ディナーにご用心(雨ふりホリデイ 続編)
野立信次郎×大澤絵里子


参事官室を出て、対策室へ向かう長い廊下をブラブラ歩いていると、すれ違う婦人警官たちが「きゃっ!野立参事官♪」と小さく声をあげた。
○○ちゃん相変らずカワイイね〜などと軽口を叩いてポーズを決める。
だが、野立は最近、そういう自分が妙にオジサンくさく思えるときがあった。
近頃は、髪にほんの数本白いものがチラッと見え隠れするようになったが、
ま、それも悪くないかと、どこかで開き直っている。

もちろん、40をとっくに過ぎた今でも怖いくらいにイイ男の自覚はあるが、
なんというか、守るべきものができたせいか、以前より、がっつくことがなくなった。

「この余裕がまた、いぶし銀の魅力なんだよな」

野立が一人ごちていると、廊下の前方に絵里子のスラリとした後ろ姿を見つけた。
野立の頬が無意識にゆるむ。
自然、早足になって絵里子に追いつこうと廊下を急いだ。
もうすぐ定時だし、今日は久しぶりに絵里子と寿司でも食って帰るか。
最近、あんまり美味いもの食わしてやってないもんな・・・。

ところが、絵里子もまた妙に大股でスタスタ急いでいるので、ちっとも距離が縮まらない。
終いには野立が本気走りする羽目になった。

「おいっ!おまえ、速えーよ!何急いでんだよっ」
「あれ、野立。何ゼイゼイ言ってんの」
「・・・おまえのせいだろが。どこ行くんだよ」
「私さ、これから急に出なきゃいけなくなったのよ。ちょっと遅くなるから晩ご飯すませて帰るわ」
「・・・誰と、飯食うんだよ」
「ほら、この前、丹波部長の紹介で雑誌の取材受けたでしょ?
あのときの担当者が、取材し忘れた部分があるから、どうしてももう一回、時間つくってほしいんだって」

野立の脳裏に、白いジャケットをキザに着こなした、すかした三流イケメン男が浮かんだ。

「・・・担当者って、あのスケベ男か」
「スケベかどうかは知らないけど・・・。忙しいからって断ったんだけど、
丹波部長の親戚だから、なんとか頼むって強制的に設定されちゃってさ」
「ニヤけたバカ坊ちゃんだったろ。だいたい親戚っつっても、
丹波部長のお姉さんの旦那さんの、はとこの息子だろ。全然遠いじゃねーか」
「あんた、よくそういうこと覚えてるわね・・・。
どっちにしろ、あと少し質問に答えて、ちょっと写真撮ったら帰らせてくれるって言うから」
「・・・俺も立ち会う」
「何言ってんのよ、この前もあんた強引に立ち会ったでしょ。私だって本当は行きたくないんだから、分かってよ」
「どこまで行くんだ?」
「プリンセスホテルの中華レストランだって。そんな長居しないわよ」
「あの男と二人っきりで食事なんて、許さん」

野立はエレベーターの前に立ちはだかった。

「・・・なーにー?妬いてるの?」絵里子がニヤニヤ上目遣いに聞いてくる。
「妬いてるよ」

即答する野立に、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で絵里子が言葉につまった。

「・・・そ、そういうときは、『妬くわけねーだろ!』とか
『おまえに嫉妬したら俺はオスとして終わりだ!』とか言うんじゃないの?あんたの場合」
「それは昔の俺だ。今は立場も状況も違う。いい年して意地を張るのは体に悪いんだ。
俺は妬いてる。どうだ、文句あるか」

野立はポケットに手を入れながら、恥ずかしさをこらえてそう言い切った。

数秒押し黙っていた絵里子が、不意に野立の腕を掴むと、廊下のほうへ引っ張った。
資料保管室の扉を開け、中を見渡して人がいないのを確かめると、野立を室内に引っ張り込む。
野立の頬に両手を当てて、絵里子が優しく唇を重ねてきた。
柔らかく食むような、舌をほんの少し触れ合わせるキス。
野立が思わず絵里子の腰に手を回して抱き寄せると、チュッともう一度唇をついばんで、絵里子が微笑んだ。

