ナースコールは後にして
野立信次郎×大澤絵里子


「ねぇ、帰らないの?」

もう夜中の12時。
消灯時間はとっくに過ぎて、個室といえども部屋の明かりは花瓶の隣に置かれたライトだけだ。
そんなベッドの周りだけしか照らされていない中で
うだうだとしゃべっている俺に、絵里子が何度目かの問いをする。

「とっくに面会時間過ぎてるし」

「ん?だって明日退院だろ?」

「そうよ」

「だったら今日しか病院いれないじゃん」

「意味わかんない」

ちょっと弱い絵里子を見るチャンスだからなんて言ったら叩き出されそうなので言わない。
どうせ俺が退院の手伝いをして、車で送ってやって・・・
ってするんだからいいじゃないかと誤魔化してきたがそれももう通用しない

「看護師さんがきたらどうするのよ、もうすぐ見回りくるんじゃない?」

「大丈夫、今日の夜勤、仲良くなったナース2人なんだ、超可愛いの」

「あんたって奴は毎日来ると思ったら結局それじゃない、帰れっ」

もう寝るし、と俺に背を向けた絵里子をしばらく眺める。
元々細いのに、入院中に少し痩せた背中が愛おしくて、
好きな子をいじめてしまう子供のようにいたずらをしかけてしまった。

「・・・ちょっとなにしてんのよ・・・・・・・・」

「んー?俺も一緒に寝ようかなって」

「バカじゃない?バカなの?」

「あぁ、バカだね。いいじゃん、バカ。」

狭いベッドの中で、絵里子の背中にくっつくように横たわる。
嫌がられても今更めげるような事でもないし、
別に大した拒否もないので、そのまま寝てしまおうかと思う。
あぁ、でも暑いな。

「暑いんだけど」

「・・・色気がねぇなぁ・・・・・・」

暑いんだから当たり前だと言われれば当たり前だけれど、
同じことを思ってたというだけで嬉しくなるのが本当にバカだと自分でも思う。

「あんたが私に色気を求めてどうすんのよ」

「そんなんだから男できないんだろうが」

「あんたには見せないだけです、おあいにく様」

「・・・・・・・」

その言い方にむかっとしたので、後ろから首筋にちゅうしてやった。

「ちょ、ちょっとなにすんのよ!」
驚いた絵里子が起き上がり、こちらを睨み付ける。
首回りがゆったりとできているパジャマから覗いた白い肌が妙に色っぽく、そそられる。
俺がそんな風に欲情しているなんて気づきもしていないんだろうけど。

「何ってキスだろ?」

俺も起き上がって、もう一回、また一回と瞼や額に何度もキスをする。
絵里子は驚いているのかなんなのか、短い抗議の声は上げてもそれ以上の拒否をしてこない。

「大丈夫だよ、キスだけだ」

何が大丈夫なのかは自分でもわからないけれど、
そのまま絵里子を軽い力でゆっくりと押し倒し、また同じようなキスから始める。
頭を撫でながら、短いキスが唇に移行する。
次第に慣れてきたのか、絵里子の腕が俺の首に回されキスが長く、深くなっていく。

揉みこむような、ねっとりとしたキス、
自然に舌が絡みあい、唾液が混ざっていく。
最初は探るように弱く、そして歩調を合わせるように段々と強く激しさが増す。
くふんと絵里子の息が漏れ、声にならない音が部屋に響いた。


執拗にキスだけを繰り返し、
息苦しくなる度に胸元にそっと唇を落とす。
そんな感触がもどかしいのだろう、5度目に胸元にキスをするとそのまま頭をぎゅっと抱えられた。
絵里子自身そんな自分に驚いたのかすぐに腕の力は抜いたがそれでも欲情した目の色は隠せなかった。

「大丈夫だ、触るだけだから」

また深くキスをしながらパジャマの上から緩く撫でる。
大きいとは言い難いが形のよい膨らみに手をやるとぴくっと反応する様子に掻き立てられる。
腹の辺りに唇を寄せると、裾から侵入し、細いくせに柔らかい肢体を味わった。

