風邪のおくすり(非エロ)
野立信次郎×大澤絵里子


「どう?具合は」

寝室のドアを開けると熱をだし寝込んでいた野立が目を開けていた。
ぼーっとしたその様子が微笑ましく声をかける

「ん、大丈夫」

近づくと額に汗が浮かんでいる。
少しは汗をかけたのかもしれない、
用意していた濡らしたタオルで顔をふいてやると気持ちよさそうに目をつぶった。

「熱は・・・・まだ下がらないね、パジャマ替える?」

「Tシャツだけ、替えた方がいいかな」

しかし額に手を当てるとまだ熱は高く、ほてっている。

「着替えたらもう一回熱計ろうね」

絵里子が替えを出すと大人しくTシャツを脱いでいる姿が目に入る。
野立が熱を出したのなんて何年振りか、看病したのなんて本当に数回だろう。
もっとも絵里子が日本を離れてる期間もあるので実態は知らないが。

着替える前にタオルで体も軽く拭ってやる。
ベッドのふちに座り、背中を向ける野立に昔の光景がよみがえり思わず笑ってしまった。

「どうした?」

「え?ちょっと思い出しちゃったの、看病といえばさ」

「ピーピー?」

「そう!よく熱出したりお腹壊したりして看病に行ったよね〜」

「懐かしいなー」



熱を出した森岡が呼び鈴の音に反応しドアを開けると野立と絵里子が立っていた。

「どうだ、調子は」

「うん・・・げほげほげほっ」

「寝てなよ、調子悪いんだから」

「おう、さん・・げほげほげほっ」

森岡がお礼を言う間にも咳をしているのを見ると、2人ともベッドに追い立てる。
そして2時間程時間が経ち、騒がしい音に森岡が目を覚ます。

「あ!!ちょと野立卑怯じゃない!?」

「へっ、レースに卑怯もくそもあるかよ」

「わっ、またバナナっ」

「それは俺が置いたんじゃない」

「やっ、ちょっと止まんなさいよ」

「よっしゃ1位!!!」

「なによ、このゲーム!!不良品!!!!」

「こら、踏むな!それはさすがにまずいぞっ」

森岡の所有するレーシングゲームに没頭する2人が。

「おい・・・・げほげほげほっ」

「おっ、なんだ起きたんだ?」

「どう、調子は?」

「なんか食うもんでも買ってくるか?」

「ねぇ、このゲーム不良品じゃない?」

「だからゲームのせいにすんじゃねぇって」

「あっ、チーズ美味しよ一緒に食べる?」

「病人にチーズは重くないか?」

「だってこの家のだし」

よく見ればチーズ以外にもこの家にあった食料やらビールの缶やらあ散らかっている。

「・・・・・・・・・・・ごほごほごほっ」

「ねぇ野立ビールなくなっちゃった、買ってこない?」

「だなぁ、つまみもなんか買ってくるか」

「・・・・・おま・・・ごほごほごほっ!!」

「なんだ?どした??」

「お腹すいたの?」

「・・・お、お前ら帰れ!!!ごほごほごほごほっ!!!!」



思い返すと酷いものである。
ピーピーにとっては本当に災難以外の何物でもなかったであろう。

「ホント、こんな思い出ばっかりだわ」

「あれは看病じゃねぇな」

懐かしそうに笑う野立には力がない。
熱だけではなく、きっと

「寂しい?」

「え?」

「ピーピーが・・・・・」

「そうなぁ、一緒に野立会もできないしな」

軽くかわそうとするが、その目の色は複雑そうだった。
3人は仲のいい同期。
しかし、絵里子がアメリカに行っている間、それぞれ別の時間を過ごしてきた。
野立とはよく連絡を取っていたが森岡と少しずつ疎遠になり、
2年前対策室立ち上げで日本に戻った時も絵里子をまず迎えたのは野立だった。

野立との信頼関係が深まる中、森岡とできた溝に気づいた時にはもう追う人間と追われる人間に分かれていた。


野立は野立で同性である同期を追う事はつらかっただろう
2人で野立会も行っていたというのだから
野立は絵里子の知らない森岡の顔も知っていてその思い出がより複雑な感情を与えているのかもしれない。


「森岡がね・・・・・」

本当は野立を早く寝かせたいところだが、野立の瞳が会話を終わらせない。

「ん?」

「この間森岡と面会してきたって話したじゃない?」

「あぁ、言ってたな」

「その時言われたの俺と野立、逆だったらどうしてた?って」

もしも野立と森岡の立場が逆だとしたら。

「・・・・・・お前は俺が相手でも捕まえるさ」

「うん、私もそう言ったの、相手が野立だって捕まえてみせるって
だけどね、そうじゃないって」

「そうじゃない?」

「「俺が言ってるのはそういう事じゃない、絵里子、お前はもし野立が犯人だという証拠が出てきたら
今回のようにすぐに動けたか?俺を相手した時のようにすぐに判断できたか?」そう言われたの」

