気づかないフリ
野立信次郎×大澤絵里子


「もうこんな時間。」

9時をもうすぐ回ろうとしている特別犯罪対策室。
本当なら今頃、浩と楽しい時間を過ごしているはずだったのに・・・。
また約束を破ってしまった。
ひっそりとした対策室には絵里子しかいない。
思わず出るため息。

「なーにため息ついてんだ?」

ドアのところには野立が立っている。

「いきなり何よ。びっくりするじゃない。」
「なんだぁ?やけに不機嫌じゃないか。何かあったのか。」

能天気に聞いてくる野立に絵里子はさらにムッとする。

「何かあったのか、じゃないわよ!あんたが厄介な仕事ばっかりよこすから帰れないんでしょ。」
「まーまー、そうツンツンするなって。珈琲入れてやるから、なっ。
俺が入れた珈琲飲めるなんて、そうそうないぞ。」
「いらないわよ。それより早く帰してよ。
てか、何であんたがここにいるのよ。仕事しなさいよ。だいたいあんたが・・・!」

突然唇を塞がれた。

目の前に野立の顔がある。

「・・・んっ、やめ・・・て・・・。」

体ごと突き放そうとすると、更に強く唇を押し当てられる。
苦しい・・・。息が思うように出来ない。

「もう、やめてってばっ!!」

思いっきり突き飛ばしてしまった。
バランスを崩し床に倒れた野立は痛そうに顔をしかめる。

「おい、力入れすぎだよ。加減ってもんがあるだろ。」
「だっていきなり・・・あんなことするからいけないんでしょ?誰か来たらどうするのよ。」

絵里子が顔を赤くする。

そんな絵里子を見て微笑む野立。
普段は決して見せない戸惑ったような絵里子の顔。
だから、俺はこいつが好きなんだ。
どうしようもなく抱きしめたくなるんだ。


「別に・・・誰が来てもかまわないけど。お前のこと好きだし。」

平然と言ってのける野立に絵里子は驚く。

「そうやって誰にでも思わせぶりなこと言うのやめたら?」
「誰にでもじゃないよ。絵里子にしか言わない。」

そう言って、今度は優しく、絵里子を抱きしめる。

「嘘ばっかり。」

野立の体から伝わる温かさに身を任せたくなる。


駄目よ。私には、浩がいる。
今日だって浩と会うはずだったじゃない。
こんなこと・・・。
でも・・・こうやって野立に抱きしめられるとすごく安心するの。
どうして?
本当は、私、野立が・・・好き。

そう、ずっと長い間気づかないフリをしていた。


野立の背中に腕をまわす。
意外そうな顔で野立が絵里子を見つめる。
目と目が合う。

「突き飛ばさないの?」

と野立が笑う。
また顔を赤くする絵里子。

「文句あるの?」

野立が優しく囁く。

「全然。」


二人の唇がもう一度触れ合う。
それは今まで味わったことのない、甘くとろけるようなキスだった。






SS一覧に戻る
メインページに戻る

各作品の著作権は執筆者に属します。
エロパロ&文章創作板まとめモバイル
花よりエロパロ