お引っ越し(バスルームの秘めごと 続編)
野立信次郎×大澤絵里子


絵里子の荷物は案外少なくて拍子抜けするほどだった。
衣類や靴などはさすがにイイものをたくさん持ってはいるが、生活に必要とする荷物やら家具やらが極端に少ない。本人いわく、

「アメリカとこっちを二度も行ったり来たりしたから、自然と荷物が減ったのよ」

だそうだ。
それでも、野立は長年使っていなかった6畳の一部屋を、絵里子の部屋として提供した。
絵里子だって、一人で好きに過ごしたいときも、自分のパソコンで仕事の残りをやっつけたいときもあるだろう。
そのためには、絵里子専用の個室があったほうがいい。お互い今まで一人暮らしのプロだったんだから。

多忙な仕事の合間を縫って、絵里子は今日、野立のマンションに引っ越してきた。
午前中から、引っ越し業者が絵里子のドレッサーやら書棚やら、小さなデスクやらを運び込んできたが、あっけないほど簡単な引っ越しだった。
昼に二人で近所のイタリアンに出かけ軽くブランチを取ったあと、午後から本格的に新生活の城作り(=荷物の片付け作業)に没頭している。

「ねえ、本当にいいの?あたしが一部屋もらっちゃって」

さすがに女の一人暮らしのプロ、料理が苦手とは言え野立より食器類は豊富に持っているようで、キッチンの大きな食器棚にせっせと皿を重ねながら絵里子が振り返る。

「悪いわね。今まであんた一人で優雅に広々暮らしてきたのに・・・」

今日の絵里子は作業がしやすいように、髪をアップに結っている。
ざっくりしたカットソーから、すっきりした白い首筋が伸びて、さっきから野立はそこに触れたい気持ちを抑えていた。

「だって、おまえストレスたまると癇癪起こして暴れるだろ。頼むから自分の部屋で暴れてくれよ。ほら、これプレゼントだ」

野立が抱き枕のような大きな物体を投げて寄越す。

「ちょっ・・・何これ」

受け取った物体をしげしげと眺めると、巨大なカバのぬいぐるみ。

「サンドバック代わりに部屋に置いとけよ。俺は殴られたくない」
「・・・アンタね・・・」

絵里子は目を細めて鼻息荒く野立を睨む。
それでいてサンドバックが気に入ったようで、さっそくバシバシと拳をカバの腹あたりにねじこんでいる。

「でもひとつ約束だ」

野立の声に絵里子が顔を上げる。

「どんなことがあっても、ケンカして腹立てても、必ず同じベッドで寝る。これがルールだ」

一瞬絵里子はキョトンとした顔で野立を見たが、すぐに照れくさそうな笑顔になる。

「ん。わかった。約束ね」

そう言いながら、絵里子は野立の腹に軽くパンチを入れてきた。

一通り片付いてなんとか体裁が整ったころには、夕方6時をとっくに過ぎていた。
リビングのソファにぐったりと並んで腰掛け、野立が淹れたコーヒーを飲む。

「ね、不思議なんだけどさ。あんた、男の一人暮らしのわりに、冷蔵庫も洗濯機もダイニングテーブルも、やけに大きいの持ってるのね。食器棚なんてスカスカだったじゃない」

ジーンズの裾から細い足首を覗かせて、絵里子はソファの上に体育座りをしている。

「そもそも、一人で住むには広すぎる間取りよね」
「ああ・・・そりゃまあ・・・そのうちおまえと一緒に住むことになるかもしれないと思って、念のためにデカイの買っといたからな」
「またまたーー!!ほんっと調子いいわね、あんた!」

