勝手にぎゅっとの続き(非エロ)
野立信次郎×大澤絵里子


家に押しかけてくる兄貴の剣幕に押されて、なんとなく
正直な気持ちを言う気分になってくる。
でも、おそらく一番意識しているのは、
扉の向こう側で息を潜めている聞いている絵里子の事だと、
自分でも自覚しながら、自分の狡さを苦笑いしたくなる。
オレ、42なんだよな。。。

「なあ、6年くらい前だったか、俺の片思いの話をした事、あったよなあ・・・。」

「ん?6年前?ああ、そーいや、当時14年位、
思い続けているヒトが、いるとか、いないとか・・・。
え、ええっ?お前、まだ・・????そんで・・・そうなのか?」

「えっ?・・・と、いや・・・、うん。」

扉の向こうで、状況のあり得なさに固まりつつ息をひそめていた絵里子は、
突然の話に、思考回路が全て止まっていた。

6年前?いや、その時点で、14年???えっと、えっと・・・・。
いや、これは、私の幻聴に違いない。どうした私、もしかしたら、夢でもみているのか?
野立の事が好きすぎて、こんな夢まで見てるのか?大丈夫か私、早く冷めろ!

冷や汗をかく絵里子の扉の向こう側で、会話は続く。

「おい、信次郎」

「ああ・・。そうなんだ。
俺にとって、結婚したい、ずっと一緒にいたい、
一生のパートナーとして考えられる相手は、その鬼軍曹だけなんだ。
その鬼軍曹でなければ、結婚なんて、本当は考えられない。
ていうか、鬼軍曹と結婚できないなら、結婚なんてしたくないんだ・・・。
鬼軍曹を見てられなくなるから・・・」

胸が、心臓が、止まりそうになった。やっぱり、夢?
鬼軍曹って、私?失礼な!!いやそうじゃない、いや、失礼だけど。
6足す14って・・・20年?
ていうより、野立が私を見てた?んで、私を見ていたい?
一生のパートナー・・・、バディ・・・?
頭のなかが、グルグルする・・・。

「おまえ、どんだけ・・だよ・・・。
ていうか、お前、幾つだよ?
親父やお袋の気持ち考えたことあんのかよ?」

「いや、でも、兄貴は3人も孫、作って親孝行してんだから、
いいじゃねえか、俺が自分の気持ち通したって・・。」

「そういう問題じゃないんだよ。
別に、子供作れって、言ってるんでもない。
だいたい、本命が20年前からいるんなら、
今までなんとか、ならなかったのかよって言ってるんだよ。
ほんで、なんで、今日っていう肝心な見合いの日に、すっぽかすんだ?
相手は、俺の得意先のからの紹介でもあるんだぞ?どうしてくれんだよ?
でも、まあ、それは、置いといてもいい。
お前を盲腸ででも、緊急入院させるだけだ。
いや、もうお前もトシだ。胆石とか腎結石でもいい。
だいたい判ってんのか?
お前が、結婚するだけで、親父やお袋がどれだけ安心するか。
お袋なんて、未だに七夕に、信ちゃんにずっと傍にいてくれる女の人ができますように
って、願かけしてんだぞ?42歳のお前にだ。
ウチの息子のお受験に専念させてやってくれよ。」

「いや、オレ、モテないわけじゃないと思うんだけど・・・。」

「だから。そういう問題じゃないんだよ。」

「ああ・・。判ってる・・・。」

「なら、まあ、いい。・・・で、その、女性には、合わせてもらえるんだろうな?」

「え?」

野立が「え?」というのと、思わず、絵里子が「え?」と声を出してまったのが、
ほぼ、同時だった。
なぜか、FBIで受けた、偶然犯人と対峙する事になってしまった時の
対処方法のレクチャーが、頭に浮かんでくる。
第一に、まず冷静に現状を判断する事。
最初に周囲の安全確認、救援要請方法、犯人の逃走経路の遮断方法・・・、
いや、お兄さんを逮捕してどうする・・。
ていうか、この状況、どう見ても、私が捕まる側だし・・。
ええい、自主したほうが、罪は軽くなるんだ!
何の罪状か、わかんないけど、どうとでもなれ?!絵里子は、覚悟を決めた。
逃げて、隠れたままなんて、私らしくない。
殆ど無意識に服と髪を軽く整えて、ガチャとノブを回して絵里子は扉を開けた。

野立と兄が、こちらを、口を半開きにしてみている。

「失礼します。以前、10年前くらいに一度、
同期と一緒にお宅にお邪魔させて頂いた事があります。大澤です。
大変ご無沙汰し、失礼しています。」

多少、声は上ずっているが、はっきりと、野立の兄の眼をみて答えた。

「あっ?えっ?ええっ?あれ、大澤さん??こんにちは。
絵里子ちゃんだよねえ?こちらこそ、ご無沙汰しています。
そっかあ、もう10年になるのかあ。覚えてますよ〜!
そうそう、アメリカ行ってたんだよね?元気そうだねえ。
なんか、益々、綺麗になったねえ〜?」

