目を逸らしていた事実
野立信次郎×大澤絵里子


野立はリビングにあるソファの前に立ち、あくびをしながら頭をかいた。
きょうもここで寝ることになった。何故なら自分のベッドには既に先客がいるからだ。
所有物に先客、というのもおかしな話だが、彼女は別だ。

彼の18年来の腐れ縁である、大澤絵里子はシーツにくるまって口元には薄ら笑いを浮かべながら寝息を立てている。
頬がほんのり赤い。相当酔っぱらっていた。いつも野立をおいてきぼりに、それは速いペースで呑み、勝手に先に潰れる。
しかも、絵里子は今服を着ていない。無論、野立が脱がせたのではない。酔うと服が邪魔になるらしく、脱いでしまうのが癖なのだ。
端から見れば変な光景だが、2人にとってはそう驚くことではない。
野立はベッドの方をちらりと見る。何となく寝顔が見たくなり、そばへ近づき、かかんで絵里子の顔を覗き見る。

人んちのベッド占領して気持ちよさそうに眠りやがって、と心の中で悪態をついてみたが、これが絵里子なのだ、と思う。
勿論最初に酒癖の悪さを知ったときはこの世のものとは思えなかった。女じゃないんじゃないか、いや、人間ですらないのかと疑いたくなるほどだった。
それでも警察学校、警視庁入庁、バディ時代…一緒に駆け抜けてきた絆は固かった。

「おやすみ」

野立は職場では決して見せない穏やかな笑みでそう囁くと、ソファへ戻ろうとした。


「行かないで」

一瞬、彼女がそう言っているのが聞こえた。振り返ると、特に何も変わらず寝ている姿。
寝言か、と息をつき、再び背を向けると、

「行かないで。」

先程よりはっきりした口調で聞こえた。
再び振り返ると、絵里子は赤い顔のまま、目をうっすら開けて潤んだ瞳で野立を見つめている。

「俺に言ったのか?」
「他に誰がいるの?」
「行かないで、って…ここにいるよ。今日はさすがにもう外に出ないし」

絵里子は首を振る。

「違う…。」

ふう、と息を吐く。

「一緒に寝て」
「はぁ?」

いくら何でもそれは…。相手が絵里子でも、裸の女が既に寝ているベッドには入れる筈がない。

「酔ってるにしてもたちが悪すぎるぞ?」
「独りで寝るの嫌。一緒に寝て。」
「酔ってるんだよな。しっかりしろ?絵里子」

野立は片方の手で絵里子の方を掴み、もう片方の手で頬を軽く叩いた。それが命取りになった。

絵里子は野立の腕を掴み、ぐいっと引き寄せた。野立はバランスを崩し、ベッドへ倒れ込む。すぐ目の前に絵里子の顔がある。
野立は驚いた目で、絵里子はしっかりとした瞳で見つめ合う。

「危ないなぁ」

野立がそう呟いた瞬間、絵里子にぎゅっと抱きしめられていた。
さすがの野立も動揺を隠せない。自分の服越しに感じる絵里子の生肌、体温、心音…。

「俺は抱き枕じゃないぞ、離せ」

抵抗してもぎゅうぎゅう抱きついてくる。野立はついに観念した。

「わかった、わかったから、せめて服は着てくれ」
「そうだよね、私だけ裸なんておかしいよね」
「あぁ」

絵里子はガバッと起き上がる。が、急に起き上がったせいで視界がぐわんと歪み、再び突っ伏してしまった。

「おい、大丈夫か?」

野立は慌てて起きあがり、絵里子の肩にそっと触れようとした。
すると、むくりと顔だけ起き上がり、野立を少し狂気じみた瞳で見据える。

「……あなたも脱げばいい」
「何だって?」

言っている意味が分からず、野立は聞き返した。
絵里子は仏頂面で座り直し、野立の顎へ手を伸ばした。そっと指で髭を愛おしげに撫でる。
そのまま絵里子の顔はみるみる近づいていき、ついにキスされていた。野立の頬を両手で挟み、夢中で唇に吸い付き、舌を入れ野立の舌を求める。
野立は、振り払わなければならないとどこかで警告が聞こえつつも、出来なかった。絵里子につられるように、気付けば自分も舌を絡め受け入れていた。
長い口づけの後、絵里子は唇を離した。お互いの唾液がだらしなく糸を引く。二人は余韻に酔いしれた目でぼんやりと見つめ合った。
だが、すぐに絵里子の目は光を取り戻し、野立の上パジャマのボタンを外し始めた。
野立はハッとする。