野立の髭をチョイチョイと絵里子が触って、横目で笑っている。
野立はそれ以上答えずに、

「ま、気にすんな」

とニヤニヤ笑いを返す。

冗談半分、本気半分だった。野立は人生の半分近くを、密かに絵里子を見つめて生きてきた。人が聞いたら、呆れるだろうが。
絵里子が数年前にキャリアを棒に振りかねないような恋をしたとき、野立は己の長い片思いにこっそり終止符を打つことを決めた。
同期であり、無二の理解者であり、他に変えられないバディであり。それ以上に何を求める?
絵里子を失いたくないなら、自分は影の存在に徹し、絵里子の負担にならないように彼女を守りながら、軽い男を演じてキャリアの道を生きていけばいい。
そう本気で自分に言い聞かせていた。
それでも、心のどこかで本能的に感じていた。
絵里子は必ずあの男と別れて、最終的には俺の胸に飛び込んでくるだろう。
いや、自分が強引にでもそうさせる時期がいつか必ず来るだろうと。
だからこのマンションを購入したとき、野立はあえて大きなサイズの家電製品ばかりを選んだ。
人の扱いが上手くて女には苦労しない野立信次郎が、表で見せる顔とは裏腹に、私的な領域では自分の境界線を崩さず、誰も入り込ませようとしない。
それは心の奥で、自分の境界線の中に入ってきてほしい相手は一人しかいないと半ば自嘲気味に悟っていたからだった。

コーヒーをテーブルに置くと同時に絵里子がアクビをする。

「ダメだ、昨日残業長引いたから、眠くて」

絵里子はグッタリともたれるように、野立の肩に頭を預けてきた。
野立はフッと笑いながら、絵里子の肩を抱いてラクな姿勢にしてやる。
首筋のほつれ毛を指でそっとすくうと、なんと絵里子が早々と寝息を立て始めた。

「おまえ!寝るの早えーよ!!」

せっかくやっと一緒に暮らし始める記念すべき第一日目だというのに、まったくこの女は。
若干ムカついた野立は、ガブッと絵里子の首筋に噛み付いた。

「ギャッ!!」

絵里子が跳ね起きる。

「な、何すんのよぉ!」
「寝かせてたまるか!」

野立は絵里子のウエストをがばっと抱え込んでソファに倒れこみ、カットソーの下に手を突っ込んで、脇腹をくすぐり始めた。

「ひゃっ!やめ!やめーーー!!野立!!」

身をよじりながら、ヒーヒー笑う絵里子の様子が可笑しくて、野立はますますエスカレートする。
背中に手を回してブラのホックを外してやった。
カットソーとゆるんだブラを一気に押し上げて絵里子の肌を露出すると、髭と唇を荒っぽく押し当てて、絵里子の胸をしゃぶり始める。

「や・・・バカ!野立・・・!」

絵里子は笑いと悲鳴の入り混じったような奇妙な声を上げながら、野立のデニムのシャツを掴んだ。
野立は構わず絵里子の胸に顔を押しつける。そうしているうちに、絵里子が感じ始めるのを野立は熟知していた。

「もう・・・あんたってヤツは・・・」

そう呟く絵里子の声は既にかすれ気味で、体からは力が抜け、野立のシャツの下に手を入れて背中を指で撫で始めている。

軽い冗談めいたじゃれあいで済ませるつもりだった野立も、絵里子の乳首を唇で味わっているうちに、途中で止められなくなってきた。
野立は上体の位置を上にずらし、右手で絵里子の胸に手を這わせながら、左手で絵里子の頭を掻き抱いてキスをした。
絵里子が待ちかまえていたかのように食いついてきた。唇が激しく野立を求めてうごめき、舌が魚のように跳ねながら野立の舌に絡み付いてくる。
さっきまでの様子と豹変したような絵里子の激しさが、野立をますます興奮させた。
そうか、考えてみたら、ここしばらく互いの仕事と引っ越しの準備で目が回るほど忙しく、抱き合うのも久しぶりだった。
ざっと20年、密かに愛し続けてきた女が、頬を染めながら必死に自分にしがみついてキスを求めてくる。野立の下腹部が熱くなった。
乳房を柔らかく愛撫しながら尖った蕾を指で転がしてやると、「あん・・・」と甘い声を出して身をしならせる。
野立は、なぜか初めて出会ったころの、制服姿で固い表情をした絵里子の姿を思い出し、今自分の腕の中で激しく乱れている絵里子の姿に胸がしめつけられた。
やっと、俺のものになった・・・。