体温が混じりあう感触を覚えさせてからボタンに手をかけ
3つ程しかない、大きめのボタンを外し脱がせてしまうと
自分もネクタイとワイシャツを取り去ってしまう。

体に跡を残しながら片手はブラジャーの上から揉みしだく
空いた手で細腰の辺りを撫で回すと、もの足らなくなってするっとズボンも脱がせ
そのまま内もも、膝、ふくらはぎに足先と指で舌で愛撫を重ねる。

視線を上げると、自分の手の甲を噛み声を殺している絵里子が目に入った。
その様子が可愛くてより声が聞きたくなる。

「ナースは朝までこないし、病院は結構防音もしっかりしてる。」

だから声なんて我慢しなくていいと噛んでいた手を外し何度も何度も熱くキスをする。
絵里子の弱いところを探り、そこを執拗に攻めたて、声を上げさせた。
その頃には絵里子のブラジャーも外し、自分も下着一枚になって絡み合う。
狭いベッドで互いの体温が上がり、汗がにじむ。

自分のボクサーブリーフは笑ってしまうくらいに張りつめ、先走った体液で濡れている。
絵里子もショーツの色が変わる程に滴らせ、刺激を求めていた。
もうこれ以上どうしようもなくなって、それでも一線は超えないように耳元で囁いた。

「大丈夫だ、挿れないから」

絵里子を下に組み敷き、膝を抱えお互いが下着のまま濡れたそこをこすり合わせる。
ぐいぐいと気持ちよさを求め、激しさを増すその摩擦。
絵里子自身も刺激を求めているのだろう、俺の腰に脚をぎゅっと絡め腰を振る。
下着から垂れた互いの体液がシーツを汚したが気になどしていられない、
ぬちゃぬちゃと音を立てるその部分だけが意識を保っているようでもどかしさが募る。
手を使っていってしまおうかと思った瞬間、絵里子が俺の腕をグっと掴んだ。


見つめあい、無言の時が2人の間に流れる。


「・・・・・・・・・・・」


言葉などいらなかった。

下着をどう脱がせたか、どう脱いだかなど覚えていない。
ぐぐっと中に挿れたとたんに、想像以上の快感が波打つように迫る。
絵里子の体も震え、性格だけではない相性のよさが2人を襲った。

最後には獣のように後ろから責め立て、ぱんぱんという肌のぶつかりあう音と、
ぐちゅぐちゅという卑猥な音、そしてベッドと絵里子の上げる悲鳴にも似た声が部屋を満たしていた。


絵里子の中で全てを吐き出すと、2人でもつれたままベッドに体を投げ出す。
2つの荒い息づかいだけが響き、気だるさと気まずさが混じった空気が流れた。

その気まずさは前触れもなくこんなことになってしまった事よりも
こちらの相性もとんでもなくよかった事の方が大きいように感じるが故に、
なんとなく絵里子に申し訳なくて、なかなか言葉が出ず、結局先にしゃべりだしたのは絵里子の方だった。

「・・・うそつき・・・・・・・・・・」

「え?」

急にこんなことになって怒っているであろう事は覚悟していたが、うそつきとはどういう事だ。
この事態はさすがの俺でもびっくりだが、
別に今更嫌われる事を恐がるような間柄でもないので、
ダルそうでもあり、不機嫌そうでもある絵里子の上にふんわりと乗っかり、そのまま顔を覗き込む。

「なんだ?うそつきって」

「・・・・・・しか・・・って・・・・・・・・」

「え?」

「最初!!キ、キスしかしないって言ったじゃない・・・・」

勢いよく言いだしたわりに、最後はしりすぼみになったが、言いたいことはよくわかった。
確かに嘘をついた。
嘘をつくつもりがなかったわけじゃない。
いや、止められたらそのままやめるつもりだったんだ、本当に。
最初の後ろからのキスもお遊びのつもりだったし、
いや、お遊びという事にしてもらおうという姑息な俺の・・・・

なんて考えていたらこんこんというノックと共に急にドアが開いた。

「わっ!」

「きゃぁ!!」

顔を覗かせたのはナースのふみちゃん。
いくらナースで、男の裸も女の裸も見慣れているとはいえ
こんな状況で、まだ残る濃密な空気も匂いも見た目も完全に何をしてたかを物語っている。