「なるべく早く帰るから。心配しないで」

先日、丹波部長の親戚で、雑誌を作っているという30代後半、まあまあのイケメンが、警視庁に現れた。
なんでも、以前ニュース番組に出演したのを見て以来の絵里子のファンとかで、
今度、働く女性向けの新雑誌を創刊するので、ぜひインタビューに答えてほしいという申し出だった。
金持ちのイケメンで独身だと聞いたので、用心のため、強制的に野立も取材に立ち会った。
流行をまったく無視した白いジャケットを着た、いかにもスケコマシな野郎だったが、
絵里子は満更でもなさそうに、にこやかに対応していた。
そしてどうやら野立の読みは当たり、男の方はますます絵里子を気に入ったらしかった。

そこらの男たちよりはるかに男らしく、頭脳優秀な大澤絵里子を口説くヤツなんて、
よほど自分に自信があるか、よほどのバカしかいない。
だが、なんだかんだ言って、絵里子は(ガタイはデカイが)美人だ。
それに最近では、「大澤室長が色っぽくなった」と男どもの間で密かに噂も流れている。
注意深く見ていると、以前より確実に、庁内でも絵里子を見つめる男たちの数が増えていた。
なんだかんだ用事を作って、絵里子に話しかけようとする輩もいる。そのたびに、

「おまえら分かってんのか?絵里子が色っぽくなったのは、俺のせいだよ、オ・レ!」

と、言って回りたい衝動にかられる。まあ、そんなことするわけないが。

とにかく、最近の絵里子は何気にモテているとも言える。
そんな折に、下心丸出しで取材だなんだと近付いてくる軽薄な男が現れ、
しかも取材し忘れたことがあるなどと、小学生でも見抜くようなわざとらしいウソで誘ってくるとは。
これは由々しき事態だ。
野立は絵里子がエレベーターに乗るのを見届けると、その足で対策室に向かった。

プリンセスホテル20階のチャイニーズレストランは、広い個室を少人数で借りることができると評判の洒落た店だった。

「ここの支配人とは古い知り合いなんです。いつもツケで使わせてもらってる。
大澤さん、遠慮なく食べてね」

人工的な白い歯をキラリと見せながら、石田がテーブル越しに絵里子の手に触れる。
絵里子は慌てて、「恐れ入ります。おほほほ」と作り笑いをしながら、手を引っ込めた。

取材の追加と聞いていたのに、今日も白いジャケットの石田は一向に仕事の気配を見せない。
2人で使うには広すぎる個室に絵里子を招き入れると、大きなテーブルに次から次へと豪華な料理を運ばせた。

「嬉しいな。大澤さんがこうして僕のために時間を割いてくれるなんて。
ずっとあなたのファンだったから、今日は興奮して眠れないな。ね、大澤さん、今日は遅くなっても平気かな・・・?」
「・・・あのぉ、石田さん、雑誌の追加取材とお聞きしてたんですが・・・」
「あ、それは後で追い追いね。せっかく二人の時間なのに、野暮なこと言わないでよぉ」

なんだこのキモチワルイ男は。年下のくせに妙に馴れ馴れしいし。
この前の取材のときは、丹波部長の顔も立てなければならず、無理して愛想良く振る舞ったものの、
本来この手の胡散臭い男は、絵里子が最も忌み嫌う人種なのだ。

はぁ・・・。やっぱり野立も連れてくるべきだったかな・・・。
せっかくの料理も、相手が石田では食欲も沸かない。野立と美味しいものでも食べて帰れば良かった・・・。
石田のおしゃべりを聞き流し、絵里子がぼんやりしながらビールに口をつけていると、
個室のドアをノックする音が聞こえた。

「失礼しまーす!お料理をお持ちしましたー!当店自慢の特製フカヒレスープでございまぁす!」

やたら元気な声でスープ鍋を持って表れたのは、なぜかウエイターの格好をした、部下の花形だった。

絵里子がギョッとして、あんた何やってんのよ?!と目で威嚇するのとほぼ同時に、
花形がぎこちない手付きでスープ鍋をテーブルに置く。
がちゃん!と勢いあまって置いたばっかりに、中の熱いスープが波打って、テーブルにビチャッと跳ね落ちた。