野立のモノがジーンズの下で、突き上げるように固くなり痛いくらいになっていた。
絵里子ももどかしげに脚をすり合わせている。
野立は絵里子のジーンズに手をかけて脱がしに掛かった。ジーンズと一緒に、薄いラベンダー色のショーツも膝上までずらされ、絵里子の白いヒップが掌に収まる。
絵里子も荒い息をしながら野立のジーンズに手を伸ばし、ウエストのボタンを外そうとした。
と、そのとき。

ピンポーーン!

チャイムの音が鳴り響いた。二人はギョッとして動きを止める。誰かが一階のエントランスホールにいるということだ。

一瞬、居留守を使おうかと思ったが、そういえば新聞の集金がまだだったと思い出す。
面倒なことはさっさと済ませてから、ゆっくり楽しめばいい。そう思い、野立はインターホンに応じた。

「野立さーーん!こんばんはーー!お言葉に甘えて来ちゃいましたーー!!」

インターホンのモニタに映っている面々の姿に、野立と絵里子は同時に

「げっっ!!」

と驚愕した。
そこに映っていたのは、対策室のメンバーの山村、片桐、花形だった。
野立と絵里子は動揺しながら顔を見合わせ、一気にパニックに陥った。野立は、声が裏返りそうになりながら、なんとか平静を装う。

「な、なんだ、おまえたちか。なんだ今日は一体」
「なんだ今日はじゃないですよーー!おとといの対策室の飲み会で、野立さん家に遊びに行く約束したじゃないですかー!酒とつまみ、たっぷり買ってきましたよ〜」

花形が元気いっぱいに喚いていて、その横で山村と片桐が押し合いへし合いしながらモニタに映ろうとしている。

「ええぇえ?!そそそんな約束、俺したか?!」
「やだなぁ、野立さん、今日仕事の後でお邪魔するって僕達ちゃんと言いましたよ。ま、あのとき野立さん、酔っ払ってたから覚えてないかもしれないけど」

山村がエヘヘと笑いながら言う。
早く中に入れてくださいよー!と3人がワイワイ騒いでいるのを見て、野立と絵里子は凍りついた。絵里子は声を殺して耳打ちする。

「なんなのよ!どういうことよ、これは!」
「いや、俺ほんと覚えてねーよ。たしかに、おとといは疲れて久々に酔いが回ってたけど・・・そんな約束したっけかな。いや、したような気もするな・・・。やっべぇ。どうしよう」
「ど、どうすんのよ!アイツら絶対諦めないわよ!」

モニタの向こうで、「あ・け・ろ!あ・け・ろ!」と3人が踊っている。

「アイツら、既に一杯引っ掛けてきてるわ絶対・・・」

野立は、掌で一度口元を拭うと、意を決したように3人に向かって言った。

「10分待ってくれ」

野立と絵里子は暴走特急のような勢いで身なりを整え、せっかくリビングやら洗面所やらあちこちに配置した絵里子の持ち物を全部掻き集めて、絵里子の6畳間に放り込んだ。
汗をかきながら、ざっと二人で室内を見回し痕跡を消すことができたところで、ようやく野立はエントランスを開錠し、3人をマンションの中へと入れてやった。

「絵里子。刑事は演技してナンボだ」
「分かってる!骨の髄から分かってる!」

ピンポーン。玄関のチャイムが鳴り響くと、二人はゴクッと唾を飲み込んだ。どちらからともなく、顎に触る『かなりヤバイ』サインを交し合う。
野立はそっと玄関ドアを開けた。「どーもーーー!!山村会でーーす!!」3人が、スーパーの袋に入った酒類を掲げながら勢いよく玄関に滑り込んでくる。

