ぎゅっと・後編
野立信次郎×大澤絵里子


野立はまだ起きてくる気配はない。

家で飲みにして正解だったわ、今日は寝かせておこう。
勝手に唇を重ねてしまった手前、起きてこられても気まずいし、どう話していいかもわからない。

飲み直す事にした絵里子がリビングに戻り、残ったワインをグラスに注ぐ、
野立の家だが勝手にTVをつけ、独りの空間を埋める。
普段なら大笑いで観るバラエティ番組も今は気が乗らず、相手が起きないようボリュームを下げた。


ほどなくして次の番組が始まると、野立が起きてきた
先ほどの事は当然だが黙っておこう、心に決め、平静を装う。

「あれ、起きたんだ?」

「あぁ、わりぃ酔っぱらっちまった」

「いいよ〜珍しいじゃん?あんたの方が先につぶれるなんて」

「ホントなぁ?絵里子の前でつぶれるなんざ、冗談じゃねぇよ」

「浮かれてる証拠だね」

「かもなぁ〜」

つきんと胸が痛む。
そんな絵里子には気付く様子もなく、ソファに座る絵里子の隣を陣取ると自分はカクテルの缶を開け、飲みはじめる野立、
ぬるかったのか、一度席を立つとグラスに氷を入れ持ってきた。

「美味しい?」

「ん〜?甘い」

「あんまり飲まないもんね、そういうの」

「台風は?」

「ちょっと風が強いくらいよ、でも今回はすごいみたい」

「なぁ、絵里子」

「ん?」

「1分だけ、俺に時間頂戴って言ったらくれる?」

「え?」

「1分だけでいいから」

「よくわかんないけど・・・」

「いいじゃん、1分だけ」

「・・・・まぁ、1分だけなら」

いいよ、と言わないうちに唇を奪われていた。
先ほど自分がしたキスとは圧倒的に違う
舌が絡み合うような深さがあるわけじゃない、それなのに熱いキスだった。

「ん・・ぁ・・・・・・・・・」

びっくりしたという事もある、しかし何してんのよと突き飛ばす事はできた筈だった。
それなのになぜかそれをせずに受け入れてしまう
自然に目を閉じ、唇が少し開かれる。

「あと30秒だけでいい、俺にくれ」

唇がほんの数ミリ離され囁かれると同時にまた角度を変えて唇が合わさった。
少しできた空間から舌が入り込んでくる、
先ほどしたキスの後ろめたさで腕をほどけないのだと自分自身に言い訳をした。

熱く、濃いキスに力が抜ける。
唇で唇が食まれるような、頬を撫でられながらうっとりするような

そのキスの正確な時間の経過などわからないが、
雰囲気も唇の動きもどんどん濃密になり、絵里子も夢中になる

と、唐突に唇が離された。

先を期待しなかったと言えば嘘になる、
言葉にしなくてもわかる空気だとそう思った、しかし

「1分経ったな」

「え・・・・・・」

「さんきゅうな」

それだけ言って、野立はまた平然と飲みに戻った。


なによ、なんなのよ。


頭がついていかない、
最初で最後と決めた筈のキスを上書きさた上に
こんな風に遊ばれて、もうどうしていいのかわからない
自分がこんなに胸が痛いのに、この男は全く気にもしていない

苦しくて、悲しくて、こんな感情は今だけにしたい
早く気楽に話せる同期に戻りたい。

だから、


「ねえ、野立」

「ん?」

「今晩だけ、私に頂戴。」

「え?」

「今晩だけでいいから」

そうしたらきっと明日は笑っているから。
いつもの同期に戻っているから。

さっきは自分からキスしてきたくせに、戸惑う野立の唇を乱暴に奪う。
反射的に逃げた野立の服を掴みキスを続けると
その勢いに意図を酌んだのか、一瞬は引いた野立も私の動きに合わせてしかけてくる。