「うわっ!す、すいませーん!!」
「ばっかやろう!てめぇ、何しやがんだ、この、どアホ!!」

先ほどまでとは別人のような石田のキレっぷりに、絵里子がドン引きすると、
石田がハッとして慌てて取り繕った。

「あ、いや、失礼。ちょっとびっくりして・・・」
「す、すいません、お客様、すぐ拭きますー!」

花形がナプキンでテーブルの上を拭こうと手を伸ばすと、そばにあったビール瓶がゴトンと倒れ、
石田の白いパンツの太もものあたりに、ビールがピシャッと飛び散った。

「あああーーっっ!!す、すいませーん!!」
「おっめぇ!ざけんなよっ!シミが付いたじゃねーか!!」
「ひーー!す、すいませーん!!今すぐキレイな布巾を持ってきますからーー!!」

逃げるように花形がドアを飛び出して行く。何が起こっているのか理解できない絵里子は唖然とした。

「すみませ〜〜ん、うちの若いのが無礼を働きまして〜〜」と、
今度はエプロンをつけた岩井が、大きな雑巾を持ってクネクネと入室してきた。
「な、何?!」絵里子が思わず声をあげて凝視すると、岩井はいそいそと女らしい仕草で石田の足元にしゃがみ込む。

「お客様、シミにならないよう、拭かせていただきますわ〜」

岩井が雑巾を持った手で、石田の太ももを撫で回す。

「あら、お客様、むっちりしたいい筋肉♪」
「うわっ、バカ、やめろ!気色悪ぃな、このブタ!」

汚い言葉に絵里子が嫌悪感を露わに石田を見ると、またもや石田が慌てた様子で、

「あ、いや、こいつらがあんまり失礼なので、つい・・・」

と引きつって笑う。

石田が岩井を突き飛ばすように追い払うと、岩井と交代で今度は山村がエヘヘと薄笑いを浮かべて入ってきた。

「お客様、すみませーん。実は先ほどお出しした料理の中に、
間違ってボクの育毛剤のエキスが混入しちゃったみたいなんです〜。
もしかしたら、もうすぐお腹が痛くなっちゃうかもしれないけど、許してくださ・・・」
「てめえ!何のつもりだ!くそったれ!我慢ならねぇ、ちょっとこっち来い!」

激昂した石田が、山村にヘッドロックをかけながら、個室から出て行ってしまった。
後に残された絵里子が、何がなんだか分からず一人ぼうぜんとしていると、個室のドアがカチャッと開かれた。

「おう。いいもん食ってんじゃねぇか」
「野立!あんた、ここで何してんのよ?!」
「何って、アイツらの監視」親指を立ててドアの向こうを示しながら野立が言う。
「いや、俺はさ、『絵里子がヘンタイ男の餌食にされそうだ、困ったなぁ・・・
ところでおまえら、極上の中華料理を食べたくないか?』って呟いただけなんだけどさ。
あいつら勝手にホイホイ計画練りだして、その成果がさっきの寸劇ってわけだ」

細く開いたドアの向こうから、山村の「ひ〜〜、離して〜〜」という泣き声が聞こえる。

「よっく言うわよ、あんたがやらせたくせに」

絵里子は呆れて、天を仰いだ。

「ま、良かったじゃないか。おかげであの男の本性が分かって。さすがだな、俺の勘は。
そうとなったら、ヤツが戻ってくる前に、帰ろうぜ絵里子」

野立が絵里子の手首をグッと掴んで立ち上がらせる。

「ちょっ・・・待ってよ、黙って逃げ出すわけにいかないでしょ!
丹波部長にまた怒鳴られるのイヤよ、私」
「あんなヘンタイを押し付ける部長のほうがどうかしてるぜ。ほら、行くぞ」

野立に手を引っ張られた絵里子は、ドアの隙間から、石田が肩を怒らせて戻ってくる姿を見た。

「ヤバイ!戻ってきた!ちょっと野立、隠れて!!」

「えっ、なんで俺が隠れるんだよ。俺は堂々と、おい、絵里子、ちょっ・・・!」
「早く早く!!潜って!!あんたがいるの見られたらマズイでしょ!」

絵里子は抵抗する野立の体を、無理矢理テーブルの下に押し込めた。
幸い、裾が長いテーブルクロスに隠れて、外からでは人が隠れているようには見えない。

石田は再び席に着くと、一筋乱れた前髪を指先でキザにはらった。

「・・・さっきは大澤さんに見苦しい姿を見せちゃって、失礼しました。恥ずかしいな」
「あの、さっきのウエイターたちは・・・」
「ああ、店から追い出してやったよ。臨時のアルバイトらしくて。サイアクだな」
「・・・石田さん、あの、取材の続きがこれ以上ないようでしたら、
私も仕事が残ってますので、そろそろ失礼させていただきたいんですが」
「え!あ、ちょっと待って!もちろん、ちゃんと取材はするって!大澤さん、せっかちだなぁ。えっと・・・」

