ベトスパートナー・絵里子編
野立信次郎×大澤絵里子


いつの間にこうなったのだろう?
3時間前には想像もしていなかった事態に、実はまだ頭がついていっていなかった。



ずっと胸の中にあって、でも言えずにいた想いがある。
それは自分に恋人がいてもくすぶり続けていて、
独りになると一層表に出てきそうで恐い存在だった。


やめてよ、今更この気持ちが愛情だなんていうの?


自分を悩ます相手の名は野立信次郎
警視庁で参事官にまで出世した男だ。
普通こんな風に順調に出世をする男は早めに結婚し、外で遊ぶ・・・・
などという例をよく見てきたからか、遊ぶが結婚はしないというスタンスを貫ぬく彼は異例だった。

真面目なのか、不真面目なのか、
最もこの男の場合は「遊びたい、でも結婚して遊んでそれが原因で出世に響いたらどうする」
なんて思っているのかもしれないが。

それにしても、そんな奴に心を揺らされている私はなんなのだろう、
自分だって結婚していないんだから素直に愛情って言えばいいじゃない、そんな風に思う人も多いだろうが、
そんな甘ったれた関係ではないのだ、私たちは。


絆は誰よりも強いと思う。
バディとして同期として部下と上司として築き上げてきたこの絆を、信頼を、私は誇らしいものだと思っている。

軽くていい加減で、どうしようもない奴に見えるけれど
本当に大切なことには真摯に向き合う、そんな男。、
私の話なんかろくに聞いていないようで、自分が介入するか私たちに任せるか、瞬時に判断し動向を見守る。
そんな意外と上司らしい面をきちんと持っているという事も知っている。


恋愛なんて関係じゃもったいない


そうよ、こんな男どこにもいないもの、
恋愛なんて言う不安定な関係で、失う事を恐がる日々なんて考えられない。
そんなの嫌よ、相棒のままでいたいのよ。

だからどんなに近づいても手を伸ばすこともなかったし
相手から手が伸ばされる事もなかった。


もっとも相手は手を伸ばす気などさらさらないだろうが


そう思いながら、やっと待ち合わせに現れた野立を眺める
待ち合わせの時間は適当だ。
しかし互いに定時の時間は同じで、だったら到着時間など大して変わらないハズなのに

どうしたのだろう?何かあったのだろうか?

なにか事件でも?という心配と、自分の事を忘れられてしまったのだろうか?という不安が沸き起こる。
わかっている、あいつが私との約束を忘れるわけないって
それでも恋をする乙女のように不安が押し寄せる。

何度も携帯を取り出しては連絡が来ていないか確かめて、その度に溜息をつく。
たかが30分、いつの間に私はこんなに我慢のきかない人間になったのだろう?


そんな孤独な30分を過ごしながら、やっと来た野立は結局いつも通り。
私を女となんてみていなくて、他の可愛い女の子に目がいきっぱなし。
わかってるわ、そんな事初めから。
だからいいのよ、私は相棒のままがいい。
しかし本当は自分でもわかっている、


既に私は失う事が恐いのだ


恋愛関係なんて言う不安定な、失う事を心配しなくてはならない関係にはなりたくなかった。
けれど、もう既に失う事が恐くて恐くて仕方がないのだ。

いつの頃だろう、これが愛情かもしれないと、そう思うようになったのは。
ずっと前から持っていたくすぶった感情、しかしはっきりと意識をしたのはそう、
2年間のアメリカ生活から帰ってきてからだった。

2年の間に彼は、1人の女性との出会いと別れを経験していたようで、飲みながらその話を幾度かした
その話しぶりからしても、美人で性格もよく、野立にはもったいないくらいの人だった。
「あんたバカだねーそんないい女を手放すなんて」
なんて悪態をつきながら、「どうせあんたが悪いんでしょ?」なんて笑い飛ばしながら、
別れたという安堵と少しの嫉妬が生まれた。


