合鍵の眠り姫(崩れた三角形 続編)
野立信次郎×大澤絵里子


面倒な案件を抱えて、このところ深夜まで残業が続き、野立は心身ともにクタクタになっていた。
せっかく絵里子と長年の想いを伝え合い晴れて恋人同士になったというのに、野立は幹部クラスの会議と新プロジェクトの準備に追われ、絵里子は絵里子で対策室で目下扱っている未解決事件の捜査で連日飛び回っている。
あの日、初めて抱き合って幸福な時間を過ごして以来、一度も二人の時間がとれないまま慌しい日々が続き、さすがの野立もイライラが募っていた。
たまに短い時間顔を合わせても、仕事上の会話がほとんどで、少しだけ目で合図しあうのが精一杯だった。

深夜2時。ようやく自宅マンションにたどり着く。今日は絵里子の顔すら見れなかった。
溜め息まじりに玄関のドアを開け、リビングの灯りを点けた野立は、一瞬ギョッとした。
広いリビングの床に、女物の衣服やストッキングが散乱しており、テーブルには空になった缶ビールが数本、放置されている。

野立は、思わずニヤリと笑みを漏らした。

「まったくアイツ・・・」

そう呟きながら、散らかったスカートやストッキング、ブラウスを拾い上げてソファに重ねて置いた。
初めて結ばれた翌日、野立は絵里子に合鍵を渡していた。
絵里子は気恥ずかしさを隠すように「一応、預かっとくわ」とサバサバ答えたものの、その鍵を大事そうに握り締めていた。
連絡を入れずに部屋を訪れて俺を待ち、驚かせようと思ったものの、一足先に晩酌してるうちに、あまりの疲労に耐え切れず寝入ってしまったってとこだろうな・・・
野立はそう推理しながらベッドルームへと進む。
野立の大きなベッドの上で、子供のように口を開いて眠り込んでいる絵里子を見下ろした。
薄い布地のゆるやかなスリップから白く長い脚が伸びている。
しどけなく開かれた両脚を眺めながら、野立はベッドに腰を下ろす。「恐ろしく無防備なヤツだな」

「絵里子。おい、絵里子。風邪ひくぞ」

白くむき出しになった肩を掴んで揺さぶるものの、絵里子は軽くイビキをかいたまま、まったく起きる気配がない。

「こいつめ。いい度胸だな」

野立は、イタズラっぽい含み笑いを浮かべると、絵里子の白い太ももに掌をそっと滑らせた。

「絵里子ちゃーん。起きないとどうなっても知らないよ〜」

歌うように小声で言いながら、野立はスベスベした絵里子の脚に何度も手を這わせる。
絵里子がほんの少し体をよじった。

「んん・・・」

その声が妙に扇情的で、野立の中に火をつけた。

「しょうがねえな。こうなったら意地でも起こしてやる」

野立はベッドの真ん中に移動すると、眠っている絵里子の上体を後ろから抱き上げるように起こした。
ヘッドボードに寄りかかるようにしてベッドの上に足を広げて座った野立は、上体を起こされてもまだ熟睡している絵里子を背後から抱える。
絵里子のうなじの髪をかき上げ首筋を露わにすると、そのひんやりとした肌に熱をもった唇を押し付ける。絵里子の甘い体臭に知らず興奮している自分がいた。

「絵里子。まだ起きないのかよ」

左手で絵里子の腹部を抱きかかえ、右手をうなじから首筋、肩先から腕へと這わせながら、時々肩先にキスをする。

「俺をほったらかして、一人で寝ちまうなんて、絵里子は冷たいなぁ」

しばらく絵里子の寝顔を眺めていたが、掌越しに伝わる絵里子の肌の質感に、次第にこらえきれなくなってきた。
野立の右手が、絵里子の胸を柔らかく包んだ。
いつの間にか息を潜めていた自分に気づき、野立は少年のような自分に苦笑いする。
ブラのホックを外してスリップの下から剥ぎ取り、ベッドサイドテーブルに投げた。
露わになった白い胸を、今度は両手でゆっくりと愛撫する。

「ん・・・」

絵里子はそれでもまだ眠っている。

「どんだけ爆睡だよ」

野立は呆れ笑いながら、絵里子の慎ましやかだが柔らかなふくらみをもてあそび、すぐに尖ってきた蕾を指でキュッと摘んでは転がした。

「ふぅ・・・」

絵里子の寝息が少し甘い音に変わる。
野立は自分の体がじっとりと汗ばんでくるのを感じた。ワイシャツを脱いでしまえばよかったと後悔する。

左手で乳房を愛撫しながら、右手がスリップの裾へと移動する。ショーツの上から絵里子の敏感な部分をそっと撫でる。
中指と薬指で優しくなぞっていると、絵里子が

「う、ううん・・・」

と身をくねらせた。指先に、ショーツの布地越しでも分かるしっとりとした湿り気が感じられる。
野立は自分の息が少し荒くなるのを自覚しながら、そろりと絵里子のショーツを脱がせていった。
脚を折り曲げて足先からショーツを引き抜いてしまうと、絵里子を後ろから抱きかかえた状態のまま、右手を使って両脚を大きく広げさせる。
頼りない薄いスリップ一枚の寝ぼけた絵里子が、背後から野立に胸を撫でられ、同時に下腹部も攻め立てられる。
ベッドの向かい側には大きな鏡があるから、野立は絵里子のあられもない姿と、それをもてあそぶ自分の姿と向き合い、今までに経験がないほど興奮していた。