「あっ、まだでした?ふふ、ごめんなさい」

悪気なく、笑っているふみちゃん。
可愛い顔して大胆。
今日の夜勤のふみちゃんとななみちゃんには(実はその前の子たちにもだけど)
できるだけ見回りに来ないようにお願いしてあった。
別にその時からこんなことを狙っていたわけじゃなくて、
なんとなく2人の時間を邪魔されたくなかったから来ないで位のニュアンスだったんだけど、
2人はそう取らなかったらしい。

「邪魔しちゃってごめんなさい、もうシーツ交換した方がいいかな?って思って。
そしたら後でナースコール押してくださいね、あっ、でも日勤の先輩がきたらうるさいからそれまでに呼んでくださいよ?」

なんて笑いながら出て行った。

「・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「ちょ、ちょっと何よ、なんなのよ、あれは!」

さすがに寝ていられなくて、2人とも起き上がり座ったまま向かい合う。

「違うって、別に『ナニするから、あとでシーツ交換してね』なんてお願いしてないって!」

「それも嘘でしょ!!」

「嘘じゃないって、信じろよ俺を」

「どうやったら信じれるのよ、てか何よこの状況!!」

「一応最後までしないように頑張っただろ、俺は」

「なに、私のせいだっていうの?」

「んな事言ってないだろ、ただ俺は・・・あぁくそっ!」

ここまできて、何ケンカしてんだ俺たちはと自分で呆れたのもそうだし、
説明が面倒になった事もそうだし、
もういいや、隠さなくて・・・・と自棄になったのもあいまってもう一回キスをした。

いい加減わかれよ、絵里子。


「ん・・・・・ちょ・・っと・・・・・・・」

睨む目にはもう怒りはなかった。
ただ、少し不安げな色が浮かんでいて、そうかと思い当たる。
そうだ、まだ言ってなかったな。
わかれって前に、ちゃんと言わなきゃお前にはわからないよな。

「・・・絵里子、好きだよ」

顔を撫でて、髪を撫でて、見つめると視線をそらすから、
あの時と同じようにもう一回言ってみた。

「好きだ」

あの時はお前があんなリアクションをするから誤魔化してしまったけれど、さすがにこの状況なら誤魔化せない。
だからもう一回言う事にした。

「俺は、お前がずっと好きだった」

言葉の余韻も消え、絵里子の固まった表情を見つめる。
言うべき事を言ってしまった俺にはもうする事がなくただ待っていると
ふっと絵里子が力を抜き、笑顔になった。


「バカじゃない?知ってるわよ」


ぎゅっと抱き着いてきた絵里子を抱き返かえす。
そのあまりの勢いに、今日のことだけではない、ずっと絵里子に与えてきた不安を悟る。

そうだな、俺は、いや俺たちはバカなんだと思う。
40過ぎた男女が駆け引きのような、曖昧な時間を繰り返して、
好きでしょ?と言いかけてみたり、
好きだと言っては、誤魔化してみたり。
こんな形しか前に進めなかった、なんてどうしようもないよな。

お互いまだキスの仕方も知らないような季節を共に過ごしたわけではない、
お互い何か初めてだと言えるようなまだウブなものが残っているような歳でもない、
お互い、多くの恋愛や一夜を過ごして辿りついたこの場所だ、
だから、恥ずかしくて絶対に言えないけれどお互いに最後の人になれるようにと、そう願いを込めて抱きしめた。


しばらく抱き合ったままでいると、今度は絵里子からキスをしてきた。
あぁ、恋人になったんだ・・・・
そんな実感が甘いキスで湧いてきて、何度も唇を重ねる。
絵里子がこんなにキスが好きだとは知らなかったし、
ねだるようにキスをしてくるなんて思いもしなかった。
が・・何度もねだってくるだけならよかったが・・・

「おい、何してんだ・・・・?」

「何って・・・・いやなの?」

「いや、イヤっていうか・・・・・・」

さわさわと俺自身を握り、柔らかなタッチで刺激していく。
むくむくっと欲望が顔をもたげて
思わず、うっと声の出た俺に、不敵に笑う絵里子。
そうだ、こいつは守りより攻めの方が強かったんだ。


ごめんふみちゃん、まだナースコールは押せそうにないわ。






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