そんな感情は以前から湧きあがる事はあったし、
しかしそれは自分たちの近すぎる距離が生むものだと苦笑い気味に抑えてきたものだ。

それなのにその時に限って抑えられなかった、
可愛い女の子たちをナンパする時とは違う、野立の中に見え隠れする真剣さに嫉妬した。
その上「絵里子程じゃないけど、背が高くて」だとか「絵里子みたいに細かったな」
なんて言葉を聞けば聞くほど気持ちが抑えられなくなった。

そしてその感情は今でも抑えられていない。
ずっとずっと揺れている、情けないほどに。


やめてよ、今更愛情だなんて。


失う事が恐いのに、愛されたいという欲望が胸に張り付いて消えてくれない。
自分が女だという事実に胸が痛む、
彼が男だという事実に涙がこぼれそうになる。


彼はどうなんだろう?
この距離で私を見ていて、揺れたりしないの?


少しの好奇心と、期待でカマをかけても反応はない。
憎らしいほど私を女としてなんか見ていない。

でもそれでいい、その方がいいのだ。

今、相手から手を伸ばされたら、
そんな事があれば今の自分はその手を掴んでしまうだろう
だからそれでいいのだ。

彼に気づかせないように、幾度溜息をつきこの想いを逃がそうとしたかわからない。
しかし上手く逃げてくれない想いを抱える事にも、もう慣れた。
刑事は演技をしてなんぼ。相棒として完璧に演じきってみせると決めた。


そんな気持ちを隠しながらいつものバーへ、
馴染みのバーテンさんが迎えてくれてほっとする。
でもどうだろう、この人には私たちはどう見えているんだろう?

と、不意に電話がかかってきた。
相手はこの間飲んだ、あの奈良橋玲子だ。
今の苗字はなんだっけ?とにかくあの玲子からだった。

この間はいらないことまでしゃべってしまった、そう野立の話をぺらぺらと。
それもこれも彼女が悪い、まるで知ってるかのように

「自分でも気づいてるんでしょう?好きだって。」

なんて意地の悪い言い方をするから。
そんな事ないって反論をしようとしたら余計に墓穴を掘って・・・

あぁ、本当にまずった、彼女が退職をしてくれていて本当によかった。
仕事面では彼女がいてくれれば・・・と思う事は多々あったが、今度ばかりは退職してくれていてよかった。

かかってきた電話に気を使った野立が席を立つ。
でも向かう先は女の子、そんな事に嫉妬する。
やっぱり可愛い子が好きなのね。


軽い挨拶と、木元の話をしてから彼女はさらっと本題に入ってきた。

「どう?彼との事は」

「だから野立とは別にどうもないわよ、いつも通り飲んでるだけ」

「あら、私は参事官の話だなんて言ってないけど?」

「なっ・・・・・」

「冗談よ、でも今日も一緒ならお邪魔だったわね」

「そんな事ないわよ、あいつは狩りに行ったわよ」

「狩り?」

「女の子をね、ナンパしに行ったのよ、意気揚々と」

「意気揚々と?」

「そう、意気揚々と」

「ふふ、ホントあなたって恋愛のセンスがないのね」

「なによそれ」

「ねぇ、まずはちゃんと認めなさいよ」

「・・・・・・なにを?」

「私が言っても詮の無い事だけれど認めなきゃ」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「今のままがあなたたちはいいんでしょうけどね、
相手も周りも自分だって変化していくのに、今のまま、留まったままでいられるなんて思わないことね」

冗談のように軽く、しかし核心をつく彼女は今までどんな恋愛をしてきたのだろう?
適当に挨拶を交わし、電話を切るとまた溜息が出た。


留まってなんていられない


玲子から言われたその一言が重く胸にのしかかる。
自分がこんな感情を持ってしまった時点で以前のようにはいられないのかもしれない。
隠し続けていればいいんだと思った、そうすればこのままでいられると、でもそうではないのかもしれない。

いつか失ってしまうかもしれない、
そんな恐怖が体を支配し、動けない。


実際に2年間の間に彼は参事官に出世をした。
本来なら自分たちが所属する特別対策室を常に構っている暇や必要はない筈だ。
それを彼が「自分が立ち上げた」という理由で直属にしているに過ぎない。