────ダメだ、それだけは…──

慌てて絵里子の手首を掴みそれを制した。

「やめろ。
正気か?絵里子」
「うるさいわね、離して」
「離せ、は俺の台詞だ。自分が何をしてるかわかってるのか?」

絵里子はそれには答えず、野立の手を振り払った。しかし今度はズボンに手をかけ、パンツごと引きずり下ろしてしまった。

「おい!」
「…あんまり、勃ってないのね。こんな美女が裸で目の前にいるってのにさ」

絵里子はしばらく冷静に野立の一物を見ていたが、いきなり全体をすっぽりくわえこんだ。

「っ!」

あまりの気持ちよさに野立は声を漏らした。
夢中で舌を使い、ぺちゃぺちゃ音を立てながらなぶっていく。野立の意思とは裏腹にすぐにそれはピンと固くなってきてしまった。

「やめろよ…っ。
…俺、もう、取り返しの付かないこと、お前に…」

絵里子は赤い顔をしたまま、ちらりと挑戦的な目で見上げたが、再び構わず舐め出す。
舌が良いところに当たり、野立は体をビクンと震わせた。

「うっ!…」

先走りの汁が少しずつ溢れ出てくる。垂れないように必死で絵里子はそれをすする。

「…池上浩、にも、こういうこと、してたのかっ…」
「…当たり前でしょ。付き合ってたんだから」

舌を止めず、顔も上げずにしれっと絵里子は答えた。
野立は悲痛な表情をしつつも、押し寄せる快感に頭がおかしくなりそうだった。
他の誰でもない、絵里子にされることによって。

18年間何もなく、最高のパートナー、最高の仲間でやってきた。それももう、終わりだ。

野立は絵里子の頭を引き剥がし、押し倒した。足を広げさせ、膝を抱える。

「俺の舐めながら感じまくってたのか。濡れてる」

一気に形勢逆転されつつも、やっとしてくれる、という期待で絵里子の息は上がり、秘部はうごめいている。
見ているうちにその濡れそぼっている秘部にキスしたくなり、野立は吸い付いた。

「はぁんっ!」

絵里子は背中を反らし声をあげた。
べちゃべちゃ食いつくようにしゃぶりつく。愛液が半端なく溢れ出て、野立の髭も濡らしていった。

「あ、あ、あ、あ、野立…」

ビクンビクン体を揺らしながら絵里子は野立の頭を掴み艶っぽい声を出す。

「あぁ……、沢山の、女の…子、こんな、ふうに、…抱いてきたの…?」
「ああ、そうだよ」

さっきの絵里子のように、野立はしれっと答えた。
事実だった。女好きなことは。だがどの女も本気ではなかった。
中には本気になろうとした女もいたが、結局なれなかった。
すべては、全くこちらを向いてくれない絵里子のせいだった。

「あぁ、もう我慢できねぇ」

野立はさっきから痛いぐらいに勃起している自身を一気に貫いた。いきなり入ってきたので絵里子は叫びに近い声を上げた。
互いの愛撫で濡れまくっていたため入るのは困難ではなかった。
長い付き合いでも知らなかったお互いの部分。ようやく知ってしまった快感に二人は酔いしれる。
最後の砦を突き破り、野立は腰を激しく打ちつけた。肉のぶつかり合う音と共に卑猥な粘着音が響く。

「ああぁ、あ、ちょ、すごい、壊れる、のだてぇ!」
「絵里子…絵里子…!」

最速で出し入れされるモノに激しく膣壁が擦られ、最奥をどんどん突かれる。絵里子はめちゃくちゃに喘ぎ、上り詰める快感に身を任す。
浩としているときとは比べ物にならないぐらい気持ちいい。
野立も今まで様々な女性とセックスしてきたが、どこか違うと思っていた。
絵里子の白くしなやかな体、大きくはないが卑猥に揺れる胸、自分によって感じている顔、発せられる声、そして濡れそぼる膣内(なか)…。
全てが野立にとっての最大級の媚薬で、肉棒は爆発寸前である。
やはりこっちの面でも、彼女は最高のパートナーだ。
今までの関係が崩れるのを恐れていたから、お互いがお互いを好きだという事実からずっと目を逸らしていたのだ。

「絵里子、好きだ…!」
「あ、あぁ…はぁ、…私、も」

ラストスパートがかかる。

「…っ、いくぞ!絵里子…」
「あ、うぅ、あ、あ、あ…あぁ───────────!」

最後にグンと押しつけ、絵里子の中は野立の体液でいっぱいに満たされていった。






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