「あああぁっ!!ボス!!なんでここに?!」

花形が素っ頓狂な声を上げた。

「あらーーー。みんな奇遇ね〜〜!あ、あたし?あたしはホラ、今日は野立とたまたま休みが重なったもんだから、新しいプロジェクトについて打ち合わせしてたとこなのよー。
ほら、なんたってあたしたち、同期で元バディで、上司と部下だし!!」

3人はぽかーんとしながら、しばし野立と絵里子の姿を見つめていたが、片桐の

「なるほど、確かにいろいろ話し合うこともあるでしょうしね」

の一言で、なんとなく笑いあう空気になる。

「で、一体どんなプロジェクトですか?」
「は?!・・・ん、それはあの、まだトップシークレットってやつよねぇ〜〜!ねえ、野立?」
「お、おう!おまえらの出世がかかったスペシャルシークレットなプロジェクトだよ」

へえーーそれは楽しみですね!とはしゃぐ花形と山村。3人はさっさと靴を脱ぎ、うわー、広いなー、キレイだなー、とじろじろ室内を見渡す。

リビングに入ると、3人は感嘆の声を上げた。

「リッチだなー。エリートが住むマンションって、やっぱ違いますよね〜!」

花形がキョロキョロしながら目を輝かせている。
片桐が黙々とテーブルに酒やつまみを並べ始めたので、絵里子が「あ、お皿出すわね」とキッチンに向かう。

「ボス・・・。なんか野立さんの奥さんみたいだなぁ」

山村の呟きに、野立が手にしていた缶チューハイ数本を派手に床に落とした。
一気に静まり返る空間。

「あっ・・・何?!あたしが、なんか勝手知ったる感じで動いちゃってるから?!
やーねー、山村さん!あたしと野立はなんたって20年来の同期よ同期!
何度も酒を酌み交わした仲よっ!この家の皿の置き場くらい知ってるわよ〜〜!あはははははは」
「…だよな!!あはははははは」

野立はやたらと額を拭いながら同調した。脂汗出てきやがった。

テーブルを囲んで、床に座り、酒盛りが始まった。

「野立さん、最近ちっとも野立会やってくれないですよね」

花形が口を尖らせている。

「そうですよ、仕方ないから、この頃じゃ山村会がめきめきと力をつけてきてるんですよぉ。
ま、今日はちょっと山村会にアドバイスをもらいたくて押しかけちゃったんですけどねー。
実はね、この前初参加した女の子が、なんだかボクに気があるみたいで〜・・・」

山村がほろ酔い顔で無邪気に話すのを、野立は適当に相手してやる。
片桐は途中から熱心にメモまで取り出している。

実際、絵里子と恋人同士になってからというもの、野立会はほとんど機能していなかった。
野立自身、我ながら自分の変化が可笑しくもあった。もともと女の子は大好きだし、合コンも楽しい。最高の息抜きでもあった。
それが、絵里子を手に入れた途端、胸の中心に長年開いていた穴がスポッと埋まったかのような安堵感を覚え、今までのお気楽な野立会に興味が湧かなくなってしまったのだ。
ま、俺も年取ったってことだな。絵里子にはそう笑って煙に巻いたけど。

「野立さん、最近なんか、満たされた顔してますよね」

片桐がボソッと呟く。
野立と絵里子が同時に身構える。

「そうそう。なんか野立さん、変わったな〜ってみんな噂してますよ。ついに本命の彼女でもできたのかなぁって」

花形のニコニコした顔に野立と絵里子の顔が引きつる。

「いや、そんなことないって。別に俺は何も変っちゃいないさ」

野立がソワソワとチューハイの缶を口元へ運ぶと、絵里子も釣られたように隣で缶に手を伸ばす。

「野立さんって、どういう女性が好きなんですか?理想のタイプっていうか」

花形が興味津々に身を乗り出した。残りの二人も聞き逃すまいと真剣な顔をしている。

「タイプ、か・・・?ううーーん」

野立が頭をポリポリ掻く横で、絵里子がソワソワと身じろぎしている。

「そうだな・・・。自分の足でしっかり立って前を向いてる女かな・・・。がんばってるっていうか・・・。
そういう女が俺の前でだけ弱さを見せたりすると、グッとくるかな」