警察内部にいるとわかる、彼はきっとこれからも出世をする。

そうすれば自分たちはこんな関係ではいられないのは明白で、離れていくことも覚悟しなければならない。
彼は否が応でも結婚を考えなければならなくなるだろうし、
もっと警察内部の、自分たちには見えない部分に関わるようになる可能性だってある。


いつか道を分かつ時が来るのかもしれない。


しかしそれは認めたくない、胸が苦しいほどに。
好きだとか嫌いだとかそんな事だけではない、
相棒としても、同期としても。


あぁ、こんなにも。
こんなにも自分が野立の事を想っているだなんて。


両手で顔を覆うと、涙がぽろっとこぼれた。
慌てて拭ってふうっと何度目かわからない溜息をつく。

深呼吸を繰り返し、やっと気持ちが収まりほっとすると同時に野立の声がした。


「絵里子、終わったか?」

その声が優しくて、収まった気持ちと涙がまた溢れそうになる。


やめて、そんな声で私を呼ばないで


私が傷つくたびに優しく癒やす彼。
飲み明かしながら、
悪態をつきながら、
そして時に背中を預け合いながら彼に守られてきた。
そんな彼の手に取れるほどの温もりが、しかし今は私をより追い詰める。

「いやぁ、こっちも女の子達と会話盛り上がっちゃってさぁ〜〜」

私の様子に気が付いたのだろう、
気を使った彼が、私が悪態をつきやすいように軽口を叩く

ごめんね、気を遣わせて、
あなたが望んでいるのはこんな私じゃない筈なのに、上手く演じることができない。
刑事は演じてなんぼ、それなのに女の私は演じる事さえできないでいる。
その事をもう一度謝ろうと思った時だった、

ふと野立の手が私の頬に触れた。

その事実に、初めての触れ合いに驚いて体が硬直した。
それでもその手が温かくて、愛おしくて、また涙がこぼれそうになり、こらえるために眉間に皺を寄せた。

ずっと傍にいた、実際の距離は遠くても、ずっと隣にいたと言えるほどに。
そんな中で初めての触れ合いに心が震える。
野立がどんな気持ちだったのかはわからない、それなのに涙が出る程に嬉しく、切なかった。


辞めて、こんなドラマみたいな事しないでよ
そりゃドラマだったらいい、最後はハッピーエンドだから
でもこれは違うんでしょう?だったら辞めて欲しい


きっと普段だったら「何してんのよ」と簡単に手を払いのけられたハズなのに。
それが上手くできる自信がなくて、そんな事をしたら私の気持ちに気付かれてしまいそうで、だからできなかった。

うんん本当は嬉しかった、そのまま触れていて欲しかった
だから何も言えなかった。


「俺・・・・・」

沈黙を破ったのは彼。

「・・え・・・・・?」

どうしたの?そんな辛そうな顔して。
何か私に言えないことがあるの?

・・・・もしかして私の気持ちに気づいてしまったの?


「・・・・俺・・・・・・・・・」

「・・・・・なぁに・・?」

その続きはなに?
「俺、お前の気持ちには答えられない?」
わかってるわ、そんな事、だからお願い傍にいさせてよ。

「・・・俺、やっぱ狩りしたりねーわ」

「・・・え・・・・・・・・・・・?」

「さっき折角成功してたのに、なんか中途半端にしてきちゃったからもっかい行ってくるわ、狩り」

「・・・・・・・・・・そう、そうよね」

この言葉が本当だとは思わない、
彼はきっと保留にしたのだ、私たちの未来を
「受け入れられない」と言い切ってしまえば決別になる。
だから何も言わずにいたのだろう。

どうして気付いたのかはわからない、でもおそらく彼は気付いている。
そう思えば、初めて触れられた理由もわかる。
電話の内容を聞いていたのか、玲子から連絡がいったのか、どちらにせよ、きっと。


「狩りしたらそのままそっちで過ごすから、今日はお開きにしようぜ」

「・・・・・・そうね、じゃぁ今日はあんたの奢りね?」

「あぁ、お前は帰れ、見られてたらうまくいかない」

「わかってるわよ、私は家で飲みなおすわ」

「おう、じゃあな」


背中を向けた彼の肩が震えている。
彼に辛い思いをさせたのは私だ。


ごめんね、裏切って。


そう言いたかったけれど、言えなかった。
黙って席を立ち、彼から視線を外す。
馴染みのバーテンさんが見て見ぬふりをしてくれていた、ごめんなさい、こんな重い空気を作って。
カツカツカツとヒールを鳴らし、ドアまでたどり着いた処でどうしても苦しくて一度立ち止まった。