ゴソゴソと石田が鞄を探って、取材ノートか何かを取り出す物音がする。
野立は窮屈なテーブルの下にうずくまり、石田の白いパンツの脚からなるべく距離をとった。
参事官ともあろう俺が、何が楽しくてテーブルの下でかくれんぼだよ。
腹も減ってきたし、絵里子、適当に切り上げてくれよ・・・。
薄暗い中で身を縮こませていると、なんだか頭までぼんやりしてくる。

「えっと、それでは質問ね。・・・大澤さんの日々の仕事の中で、一番喜びを感じることは何でしょう?」
「そうですねぇ・・・。やっぱりいい部下に恵まれて、彼らが着実に育っていってるのを実感できることでしょうか」

ちっ。くだらねえ。この前とほとんど同じ質問じゃねーか。
野立はいまいましげに髭をさすりながら、何気なく目の前にある絵里子の脚を見た。

裾がマーメイドラインに少し広がっている薄手のスカートから、白く長い脚がすんなりと伸びている。
オープントゥのパンプスの先から、ワインレッドのペディキュアが覗いていた。
なんだ、今日はナマ脚かよ。こんなアホ男に会うときは、ストッキングくらい穿けよ。
野立は無意識に手を伸ばすと、絵里子の細い脚に触れた。

最初はそっと人差し指を滑らせ、それから5本の指でふくらはぎをソロソロと撫であげる。
すべすべした感触が心地良くて、思わず野立は両手で絵里子の脚をさすった。
絵里子がビクッと反応し、手を払いのけるように脚を振る。
そこで野立は我に返った。自分が今テーブルの下に隠れている異常事態なのを思い出すが、
返ってその普通じゃないシチュエーションが、野立を煽った。

「今までに仕事を辞めたいとか、挫折しそうになったことは?」
「そりゃ、ありますよぉ。でも、後ろから支えてくれる存在がいましたから・・・」

俺のことだよな、オ・レ。野立はちょっといい気分になって、また手を伸ばし始めた。

「支えてくれるというのは、例えばどんなふうに・・・?」
「んー・・・。茶化したりバカ言ったりして、沈んでる私の気持ちをさりげなく元気づけてくれつつ、
実はちゃんとバックアップして見守ってくれてたり・・・イィいーー?!」

「大澤さん?!どうしたの?!」
「い、いえっ、なんでもありませ・・・ん」

絵里子のスカートを一気にずり上げ、太ももに両手を這わせたところだった。
絵里子は内腿が敏感だ。そこを優しくさすってみると、案の定奇妙な声を上げて石田をビックリさせている。

野立はテーブルの下でニヤニヤしながら、くだらないインタビューが早く終わるようにイタズラを続ける。
白くしっとりとした太ももの内側を指先で何往復もすると、絵里子がわずかに身をよじらせた。
あまり大きく動くと石田が不審に思うからだろう、絵里子も我慢しているようだ。

野立は手を滑らせながら、内腿に唇を押し付けて音を立てないように吸った。
舌も這わせると、ベッドにいるときの絵里子の乱れっぷりを思い出し、思わず下腹部が疼く。
絵里子がテーブルの下に手を伸ばし、野立の頭を軽く叩いてきたが、野立はお構いなしに太ももを舐め続けた。
目の前には薄い水色のショーツのクロッチ部分が見える。
野立はちょっと迷ったものの、我慢できずにそこに指先を伸ばした。

「あの、大澤さん、その支えてくれる人っていうのは、やはり男性・・・?」
「えーと・・・あの、ま、そのへんはご想像におまかせ・・・あぁっ・・!!」
「大澤さん?!」「いえ、あの、大丈夫・・・です、あっ」

