんもアンタも顔を保てるし…」
「お前、そんなこと言えた義理かよ。…とりあえず、俺は今のところ機能不全気味で
結婚を考えられないし、結婚したとしても丹波さんにさらなる迷惑をかけることになる
と言ったらビビってた。当分、話は来ないな」
「機能不全て…ずいぶん思い切った自虐的な理由ね」
「とっさに口から出た…お前が俺をフリーだと言ったって聞いた直後だったし…おまいのせい」

絵里子は吹き出した。

「笑い事じゃねーぞ。俺の大きなチャンスが一つ消えたんだから、責任取れよ…
…一生俺の部下で、目一杯働いて、せいぜい俺を出世させろ」
「一生俺の部下って、定年があるんだから…さすがに婆さんになったらBOSSはキツいわ」

そう言ってゲラゲラ笑う絵里子を、野立が冷めた目で眺める。

「お前のニブさには呆れはてて声も出ないよ」

野立はやおら立ち上がり、笑いの止まらない絵里子に腕時計を指し示す。

「お前、今から用意しても完全遅刻な」
「あ゛ー!」と声を上げる絵里子に冷たい視線を投げつける。
「いい思いした翌日に遅刻なんて許されんぞ。今日の遅刻は減点対象だからな」
「いい思いなんてしてないっつーの!アンタは全くホントに自分勝手なんだから!」
「ふん!勝手に慌てとけ。じゃあな」

くるりと背を向けた野立の顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。






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