今までの重い口調と、180度違う、野立よりも、さらに軽い口調で、野立の兄が答えた。

「いやあ、びっくりしたなあ・・・。
でも・・そうなら、そうって、信次郎も早く言ってくれればいいのに。
なあ、ねえ?はは。」

「野立さんの、大切な時に、なんか、とんでもない事になってしまって、
さらに、お兄様にまでご迷惑をお掛けして、大変申し訳ありませんでした。」

「なに言ってんの〜?絵里子ちゃんのかける迷惑なら、
オレ、進んで買いにいっちゃうよ〜?
ていうか、絵里子ちゃん、迷惑かけられてる方だよね?
ごめんね。こいつ、だらしないからさあ・・・。
オレの弟なのに、本当っに不器用でさあ・・・。笑っちゃうよな、20年って・・・。
こいつはやたらと思い詰めてるみたいだけど、でも、本当に絵里子ちゃん、いいの?
イヤ、答えを聞いているんじゃないんだけど。
でも、兄としては、絵里子ちゃんが、親父やお袋に顔みせに来てくれるの、
楽しみに待ってるよ〜。あんまり、おびえないで、かる〜く遊びにきてね。
俺の子供たちもデカくなったよ。顔見にきてやってよ。」

予想外の軽さに救われながら、絵里子もふと笑顔になる。
「有難うございます。お子さん、今は3人いらっしゃるとか?お可愛いでしょうね」

「うん。そっか、信次郎もちゃんと話、してはいるんだ。
うん、可愛いよ。俺に似て、3人ともハンサムなんだよね。
信次郎じゃなくて、俺の長男とかどう?
今、中学生だから、かなり年下にはなるけど、信次郎より、女の扱いはうまいかもよ?
いや、ホントは、俺が狙いたいんだけど・・
オレは信次郎みたいに、絵里子ちゃんを追い詰めるようなヘマはしないよ?」

「おい!」

と、黙って聞いていた、野立が、声を荒げた。

「なんだよ。冗談に決まってるじゃないか。判らない奴だなあ。」

とぶっきらぼうに野立の方に答え、絵里子の方をむいて

「絵里子ちゃんの事は昔から可愛いと思ってたから、
その気になったら、いつでもいいよ?
でも、絵里子ちゃんとそうなるなら、妻とは別れなくちゃだよね。
子供3人は引き取ってもいい?子供は好き?」

と、屈託のない笑顔を向ける。そういえば、野立も奈良橋さんに似たような事、
言ってたっけ。やっぱり兄弟だ、この二人。
その邪気の無い笑顔につられて、思わず絵里子も笑顔になる。

二人の笑顔を見てムッとした野立は、

「おまえ、大体、何しに来たんだよ?
俺が病気になった事になればいいんだろ、もういいだろ。判ったから、早く帰れよ!」

と兄を小突いた。

「なんだよ。お前を心配して、見に来てやったんじゃないか。
まあいい、腎結石で緊急入院して、面会謝絶だと、取引先と親父とお袋には言っとく。
お袋にはそっと、ホントの事耳打ちしとくがな。」

と、野立に話すと、ここで絵里子の方を向き、真剣な顔をして

「昔、遊びに来てくれたとき、お袋が、「素敵な、可愛いヒトねえ」
とうっとりしてたのを覚えてます。
お袋も喜ぶと思います。気が向いたら、顔を見せに来てやって下さい。
信次郎の事、宜しくお願いします。」

と頭を下げた。

急に真剣に話されたので、どうして良いか判らず、絵里子は真っ赤になって

「こちらこそ、宜しくお願いします。」

と小さく消え入るように、短く答えた。
ふと、脈絡なく、お嬢さんは、攻めには強いが、守りには弱いねえ、
と言われた事を思いだし、ますます赤くなった。ダメダメだ、私・・・。

「もういいだろ!判ったら、邪魔すんなよ。早く帰れ!」

と、野立は兄をせきたてる。

「おまえ、中学生かよ?わかったよ。帰るさ。絵里子ちゃん、久しぶりに顔見れてよかったよ〜!またね〜え」

と野立の兄は、入ってきたときの重苦しい感じとは別人のように、手をあげて、軽やかに出て行った。

さすがは野立のお兄さん、というか、野立よりさらに上手だ・・・、あの軽さ・・・。
絵里子が、どうしたらよいのか、自分も帰った方がよいのかと、迷っていると、野立は

「ちょっと、兄貴を下まで送ってくるから、待ってて。」

と自分も靴を履いて出て行った。






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