野立から相槌の言葉は聞こえない、
しかし無言で先を促され、絵里子は続ける。

「考えてもみなかった、どんな相手でも、それが恋人でも親でも犯罪者なら逮捕するそう決めていたのに
野立が犯人だって証拠が出てきたら自分はあの時みたいに、森岡の時みたいにすぐに動けるか、なんて考えもしなかった」


面会室で言葉を詰まらせた絵里子に森岡は

― 野立の顔みてほっとした顔したお前を見たらさ
「あぁやっぱりピーポーは俺じゃなかったんだな」ってそう思ったよ
お前はきっと野立の事は最後の最後まで信用する、
それがどんな状況であっても、自分を裏切ったとしか思えない状況であっても、そう思ったんだよ。―

遠い目をしたまま呟くように話してから、
少しすっきりした顔でピーパー、ピーポーによろしくな。
そう笑って面会を終わらせて出て行った。


その一瞬一瞬を思い出している絵里子を熱っぽい野立の腕が抱きしめる。
言葉はないが大丈夫だと言われているような気がした。


恐くないと、その日がこない保証がない事が恐くないといえば嘘になる。
この世に絶対など存在しない、いつかお互いが憎みあう日がくるのかもしれない。
いつかこんな風に抱き合う事もなくなるのかもしれない。
それでも

堕ちるのならともに、

いや、違う。


堕ちる前に手を差し伸べてみせる。

堕ちる前に差し出された手を掴んでみせる。


「絵里子」

優しい声がして、顔を上げると唇を塞がれた。
当然のように舌が口内を彷徨う。
野立の体はどこもかしも熱っぽく舌まで熱を帯びている。
その普段より高い体温が今は心地よい。

「ほら、寝なきゃ」

「もう少し」

唇を離し促すが聞き入れてはもらえず、また塞がれた
少しの間だけ自由にさせてやってから、指で野立の唇を制御する。

「今日は終わりよ」

「えー?」

「38度の熱がある人が何言ってんの」

「大丈夫だって」

「だーめ、仕事あるのよ」

「汗かけば平気だって」

「どんな汗のかきかたよ」

「色々?」

「はいはい、寝なさい」

ベッドから無理やり離れて、布団をバフっとかけてやる。
まだ座ったままの野立に黒いカバーの布団がかかり、おにぎりのようになった。

「私はあっちで寝てるから何かあったら呼んで」

「一緒に寝てくれないのか?」

「うつるのやだし」

「冷たいなぁ」

「はいはい、おやすみなさい」

ぱちんと電気を消し、ドアを閉める。
その締まる瞬間に

「ありがとな」

と声がした。
その言葉にまたドアを開けたくなる衝動を抑えてリビングに引いた布団にもぐりこむ。

仕事も恋も友情も、この歳になってもまだ惑う。
でも、惑う時間も愛おしい事に最近気が付いた。
一瞬一瞬の痛みでさえも自分を作り上げていくものだという事に。

そんな事に気が付かせてくれた恋人に感謝しながら眠りについた。


次の日

「・・・・ねぇ、なんであんたがここで寝てるのよ」

「ん・・・あぁ、おはよう」

「おはようじゃないわよっ」

「絵里子抱っこして寝たら熱下がった」

「下がったじゃないわよ、なんでここにいるのよっ」

「記憶にないなぁ・・・・・」

「嘘つかないでよ!自然にこんなところで寝るわけないでしょ!?」

朝起きると野立が絵里子の布団にもぐりこみ、ぎゅむっと抱き着いて寝ていた。
Tシャツが寝た時と違うところを見ると、夜中に一度か二度起きて着替え、
その時にトイレか水を飲みに来て、一緒に寝ようなどと思ったのだろう、油断のならない男だ。

「全くなに考えて・・・ごほ、ごほごほごほっ」

「あれ?風邪か?絵里子っ」

白々しく驚いておでこに手を当ててくる野立。

「わっ、熱がある、高いぞ絵里子」

「平気よ、大声だしたら咳が出ただけじゃないっ」

「これはもしかしたらただの風邪ではないかもしれない、触診だ」

「ちょ、ちょっとどこ触ってんのよっ」

「大丈夫だ絵里子、ちゃんと温めてやるっ」

「あ、温めてやるって、脱がしてるじゃないのよ」

「裸と裸で温めてやるっ」

「辞めてよ、熱なんかないし、あったとしても寝て汗かいて下げるわよっ」

「汗?汗って言ったか!?よし、汗かこうなっ!!」

「あっ、やんっ、ちょっと・・・・・」






SS一覧に戻る
メインページに戻る

各作品の著作権は執筆者に属します。
エロパロ&文章創作板まとめモバイル
花よりエロパロ