野立の指が、絵里子の敏感な部分をショーツ越しにそっと突付くと、絵里子が素っ頓狂な声を出した。
ショーツの生地が薄いので、少し指を動かすだけで、しっとりと絵里子の形が表れる。
中指でくにゅくにゅと押したり前後になぞったりすると、小さな芽がポツッと尖り始めるのも分かる。
絵里子が必死に膝を閉じて野立の動きを止めようと試みるが、
野立は肩で絵里子の膝を押し開き、指の動きを加速させた。

自身の息が漏れるのをこらえながら、野立は絵里子の脚の付け根にキスしつつ、親指を秘所に往復させる。
既にショーツに染みができはじめていた。
絵里子は本当にいやらしい女だな・・・。野立の呼吸も速くなっていく。

テーブルの上では絵里子が上の空の様子で切れ切れに質問に答えており、石田の声が明らかに怪訝そうなのが可笑しい。
野立はさらにエスカレートし、ショーツのクロッチ部分を指でずらすと、隙間から舌を差し入れた。
絵里子がビクッと腰を浮かせたので、その隙をついて柔らかい花弁を舌全体でぺロッと舐め上げてやった。

「・・・やっ・・・」

思わず絵里子が声を漏らし、石田が

「大丈夫?さっきから具合が悪そうだけど、少し休もうか?!」

と身を乗り出す様子が感じられる。

そのまま、ぷくっと膨らんだ小さな芽を舌先でチョロチョロと転がし、花弁の中にも舌をヌルッと差し入れる。
絵里子の膝がガクガク震え始めたので、両手で脚を押さえながらも舌での愛撫はやめない。

「大澤さん、本当に具合が悪そうだ。ちょっと休もうよ!上の階に僕、部屋取ってあるんだ。そこで休もう!」

なんだとーー?!このスケベ野郎、やっぱりその気だったか!!
テーブルの下で野立が発狂しそうになった瞬間、突然辺りが真っ暗になった。

「えっ、停電?!」

絵里子が動揺した声を出す。

その直後、サイレンのようなすさまじい悲鳴が上がった。
暗闇にパニックを起こした石田の叫び声だった。
テーブルの下の野立は耳をふさぎ、絵里子もまた「え?石田さん?何事?!」と慌てている。

「ママっ!マーマーっ!!暗い!暗いよ!!ママぁ!助けてぇぇーー!!」

石田は絶叫すると、椅子をひっくり返して立ち上がった。
絵里子のことなど完全に忘れた様子で、ドアを乱暴に開け放つと石田は絶叫しながら飛び出して行った。
店内では、従業員の「皆様、落ち着いてください!動かず、そのままお待ちください!」という声が飛び交っている。
野立がスマートフォンの画面の明るさを頼りに、「おい、何がどうなってんだ?」と暗がりから這い出してきた。

この辺り一帯の、原因不明の停電だと言う。復旧まで少し時間がかかるようだった。
ウエイターが、電池式の大きめのランプを2つ掲げて、絵里子たちの個室に入ってくる。

「お客様、申し訳ございません。まだ電気が復旧しませんので、エレベーターも止まっております。
こちらの灯りをご利用くださいませ。お時間は大丈夫でしょうか?」
「あ、ぜーんぜん平気。俺たち、これ食べながら待ってるから、心配しないで〜。
ちなみにさっき飛び出して行った白いジャケットの男、どうしたか知ってる?」

すました顔で絵里子の隣に座っている野立が聞く。

「あのお客様でしたら、従業員から懐中電灯を奪って、非常階段の方へ走って行かれました。
かなり取り乱していらしたようで・・・」
「へぇぇ〜。懐中電灯ひとつで20階から駆け下りるなんて、
よっぽど暗闇恐怖症なんだねー。転げ落ちないといいけどねー」

野立がにっこり笑いながら、春巻きをひとつ口に入れる。

「あ、これ美味いね」

従業員が個室から出て行くと、ランプの灯りの下に、絵里子と野立が二人きりで残された。

「ちょっとビールくれよ。どうせここ、石田のツケなんだろ?もったいないから食おうぜ。
・・・お、ここの料理悪くないな。花形たち食えなくて可哀相なことしたなー。ははは」
「・・・まったく、あんたって男は・・・ほんっとに・・・」
「ん?何?さっきの興奮で、パンツ濡れちゃった?」
「バカッ!時と場所を考えてしなさいよ!バレないように必死だったんだからっ」
「でもさ。絵里子、感じてただろ?」