ダメな女ね、こんな事で傷ついて。
息を吐いて、背筋を伸ばして、帰らなきゃ。


そうよ、私は大澤絵里子じゃない。


だから大丈夫、彼が離れていくことも、何もかも受け止めなければ。
そう心に言い聞かせ、出て行こうとした時だった。


「・・・好きだよ」


彼の声が聞こえた。

あぁ、そんなに優し声で、大切な、本当に大切な言葉を届けるような声で可愛い子に話すのね。


胸がきしっと痛み、その痛みに思わずうつむく。
あまりにも優しいその声が、自分に向く事はないのだという事実に。


切り替えの早い彼の事だ、もう他の女の子を見つけたのかもしれない。
いや、先ほどの「狩り」も案外本気だったのか。

今日のこの時間に未練があるわけではなかったし、
こんな状態でもう一緒には飲めない、それでもなんとなく店を出る前に彼の方に視線を送ると
彼が「好きだ」と伝えた相手はいなかった

その事に「あれ?」と思いつつも深く考える前に次の言葉が聞こえてきた。


「絵里子ごめんな・・・俺はお前が好きなんだ」


・・・・・え?


どういう事・・・・?


耳を疑う以前に、からかわれているのかとさえ思った。

しかし、彼の聞いたこともない声が、
頬に触れてきた時の手の温もりが何かを訴えてくる。


嘘だと、そんなわけがないだろと疑う気持ちと
その温もりを信じろという2つの声がする。


どうすればいいのかわからず立ち尽くしていると、ふと野立の震える背中が目に入った。


その背中が彼の本音を語っているように見えた。
初めて野立の本音を見たような気がした。


今までだって、本気の野立は幾度となく見てきた、でもそんな時、それは強く頼れる男の彼だった。

背中を預け合い、2人で1つだと言い切れるそんな相棒の彼だった。


しかし、今、数メートルしか離れていない彼は違う。
心の一番柔らかいところで傷つき、必死にその痛みに耐えている。

ごめんねと心の中で呟いた。

自分を女としてみていないとずっと思ってきた。
でもきっとずっと彼は隠してきたのだ、お互いの為に。
自分が辛かったからわかる、きっと彼もひどく苦しかったに違いない。

気付きもしなかった、
自分ばっかりが苦しいと思っていた。

彼の苦しさにも、苦悩にも気づかずに。


その背中が愛おしいと思った、触れたいと思った。
野立が自分をどう思っているのかではなく、
ただただ愛おしく、震えるその体を抱きしめ、大丈夫だと言ってやりたいと思った。


これが愛情だと言われればそうなのだろう。

これが友情だと言われればそうなのだろう。


男性に抱きしめられたいとは思っても、
抱きしめてやりたいなどと思った事はない。

だからこれは愛情ではないのかもしれない。


それでも、それでもだ、
ただただ目の前の男が愛おしかった。
この手で抱きしめてやりたかった、
その腕で抱きしめてほしかった。


道を分かつ時がくるのなら、その日まで一緒にいたい。
どちらかが間違っているのならどんな事があっても正しあえる2人でいたい。


きっと今しかないのだ。
20年間一緒にいて、ずっと進むことも捨てることもできずにいた自分たちの関係を動かし始めるのは。

いつか離れてしまうかもしれない私たちは「失う事が、今の関係を壊す事が恐い」などといっている暇はもうない。
離れないように、進んで違う道を見つけるしかない
愛情も友情もひっくるめて傍で補える2人になりたい。

だから、恐さを飲み込み声をかけた、その背中に。


「・・・・ねぇ」

「・・・・・・どう、した・・・忘れ物か?」

「・・・・うん・・・・・・・・」

あなたを忘れたから、だから戻ってきたのよ。

「・・・どじだな、お前、しっかりしろよ」

辛いくせにいつも通りにしようとする彼の想いが苦しくて
その声が愛おしくて、わけもわからず想いが涙に変わるから彼の背中に触れて、ことんと頭を預けた。
ただ寄り添い、触れたところから生まれる温かみ。