最後はいつもの野立の軽い口調が戻っていた。

「自分の足でしっかり立ってる人・・・がんばってる人・・・」

花形と山村がそれぞれ勝手に想像をめぐらしていると、片桐が一言。

「・・・ボスみたいな人ですか」

野立と絵里子は同時にチューハイを噴き出していた。

「いや〜、だってボスは人に弱さなんて見せないでしょ〜〜。弱さなんてなかったりして!なんたって鉄の女だし」

山村の失礼な言葉に、むしろ野立と絵里子は救われて、「だよね〜〜?」と大袈裟に笑いあった。

夜10時を回り、ようやく3人が帰って行った。
ボスも一緒に帰りましょうよ、と朗らかに言う花形に、

「う、うん、私はもうちょっと野立と資料を整理してから帰るわ。大丈夫よ」

と絵里子が答えると、

「そうですかー。でも資料なんてぜんぜん見当たらない・・・」
「そーいうのは気にしなくていいから!!」

不自然極まりないやりとりがしばらく続いたが、3人とも酔っ払っていて冷静な思考回路は最早なくなっていたようだ。
どーも、おじゃましましたー!とワイワイ騒ぎながらも、なんとかマンションからいなくなってくれた。

「ハァ・・・疲れた・・・」
「俺も・・・」

二人してグッタリとベッドに突っ伏す。軽く考えていたが、この環境、状況下での極秘職場恋愛はなかなか前途多難なようだ。

「野立、後悔してない?・・・一緒に住み始めたこと」

絵里子がちょっと不安げな顔で野立を見た。
この顔だ。今じゃ俺にしか見せない、ちょっと心細そうなこの顔。これがたまらない。

「後悔なんてするか、アホウ。せっかく念願叶ったのに」

一瞬の間のあと、絵里子がとても嬉しそうな顔をする。ベッドで寝そべったまま、野立と絵里子は微笑み合った。

「でもさ、これじゃ思ったより早く、バレちゃいそうだよ、あたしたちのこと」

絵里子が手を伸ばして、野立の髭に触れる。いつからか、これが絵里子のクセになったな。野立は、そう気づいて、またしても顔がほころんでくる。

「バレたらバレたで、そのときはさっさと籍入れちまえばいいさ」

だったら誰も文句言えないだろ?そう言って野立がウインクすると、絵里子はポカンとした後に、叫びだした。

「せ、せ、籍〜〜〜?!」

ガバッと跳ね起きると、「ね、ねぇ!!籍って、籍って、その籍のこと?!あんた、本気?!マジ?!」
慌てたときのパターンで、絵里子の声が野太くなっている。本当に俺を飽きさせない女だな、コイツは。

「そんなことより、さっきの続きしようぜ。もう我慢できねーよ」

野立は笑ってはぐらかしながら、絵里子の手首を引っ張り、自分の上に彼女を抱き寄せた。
絵里子に言葉を挟ませないように、長いキスをした。野立自身が照れくさかったからだ。

キスが一度途切れたとき、絵里子が問いかけるように野立の目を覗き込んだ。

「マジだ」

ニヤリと笑いながら、さっきの答を口にする。
すると絵里子が唇を噛むようにニンマリと笑い、野立に襲い掛かってきた。

「おまえっ・・・おい・・・激しいな・・・!」

絵里子は野立にキスの雨を降らせながら、野立のデニムシャツを一気に脱がせてくる。
野蛮な手付きで野立はジーンズも脱がされた。くちづけながら、絵里子は華奢な掌でボクサーショーツ越しに野立自身を触った。
撫でさするような刺激に、野立はすぐに反応していく。
深くて甘いキスをむさぼりながら、野立は自分に覆いかぶさる絵里子の服を脱がせ、ブラを剥ぎ取って投げ捨てた。
絵里子が自分から野立の口元に胸を近づけてくるので、可愛らしく尖った乳首を、野立は音を立ててしゃぶってやる。