動いたのがどちらが先かはわからないが、
勢いのまま自然にソファからベッドへと移動した。


野立に借りていた部屋着をすぽんと脱がされ、ショーツ1枚という姿でベッドに横たわる。
脚と脚の間に体を置いた相手はまだ何も脱いでいない
そんな自分だけの痴態に恥ずかしいと思う間もなく、首筋に痛みが走った。

きっと普段なら跡をつけられる事に抵抗を感じるのに、今はそれが嬉しい。
少しでも長く残ればいい、そう願ってしまう。

露わになっていた胸に息がかかる、
ためらっているのだろうか?じっと眺められて思わず野立から視線を外した。
そんなに大きくない事は自分だってわかってるが、
無言で眺めれると言葉のない空間が苦しくなる。

「き、綺麗だからってそんなに見つめないでよ・・・」

野立が少し目線を上げたようだ
しかし恥ずかしさも後ろめたさもあってこちらからは見返せない。

「絵里子の胸なんだなって思って」

しゃべる度に胸を息が愛撫していく。
その感触だけで下腹部の奥にきゅっとした刺激が走り、もぞりと脚が動く。

やっと野立の舌が胸の先をかすめた。
一度、二度と舐め、それから口に含み
こりっと固くなったそれを歯で優しく噛むと揉みこむように吸い上げる。

反対側の胸にはいつのまにか手が置かれ、揉まれていた
ぞくぞくと体に刺激が襲い上ずった声が漏れる。
久しぶりの刺激につらくなり、ちょっと待ってと訴えても止めてもらえない。

野立の唇が下へと移動していくのがわかり、
ショーツ越しに濡れているのがばれてしまうのではと気が気じゃなくなる。
色々な処にあとをつけられ、とうとう下半身までくると体が逃げようとする絵里子の脚を野立の腕ががしっと固定した。

見た目でも滴っているのがわかったのだろう、野立が嬉しそうに鼻先を押し付ける。
ぐりぐりと突起を刺激され、より一層蜜があふれ出る。
外側だけの愛撫に奥が疼き、腰がくねるとようやくショーツが外され、直接舌で愛撫された。

髭が外側のひだもなぶってくる、
舌が中に入ってくる感触がして、でもその柔らかさがじれったい。

はしたないと思いながらも、野立に「もう、頂戴・・・?」と懇願する自分がいる。
やっと自身も裸になった野立が絵里子ににやりと笑うと、絵里子の脚と脚の間に体を置いたまま体を引き上げ、目を合わせてきた。

その目に見つめられながら絵里子は不思議な感覚に陥る。

自分から誘っておいてなんだが、
野立が欲情するなんて思ってもいなかった。
自分が女として見られていないと思っていたし、
胸を揉まれ、太ももにこすり付けられる明らかに増していく熱量があるなんて想像もしなかった。

膝を持たれ、ぐちゅっと2人のものが合わさる。
想像より大きく熱いモノが絵里子を貫こうと入り口を押し広げた、
しかし、久しぶりに男性を受け入れる絵里子が少し痛みを感じるとぴたっと止まり、様子を伺っている。
気遣わしげな野立の目に悲しくなった。

できないかもしれないという悲しさではない、
最後だというのに、思い切りしてもらえない事が悲しい


野立の腰に脚を絡め、先を促す。
その脚の力に意思を感じとったのか、ためらいながらもぐぐぐっと割って入ってきた。

痛くてもよかった、
いや、痛くして欲しいと思った。

私に傷を残してほしい、
あなたの心に何か残して欲しい。
ここまできてやっとわかった、


私は野立が好きだったんだ。


こんなことになるまでわからなかった、この苦しさの意味が。
どうして今まで気付かなかったんだろう。

野立が女の子と合コンする度にイライラしてたわけも
敢えて女性との交際について突っ込まない自分の気持ちも、これで腑に落ちる。

でも、

それでも、

これで最後なのだ。
こんな風に触れ合う事も、キスする事もない。


中を慣らすように全面を順にこすられ、弱いところを探られる。
時折先端が奥に当たり、余計に声が上がる。

痛みはまだ残っていたが、段々と気持ちよさがまさっていく。
自らも腰を振っている事実に気が付き、野立にこんな姿を見せてしまっている事に今更ながら恥ずかしさを覚えた。