「・・・帰れって言っただろ?」

「いやよ」

「後悔するぞ、お前」

この先後悔することが起きるのかもしれない。
もし、本当に道を分かつ日がきたら尚更、
進めてしまった事を、2人の関係に愛情まで含めてしまった事を後悔するだろう、
でも、

「うん、それでもいい・・ちゃんと言ってよ・・・・」

本当は今ももう後悔している、
やっぱり恋人になんかなれないって少し思ってる。
でも、ずっとずっと続けてきた事を動かすんだもん、痛みがあって当然だと思うの、
だからお願い、

「・・・・ねぇ、ちゃんと言ってよ・・・・・・」

私から言っちゃうわよ?
なんて余裕があったわけではないんだけど、言ってほしかった、進めてほしかった。

「・・・逃げないでよ、ちゃんと言ってよ・・・・・それじゃなきゃ進めないわ」

あなたの口から聞かせて欲しい、
後悔するかもしれない私たちの未来へのその一言を。

「・・・・・・なぁ、絵里子、俺さ・・・・・・」

「・・・・うん・・・・・・」

「・・・・俺、好きだよ、絵里子の事が・・・・・」

「・・・・うん・・・・・・・・・・・・」

愛おしくて、その一言が本当に嬉しくて。
涙がこぼれる、恥ずかしい程に。

「・・・・・・・うん、ありがとう・・・・・・・・・」

背中にそっと触れていた手を野立の胸にまわす。
ぎゅっと力を込めて、後ろから抱きしめた。

すると彼の体が硬直する。

あぁ、そうだ私もちゃんと言わなきゃだった。
勝手に気付いたと思ってたけれど、そうじゃなかったのならちゃんと言わなきゃよね。


「・・私も、私も好きよ・・・・」

「・・・・え・・・・・・・?」

やっぱり気付いてなかったんだ、
本当に、私たちって・・・・・・・

「ばかね・・・・本当に・・・・・・・」

お互いに想い合いながらそれを隠して、必死に隠し合って。
必死で留まろうとして。
でも同じ場所には立っていられないのよ。

ぎゅっと抱きしめられて「好きだ」とあの声で囁かれて、本当に本当に嬉しくて。
しかしここは公衆の面前だ、キスをしようと迫ってきた男の顔をなんとか手で押さえたら、いつも通りに悪態をつかれた

それにしても崩れた化粧を後で直すと言ったら「どうせ落とす」っていうのはどういう事だろう?
そりゃ家に帰ったら落とすけど・・・結構濃く塗ってるから直すのも落とすのも時間がかかるからあえてしなくていいだろ的な?
そんなの放っておいて欲しいんですけど。


なんて考えていたら馴染みのバーテンさんからカクテルをいただいた。
そのカクテルの名は「ベストパートナー」以前何かのドラマで見た事がある。
ドラマの結末はどこか切なく、しかし温かかった。

その名前にぐっときて、嬉しくて、
また不埒な事を考えてる相手に悪態をついていたら今度は上手く唇を奪われた。

その温もりがやっぱり嬉しかった。
本当は関係が変化しても変わらないでいれた事も嬉しかった
だから少しだけ泣きそうになってしまった。



これが1時間半前の話。


そして今。
私は彼の腕の中にいる。
3時間前には、30分待ちぼうけしていた時には考えられなかった事態に実はまだ頭がついていけていない。

「ん・・・・・ね、見てる・・・・・・・」

「誰が?」

「誰って・・・・・・」

監視カメラにチラっと目を送る。
確か野立のマンションには常駐の警備員がいたはずだ、
公務員のくせに、いくら出世したからといってこんないい処に住めるものか?
と常々思ってきたけれど、改めてマンションの設備に悪態をつく。