そう言って野立が絵里子のスカートの中に手を入れて、ショーツの股の部分に素早く触れた。

「あ、やっぱ濡れちゃったなー。脱ぐか?」

野立が絵里子のショーツに手をかけて、グイッと引っぱるので絵里子は慌てた。

「ちょっと!!何すんのよ!あんた悪ふざけはいいかげんに・・・」
「だって、濡れてるパンツ気持ち悪いだろ?脱げよ」

そう言って絵里子が止めるのも聞かずに、水色のショーツを素早く引き下ろし、足首から抜き取ってしまった。
野立はそのまま絵里子のショーツをくしゃっと丸めて、自分のスーツのポケットにねじこんだ。

「信じらんない、やめてよ、バカ!・・・あっ」

野立の右手が、スカートの中でむき出しになっている絵里子の秘部に荒々しく触れ、
言葉をふさぐように、唇がキスで覆われた。
薄ぼんやりとしたランプの灯りが妙に秘密めいていて、野立は舌をねっとりと絡ませながら絵里子の唇をむさぼる。
絵里子の柔らかい窪みはすぐに潤いを取り戻し、野立の指をからめとるように飲み込んだ。

「あン・・・ちょ、野立・・・ダメよ、店員が入ってきたら・・・」

絵里子が野立のスーツの袖を掴みながら、必死で訴える。既に息は荒くなり始めていた。
野立はおもむろに立ち上がると、余っていた椅子を個室のドアの前にバリケードのようにいくつか並べ、ニヤッと笑った。

「これで多少の時間稼ぎはできるさ」

椅子に戻った野立が、絵里子の体を強引に引き寄せ、自分の膝の上に跨らせた。
いつも以上にねちっこいキスで絵里子を翻弄しながら、右手は器用にブラウスのボタンを外して、胸をまさぐる。

「もう・・・勝手すぎる、野立・・・ん・・・」

わずかに抵抗しつつも、絵里子の体が徐々に野立にしなだれかかっていく。

「おまえは俺のもんだ。それを分からせてやる」

野立はブラウスの中から背中に手を回してブラのホックを素早く外すと、自由になった乳房を手の中に収めた。
大きな掌が柔らかなふくらみをすくうように揉みしだき、時折指の腹でくにゅくにゅと蕾が転がされ、つままれる。
一体となって絡まりあう舌の感触と、乳首から伝わる指先の刺激に、絵里子の体の奥にしびれるような感覚が走った。

「・・・ダメよ、こんなの、人が来る・・・」

そう言いながらも、絵里子は自ら脚の角度を知らず開いていき、既に十分潤っている秘所に野立の指を招き入れた。

「やめてほしいか?・・・ウソだろ。こんなに欲しがってるくせに」

野立の指が、くちゅくちゅと音を立てて、絵里子の柔らかい花弁から突起までを何度も往復する。
野立がファスナーを下ろして自分のそそり立ったモノを引っ張り出すと、絵里子がハッと息を呑んだ。

「挿れてほしいんだろ?絵里子、これが好きなくせに」

泣きそうな声を漏らして絵里子が野立の首筋に顔を埋める。
野立は熱い塊となった自らのモノを握り、絵里子のぐっしょりと濡れた窪みに当てがった。
絵里子が進んで腰を浮かせると、互いの濡れた場所がくにゅっと吸い付くように重なる。
野立はそのまま絵里子の尻を掴んで、グイグイと中に押し込んでいった。

粘液で満たされた絵里子の中を、下からゆっくり突き上げるように動かすと、
絵里子が野立にぎゅっとしがみついてきて、「あぁん・・・!」としぼるような声をあげた。
白い胸にしゃぶりついて、唇と舌でぴちゃぴちゃと音を立てて吸う。
親指で下半身の芽をクリクリとこね回しつつ、内側の壁をこするように腰をうねらせて突いた。
絵里子の中が、きゅうっと収縮して野立自身をしめつけるたびに、すぐにでもイッてしまいそうで、野立は絵里子の乳首に歯を立てた。