今、自分を抱いているのは野立なのだ


今日の朝には考えもしなかった
あの野立と裸で抱き合い、そしてこんなに淫らに交わるなんて。

互いの荒い息と嬌声が混じり、呼吸ですら絵里子を煽る
腰をグラインドさせながら振っていた野立が汗が滴る顔を寄せ、耳元で「絵里子」と囁いた。
いつの間にか呼ばれるようになった下の名前、
慣れている筈のその低い声に腰が砕けて、ぎゅっと抱き着く。

思わず心の中に生まれた言葉がこぼれないように、
野立の頬に耳に首筋に何度も何度もキスをした。


好き、好きよ野立。


言葉を飲み込む度に胸が張り裂けそうになる。
快感と痛みが同時に襲い掛かり、知らないうちに涙がこぼれた。

その涙をどう受け取ったのか、野立が涙を舌で拭う。
そんな男にキスをねだると今までが嘘みたいに優しく啄ばまれた。


もっと早く気付いていたらなにか変っていただろうか?

いくらでもチャンスはあったじゃない、
気付くチャンスも、前に進むチャンスも。

それでも時は巻き戻せない、私たちは明日になったら同期に戻るのだから。


ぐっと奥に疼く波が押し寄せ絶頂が近い事を伝えてくる
終わらせたくないという思いとは裏腹に快感が全身を伝い、導かれる。
上がった悲鳴と連動するように中がしまり、野立も低く呻いて果てた。

しばらく無言で絡み合ったままでいたが、
息がある程度整うと、絡みついていた野立の腕を優しく払い、絵里子はベッドを降り立つ。
後ろで避妊具の後始末をしている男を感じながら、その男が着ていたワイシャツを羽織る。


「どの子?」

先ほどまで見て見ぬふりをしていた、積み重ねられたお見合し写真の1つを手に取る。
添えられていた簡単な身上書を見ると絵里子より20歳近く若く、可愛い子だった。
この子だろうか?それともその下にある、すらっとした美女だろうか。
涙だけは絶対に見せない、後ろを向き声には出さないように、そっと拭った。

