今の関係(非エロ)
野立信次郎×大澤絵里子


長い廊下を颯爽とひとりの女が歩く。
周りの人達は通り過ぎる彼女を振り返ったり、道をあけようと横へ避けたりしていた。
すると、いきなり横から男が出てきた。それを見るなり彼女、特別犯罪対策室の室長、大澤絵里子は嫌そうな顔をした。

「おい、」
「じゃあ引き続きその男の事追って。」

野立の第一声に絵里子は無視を決め込み、電話の向こうの片桐に指示を出し終え携帯を閉じる。
野立に目を向け、絵里子は一発わざとらしいため息をついてやる。

「おい、俺に会った早々ため息とはいい度胸だな。」
「何?今私忙しいんだけど。」

野立を横目で睨みながら、見せ付けるように首をひねってみる。

「さすがだな、お前が通ればたちまち周りの奴等はお前の威圧で横に避けていく。」
「何言ってのよ、私の綺麗さに近寄れないの。」
「な訳無いだろ、お前だぞ。あー怖い。」
「何よ!」


「そういえば絵里子、対策室どうだ?頑張ってるか?」
「えぇ、あんたより真面目に頑張ってるわよ。ったく、あんたは相変わらず暇そうね。野立参事官補佐!」
「まぁそんなにキレるな、眉間に皺がよるぞ。」

そう言う野立に絵里子は五月蝿い、と睨む。ここが廊下のど真ん中を気にせず堂々と言い合いをする2人。
さすがに参事官補佐とあの対策室の室長と言う事で先程より周りは横へ避けていく。

すると、野立の胸ポケットから携帯の着信音が聞こえた。
おっ、そう呟き携帯の画面を見るなり口元を緩ませる野立を見て絵里子は今日2度目のため息をつく。今度はわざとなんかではない。

「何よ、また女の子?」
「美咲ちゃん、もう可愛いんだよ。オーラが、お前とは違って。」
「はいはい、どうせ私は威嚇オーラ撒き散らす怖い女ですよ。」
「いいだろ、お前もあん時からずっと仲は続いてんだろ、あの男と。」
「浩の事は、今関係ないじゃない。」

メール画面に視線を戻す野立の横顔を見て、少し絵里子の胸が痛む。何故?私は野立なんて、しかも浩という存在がいるはずなのに。
絵里子は必死に頭に浮かんでくる感情を追い出そうとした。

「おい、おーい!絵里子、携帯。」

そうしていると、いきなり目の前に野立の顔があるため、何だと思うと自分の携帯も鳴ってる事に気付かされた。
着信画面を見ると、そこにあったのは浩だった。恋人からのメール、それなのに。最近彼の前で笑えてないな…絵里子はふと思う。

「何だ絵里子、愛しい彼からのメールか?」
「ち、違うわよ。ってそんなんどうでもいいじゃない。」

絵里子は、メールを見ずに携帯をまた閉じる。そんな絵里子の顔を横目に野立は哀しそうな笑みを浮かべる。
またすぐ絵里子が横を見た時にはもう野立は何とも無いような顔をしていた。

「ボス!頼まれていた資料集まりました。あと、片桐さんが例の男の身元が分かったって。」

資料を両手に持った木元が、走って絵里子達の方へ来た。

「分かった、今行く。」
「よし、絵里子出番だ。行って来い!」
「言われなくても行くわよ!ってあんたも早く仕事しなさいよ。」
「安心しろ、俺はそこまで忙しくないんだ。」
「はいはい。」

絵里子は足を早め木元と並び対策室へと向かって行った。



その後姿を野立は見つめる。俺が入る隙間は無いんだ、今更。

絵里子が遠くなっていくのを見ていると5年前の自身と、キャリアより浩を選んで行ってしまった絵里子を思い出しまた辛くなる。
もともと女好きではあったが、絵里子を好きになってからは絵里子の様子を伺うために遊んでみるが全く反応は無かった。
それを繰り返しているうちに、野立は全く進む事は無く、絵里子だけどんどん進んでいつの間にか絵里子の隣は浩のものだった。

何で、もっと早くこの気持ちを言わなかったんだ。何かあるたびに野立は心のどこかで考える。
だけど、もうどうしようもない。野立はもう誰もいない廊下の先を見て拳を握り締めた。


野立と別れて、木元と話しながら歩くがほとんど会話が頭に入ってこない。
キャリアを捨ててまで一緒になったはずの浩、でも最近の自分はどうなんだろう。
彼の前で自然体ではいられなくなった。嘘をつき続けているから。違う、そんなんじゃない。

そして何で、さっき野立が女の子からのメールで嬉しそうなのを見て胸が痛くなったのだろう。野立が女好きだなんて今に始まった事じゃないのに。
まさか、そう思ったが考えずに(でも本当は、考えないように)、でも今のままではいけないと思った。

そこでやっと浩のメールを見ようとしたが、木元が何回も絵里子を呼んでいた事にやっと気付き結局また見ることなく携帯を閉じた。
浩との関係の終わりがすぐにそこに迫ってきている予感がしたが振り払い、木元と共に対策室に入っていった。



あと一歩踏み出せない



(先に今の関係から抜け出すのは、)

(どちらだろうか?)






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