「絵里子、イっていいか?・・・俺、もうダメかも」
「やっ、ここで・・・?うそ、ダメ・・・ああっ」

野立は限界を感じつつ、素早く視線を巡らせて何かティッシュの代わりになる拭き取るものを探す。
しょうがない、食事用のナプキンを拝借するか・・・。

「・・・野立、私もう・・・あ、来ちゃう・・・!」
「俺もダメ・・・イクぞ、絵里子・・・!」

野立が、最後のスパートをかけようと腰を引いた瞬間、室内にパッと眩しい電気が点いた。

ドアの向こうから、他の客達の安堵の歓声が聞こえる。
パタパタと足音がし、扉をノックする音。

「お客様、電気が復旧しました!問題ありませんか?」
「あ、はーーーい!ちょーーーっと開けるの待っててねーー!」

野立が快速特急なみのスピードで身づくろいしながら、若干裏返った声で答える。
まだそそり立ったままの自身を無理にズボンの中に押し込めながら絵里子を振り返ると、

「もうありえないわ、こんなの!」

絵里子が焦りまくりながら、あたふたとブラウスのボタンをはめている。
乱れた髪を手で撫で下ろして息を整えている絵里子を、野立は片手で素早く抱きしめた。

「ごめんな、絵里子。俺、暴走してさ」
「ほんとよ。あんた子供みたい」

そう言いながらも、絵里子の手は野立の背中を抱き返し、スーツの肩先に鼻を摺り寄せている。
最後まで行く直前に無理に体を離した二人は、体の内側にくすぶった火を抱えたまま、抱き合うようにして個室から外に出た。

混雑をやり過ごし、ようやくエレベーターで一階に降りると、ビルの前に花形ら3人が所在なげに立っていた。

「おい、どうした?さっきは悪かったな」

野立が声をかけると、山村が涙目で訴えてきた。

「もう、野立さん、ボクら大変でしたよ〜。あの石田って男、ボクの髪の毛引き抜いたンですよ〜〜!!」
「そうですよぉ!中華食べられるからって楽しみに頑張ったのに、結局、食いっぱぐれて追い出されるし」
「悪かった、すまん!ちゃんと埋め合わせするから許せ」

野立が拝むように手を合わす。

「・・・あんたたちには呆れたわよ」

絵里子が大きな溜め息をついた。

光が戻った夜の街は、帰りを急ぐ人々で、ごった返している。

「俺らが外に出た後、この辺り全部停電になったもんやから、二人が心配で帰られへんかったわ」
「おう、心配かけたな。エレベーターも止まってたから、のんびり中華食って待ってた」
「えーー!野立さんだけズルイですよーー!」花形が本気で悔しがる。
「ねえ、石田さんがどうしたか、あんたたち知ってる?」絵里子がふと思いだして尋ねた。
「あいつなら、階段から転げ落ちたみたいで、さっき救急車で運ばれてったで。
ママー、ママーって泣き叫びよって、あれ、脚折れてたんちゃうかな」

岩井の言葉に、絵里子と野立は顔を見合わせて、気まずい笑いを浮かべた。
明日、丹波部長に何を言われることやら・・・。

「よし、今日の任務、ご苦労だった。今日はここで解散だ。おまえたちは、電車まだあるだろ?
次回改めて中華おごってやるから、それまでがんばって生き延びるように!じゃあな、お疲れ!」

野立は3人に向かって颯爽と手を降ると、絵里子の肩を抱いて歩き出した。

「私たちは電車じゃないの?」
「おまえ、パンツ穿いてないのに、みんなと一緒に電車乗るのか?」

その瞬間、絵里子は硬直し、耳たぶまで真っ赤に染めて赤鬼の形相になった。

「あ、あ、あんたのポケットに・・・!バカ!ヘンタイ!返しなさいよ!!」
「返したらここで穿くのか、おまえは」
「う、うう・・・」

エッチな笑みを浮かべた野立が、歩きながら絵里子にチュッとキスした。

「タクシーで帰ろうぜ。早く帰って、続きのフィニッシュやり直さないとな」
「・・・タクシーの中で触ったら、許さないわよ!家まで我慢してよ!」
「うーん・・・それはちょっと約束できないなぁ〜」

いちゃいちゃとじゃれあう上司二人の後ろ姿を、頬を桃色に染めた3人が見送っていたことに、
絵里子と野立は気づきもしないのだった。






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