「んー・・・・・・・・?」

「お見合いの子、この中にいるんじゃないの?」

「んぁー・・・知らないけど・・・・」

「知らないって何言ってるのよ、まだ酔ってるの?」

「全員とさせるわよって脅されたなぁ、そういや」

満足したのはわかるが、ろくに答えない男に憤りを覚える。
よくわからない事をもごもごと話す男に根気強く再度話かけた

「ちょっと、ちゃんと起きてよ、何言ってるかわかんないんだけど」

「どうせそんなん建前だし、俺がわがままなの知ってるし」

「・・・・なによ、どういう事よ」

「あぁ、勘違いしてるっぽいから一応言っておくけど、俺がするのはお見合いだよ?」

「そうよ、お見合いでしょ?」

「うん、お見合い」

「それが?」

「・・・・お見合いって、意味わかってるか?」

「わかってるわよ、私だってあんたのせいでしたんだから」

「・・・・じゃぁわかるだろ?」

「なにが」

「だからさ・・・・いや、お前わざとか?」

「・・・・・は・・?」

「わざとわからないふりしてるんじゃないよな?」

「どういう意味よ」

「なんでお前は仕事はできるのにこういう事はからっきしなんだよ」

「何言ってんだか全然わかんないんだけど」

「・・・・お前さ、あいつらに・・・どうせあいつらだろ?話したの。あいつらにどんな風に聞いたんだよ?」

「だから年貢の納め時だからお見合いするって」

「そう、お見合いする。」

「式場も決まってるって」

「何の式場だよ、お見合いする場所は決まってるけど」

相手は誰だか知らないと、絡み合って落としたタオルケットを体にかけて、本格的に寝ようとする男。

「はぁ?ちょっと、寝るんじゃないわよ、どういう事よっ」

「んだよ・・・だからーお見合いの話とかいっぱいあったの、俺だって。」

「そりゃそうでしょうよ、昔は車にもお見合い写真があったじゃない」

そんなのは実際に見ていなくたってわかりそうなものだ。
キャリアの将来有望で見た目もいい独身男を親戚じゃなくたって放っておかないだろう。

「面倒くさくてさ、最近は写真を受け取るのも断ってきたの
結婚する気もないのにお見合いなんてマナー違反だろう?
ただ今回は40過ぎてさすがに全部は断れなくて一応「じゃぁ会いましょうか」って
それでお役御免だよ、向こうは「会えば気が変わるかも!」って少しは期待してるみたいだけど、俺そんな気ないし」

「なによ、そんな気ないってどういう事よっ」

「結婚なんかしねぇって事だろう、わかれよー」

「・・・・・はぃ・・・?」

眠気からなのかちょっと不機嫌に幼くしゃべる男を思わず見つめる。

「まぁ、絵里子ってば勘違いしてるな〜とは思ってたんだけど、うん」

眠いよ、とりあえず寝ない?
と言ってくる男にソファにあったクッションを投げつけ、起こさせる。

「どういう事よっ!!」

「いって、怒んなよこえーなー勘違いしたのはお前だろぉ?」

そりゃそうだけど、じゃぁどうすんのよこの状況。
私、ワイシャツ1枚で裸なんですけど、ん?いや違ったそういう事じゃない。

「でもまさか寝てたらキスされるだなんて、びっくりした」

・・・・・・ちょ、ちょっとまってよ!!

「お、起きてたの!?」

「おう、起きてた起きてた、唇さわ〜って撫でられて起きた」

その前にはなんかした?無邪気に聞いてくる男が憎い、
今更だけれど、首を絞めたくなる。

「深刻そうにしてるからどうしようかなとは思ったんだけどさ、
ほら、そのままの方が進みやすいかなと思って、あはははははっ」

笑ってんじゃないわよ、どうしてくれんのよ。

「いや、もう、なんだろう、俺は感激だよ絵里子、先にお前から動いてくれるなんて」

しんじろ感激っ。ってバカじゃないの、バカなの?
こ、こんな男に・・・・・く、くそう・・・・・・・・・・・・・


「でも絵里子、わかっただろ?俺しかいないって」

うぅ、悔しいけど気付いてしまったからには言い返せない。
手でおいでおいでされ、無意識にベッドに近づくとそのまま引っ張り込まれた。
ぎゅっと抱きしめられ、なんだか無性に悔しくなる。

「やめてよ、バカっ」

悔しくて泣けてきて、胸をどんどん叩く。
バカ、野立のバカ。

より一層ぎゅっと抱きしめられて、胸に顔をうずめた。


ねぇ、自惚れてもいいの?
あなたが私を好きだって、そう思ってもいいの?

「明日、お見合いの前に断りの電話入れないと、ひっどい男だね、俺。ドタキャンだもん」

また親に怒られるな。なんて呟く男が妙に愛しく見えるから不思議だ。
と、もぞもぞ動く手を感じた。

「ちょ、ちょっと?」

「続き、つづき。」

「続きって」

「だってさっきは妙におセンチだっただろ?
次は思いっきり幸せに感じさせるから、ほらほら、続きつづき。」

「あんたちょっと、どんだけ元気なのよ!?眠いって言ってたじゃない!!
あっ、やん・・・ちょっと・・・・・」

「眠いの覚めた、絵里子とちゅーしてえっちしたい」

うちゅーとふざけながら、でも濃いキスをしてくる。
舌が絡みあって、それが幸せでどんどん激しくなっていく。


確かに幸せかもしれないけど、明日起きれるかしら、私。


後日.

「野立さん、結局お見合いしなかったみたいですね、BOSS」

「そうね〜・・・・・・」

「それにしても野立さん、最近お肌つるっつるですよね、BOSS」

「よかったわねぇ・・・・・・」

「それに引き替え、疲れてますね、BOSS」

「うぅ・・・・・・・・・・・」






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