ここはまだエレベーターの中、そこで熱く唇を奪われている。

「あふ・・・・ね・・・・・・・・・」

「可愛いな、絵里子・・・・・」

タクシーの中でも怪しかったのだ。

いつもなら、タクシーに乗っても遠い私の家からまわるようにする男が
乗る前から運転手さんに自分の家に行くように指示をして
そりゃその時点でちょっと覚悟はしていたけれど、
でも、タクシーの中から腰に手を回し、反対側の手で耳を、頬を、唇を撫でくる事に怪しいとは思っていたのだ。


「ね、誰か乗ってきたら・・・・」

「上に行く深夜のマンションのエレベーターに?」


車内での優しい愛撫に、何度も触れそうになる唇。
運転手さんの目を気にしながらも、溶かされた私だって早く触れ合いたかった。
だからエレベーターに乗った途端に抱きしめられた時は嬉しかったし、
早く部屋へ・・・・とも思った、だけどこんな風にキスまでするなんて・・・・・


すっと独特の感覚でエレベーターが止まりドアが開く。

「あっ・・・・・・・」

後ろからの声に驚き振り向くと、見知らぬ男性立っていた

「あっ、どうも」

立ち尽くした私を抱きしめたまま、野立がなんでもないかのように軽く挨拶をする。
どうやら男性は下に行くらしい。
財布を持っている処を見るとコンビニでも行くのだろう。


「ば、ばかっ!!見られたじゃない」

男性と入れ替わるように降りてから、巻きついた腕を振り払う。

「別にいいだろ?殆ど会う事もないし」

「だからって」

「大丈夫だって、気にすんなよ」

野立がまだ言い足りない私を引っ張って、扉を開けた玄関に押し込める。
扉が閉まる前に、また抱きしめられ唇を犯されて。
下駄箱に私の体を押し付け、胸を両手で揉みしだく男。

「あ・・・ん・・・・・・ねぇ、本当にするの・・・・・?」

「当たり前だろ?絵里子平気な日じゃん」

「でも、明日仕事・・・ってかなんでそんなの知って・・・・・・やっ・・・・・・」

「絵里子の事はなんでも知ってんの」

ジャケットだけを脱がされた半端なままで野立の手が蠢く
また唇を塞がれて、そのあまりの苦しさに胸を数回叩いて抗議をするとやっと離れた。

「・・・っ・・・・・・・」

肩で息をしてなんとか呼吸を整え男を見上げると、
予想外に心配そうな顔。

「・・・・なによ?」

「ごめん」

「この状況で謝るわけ?」

「あーいや・・・ちょっと強引過ぎたかなぁって」

「ホントよ、あんたいつもこんな事してるの?」

「んーん、エレベーターであんな事したのも玄関で・・・なんていうのも初めて。なんか、超余裕ない、俺」

「何よ、それ」

だってさー絵里子とだぜ?なんか嘘みたで・・・なんていつになく殊勝な事を言う男が可愛くて思わず笑ってしまった。

「こら、笑うなよ」

「だって、子供みたいなんだもん」

「うっせぇなぁ・・・しょうがないだろ」

「いいから上がろうよ、まだ靴も脱いでないのよ」

高校生のような性急さで求めてしまった事が恥ずかしかったのか、
大人しく靴を脱ぎ、絵里子の鞄とジャケットと拾い上げリビングへと移動する野立。
その姿が可愛いような、むず痒いような。

大き目のソファに2人で腰掛けると、妙に笑えてしまう
その笑いがふいに収まり、見つめ合うと自然と近づく唇

優しいキスが長く続き、薄く開いた唇から舌が侵入する。

何度か唇を離す度に見つめ合い、またキスを繰り返す。
唇が合わさる音と、服がこすれ合う音だけが響き互いの体温が上がっていくのが感じられた。
体が熱くなり、我慢ができなくなったように2人で服を脱ぎだした。

シャワーも浴びてないのに・・・・・

絵里子は頭の中ではわかっていたけれど、
もう止める気にはなれなかった。




次の日の朝.