「絵里子。おまえが好きだ、自分でも信じられないくらい」

野立は絵里子の首筋に唇を押し当て、ひっそりと囁くと、長い指を器用に優しく動かして、絵里子の一番感じやすい部分を執拗にいじる。
円を描くように親指を動かして突起をこねくりまわし、早くも濡れそぼってきた内側へと中指を差し入れる。
指をクイッと曲げて内側のザラザラした部分を強めに押すと、絵里子が「はぁぁ・・・」と身をのけぞらせた。

野立はたまらず、絵里子の唇をむさぼった。
柔らかくゆるんだ絵里子の唇を荒々しく吸い、舌を差し入れる。するとようやく絵里子がパチッと目を開けた。
一瞬何が起こっているか分からないようなぼんやりとした顔をして、絵里子は「ん?んん?野立?」と声を出した。

「やっと目を覚ましたか」

野立がニヤッと笑って覗き込むと、数秒のうちに絵里子は事態を察した。
茹でダコのように真っ赤になりながら

「ちょっ・・・!!あんたねぇ!!」

と野立の腕から逃れようとした。
けれども野立はガッチリと力をこめて抱きすくめ、絵里子を逃がさない。

「もう遅いな。おまえが勝手に俺のベッドにいたんだから、自業自得だ」

そう言うと、有無を言わさぬ勢いで絵里子にキスをして、激しく舌を絡ませた。
絵里子は一瞬抵抗しそうになったものの、甘く執拗なキスと、野立の指の動きにすぐに脱力し、とろけそうになりながらも野立に必死にしがみついた。

「絵里子。こうしてほしかったろ、ずっと。俺はしたかった。何日も」
「・・・うん・・・もう我慢できなかった。だから、来ちゃったの・・・」

絵里子が恥ずかしそうにあえぎながら、答える。
野立は心の奥で嬉しさを噛み締めた。

絵里子の秘部が、野立の指の動きにあわせて音を立てる。静かな部屋に二人の荒い息遣いと濡れたいやらしげな音だけが響き、それがまた二人を熱くさせた。

「野立、脱いで・・・。もっと欲しい・・・」

いつもは男以上に勇ましい絵里子が、少女のように頬を上気させて潤んだ目で懇願している。
野立は、愛おしさでどうにかなってしまいそうな気持ちのままに、自分のワイシャツとズボンをもどかしく脱ぎ捨てた。
痛いくらいに下着を突き上げている自身の膨らみに、絵里子の手をグイッと引っ張って触れさせる。

「絵里子のせいだ」

そう野立が囁くと、絵里子は嬉しそうに手を這わせ、熱くなった塊を撫で回した。
野立が気持ち良さに低く息を漏らす。絵里子は両手で野立の下着を引き摺り下ろすと、自分のスリップも勢い良く脱いで放り投げた。

すべてを脱ぎ去った体と体が重なり、隙間がないくらいに強く絡み合った。
しっとりと汗ばんだ体が溶け合うように熱い。
野立は絵里子の胸を両手で激しく揉みしだき、ピンと立った乳首を強くしゃぶる。
舌で優しく転がし、指で攻め立て、時折歯を立てる。
そのたびに絵里子がせつなげに身をそらせて声を上げ、野立に腰をすり寄せた。
互いの腰を何度も揺らし、濡れそぼった場所をこすり合わせる。
もうこれ以上身が持たないと絵里子が観念した瞬間、野立が絵里子の中に猛々しく入ってきた。

「あぁっ・・・!」絵里子は野立の肩に歯を立てながらその背中にしがみつく。
「絵里子、顔見せろよ。絵里子が感じてる顔が見たい」

野立はそう言って、絵里子の額の髪をかき上げながら、激しく腰を打ち付けてくる。
絵里子の中が、時々ギュウッと収縮し、野立を締め上げる。

「すごい・・・。奥まで・・・はぁぁ」

絵里子は泣きそうになりながら、野立の首に顔を埋めた。
もっと、もっと。野立は絵里子と一体になりたくて、更にその先を目指しているような気持ちになる。

絵里子の中で野立がますます固く膨張し、うごめき、絵里子を捕らえた。
痙攣が起こりそうになり、「もうダメ、野立。早く・・・!」と悲鳴に近い声を上げた。
絵里子が全身を震わせ野立にしがみついた瞬間、野立が絵里子の中で激しく脈打ち自身を放出させた。

小刻みに体を痙攣させながら、やがて二人は絡まったままぐったりとシーツに横たわった。
汗ばんだ体で抱き合ったまま、絵里子が野立の髭のあたりをそっと撫でると、野立はチュッとついばむような優しいキスを絵里子に返す。
絵里子がクスッと笑うと、まだ繋がったままの部分を通して野立にも振動が伝わった。

「このまま離れたくないな」

野立はいつもの調子で冗談めかして言う。

「繋がったまんま、ずっとこのままがいい」

目だけは案外本気そうで、そんな野立が絵里子は心から愛しかった。
野立が大きな自分の子供みたいに感じて、女としての本能に自分でもちょっと驚いた。

「このまま朝までこうしてようか」

絵里子もいたずらっぽく答える。と、二人同時に、グウッと腹の虫が鳴って、思わず顔を見合わせ吹き出した。

「しばし休戦。なんか食ってから、また、だな」
「またって何よ。バカ」

絵里子はクスクス笑いながら野立を抱きしめる。
腹ごしらえをしようと言いながら、どちらも互いの体から離れようとせず、いつまで経っても繋がったまま。
じゃれあっているうちに夜が明けてしまうかもしれないな。でもそれもいいか。明日仕事、辛いけど、今この瞬間のほうが俺の人生で一番大事だ。
野立はそう心で呟きながら絵里子を見下ろし、一層強く、その細い体を抱きしめた。
絵里子の首筋は、いつもの甘い香りがした。






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