「・・・あっ・・・・」

絵里子の細い声が妙にせつなげで、野立はもっと聞きたくて両手で下から絵里子の乳房を揉みしだいた。
胸を攻められながら、絵里子がもどかしそうに自分のジーンズを脱ごうとしている。
野立は口で乳房を味わいながら、手を伸ばしてジーンズを脱ぐのを手伝ってやった。

お互いがすべてを脱ぎさってしまうと、野立は不意に体を起こし、絵里子の背後に回った。
後ろから抱きしめ、飲み込むような深いキスで舌を絡めあう。
絵里子が激しく応えれば応えるほど、野立のモノがますます固く熱くそそり立っていく。
背後から乳房を愛撫し、首筋に強く吸い付いて紅い痕をつける。

「明日、みんなに気づかれちゃう・・・」

息も絶え絶えに絵里子は言うが、そのわりに体はまったく抵抗せずに、尻を野立の股間に押し付けてくる。

「いいさ、気づかれたって」

左手で乳房を揉みつづけ、唇と舌をあちこちに這わせながら、右手で絵里子の秘部をいやらしく撫で回した。
ベッドの脇の鏡に向かって、絵里子の脚を大きく開かせる。

「ヤっ・・・バカ!・・・やだ・・・」

そういう言葉とは裏腹に、絵里子の息づかいが乱れ、柔かな窪みから蜜がどんどん溢れ出して、野立の指先をあっという間に濡らしていく。

絵里子。好きだ。
気づいたら、野立は何度も何度もそう繰り返し言葉にしながら、絵里子を指で愛撫しつづけていた。
愛液まみれの指をしゃぶって舐めとっては、また優しく絵里子の芽を撫でる。
乳房を掴み、唇と舌で乳首を吸いながら、腰を揺らしてねだる絵里子を、まだまだだと焦らす。

「絵里子。俺が好きか?」

我ながら、こうして焦らして攻めながらこんなことを聞くのは卑怯だなと思う。
でも、聞かずにはいられないんだ。何度でも聞きたいんだ。

「嫌い・・・。挿れてくれなきゃ、嫌い・・・」

絵里子が言葉遊びで「嫌い」と言ってるのは分かっていても、野立はほんの少し傷つく。そんな野立の瞳の色を読み取って、絵里子が気だるく微笑みながら、野立の頬に手を伸ばす。

「あたしがこんなになっちゃうなんて。自分が信じられない」

絵里子が体の向きを変え、正面から野立と抱き合う体勢になった。
互いのねっとりと濡れた部分が重なり合う。
絵里子が野立の耳に唇を押し当てた。

「好きよ、野立。あんたが想像してるよりずっと、笑っちゃうくらい大好き。あんたがいるから、あたしはこうして生きてる」

まるで呪文のように野立の耳の奥にそう吹き込むと、絵里子は掌で野立の耳を覆った。今の言葉を野立の耳の奥に永遠にしまいこむように。

「だから、早く挿れて」

そうイタズラっぽく笑う絵里子がまた、野立の胸に火をつけた。
なんなんだ、この女は。なんでこんなに俺をたまらなくさせるんだ。

「・・・まだまだ。お楽しみはこれからだ」

野立はニヤリと笑いながら、絵里子の脚の間に顔を埋めた。

「うそぉ・・・」

絵里子は抗議の声をあげたものの、野立のこの上なくいやらしい口の動きに、呆気なく身をしならせた。
気が遠くなるような快感。長い夜になりそうだ・・・。二人は同時にそう感じ合った。

マンションからの帰り道、タクシーを拾おうと駅までフラフラ歩く3人の男達。

「あの二人、結局白状しなかったね」
「やっぱガード固いですよねー。バレバレなのになぁ」
「二人とも、不器用だからな」

だねー!と3人は目配せしあった。

「もうちょっと気づかないフリしててあげようよ。それが部下の思いやりってものだし」

山村はそう言うと、残りの二人とハイタッチしたのだった。






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