「おい、もう8時だぞ」

いつもと変わらない野立の声に起こされた。
しかし、いつもと違うのは自分は裸だって・・・・・
いや、それもあまり変わらないか、結構あったな、こういう事。


「おはよ・・・・」

「おはよう、遅刻する気か?」

「コーヒー・・・・・・・・・」

「ほれ、飲むだろ?」

「うん・・・・・・」

「どした?」

「体だるい・・・・・・」

「まぁ、そうだろうな」

「あんたは元気よね」

「そりゃあれだけ頑張ったんだもん、当然眠いけどな」

「あそ・・・・・・・」

「1つだけ言っておく」

「・・・・なに?」

「昨日の事は夢じゃないぞ?」

「わ、わかってるわよ」

「だったら、早くシャワーを浴びて着替えろ、すごい事になってる、上も下も」

「そうしたのはどこの誰よ」

「ま、俺だけどな」

「でも、少し綺麗にしてくれたんだ?」

「軽く拭いただけだよ、俺もすぐ寝ちゃったし」

「ねぇ・・・・・」

「なんだ?」

「そこにいられると、出れないんだけど・・・・」

「・・・・今更恥ずかしがるのか?」

「あ、当たり前でしょう?」

「・・・・・・いいな、その顔、もう一回したくなる」

「・・・意味わかんない」

「声もさ、なんかかすれてて昨日の名残って感じな」

「やめてよそういうの」

「すんごい声出すんだもん、絵里子ったら」

「なんなのあんた、さいてー・・・・・」

「あー早く夜にならないかな」

「全然意味わかんない」

「だって、したいだろ?」

「ホントに意味わかんないっ」

「あっ、参事官室でって手もあるよな」

「ないから、1ミリもないからっ!」

「俺は対策室でもいいけど?」

「バカじゃない?バカなの!?」

「それと絵里子」

「なによ!?」

「先に謝っておく、悪かった」

「はぁ?」

じゃあ先に行くわ、これ合鍵な持っててとこの部屋の合鍵を渡たされた。
愛のあ・か・しなんてふざけた事をいう男を見送ってから気だるい体を起こしてバスルームへ
早く用意しなくては・・・・と、鏡を見て・・・・・




「おはようござい・・・・どうしたんですか?BOSS。
冬みたいな格好ですけどなんかあったんですか?」

普段より遅れてきた絵里子を明るい笑顔で出迎えた花形がきょとんとしている。
そりゃそうだろう、まだ暑いのに長袖で、しかも上までぴっちりボタンを留めてスカーフまでぐるぐる巻いて。
くそう、あの男・・・・・・・

「別に?ちょっと風邪っぽいから、念の為にね」

「そう・・・なんですか?」

不思議そうにしながらも、納得したのか、今はそんなに忙しくもないし辛かったら帰ってくださいねー
なんて可愛い事を言う部下に心の中で謝っていると、今一番聞きたくない男の声が。

「ぐっもーにん♪どうだ、元気か?」

「あっ、野立さん!実はBOSSが少し風邪気味らしくて」

「あっ、ちょ!花形!!」

いらない事をいう部下に先ほどまでの気持ちはどこへやら、殺意が生まれる。

「何だ絵里子、風邪だって?」

「ち、違うわよ、なんでもないわよっ」

「あれぇ?なんか声もかすれてるなぁ、風邪じゃないなら何か大声でも出したのか?」

「ち、違うわよ!バカじゃないの!?」

「ん?なんだ、大声出すって何か変な事か?お前、今もでっけぇ声出してるぞ?」

「うっ・・・・・・・・」

「おっ、こんなところに喉がすーっとする塗り薬がっ」

「!?」

「なんでか俺のぽけっとに入っいた塗り薬、すごいね俺」

「ちょ、の、野立!?」

「絵里子、ほらスカーフを取ってみろ、俺が直々に塗ってやるから」

「いいわよ、やめてよ!!」

「なんだ、俺に取って欲しいのか?しょうがないなぁ絵里子は」

「やだ!やめっ!!この変態!!!」



「・・・・BOSS、すっごく元気ですね・・・・・・・」

「・・・・まぁ、色々あるんだろ、大人には。」

「はぁ、大人には・・・ですかぁ・・・深いんですね、大人って・・・・・」






SS一覧に戻る
メインページに戻る

各作品の著作権は執筆者に属します。
エロパロ&文章創作板まとめモバイル
花よりエロパロ